こなた×かがみSS保管庫

スレの夢の終わりに…

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匿名ユーザー

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「もうすぐ、終わっちゃうんだ……」
 暮れゆく陽に染め上げられた世界。
 通い慣れた場所の筈なのに、今日は酷く眩しくて……寂しい。

「こなた……」
 秘密の日記帳を開いて、そっと頁をめくってみる。

 始まって早々、変なギャルゲーに付き合わされた月曜日。
 私と同じ苗字のキャラが、主人公を保健室に連れて行くシーンでニヤニヤするこなた。
 そんな悪趣味なこなたと、本当の私も見てよって素直に言えない私が悲しかった。
 そのくせ、学校では早起きして作ったお弁当を美味しそうに食べてくれたり、
 頼んでもいないのに夜中いきなり訪ねてきて、幸せになれる言葉をくれて……お陰でますます
 こなたのことが好きになれた。

 ちょっとした行き違いで、こなたと喧嘩してしまった火曜日。
 仲直りが恐くて逃げてしまった私に、あったかいマフラーをプレゼントしてくれたこなた。
 こんなに不器用な私に、あんなに優しくしてくれたこなたを、心から愛しいと思った。

 はしゃいで怪我をしたこなたを、おんぶして帰った水曜日。
 いきなりこなたにキスされて、その後堪らなくなって『その先』まで求めてしまった嫌な私にも、
 こなたはその身を委ねてくれた。
 近いうちに、自然と私もかがみと同じようなことを望むようになるから……
 そう言って笑うこなたに、不完全燃焼だったのも忘れた。
 あの後二人で、慣れないイラストに挑戦しながら、何でもない話をした暖かさは忘れない。
 こんな告白でも良かったね、とか、将来結婚したらこんな生活するのかな、とか。
 それが余りに幸せ過ぎで、空想の中の自分に嫉妬してたら、こなたにからかわれたっけ。
 それと、あの夜田村さんが送ってきた百合絵は……べ、別に意識なんてしてないんだからねっ。

 その先の頁も、こなたとの時間がいっぱいだ。
 うっかりお酒を飲み過ぎて思い出すのも恥ずかしいメに遭ったこと。
 永井(と共犯者たち)にいいように引っかき回されたこと。
 桜藤祭の夜、私達が結ばれた時のビデオ(何故かみゆきが持っていた)を照れながら一緒に
 見たことも、こなたがこっそり作った連載漫画(某腐女子のもとで修行した集大成らしい)を
 読んで、思わず泣き出しちゃった時のことも、全部大切に綴られている。

 まあ、中には、『こな☆フェ○は滅びぬ!何度でも蘇(ry』とか『こなたと格闘……ぜんらで』とか、
 意味わからない血文字も混じってるけど……。

 何もかもが鮮やかで、激甘の恋愛小説よりも、ずっとずっと幸せだった時間。
 でも、だから余計に不安だった。
 もしかしたら、これは『夢』なんじゃないかって。
 空気の読めない目覚ましに目を覚ましたら、見慣れた天井と見慣れた部屋があって、
 こなたと過ごした時間も、こなたと作った思い出も全部忘れて、こなたに恋したことも知らない
 私に戻っちゃうのかな、って……。

 何気なく、窓の外を見やる。
 ちょっと前まで眩い緋色だった街は、茜色から群青へ、どんどん色を変えていく。
 街の輪郭が影の中溶けていくように、再び視線を戻した手帳も、近付けないと読めないほどに
 不鮮明になっていた。
 電気をつけるだけで解決することなのに、何故か心悲しくて、はぁ……と、ため息をついたとき。

「じぃ~~~~~~~~~~っ」
「うどわっ!?」
 突然耳元で起こった声に、思わず腰掛けたまま飛び上がる。
 この声、このセリフ、それに視界の端で煌めく長い髪。犯人が誰か言うまでもない。
 一体いつからいたんだか。振り向いた私のすぐ目の前で、猫口こなたがニヤニヤしていた。

「はぁ……いるならいるって言いなさいよ」
「いやいや、読書の邪魔しちゃ悪いと思って。だから空気を読んで隅々まで覗き見を……」
「なお悪いわっ…………て!?」
 数秒後の未来を超鮮明に垣間見て、想像を絶する勢いで顔が発熱していく。

「ぬっふっふっ、まず一日目ドロー! 『こなたに会いに行ったら、私をスルーしてギャルゲーに
 夢中だった。そんなキャラより、もっと私のこと見て欲」
「こなたあああぁぁぁっーーーーーーーー!!」
 普段は読書が苦手なくせに……もうやめて!私のライフはゼロよ!
「『ここ』で過ごした思い出に浸りながら、一人物憂げにため息をつくかがみ萌え」
「うるさいっ!!」

 ここが図書室だってことも忘れて、思わず大声を上げてしまう。
 こんなことを平気でしてくるコイツは本当にキライだ。

「でもさ、」
「え……?」
 突然真面目な口調で言われて、心臓が跳ねる。
「その……嬉しいよ。一緒に過ごした時間、そんなに大事にしてもらえて」
 穏やかな言葉に惹かれて、逸らしていた視線がまたこなたに吸い寄せられる。
 写真の中で笑っていた、かなたさんに似た優しい目。空はもう深い藍色なのに、柔らかな頬は
 夕焼けを残したように仄かに染まっている。
 きっと家族でも見たことがない、世界で私しか知らない顔。

「凄いよね、かがみは。間違えてキスしちゃったこととか、みゆきと喧嘩しちゃったこととか、楽しい
 ことだけじゃなくて、辛かったことも大事に取ってくれてる」
「べ……別にそんな深い意味なんてないわよ。ただ何となくつけてただけなん……」
「それに、誕生日のウサ耳とかこの前作ったらぶらぶ弁当なんか、わざわざケータイで」
「ちょ、あんたなんでそれ!?」
「気付かないわけないじゃん。私だって、いつもかがみのこと見てるんだから」

 あーもう本当に腹が立つ。
 どうしてコイツは、ここぞという時にばかり、こんな台詞を投げてくるんだろう。

「ありがと、かがみ」
 こなたの言葉で麻痺した私のもとに、ふわり……と唇が重なってきた。
 舌を絡めることもない、そっと触れ合うだけの優しいキス。でも、求め合う私達の代わりに、
 ブルーとアメジストの長い髪が一房、唇が離れた後もきらきらと交わっていた。


「最近、キスが好きになってきたかも」
 キスを交わした後、こなたは腰を落とした流れのまま、すぐ隣に寄り添ってきた。
 大好きなこなたの匂いが、息づかいと一緒に伝わってくる。
「間違って初めてした時は、あんなに泣いちゃったのに……やっぱり、キスした時のかがみが
 可愛すぎるからかな」
「そんな、……でも、こなただってまんざらでもないんでしょ?」
「ほら、そういうとこがやっぱり可愛い」
「ば、馬鹿……」

 休み時間のじゃれつきこなたなら、もうちょっと反撃できるのに……正直、このモードはずるい。
 こんな時のこなたは麻薬だから。
 この顔を見せられると、それまでどんなに不機嫌でも、それを忘れてときめいてしまう。
 そして、見せられるたびに、どんどん離れられなくなっていく。

「もう一回、したい?」
 恥じらう私を、こなたが覗き込んでくる。
 薄紅色の柔らかい頬。暗がりの中、澄んだ藍色に流れる髪。微かに潤んだ、翠緑色の瞳……
 恋人にあんなキスされて、こんなに傍で誘われたら、我慢なんてできるわけがない。
 返事をするのも頷くことも忘れて、私はこなたを引き寄せて……

「おぉ~~っと、STOP!かがみんっ」

 さようなら蜂蜜味の世界。
 目を閉じて、小さく舌を覗かせて、あとちょっとでこなたの唇に触れるという瞬間、こなたは
 腕からするりと抜け出して、小悪魔ちっくに笑った。
 ……くそーっ、こなたの罠だったかっ!

「いや~そりゃ私だって、夜景バックにかがみと合体したいけど、今はまだエロいことはだめ♪」
 毎度のように怪しげなネタを添えておちゃらけてくる。
 さっきまでの見惚れるようなこなたと違う、いつも教室で見るこなただ。

「っとに、あんたって人は……!」
「おやおやすっかり照れちゃって。そんなにかがみはシたかったのかな?かな?」
「勝手に決めるな!つーか誘ったのはそっちだろ!」
「ちっ、ばれたか」
 魅了の魔法が解けて、こっちにもいつもの調子が戻ってくる。
 拳を握り締めて撃墜準備完了。覚悟しなさいこなた、これからは私のターン……

「でも、やっぱりここでは駄目なんだ。もうすぐここ、埋まっちゃうから」
「あ……」
「だから、続きは『次スレ』までお預けだね、かがみん」

 トレードマークのアンテナをぴこぴこさせながら、むかつくくらい無邪気に笑う。
 ほんと、これだから私はこなたが大嫌いだ。
 私のことを誰よりも見透かして、こんなに引っかき回してくるから。
 お陰でさっきまで不安だった筈が、今はすごくむかついてて……心の底から楽しいわよ。

「てなわけで、早く次スレ逝って、一緒に受験勉強を や ら な い か 」
「はぁ!?あんた今何て……」
「前にも言ったじゃん、かがみと同じ大学に行って、かがみと一緒に住むんだって。そして君は
 新世界のツンデレ喫茶の神になるのだよ!」

 天元でも目指すかのように、びしぃっと空を指さすこなた。
 ったく、あんたこそ、私との思い出、滅茶苦茶大切にしてるじゃない……。
 でも、そんなこなただから信じ合える。過ごせば過ごすほど、もっともっと好きになる。

「……あれ、どしたのかがみ?ぼんやりしてたら時間なくなっちゃうよ?そしたらさっきの続きも
 ポッキーゲームも愛の耳掃除も結婚式(もちろんネトゲ的な意味で)もできなくなっちゃうよ?」
「そうね……って、それは私じゃなくて、あんたがしたいことでしょっ!」



 時にはしゃいで、喧嘩して、泣いて、でもそれ以上に幸せだったこの場所に別れを告げて、
 私達は『次スレ』の方へ、手を繋いで走り出した。
 こなたと一緒なら、どこまでも行ける――そんな確信を胸に。

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