星の卒業式

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<飼いならすって、それ、何のことだい?>――王子様は聞いた。
<仲良くなるっていうことさ>――キツネは答えた。

3月某日。私達は陵桜学園を卒業した。
長いようで短かった、3年間。色々な事をした――彼女と一緒に。
彼女と私は今、揃って‘星桜の樹’を見上げている。
彼女が行こうと誘ったから、私は頷いた。
手を繋ぎ、歩いた道。その一歩一歩に見覚えがある。私と彼女で歩んだ道。
最初会った時は、驚いた。まず、この身長差に。

<だけど、あんたがおれを飼いならすと、おれたちはもう、お互いに離れちゃいられなくなるよ>――キツネは言った。

まさに、その通りだった。
出会った当初、彼女は他の十万もの女の子と変わりはなかった。
彼女の目から見ると、私は、他の十万もの女の子と変わりはなかっただろう。

何が切欠で、何が理由だったか、覚えてはいない。
ただ、気が付いたら、いつも傍に彼女がいた。彼女の傍に行っていた。
お互いに、惹かれあっていた。

だから、ふとした時に聞こえる足音、それが彼女のものではないかと、私は胸を躍らせた。
期待して振り向いたことも、多々あった。
愛しい時間。

今‘星桜の樹’を見上げる彼女の横顔からは、何も窺い知ることは出来ない。
私も、ただ、見上げるだけだ。
――この、枯れてしまった、桜の樹を。

見上げながら、夢想する。彼女とあった3年間を。
その温もりを、横に感じながら。

1年生。まだ、互いに知り合ったばかりで、敬語交じりで話すこともあった。
今では考えられないこと。
互いの趣味、完全に外れていたそれの中から共通項を見出し、語り合った。

2年生。もう、遠慮等無用の仲になっていた。
このころからだろう。親友である、と周りに言っても構わなくなったのは。
親友……果たしてそうだったのか。

3年生。夢の終わり。楽しかった刻に終止符を打った残酷な年。だけど、3年間で、最も輝いた、時だった。
修学旅行、学園祭。どんな時でも、彼女は隣にいてくれた。

私は、彼女に‘飼いならされた’。私は、彼女を‘飼いならした’。
‘仲良くなった’
彼女は私にとってたった一人のものになったし、私は、彼女にとってたった一人のものになった。
かけがえのないもの。

<何だか、話が分かりかけたようだね>――王子様は言った。

春先に吹く風は、温かく――寒い。
私と彼女の間を貫けるそれを嫌うように、彼女は私との距離を詰めた。私も、詰めた。
でも、詰めても詰められない、距離があった。

別れの時。それぞれの道。
彼女には彼女の夢があり、私には私の夢があった。決して交わることの無い道が……。
彼女が、最後にこの学園内を歩こうと言ったのは、先、交わらない道、それから目を背ける為に、私と彼女で交わった道を辿りたかったからではないだろうか。

本当に、そうなのだろうか。
「ねぇ……」
 彼女が、口を開いた。
「楽しかったよね?ずっと」
 問う口調は、答えを懇願しているようでもあり、拒絶しているようでもあった。

 別れが辛いなら、仲良くならなければ良かった。
 そう思った。
 彼女は?

「私は……」
 彼女は、俯いた。

 私たちの関係はなんなのだろう?
 親友?
 それとも、別の何か、なのだろうか。

 また、風が吹いた。枯れ木が揺れる。その音に私達は振り返った。
 吹きぬけた風は蒼と菫を交わらせていった。
 それは、私たちが見ていた夢。
 3年間という時間。もう戻らない、時間。

 出し抜けに、彼女が叫んだ。
 叫んで、暴れて、私を傷つける言葉を何回も何回も吐いた。

 だけど、不思議と嫌じゃなかった。

 彼女は‘バラ’になったのだ。
 棘を見せ、触れると痛みを走らせ、敬遠させるように。
 強がって、見せたのだ。

 でも、私は知っている。この華こそ、私にとってかけがえの無い華であり、私にとって一番の華なのだ。

 私は、彼女を抱きしめた。
 その棘に触れ、全身から血を流そうとも、そうした。

愛しかったから?違う。
 そんな言葉じゃ、足りない。
私たちの関係は愛し、愛され、それを超越した、何か、だった。
親友であり、もしくは、恋人だったのかもしれない。
でも、いくら言葉を弄しても、今の私たちには当てはまらない。

私は言った。
――もし、悲しい時。貴女と共に見たこの桜を思い出せば、きっと笑える気がする。

彼女は言った。
――そうしたら、貴女が笑ってるのを見て、周りの人は驚くだろう。私は、貴女にとんだいたずらをした事になる。

私は答えた。
――そのつもりで、呼んだんじゃないの?

彼女は答えた。
――そのつもり、だった。

 笑いあった。3年間の夢と同じように。2人で。

 やっぱり、仲良くなれてよかった、と思った。

 重ねた唇は、切なく、甘く、永遠の味がした。

 そして、私達は約束した。
 離れても心は繋がっていること。
 いつか必ず再会すること。

 別れ際、2人で唱和した。
――いつか、迎えに行くから。

それが私たちの卒業式。いつかを夢見て、大人になる。


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