バラッドノヨウナオモイデ

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「……んむ……」
カーテンの隙間から太陽の光が射し込んできて、私は目を覚ました。


昨日は全然寝付けなかった。
頭の中が、かがみのことでいっぱいだった。


――他に、好きな人が出来ちゃった……?
ううん、そんなことない。
かがみは、言ってくれた。
私だけを好きでいてくれるって。


――私に飽きちゃった?
これもないって思いたい。
一昨日までは今までみたいでいてくれたし……。


考えたくないようなことが浮かんでは、それを必死に振り払った。


このままベッドにいたら、余計気分が重くなるかも……。
そう思った私はベッドから出て、ふとおもむろに時計を見た。

――――!?
私は自分の目を疑った。


9:30。
つまるところ………。
遅刻じゃん!!!


もってけ!(携帯のアラーム)なったっけ!?

近くにある携帯を開いても、画面は真っ暗なまま。
「電池切れてるし……。そう言えば昨日残り1つだったの忘れてた……」
って呑気に言ってる場合じゃなかった!!
携帯を机の上に戻して、すぐに制服に着替える。

「も~、なんでお父さんもゆーちゃんも起こしてくれないかな~……」
そう愚痴った瞬間、脳裏に浮かぶ昨日の会話。
『そうだお姉ちゃん、私明日朝早いんだ。お姉ちゃんにお弁当用意してもらうの悪いから、お昼は買っちゃうね』
『俺も明日は朝から夜まで出なんだ。こなた、大丈夫だと思うけど、朝寝坊するなよ』
そう言えばそんなこと言ってたっけ……。
かがみのことで頭いっぱいで、すっかり聞き流してたよ……。

ゆーちゃん、お父さん、ちゃんと言ってたのに文句言っちゃってごめん~~。

二人に心の中で謝りながら、私は家を飛び出した。




「こなちゃん、おはよ~」
「おはよ、つかさ………ふぅ」
三時間目と四時間目の間の休み時間になんとか到着。
久しぶりにかなり走っちゃったなぁ……。
「今日はどうしたの?」
「寝坊しちゃってさ……」
「こなちゃんも寝坊するんだ。ちょっと意外~」
「そりゃするよ。つか………ごほん、何でもない」
『つかさほどじゃないけどネ』
そう言おうとして、やめた。
言葉が相手に、どんな効果をもたらすかわからない。
だから、冗談でもむやみやたらと人を傷つけかねないことは、言わないほうがいい。


―――私はそれを、昨日学んだ。


「泉さん、おはようございます。欠席かと思いましたよ」
後ろからみゆきさんの声が聞こえて、振り返る。
「おはよう、みゆきさん」
「今日はどうされたのですか?」
……正直に言えるわけないよね……。
昨日のことだって二人に伝えてないのに……。
もし伝えたら、二人に余計な心配や迷惑かけるに決まってる……。
それはつかさとみゆきさんに悪いしなぁ……。
とりあえずテキトーな言い訳でごまかしとこ……。
「いや~、寝坊しちゃったよ~。昨日遅くまでLv上げに勤しんじゃったから、つい」
「なるほど、泉さんらしいですね」
みゆきさんは柔らかい笑みを浮かべた。
「そう言えば泉さん、昨日――」


キーンコーンカーンコーン――。


みゆきさんの言葉を、チャイムが妨げた。
「チャイム、鳴っちゃいましたね……。また後にお伝えしますね」
そう言ってみゆきさんが席につくとすぐに先生が入ってきた。






「ふぅ、なんとか座れた……」
久しぶりの学食。
笑顔で友達と話してる人たちばっかりで、私一人だけ場違いだなぁ……。

なんで私がこんなところに一人でいるのか。
それを説明するために、少し時間を遡る。

「あれ、こなちゃんどこいくの?」
お昼、席をたった私につかさが聞いてきた。
「ごめん、今朝はお弁当作れなかったし、買う暇もなかったから、ちょっと学食行ってくるね」
いつもなら多分チョココロネだったんだけど、買うのすっかり忘れてたからなぁ。
「そうなんだぁ。私のお弁当、半分あげようか?」
「いや、それは悪いよ」
迷惑はかけられない。私が悪いんだし、ちゃんと自分で責任とらないと。
「私は良いよ~?」
うう、つかさめ……。
遊びはここまでだ……!!
次はデカいのを一発お見舞いしてやんよ!
「私、朝も食べてなくてさ~。お昼はちゃんと食べたいんだよね」
これならつかさも言い返せまい!
「そっか~。それなら仕方ないね。気をつけて行ってきてね」
「外に出るわけでもないんだし、大丈夫だよ」
「あっ、そうだったね。つい、いつものくせで~」
「なるほどね~。それじゃお腹もすいたし混むと嫌だから……気をつけていってきま~す」



―――そして今。



目の前にある醤油ラーメン。
そう言えば、前にかがみが頼んでたっけ……。
つかさもラーメン頼んだら麺がなくなっちゃったって言われて、結局つかさにあげてたなぁ。


かがみってわがままも言わないで、甘えさせてくれる優しさを持ってるよね……。
私のボケにもちゃんと突っ込んでくれるし……ね。


―――――それに比べて、私は―――――。

好き勝手にボケて、突っ込まれることを期待してる……。


―――私はわがままだ。

わかってる。そんなこと。
でも――――。

初めてのデート。
不安だった。怖かった。


【恋人】という関係になった今、私はかがみに何がしてあげるんだろう?
どうすれば、かがみは楽しんでくれる?喜んでくれる?

――――わからない……。

もし、変なことを言って嫌われてしまったら……。
でも、このまま黙っていてもつまらないと思われちゃうし……。

――――どうすればいいんだろ……。

ずっと悩んでいた。辛かった。


―――でも、かがみはたった一言で私の不安を払ってくれた。


『バカ……。変わろうなんて思わなくていいのよ……』


夏の日が落ちた、暗い静かな公園。
ベンチに座ってる私だけしかいない。
そこでかがみは私に言ってくれた。


『私は……今のままのこなたが好き……』




買い物をしたあとに、2人で歩いているときに見つけた場所。
遊具は滑り台とブランコだけ。
そんな、こぢんまりとした公園の片隅にある、小さなベンチの上で。
かがみは、この上ない幸せを私にくれた。



それは、まるで短い物語詩。
それは、幸せを紡いだ譚歌。
――――そんな、バラッドのような思い出。



なのに…………。

かがみ…………。


涙が零れ落ちる。
周りの知らない笑顔に水を差したくないし、私自身も見られたくない。
だから、私はそれを隠した。
私のことを気に留める人は誰一人いなかった―――。






今日も私は独りで帰っていた。
遅刻した授業のプリントを受け取りにいかなきゃいけないから、とつかさには先に帰ってもらった。
みゆきさんは委員会の話し合いがあるみたいで、一緒には帰れないみたいだった。
『待ってようか?』
つかさは言ってくれた。
でも、私は首を横に振った。
『先生いるかわからないし、探すのに時間かかっちゃうかもしれないから』
かがみにもそう伝えて欲しいという旨も伝えた。
進学校である陵桜学園は、欠席した授業の分のプリントなどは自分で受け取りにいかなくちゃいけない。
いつもなら面倒に感じるこの作業も、今日ばかりはありがたかった。
念のため、プリントをもらった後も少し時間を潰して、私は帰路についた。
これなら、かがみに会うこともないはず。

―――でも、私の心の奥底では違う感情が渦巻いていた。


辛い……。寂しい……。もう嫌だよ……。
でも、わかんないよ……。どうすれば……どうすればかがみとまた一緒にいれるんだろ……。
まだ一緒にいられるのかな……。その方法があるのかな……。


私はきっとかがみに嫌われている。鬱陶しく思われてる。
でも、かがみの口から直接聞きたくない……。
そしたら、【きっと】って言えなくなる。
そうなったら、私はどうなっちゃうかわからない……。


夜の時は必死に壁を作って嫌な考えから、私を護っていた。
でも、壁はもう崩れていた。
それは、あのベルリンの壁よりもあっけなく崩壊していった。


―――もう私を護ってくれるものはなかった。


ううん、それは最初から間違っていたのかも―-―。


「泉さん」
突然後ろから声をかけられて、びくっとしながら私は振り返った。
「み、みゆきさん………?」
「委員会が終わって帰ろうとしたら、見慣れた後姿を見かけたので」
「そっか……」
そのまま私たちはしばらく黙って歩き続けた。
ふとみゆきさんのほうを盗み見ると、頬に手をあてたり頭を抱えたり首を振ったりと……なんか悩んでる?ようだった。
「あははは」
その姿が可愛くて、悪いと思いながらもつい笑ってしまった。
「あ、あれ、泉さん、どうかされました?」
みゆきさんが慌てたように聞いてくる。
「ご、ごめん、みゆきさんが悩んでる仕草がやけに可愛くて、つい」
「そ、そんな大げさでした……?」
みゆきさんは顔を真っ赤に染めていた。
「いやいや、流石は歩く萌え要素って感じだったねぇ~」
「はうぅ……」
さらに身体まで小さくするみゆきさん。
「そうゆうところとか、余計にね♪」
「は、恥ずかしいです……」
「ごめん、みゆきさん~」
みゆきさんが私よりも小さくなりそうだったので慌てて謝った。
「いえ、いいんです……もう……。……ところで泉さん」
「ん~、何?」
「久しぶりに笑ってくれましたね」
「あ…………そう…………だね」
言われて初めて気づいた。
久しぶり、と言っても実際は昨日の昼前から今日までの48時間にも満たない時間。
でも、私にとっては【久しぶり】という語句が当てはまるくらい、長い時間に感じられた。

「泉さん、その………何か、あったのですか?」
「え?」
みゆきさんは心配そうに、けど真面目に私に問いかける。
「………」
私は何も答えられなかった。
友達……いや、親友が真面目に聞いてるのにウソをつきたくない。
でも、本当のことを言っても心配をかけてしまいかねない。
その二つの板挟みで、私はどっちにも進めないでいた。
多分、みゆきさんも【何か】があったってのは分かってる。
だから黙秘は肯定と同じ。
それでも否定しないのは―――。


「言いたくないのであれば、無理には聞きません……」
「ごめん……」
みゆきさんの顔を見れず、俯く。
「ですが、私に何か出来ることがありましたら、ぜひ仰って下さいね」
「でも……」
「遠慮なさらないで下さい。私の知識がみなさんのお役にたてるなら、これほど嬉しいことはありません」
一見知識の量をひけらかすような言い方だけれども、みゆきさんの言葉には本当に私に協力してあげたい、という気持ちがひしと伝わってきた。
「ありがとう、みゆきさん……」
みゆきさんは天使や女神がいたらこんななんだろうな、というくらい優しく綺麗な笑顔を浮かべて言った。
「泉さんは、一人じゃありませんよ」
「…………」
私は、また何も返せなかった。
もしみゆきさんの意図していることが、私の思っている通りなら―――。
「つかささんがいらっしゃいます。微力ながら、私もいます。そして――」
みゆきさんはさっき以上に優しい、そして柔らかに笑む。
「なにより、かがみさんがいらっしゃるではありませんか」


みゆきさん……。
かがみは、きっと私のそばにいてくれてないよ……。
かがみがいるのは、高い厚い壁の遠い向こう……。
私の手の届かないところだよ……。


でも、そうとはみゆきさんに言えない。
みゆきさんに心配をかけたくない。
そしてそれ以上に、言ったことでかがみに鬱陶しく思われて、もっと嫌われるのを避けたかった。


「……そうだと………いいけどね………」
私はそんな、曖昧な返事をした。
「そうですよ。絶対です」
みゆきさんの笑顔は、言葉は、私には眩しすぎた――。


でも、それなのに―――。
「ありがとう―――」
自然と言葉がこぼれていた。
かがみの本当の気持ちはわからない。
でも、みゆきさんにそう言ってもらえて、私の心の闇が少し晴れるのを感じた―――。




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コメント:
  • みゆきさんの優しさに私が泣いた。
    しかし、何と言うすれ違い。まさに試練ですね。
    続きもwktkです。 -- 6-774 (2008-03-04 23:44:34)

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