空へ向かって

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「かーがみんっ」

「かがみん、今日の放課後ひまー?」

「かがみん愛してるヨー!!」


「…ねぇ、こなた?」
「んー?何かなかがみんやー」
空は雲ひとつない青空。陽は高く、燦々と全ての物にわけ隔てなく光と熱を与えて
いるけれど、さわさわと時折風が吹くせいか、あまり暑いとは感じない。
つまり、この私の隣にいる小さな恋人――こなたに言わせれば絶好の昼寝日和。
もう少しロマンチックに言ってみると、デートするには最高の天気、かもしれない。
もちろん今日は土日や祭日じゃないからその代わりに、というわけじゃないけれど
たまには屋上でふたりきりでお昼ごはんを食べようかとこなたを誘って――
って、そんな話はどうでもいいか。思考が脱線しそうになったのを
自分で修正して誤魔化すように軽い咳をひとつ。
普段それほど人が利用するわけでもない屋上には当然ベンチなんて備品があるはずもなく
地べたにそのままぺたんと座っての食事だったけれど午前中日が照っていて、
温められていたせいか存外に気持ちがいい。
さらに食事の後ということもあってか、こなたの目はいつもの倍は眠たげで、
ほっぺのあたりもふにゃりと今にもとろけそうだ。身をもってその感触の
心地よさを知っているだけに、一瞬理性がぴしりと音を立てたものの
ここは学校、と念仏のように心の中で十数回呟くことでなんとか立ち直る。
大きく、大きくため息を吐いてからもう一度先刻言いかけた問いを繰り返す。こなたは
私のため息の意味なんかこれっぽっちも解ってないに違いない。
そもそも、今日誘ったのだって半分はこれを聞くためだったのだ。他人からしてみれば
くだらないことかもしれないけれど。

「…最近さ、名前で呼んでくれなくない?」
「えぇー?呼んでるよぉ?かがみんって」
「それよ、それ。それはニックネームであって名前じゃないでしょ?」
もしかして自覚してなかったのか、という考えが頭をよぎったもののそんな浅はかな考えはこなたの猫口笑いに一気に霧散した。
「かがみ様、の方がいいの?」
「ち・が・う!!」
ああ、くそ。このにやにや笑いは全部解っていて、解った上で私をからかう時の顔だ。
そんな時のこなたには何を言っても敵わない、ということは経験上嫌って程
知っているから否定の言葉だけを叫んでがっくりとうなだれた。
こなたはというと、先ほどまでの今にも夢の世界に旅立っていきそうな表情は
どこへやら、新しい玩具を買ってもらった子供みたいな顔でにじり寄ってくる。


「かがみんって乙女だよねぇ。そんなに私にちゃんと名前で呼んで欲しかったんだ」
――もうやけくそだ。何を言っても敵わないのならいっそ開き直ってやる。妹や
友人たちに知られたら苦笑されそうな心境で、ぐっと一度息を止めてから
まくし立ててやった。
「ええ、そうよっ!あんたにかがみって呼ばれないのが寂しかったのよ!
…ほんの少-しだけどねっ!!」
こなたは一瞬目を丸くしていたけれどすぐにいつもの余裕たっぷりの顔に戻って
色々な理由で熱くなってる私の手に自分の手を重ねてきた。
「完璧なツンデレだネ。さすがかがみん」
ツンデレじゃないとかそういうことは置いといて、まだ言うかっ!と口を開いた瞬間
重ねられていた方とは逆の手が私の背に回り思い切り抱きしめられた。シャンプーの
香りが鼻孔をくすぐって、私より一回り小さいのに全体を包み込まれるような
温かさが広がっていく。

「…一応、理由はあるんだよ?怒られるかもしれないけどね」
「……怒らないから言ってみなさいよ」
「んとね、ここぞっていう時だけ呼び方違ったりすると萌えない?」
「……………はぁ」
吐いた息と共に脱力してしまった。こいつらしいといえばそうだけど
ここ数日ずっと気をもんでいた自分が何より馬鹿らしかった。
というか、耳元で喋るのはそろそろやめて欲しい。話すたびに吐息が
耳にかかってこそばゆい。もちろんそれ以外の理由もあったりするけど
目の前にいるこいつにそんなことを教えてしまったらまた格好のネタにされてしまうから
決して口には出さないが。
「むぅ、さてはかがみん『くだらねー!』とか思ってるでしょ」
「当たり前だ」
「まあ、やってみないとわかんないよネ」
嫌な予感がする。抱きしめられているせいでこなたの表情は解らないけど
いい笑顔をしてるに違いない。咄嗟に体を離そうとするものの、
ぎゅうと今まで以上に抱きしめる力を強くされ、それは叶わなかった。
「逃げないでよ。………かがみ」
「………っ!!」
自覚できたのは耳に全神経が集中したんじゃないかってぐらいによく響いた
いつもより真面目なトーンのこなたの声。それが告白された時のことを
髣髴とさせて、一気に顔に熱が集まるのと同時にぞくん、と背中が震えた。久しぶりに
名前を呼ばれたことも相まってか急激に顔が熱くなる。
胸を締め付ける感情は愛しさか、それとも…独占欲か。
気づいたらコンクリートの灰色の床にこなたを押し倒していた。
「…かがみって時々暴走するよね」
「引き金を引いてんのはあんたでしょうが」
そうかもね、でも撃鉄は起こされてるわけだ、そう言って楽しそうに笑うこなたの頬も
淡く染まっている。
「効果は抜群だ、だったでしょ?」
「ついでに急所にも当たったわよ」
味気ない灰色の地面に広がったこなたの髪はどこまでも透き通るほどに
輝いていて、まるで空の蒼をそのまま溶かし込んだようだった。
軽口を叩きあいながらも一度点いた火がそう簡単に消えるはずもなく、
押し付けていた手を握りなおして、こなたの首筋に顔をうずめる。絡めた指に
こなたも応えてくれる、そんなことが堪らなく嬉しい。


耳に入るのはお互いの呼吸音と、自分の鼓動だけだった。白くて細い、そのくせ
病的な印象は与えない首から鎖骨へと唇を這わせるとこなたが小さく声を上げる。
散々私をからかった仕返しだ。私の嗜虐的な部分が頭をもたげる。ちろりと
少しだけ舌を出してさっき唇で触れた所を今度は鎖骨の方からゆっくり辿っていく。
くすぐったいのか、体をよじらせるけれど抵抗はしない。これはいいってこと
なんだろうか。
「ねぇ、かがみ?ここ学校だって解ってる?」
「解ってる」
「あと10分で午後の授業が始まるってことは?」
「…知ってる」
「そっか」
くふふ、と笑う未だ余裕のこなたに本日二度目の嫌な予感がよぎった時はもう遅かった。
「じゃあ、さっきからこっちに来ようとしても来れない友人約二名がいるのは?」
「……はあっ!!?」
冷水を浴びせられたみたいに瞬間的に頭がクリアになった。ぎぎぎ、と音が出るくらい
ぎこちなく左手にある屋上へと繋がる唯一の扉を見るとつかさが申し訳なさそうに、
そして真っ赤になりながら顔を覗かせていた。

「い、いい、一体いつから!?」
慌ててこなたの上から跳び退ったものの、もう遅いということは解りきっている。
それでも聞かずにはいられなかったのはやっぱりあせっていたからだろうか。
「んー、押し倒されたあたりからだねぇ」
「あんたは気づいてたんかい!!」
やだなぁ、当たり前じゃんというこなたにはもう私が勝てる余地というものは
ないのかもしれない。今にも真っ白な灰になってしまいそうな私にさらにみゆきの言葉が追い討ちをかける。
ちなみにつかさは扉の影に隠れたままだ。身内ということもあるし、つかさには
刺激が強すぎたのだろう。改めて恥ずかしさと後悔の念が押し寄せてくる。
「あの、申し訳ありません…。お昼休みの終了の時間が迫っても中々
お戻りにならないので心配になりまして…」
「……謝らなくていいわ、みゆき…。私が悪いんだから…」
「そうだよ、かがみん。かがみんが暴走するからー」
「だからっ!あんたが、あんたがいうなぁーーーーーっ!!!」
私の心からの叫び声は、相変わらずの蒼い空に吸い込まれていった。


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