雨のち飴のち晴れ

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3月14日は一般的に男の子が女の子に愛情のお返しをする日である。所謂“ホワイトデー”ってやつだね。

私は生物学上は女であり、ホワイトデーなんて全く関係のない日の様に思える。

だけど、同性である柊かがみさんと萌え……じゃなく燃えるようなラブラブ関係にあり、尚且つ愛情たっぷりのチョコをバレンタインに戴いて有頂天になっていた私には、女だろうが何だろうが大いに関係のある日なワケで…

「忘れてた…」

頭の中にそう言った考えを巡らせながら、私の口から出た言葉は現実的だった。私はホワイトデーの存在を今の今まで全く忘れていたのである。

これが朝ならどうにか取り返せる失態だったものの、時計の短針は無情にも3の上を回ったところだった。今更気付いたところで、一体どうすれば?

「なーんや、泉。また宿題忘れたんか…」
「へ?」

私が間抜けな声を出したと同時に、頭に大きな衝撃が走る。目の前に真昼の星がチラついたようだった。

「いでっ!…先生、体罰は反対です」
「お前が気合い入れて『忘れてた』って言うてくれたから、ウチも気合い入れて殴ったまでや」
「ち、違いますってばー!私は宿題を忘れてたんじゃなくて…」
「ふーん。ならやってきたんか?」
「………」

その後、私の頭に再び衝撃。さっきの倍の数の星が目の前に見えるよ、あはは。…あーあ。全く何してるんだろう、私ってば。


クラクラする頭を抱えていると、授業終了のチャイムが耳に入る。
後ろの席から宿題の回収に来る女の子に両手でバツを作って見せ、私の番を飛ばしてもらう。

宿題なんかより、今は早くお返しを考えないと。挙動不審になりながら、何か代わりになる物はないかと鞄の中を漁る。
その中には一時期にハマっていたカードゲームのレアカード、コロネ、しばらく開いていないラノベ、同人誌…何故鞄に入っているのかさえ分からない、今は使いようの無い宝達が沢山詰まっていた。

「流石にこの中じゃ無理があるよね…」

何かを買いに行こうとも考えるが、あっという間に先生が教室に戻って来る。
こんな時だけ無駄に早くなくていいのに、私に時間を下さい!神様ヘルプっ!!

「こなちゃん」
「泉さん」
「はいぃぃぃぃ!!」

名前を呼ばれたことに驚き振り返ると、目を丸くして呆気に取られたつかさとみゆきさんがいた。

「こなちゃん、どうかした?」
「い、いや…」
「顔色が優れませんね、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ!」

親指をグッと立てて、大丈夫だとアピールをする。
実際のところ、身体的には問題ないけど精神的には追い込まれている。

「あれ?HRはもう終わったの?」
「うん、だから私達がここにいるんだけどねー」

つかさが苦笑しながら答えてるのを見ると、私は相当頭がテンパっているらしい。みゆきさんも頬に手をあてて苦笑いだし…。
もういっそのこと…かがみがホワイトデーのことを忘れていたらいいのに。

「今日は…私とゆきちゃんが一緒に帰るから、こなちゃんはお姉ちゃんと一緒に帰ってね!」
「ええっ!?何でいきなりそんな…」
「泉さん、お忘れですか?今日はホワイトデーですよ?」
「お姉ちゃんと二人きりが良いでしょ?」

そんな気遣いされても…ありがた迷惑とはまさにこのことだよ。みゆきさんはまだしも、つかさが今日のこと覚えてたくらいだから、かがみは絶対覚えてる。


「みんな、帰ろー」
「あ………かがみ」

教室のドアが開くと同時に響く声。更にそれに合わせてそそくさと出ていくつかさとみゆきさん。

「あれ、二人共どこ行くのよ?」
「今日はゆきちゃんと本屋さんに行くことになったの」
「へ、そうなの?」
「はい。だからかがみさんは泉さんと先に帰っておいて下さい」
「そっか、分かった」

最後に二人は私の方へ振り返り、目で『頑張って』と合図をして出ていった。
うぅ、もう諦めるしかないよね…。

「こなた、帰ろ?」
「うん…」

結局良い代案が思いつかないまま、私はかがみと二人で帰ることになった。

なるべくホワイトデーのことを悟られる話は避け、他愛のない話をしながら歩いていた、その時…

「あ、雨だ…」

突然降り出して来た雨が私の頬を濡らした。かがみも気付いていたららしく、辺りを見渡しある場所を指さした。

「ちょっとあそこで雨宿りしよっか」

かがみが指を指した先には公園があった。さらにその真ん中には雨宿りが出来そうな大きな木が一つ。
私達は急いでその木の下へ駆け込む。
二人きりの雨宿り。静かな時間がいかにも良いムードを作りそうな感じ。

ここでかがみに先手を打たれたら、私の立場がない。何か考えないと…。
そう考えとスカートのポケットに手を入れてみると、何か小さな袋が入っていることに気付いた。

ポケットから取り出してそっと確認すると、それは一つの飴玉であることが分かった。これは確か、前にカラオケで貰った…。


「そうだっ!」
「い、いきなり何よ?」

やっと思いついた、ホワイトデーのお返し。これならかがみも喜んでくれること間違い無し!

「かがみんかがみん!」
「何よ?」
「今日は何の日か分かる?」
「え?あー…」

この反応からして、やっぱり忘れてた感じではないみたい。

「今日はホワイトデーだよね」
「…うん、そうね」
「お返し、しなきゃいけないよね」
「べ、別にそんなのいいわよ。私が勝手にあげただけなんだし…」
「ダメダメ、そんなの」

そう言ってわざとらしくポケットに手を入れて、さっき確認した飴玉を掌に乗せて出してみせる。

「はい、これ」
「飴玉…?何だかあんたらしいわねー」
「ふふふ、ただの飴とは一味も二味も違うよー」
「え、何が?」

私は小さな袋を自分で開け、そのまま自分の口の中へ入れた。かがみは唖然としながら私を見ている。

「…何であんたが食べるのよ?」
「むふふー、何でだろうね。それよりかがみ、ちょっと…」

ちょいちょいと手招きすると、かがみは不思議そうな顔をしながら、少し距離を詰めてくる。その瞬間を狙いすまし、かがみの身体を引き寄せた。

「な、何すっ…んむぐっ!?」

引き寄せた勢いと同時に、私はかがみとの距離をゼロにした。つまり、不意打ちのキス。
私はそのまま舌を器用に使い、口に入った飴をかがみの口の中へ押し込んだ。
私の口から飴が完全に無くなったのを確認して、そっと唇を離す。

「はい、お返しだよ」
「な…なななななっ!?」

かがみは顔をりんごみたいに真っ赤にしながら、何か言おうと口をぱくぱく動かしている。飴落とすよ、かがみんや。


「こなたってば…嬉しいことしてくれるじゃない!じゃあ私からも…」
「か、勝手にアテレコすんな!」
「いやぁ、あまりの嬉しさに声が出ないのかとね」
「違うわよっ!」

キツイ口調の割に、かがみの表情からは怒りが微塵も感じられなかった。寧ろ照れ隠しっていうか…。

「飴、美味しい?」
「お、美味しいけど………」

かがみは俯きながら、何か言いたそうにモジモジとしている。顔色はさっき程ではないけど、やはり赤いままだった。

「けど…どうしたの?」
「こ、今度からはっ…」
「今度からは?」
「ちゃんと…言ってからにしなさいよね………」

かがみさん、満更でも無かったワケですね。うんうん、弄り甲斐があるね。

「…言ってからならいいんだ」
「そ、そういう意味じゃ…ないけど」

はっきりと否定しないあたり、なんて可愛いんだ、このツンデレさんは。
それよりまぁ、私のお返しは見事にツボに入ったようだね。

「かがみの為だけに用意した、こなた味の飴なんだよ?嫌だった…?」
「あぁー、もう分かったってば!嬉しかった、ありがと…」
「ふふーん、やっぱ嬉しかったんだ」
「態度変えるの早っ!」

最初はどうなるかと思ったけど、喜んで貰えたみたいで良かった。結果オーライってやつだね、神様ありがとう。それに…

「雨あがったねー」
「ホントだ…」

いつの間にか雨は止んで、雲の隙間からは真っ青な空と太陽の光が溢れていた。

「かがみ見て!虹だよっ!!」
「わぁ…」

更に空には綺麗な七色の懸け橋が、私達を祝福するようにかかっていた。

「綺麗…」
「…だね。晴れたことだし、帰ろっか!」
「うん、そうね」

お互いに手を握りながら、虹の懸け橋のくぐるように歩いて行く。

うーん、今日の天気は…
“雨のち飴のち晴れ”
ってとこかな?


終わり。


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