ダッシュで奪取?!

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「はぁ?!部活対抗リレーに出場する~?!?!」

2月下旬の昼下がり、私の声が教室中に響き渡った。


『ダッシュで奪取?!』


☆★☆

受験も終わり、私は無事に第一希望の大学に進む事が出来た。もちろん学部も法学部。

こなたはというと、どこかに合格したらしいが、答えてはくれなかった。
今度はなにを父親と賭けたのかも聞いてみたが、それも今は教えないらしい。
二人の間の秘密ごとを私は嫌ったけど、本人曰く、いつか話すときが来るらしい。
いつになるか分からないと言われていたら追究したけど、来月には明かすというので許すとする。

つかさは無事に料理の専門学校に合格。面接で失敗したって本人は言ってたけど、問題なかったみたい。
ただ、初めて私と進路が変わるし、私の学校とも少し離れているため一緒には暮らせなくなる。
でも、ルームシェアリングということでみゆきと一緒に暮らすことになったから、不安はないわね。

そのみゆきはというと、第一希望の都内の有名医学部に合格したようで、ほっとしていた。
でも、私達からしてみれば落ちる要素が何一つない。むしろ、みゆきが落ちたら誰が受かるだろうか。
みゆきが医者になったら、人気ナンバーワンドクター間違いないしね。いろんな意味で。

…こなたに感化されたかな…。〈いろんな意味で〉にどういう意味が含まれるかは想像に任せるわ。

くさ…、みさおは近くの体育大学に推薦で入ったらしい。あやのや私と離れて大丈夫なのか不安だけど、
まぁ、あいつのことだから平気。勉強からはある程度解放されたわけだしね。
峰…、じゃなくてあやのはつかさと同じ料理学校に合格したと言っていた。
「花嫁修業だってヴァ」とみさおに冷やかされていたが、あながち嘘じゃないかも。

未だになれないこの呼び方も、あと数ヶ月で使う機会も少なくなると思うと、少し寂しいわね…。

そうして受験から解放された私らは、学校行事が残されているだけのような日々を過ごしていた。
ちなみに今はというと、スポーツフェスティバルというのを控えている。
体育祭で十分じゃないかと思うが、主に球技が行われるため、体育祭とは違った雰囲気がある。
球技ではないが部対抗リレーも目玉の一つであり、優勝すればその部に賞状が贈られる。
体育祭でやらないで、わざわざこの時期にやるのは、運動部の3年が引退することで、運動部と文化部の差を少しでも縮めるためらしい。そんな必要もない気がするが、学校の方針だから仕方ない。
そして、先ほどの話へと繋がる。


☆★☆

「かがみ…声が大きいって…」
「ご、ごめん。でも、あんたがまた何でよ。散々運動部を蹴ってきて、おまけに運動嫌いのあんたが。」

そう、こいつは天性の運動神経を持ち合わせながら、アニメが見れなくなるという理由で帰宅部だ。
陸上部、サッカー部、空手部、柔道部などから声をかけられていたのに、全て断ったのだ。
それが、何故今頃?ってか、部活すら入ってないのに、何故?

「いやぁ、今年から無所属っていう新しい枠が増えてたらしいんだよね。」
「無所属って、帰宅部ってこと?」
「本当は学外活動とかで運動してる人のための枠らしいんだけど、無所属でまとめられたんだヨ。
ただ部活を引退した人で、大学のサークルとかに既に参加し始めた人は除外されるらしいけどね。」
「でもなんであんたが出るのよ。学外活動もしてないじゃない。」
「それが、女子の方でタイム上位生から選ばれて、病気か怪我などの特例を除いては強制でさぁ…」
「ふ~ん、であんたは何番目で選ばれたのよ?確か4人まででしょ、選ばれるのって。」
「うん、まぁ、その…みなみちゃんと並んでトップなんだよネ、実は…。」

それを聞いたとき、私は驚きを隠せなかった。
こなたが高1の時から運動神経がよく、足が速いのも良く知っていたが、学年全体は把握していない。
それゆえ、自分よりは速くても、運動してきた奴らにはさすがに劣ると思っていたのだ。

「あんたもみなみちゃんも運動とかしてないのに?!他の人はどうなってるのよ?」
「う~ん、それがみゆきさんも入ってるから、学外活動者は1人、最悪0人なのだよ。」
「みゆきも選ばれたの?それにしても、0人だったらこの枠の意味がないじゃないのよ。」
(というか、学外活動をしてる人は何をしているのかしら…。)
「出ないようにして欲しいって黒井先生にも言ったんだけどね、〈なんや、ずっとネトゲばっかしとって不健康なんやから、たまに運動するのもええやろ。今回は諦めとき!〉って即答されたよ…。」

まぁ、それには同意するしかない。いくら体育をしてるからと言って、自主的に運動しないで、パソコンの前で座ってばかりの生活では不健康だ。今は良くても、将来倒れられても困る。

「まぁ、それには賛成ね。別に続けるわけじゃないんだし、たまには思いっきり走ればいいじゃないの。」
「ううっ、そんな~。だって、放課後に練習とかあるんだよ?見たいアニメもあるのに…サボろうかな。」
「何言ってんの。みなみちゃんも出る手前、先輩としてそれは駄目でしょう?」

おまけに全校生徒が見るのだから、ゆたかちゃんとかにも見られることになる。
従姉妹であっても、〈お姉ちゃん〉と呼ばれる立場としてそれはできないだろう。

「はうぅ…、体育のとき本気で走らなければ良かったヨ。」
「それだと、あんたの成績的に響くんじゃない?体育は最高評価もらってるんでしょ?」
「うぐっ、さりげに痛いところを…。でもやっぱり乗り気がしないよ、行事は成績関係ないし。」
「損得勘定で考えないで、やりなさいよ。それに学校中から注目されるならいいじゃない。あんたそういうの好きでしょ?目立ったりするのは慣れてるはずじゃない。」

そもそも、バイトはコスプレ喫茶、文化祭ではチアまでやったのだ。嫌いなわけがない。
子どもっぽく見られるのが嫌という面からしても、運動による活躍は大人っぽく?見られるはずだ。
まぁ、その見た目とのギャップがより一層こなたを魅力てk…コホン、目立たせるしね。

「それでもやっぱりリアルタイムでアニメが見れなくなるのがなぁ…。」
「そこまで大事か!」
「リアルタイムで見てこそ、真のオタクというものなのだよ、かがみん~。」

毎度毎度、期待を裏切らない言葉に思わず微笑んでしまう。
そんなことを熱弁されても困るけど、まぁ、こなたらしいと言えば、こなたらしいからね。
というか、ここですんなり受け入れたら、それこそ疑う余地があるだろう。

「…かがみ、今何か失礼なこと考えてない?」
「えっ?な、なんでもないわよ。」
「怪しいなぁ…。」
「ほ、本番までの1週間の間なんでしょ?受験も終わっていい気分転換に体を動かしなさいよ。」
「むぅ…まぁ、いいや。でも、体動かすだけならかがみとジムとかプール行ってたほうが有意義だヨ…。」
「ジムねぇ…それならダイエットにもなるし、あんたの運動不足解消にもいいわね。今度からデートコースに入れとこうかしら。…うん、一石二鳥だし候補に加えようっと!」
それを聞いたこなたは心底から否定する顔を見せた。

「い、いや、プールはともかく、それだけは勘弁を!お願いかがみ様!!」
「…そうねぇ、あんたがちゃんと出るなら考え直してあげるわ。」
「むぅ、分かったよ、出ればいいんでしょ、出れば。…でも、その代わり…」

不敵にこなたが笑い出した。な、何?まさか一緒に走れとか言うのかしら。
文化祭の時も、何の断りもなくチアのメンバーに入れたんだから、こいつならやりかねない。

「かがみが私らのマネージャーになること!」
「…はい?マネージャー?」
「そう、マネージャー。ほら、私達は部活でもなんでもないから、サポートしてくれる人がいないんだよね~。だから、そこでかがみにお願いしようかと…。」
「な、なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ?!それに、私より適任者はいるでしょ?スポーツ医学とか、トレーニングとかにもっと詳しい人は。」

「私はかがみに支えてほしいんだけど…」

ちょっと照れくさそうに俯いて問いかけてくる。うぅっ、な、なんか、可愛いっ!
でも、が、我慢だ、我慢!これぐらいの自制心は持ち合わせて…

「…やっぱ、駄目かなぁ?」

今度は私の右手を両手で優しく握り、必殺の上目遣いを駆使して、見上げてくる。
思わずよろめいた。だ、駄目だ…星ひとつを破壊しかねない威力があるわ。

「わ、分かったわよ!それぐらいならしてあげるわよ。」
「ぐふふっ、言ったねかがみ!じゃあ、明後日から始めるから絶対来てよ!来ないと死刑だから!」
「またハルヒか…って、もういないし!」

そう言ってこなたは満足そうに自分の教室に帰っていった。…ん?満足そうに?もしや、謀られたか?
と言っても、最初のうちは本当に嫌がってみたいだし、あれが演技なら相当なものだと思う。

(でも考えて見れば、堂々とこなたのサポートをできるなら願ってもない話よね。みんなの前でこなたに飲み物を渡したり、汗を拭いてあげたり、マッサージしてあげたり…etc。マネージャーの建前がある以上、クラスの誰にも付き合ってることがばれずに済むってわけか…。よしっ!)
心の中でガッツポーズをとって、私は帰ったら色々準備をすることを決意した。

☆★☆

そして迎えた練習初日。
少し遅れて集合場所に行くと、すでにこなた、みゆき、みなみちゃんが体操をしていた。
そして何故か…いや当然だけどゆたかちゃんもいた。しかし、もう1人というのが見当たらない。

「おっす、こなた。来たわよー。」
「ん?おぉ、ちゃんと来てくれたね♪遅いから心配したヨ。」
「ごめんごめん、ちょっと荷物が多くてね。」
「かがみさん、いろいろとお世話になりますが、よろしくお願いしますね。」
「よろしくお願いします…。」

そこまでしなくてもと思うほど、みなみちゃんは丁寧なお辞儀をする。
それにしても、一年生でこんなに礼儀正しいのは珍しいかもしれない。みゆきもそうだったけど。
できればもう少し気軽に接して欲しいのだけど、難しいわね…。

「いいのよ、気にしなくて。二人とも、何かあったら気軽に言ってくれていいからね?」
「あ、あの、かがみ先輩、私もご迷惑かけちゃうかも知れないですけど、よろしくお願いします!」

そう言ってきたのはゆたかちゃんだった。どうやら彼女もマネージャーをするらしい。
体は平気なのかと聞こうと思ったけれど、みなみちゃんがいることだし心配はいらないわね。
…でも、それだとマネージャーと選手の立場が逆な気もしなくもないけど…。

「ううん、私も助けてもらうだろうし、こっちこそよろしくね。それと、無理しないようにね?」
「はい!ありがとうございます。」

その後、臨時顧問の立木先生にも挨拶を済ませ、暖かいお茶や毛布のスタンバイもし始めた。
なにせこの寒さだから、温まるものがないと体が冷えて風を引く恐れが高い。
ゆたかちゃんと役割を分担し、私は練習全体のサポートやこなたとみゆきのケアをすることに。
みなみちゃんともう一人のケアはゆたかちゃんが、休憩中のサポートは二人でやることにした。
全ての準備が終わって、ウォーミングアップを終えたこなた達が練習に入っても、まだもう1人の参加者が現れなかった。

―――

「ふぅ、疲れた~。」
「はい皆、毛布とタオルよ。温かいお茶も用意してあるから、しっかり温まってね。」
「おぉ、サンキュー、かがみん!」

ゆたかちゃんがみんなにお茶を用意してる間に、こなたに聞いてみた。

「…ねぇ、こなた。あともう1人って本当に来るの?」
「そのはずなんだけど…おっかしいなぁ。」

既に集合時間を30分以上過ぎている。いくらなんでも遅すぎる。
家からだというならまだ分かるが、学校の放課後、クラスからグラウンドへ移動するだけだ。

「じゃあ、誰なのかは分からないの?」
「いや、集合するのは今日が初めてだからわかんないんだよね。みゆきさんは同じクラスだったから分かったし、みなみちゃんはゆーちゃんが教えてくれたから知ってたけどさ。」
「そうなんだ…。」

不安になった私が先生に聞こうとした矢先に、

「ごめーん!遅れたんだってヴぁ!」

聞きなれた声と、この学校でおそらく1人だけの独特の語尾が聞こえた。

『み、みさお!?(みさきち!?)』
「お、かがみとちびっ子じゃんか!それに高良さんだっけか?あとは…えっと…」
「一年の岩崎みなみです…よろしく…。」
「あ、同じく一年の小早川ゆたかです!よ、よろしくお願いします!」
「おー、岩崎に小早川だな。よろしく頼むぜ!」

この間、初日の出の時に一緒だった気もするが、自己紹介はまだだったらしい。
でも、今の私はそれ以上の疑問があった。

「それで、遅刻した理由と、なんで陸上部のあんたがここにいるのか説明してくれる?」
「挨拶もなしにいきなりかよぉ…まぁ、いいけどな。」

みさおの話を簡単に言うと、すっかり忘れてて帰りそうになったが、思い出して引き返してきたらしい。
ここにいるのは、陸上部を引退していて、大学のサークルや外のチームに所属してないからだとか。
個人的にジムには通っているらしいが、それは枠の除外対象に入らないらしい。
これで確定したのは、この無所属という枠が全くもって意味のない枠だったということだ。

「全くあんたの遅刻理由にも、この枠の存在意義に対しても呆れるわね…。」
「にしても、顔が分かる人ばかりで良かったヨ。」
「だよなー。知らない人がいると面倒だし、軽い気持ちで話せないしなー。」
「顧問の先生がいるから、どっちみちかがみとベタベタ出来ないけどネ。」
「あっ、当たり前でしょ!学校でするわけないじゃない!」

私は顔を真っ赤にして否定する。クラスメイトや先生にばれたらどうなるか…。

「ん~、てことは、学校外でベタベタしてるってわけだな。」
「そうなんだヨ~。かがみと二人きりの時は、もうベッタベタだヨ♪この間なんか…」
「う、うるさ~い!しかもこなた、何を言おうとしてるのよ!みさおも聞き入らない!」

この間のこと、といわれて思いつくのはバレンタインもあるが、おそらく鏡開きの時のことだろう。
というより、バレンタインのことは恥ずかしいが、「私から」というのは少ない(はず)。
鏡開きの時は、あまり記憶がないのだが、お酒を誤って飲んで表現しがたい暴走をしたらしい…。

ニヤニヤ顔のこなたに弄られ、さらにみさおにも弄られる中で、ある事が不意に思いついた。

「ん?みさお、あんた確か引退したから選ばれたって言ったわよね?」
「んあ?そりゃ、引退してなかったらここにいないんだってヴぁ。」
「でも引退したのってあんただけじゃないはずよね?」
「もちろん3年生全員だぜ?普通、運動部は基本的にもう3年は全員引退だかんな~。」

ということは、学外活動の人と無所属の人に加え、学校中の引退した3年生も含まれる中からこの4人が選ばれたのである。つまり、サッカー部やバスケ部、それに陸上部より、この3人は速いことになる。

「って、ちょっと待て!これってタイム順で、選ばれたら強制参加なのよね?」
「ああ、そのはずだぜ?引退後に大学サークルとかに早期参加して運動してる奴なんて皆無だしな。」
「こなたにみゆき、みなみちゃんは運動部に属してないのに…って、それ以前に陸上部のエース、あんたより速いってことは、この3人が学校で一番速いんじゃないの?」
「そうなんだよなー。ちびっ子はゲームとか漫画ばっかなのに、私より速いってのが許せねーよなぁ。」
「あ、でも私は日下部さんより遅く、4番目で選ばれていますので、正確には泉さんとみなみさんが、
日下部さんより速いことになりますよ。」
「いや、それでも凄いから。特にみなみちゃんはまだ一年生なんだから、恐れ入るわ。」
「いえ、そんな…。」

良く、天は人に二物を与えずと言うけど、そんなの嘘っぱちね。
それともちゃんと努力した結果なのかしら?…まぁ、こなたの場合はありえないわね。

「みゆきやみなみちゃんは何か運動してたことってあるの?小学校とか中学校とかで。」
「私は部活には入っていませんでしたが、ルームランナーは家で毎日欠かさずやっていますね。」
「…私も同じ感じ…。」
「やっぱり多少なりとも努力してたのね。」

それでも体力をつけるだけで、運動部よりも足が速く、球技とかも上手く出来るのはやはり才能か。
まぁ、私も運動部には所属してない割には、そこそこ運動できる方だと自負してるけどね。
でも、つかさは大の苦手としてるだけ、自分がその分を吸収したんじゃないかとたまに思う。
逆に料理の腕がつかさに…。それに太りやすさも、私が吸収したんじゃないかしら…。

というか、みゆきはスタイル良くて、みなみちゃんがスラッとしてるのってそれのおかげ?
…私も始めようかしら…でも、置く場所がないから、普通に境内をランニング?…う~ん…

「あのぉ、かがみ?私には聞かないのは何故かな?」
「…ん?あんたは聞いてもどうせやってないでしょ?」
「酷いよ、かがみ…忘れたの?私、前に格闘技やってたって言ったじゃん。」
「あ…」

それを見せられることもなく、あまり話題にも出てないからすっかり忘れていた。こなたの顔が曇る。
そういえば、つかさに出会ったきっかけが、つかさを外国人から格闘技で救ったとか言ってたわね。
…まぁ、道を聞いてた外国人にいきなり暴力を振るったことになるのだけど…。

「うぅ…かがみが覚えてないなんて…。」
「わ、悪かったわよ。いつものあんたのイメージがあったから、ついうっかり、ね?」
「私はかがみのことは何でも覚えてるよ?持ってるゲームに漫画、携帯の電話番号も暗記してるしね。」
「携帯番号は私も分かるけど、あんたの持ってるゲームや漫画なんて全部覚えられる訳ないでしょ!」

どこまでが本気なのかが分からないが、いつものノリに戻ってくれたことに安心する。
ただ、色々と覚えてくれているのにはつい嬉しくなってしまう。例え漫画のタイトルとかでも。

「んじゃあ、かがみの食べ物の好みとかも分かるのか?」
「もちろん味の濃さまで調査済みだヨ!つかさに聞いたり、雑談とかも後でメモしたりしてるからね。」
「あ、あんたそこまでしてたの?!私もあんたの好みぐらいは分かるけど…。」

そこまで真剣に色々と調べられてるのは、恥ずかしい反面、嬉しくもある。
でも自分はそこまで調べるとかはしていないし、その考えがあっても行動できたかも怪しい。
そもそも料理においては、調べる前に作れるようにならないといけないという、悲しい現実も存在する。

「それに、スリーサイズもばっちりさ!」
「ぅおい、ちょっと待て!なんでそこまで知ってる!つかさだって知らないはず…
…って、そういえば健康診断書を親に見せた時に見てたわね…つかさがしゃべったのね?」
「まぁ、私があらかじめ教えてって言っておいたからね♪」
「はぁ…あの子はまた余計なことを…。」

でも、健康診断と言ったらもう一年近く前の話だ。つかさが最近まで覚えてるわけがない。
私がいつか貸した可能性もあるけど、思い出せる範囲では見せていないはず。
だとしたら、こいつはその当時から私のことをつかさに聞いてたことになる。

「でもそうなると、あんたはそんなに前から調べてたのね。」
「まぁね~。好きなことには努力を惜しまないのが、オタクの真髄だヨ!もちろん想い人にもね♪」

かーっと頭に血が集まり、この寒さの中だと湯気が立ちかねないほど顔を熱くする。
顧問の先生がこっちを気にしてないからいいものを、聞かれたらどうするんだ!

「ば、ばかっ!もう…」
「でも、かがみの場合はあてになんねーんじゃね?特にウエストがさ。」
「…みさお…?」
「(ビクッ!)…い、いや、たたた、ただの冗談だってヴぁ!」
「後で覚えておきなさいよ…。」
「ほらほら、かがみ様落ち着いて、ね?」
「一言多いのよ、全く…。」

☆★☆

そこからみさおを加えて練習再開。元陸上部だけあって、みさおはバトンやスタートが上手い。
だから、残りの三人にバトン受け渡しとスタートダッシュを教えることから始まった。
そして練習を始めて三日目まで、それを主な練習として繰り返していた。

カランっ
この1時間で10回以上、3日で数十回聞いてる音がする。
そろそろ休憩を入れた方がいいかもしれないわね。

「みんなー、ちょっと休憩したらー?」
「ん~、そうだな。んじゃ、休憩すっぞー。」

みんながベンチに座り、私とゆたかちゃんでお茶とタオルを配る。
ちなみにもはや顧問の姿は始める時に一度、あとはたまに見に来る程度になった。
何の助けにもならないし、アドバイスをくれるわけでもない。
マネージャーとなってる私達がいなかったら、どうする気だったのかしら…?

「うぅ、また失敗かぁ…。」
「すいません…。」

今のところ、これでバトンの受け渡しの成功率は30%に満たない。
みゆきとみなみのところは最初の数回だけ、みさおとこなたのところは2日目で安定してきた、が…。

「そう焦んなくても大丈夫だってヴぁ!ちびっ子はスタートがちょっち速くて、みなみんは少し受け渡す高さを下げた方がいいかもな。」
「…それ間接的に、私の背が低いって言ってない?」
「いや、あんたいつもちびっ子呼ばわりされてるだろ。否定できないし。(小さい方が可愛いけどね)」
「ちびっ子は、いつまでたってもちびっ子だしな。」
「ま、そういう受容もあるからいいけどネ♪ねぇ、かがみん?」
「べ、別に誰もそんなこと…!」

心の中をまた見透かされたのか、的確に人の図星を付いてくる。
私の思考回路が思った以上に単純なのか、こいつのギャルゲー歴も伊達じゃないってことか…両方か?

ちなみに、ゆたかちゃんが間接的にダメージを受けてるようで、若干暗い顔をしていたが、
みなみちゃんがそれに気付いて慰めている、という何とも微笑ましい絵が出来上がっている。
いつものことだと受け流す雰囲気だが、正直羨ましい…。

「あの…日下部さん、それは必死に走った後のみなみさんには厳しいかもしれません。出来れば自然な形の方がいいので、泉さんと日下部さんの走る順番を変えてみてはいかがでしょうか?」

聖人君子のみゆきが正論を言う。確かにこなたとみなみちゃんの身長差は20cm以上ある。
今日までは足の速い順に並んで、元陸上部を立ててアンカーみさおという順番になっている。
つまり、みゆき→みなみ→こなた→みさおの順ということになっているわけなのだが、
みゆき→みなみは余裕、こなた→みさおも少しずつ安定してきたが、みなみ→こなたがきつい。

「でも、みさおの身長って160cmぐらいよね?それだと、みなみちゃんと変わらないんじゃない?」
「確かに身長的にはほとんど変わらないですが、日下部さんの方がバトンは慣れていますし、
泉さんが最後に走ることによって、泉さんが誰かに渡す必要がないと思いましたので。
それに日下部さんが間に入ることで、バトンの受け渡しも若干早くならないでしょうか?」
「まぁ…確かにそうね。でも、みさお、あんたはそれでいいの?」
「ん~、私はアンカーとか気にしてないし、物は試しだ!そうしてみっか!」

練習再開して1時間後。

「おっしゃぁ、これぐらいなら大丈夫だな!今日はこれまでで、この感覚忘れないようにな!
あとは段々と速いスピードで受け渡しが出来れば文句なしだってヴァ!」
「はぁ、はぁ…でも、疲れたヨ…。さすがにきついかも…。」

ぺたりとこなたはベンチに座る。みゆきやみなみちゃんも明らかに疲労困憊という状態だ。
まだ2月という寒さの中で、半そでで走っているのだから、筋肉にも負荷がかかる。
体温を上昇させるために、必要以上に体力を消耗する上に、それで風邪を引く可能性も低くない。

「ちょっとみさお、このペースだと厳しいんじゃない?後4日しかないとはいえ…。」
「これぐらいなら平気だよ、かがみん。今日はただ寝不足なだけだヨ。」
「私もまだ大丈夫です。みなみさんはどうですか?」
「はい、私も何とか…。」
「みなみちゃん、無理してない?」
「うん…大丈夫だよ、ゆたか。」
「んだとよ。まぁ、少しは自重すっけどな。」

そうは言っているものの、日下部自身も少し疲労の色が見えている気がする。
皆も大丈夫とは言っているけど…本当に大丈夫なのかしら…。

☆★☆

3日間、雨でグラウンドが使えず、部活動が行われる体育館も使えないので、休みとなり迎えた7日目。
今日はバトンの渡し方の最終確認やスタートダッシュ、相手選手の抜き方などを行って、練習を終えた。

「ふぅ…。でも、ついてねーなー、うちら。明日本番だってのに、3日間も休みだぜ。」
「でも、天候には逆らえませんからね。仕方ないですよ。」
「私は久しぶりにアニメ見れたから良かったけどね~。」
「久しぶりって、たったの3日でしょうが!」
「いやいや、かがみん。オタクにとって1日欠かしてしまったら、遠い過去の事になってしまうのだよ。」
(それじゃあ何だ、数年前のことなんてのは数世紀前の扱いなのだろうか…。)
「でもお姉ちゃん、この1週間は夕飯後にいつも見てなかったっけ?」
「おい!!」
「それはビデオだよ、ゆーちゃん。リアルでは久しぶりだったんだよー。」
「結局見てんじゃないのよ!」
「細かいことは気にしないほうが楽だよ、かがみぃ~。」

言い逃れなのか分からないが、都合が悪くなると出るこなたの定型句だ。
いつも決して細かいことじゃないと思うのだが、私も私でいつものことだと流してしまうようになった。
…これはこなたにいいように操られてると考えた方がいいのだろうか?

「それにしても、みんな疲れてないですか?お姉ちゃんもそうだけど、みなみちゃんとかも…。」
「そういえば、3日も休みが合った割に疲れてるみたいだけど、体動かしてたの?」

そう、今日の練習は3日前と比べてそこまできつくはやっていないのに、疲れきっている。
バトンの最終確認も、何回かバトンを渡すのに時間がかかる場面もあった。

「はい、私とみなみさんは近くのジムに一緒に行っていました。一応昨日は休んだのですが…。」
「あたしも団地の周りを走ってきたぜ!もちろん屋根がある部分だけだけどな。」
「私も毎日2時間やってたよ~、Wii-Fit!いやぁ、あれ結構疲れるんだよね~」
「あんたは結局ゲームか!…でもまぁ、やらないよりはマシか。」
「えー、だってアレ結構疲れるよー?それにかがみもダイエットにはいいかもね♪」
「大きなお世話だ!…でも、まぁ気が向いたらやってみてもいいわよ。」
「相変わらず素直じゃないかがみ萌え♪」
「だ、黙れ!第一あんt」
「はいはい、痴話喧嘩は止めなって。私らどんどん背景になって行くんだかんな?」
「べ、別に、ち、痴話喧嘩なんかじゃ…!」
「でも、恋人さんなんだよね?」
「うぐっ…!」

ゆたかちゃんの純粋かつ効果的な言葉によって、私はもとよりこなたまで少し赤くなっている。
みさおが「恋人なんだろ?」って言っても照れなかったと思うのだが、何故かゆたかちゃんが言うと、
ピュアな眼差しで問われるからか、どこか気恥ずかしくなってしまうのは、こなたも同じだったらしい。
…でも立ち直りはこなたの方が圧倒的に早いわけで…

「ぶっちゃけそうだから、否定できないよね~。かがみってば赤くなって初々しいね~。」
「あ、あんたも赤くなってたじゃないのよ!」
「私だって照れるぐらいはするよ?でも、かがみはあれだよ、やっぱ萌えるんだよ~♪」
「あぁ、もういい加減にしろ!」

みさおの言うとおり、他の皆がついていけなくなりそうだから、強引に会話を終わらせる手段をとる。

「ふごっ!ううっ…身長が5cm縮んだよ、今の…。」
「おー、やっぱきょうぼーだなぁ、かがみは。」
「あんたも一発食らっとくか?」
「そ、それは遠慮しとくぜ…。」

頭を両手で抱えながら大きく遠ざかるみさおに、思わず苦笑してしまう。
いくら私でも、この程度のことですぐに人に手を出したりはしないし、出したら出したで
それこそアマゾネスの称号を、こなたとみさおあたりから正式に授与されてしまうだろう。
(それにしても、なんでそんなに凶暴なイメージがあるのかしら…。)

「ふぅ…でもアニメもほどほどにしなさいよ?今日は10時前に、最悪11時には寝ること!いい?」
「うおっ、かがみ様それはマジっすか?さすがに12時ぐらいは~…。」
「ダーメ、12時までおきてるとアニメやネトゲに誘惑されて起きてるでしょ?」
「そ、そんな~…。」

こいつの生活パターンは良く分かってる。試験のときも夜中まで起きてるとアニメを見てしまうのだ。
だからこいつは早く寝かせないと誘惑に負けて、遅くまで起きているのは明らかだ。
年に一回とは言わずもっとそうして欲しいが、そうは言っても聞かないだろう。が…今回は別だ。

「ゆたかちゃん、ちゃんと寝るよう、お願いね。」
「あ、はい!分かりました!」
「ゆ、ゆーちゃんまで…。ううっ…四面楚歌だ…。」
「使い方間違ってないけど、敵じゃなくて味方として扱って欲しいわね。あんたの心配してんだから。」

それまで明らかな演技による暗い顔をしていたこなたは、急ににやついた顔でこちらを見てきた。
なんとなく言わんとする事がすでに分かっていたが、やはり素直になれないのがクセであり、日常だ。

「…かがみは私が心配で心配で仕方ないんだねぇ?」
「も、もちろん他の皆も早く寝るようにするのよ?みゆきとみなみちゃんは問題ないと思うけどね。」
「はい、私は大体10時前後にはいつも寝てますので、いつも通りですね。」
「私も…。」
「あたしも平気だってヴァ。部活の朝練や大会があるときもそうだったしな。」
「それじゃあ、今日は解散しましょう?疲れてるだろうから、気をつけてね。」

そんなこんなで、本番を明日に迎えても緊張感のない雰囲気のまま、帰宅した。
帰りに、休んでいた3日間の放課後の事をこなたに聞いてみたのだが、教えてくれなかった。
結局はぐらかされて、別の話題をしながらゆたかちゃんを交えた3人で話していた。
いくらWiiをやっていたからと言って、放課後全てがそのはずがないのに…。

その晩…

風呂を上がって、つかさやまつり姉さん達とドラマを見ていたら、時計は9時半を指していた。
こなたに10時に寝るように言った手前、選手でなくても、10時以降まで起きていたら示しが付かない。
そう思って自室に入ったところで、ふと、こなたがちゃんとネトゲをしていないか確認しようと思った。
別にこなたが心配だとか、明日体調悪くなったら困るとか、思ったんじゃないわよ?

トゥルルル、トゥルルル…ガチャ
「もしもし、陵桜学園の柊ですけど。夜分遅くにすいません。」
「おぉ、かがみちゃんか。こんばんは。」
「おじさん、こんばんは。あの、こなたが…」
こなたがネトゲとかしてないか聞こうとしたら、意外な答えに遮られた。
「あー、悪いんだけど、こなたのやつ、もう寝ちゃってるんだよ。何か用件があったのかい?」
(え…まだ10時前なのに?最悪11時って言ったから、てっきりそれまでは起きてると思ったのに…。)
「…かがみちゃん?どうかしたのかい?」
「あ、いえ、本番前にネトゲとかしてないか確認したかっただけですので。」
「心配かけてすまないね。久しぶりに連日、体を動かして疲れたんじゃないかな。」
「確かに今までのこなたからすれば珍しいですからね。3日も休みがあったとはいえ…。」
「いや、この1週間はずっと体を動かし続けてるからなぁ。」
「あー、聞きましたけど、Wii-fitだとそこまでは…」
「ん?こなたから聞いてないのかい?」
「…?何をですか?」
「いや、こなたは休みの三日に限らず、元々通ってた道場で毎日トレーニングしてたんだが。」
「え?!」

思いがけない告白に、私は思わず大きな声を上げてしまった。
まさかこなたがゲームなどの時間を削ってまで、トレーニングをしていると思わなかった。
それで何も言わなかったのも頷ける。つまり、見栄を張っていたわけだ。
努力してるところを人に見せなくて、萌えだのって言う割に、あいつ本人もそうなんじゃないのよ。

「それにうちはWii-fitをそもそもまだ購入してn…あ、もしかして秘密だったのか…?」
「おじさん、それ今日も行ってたんですか?」
「あ、ああ、行ってたよ。」
「そうですか…。」

明日が本番だというのに、今日まで行って大丈夫だったのかしら…?
それで疲れて早めに寝たとしたら相当疲れている証拠だし、そうでないと早く寝る動機が無い。

「あー、それとかがみちゃん。」
「はい、なんでしょう?」
「できれば俺が言ったってことは控えてもらいたいんだけど、いいかな?」
「もちろん構いませんけど…。」

〈内容を伝えただけでも、おじさんが発信源だと分かると思います。〉という言葉はあえて飲み込んだ。
後でこなたに聞いたとして、誰に聞いたのかを問われても、それにさえ答えなければ済む話だ。
その後でばれても自分の責任でなくなるのなら、それはそれに越したことは無い。

「じゃあ、お願いするよ。こなたの事もよろしく頼む。」
「はい、分かりました。では、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみなさい。」

電話を切って、私はそのまま眠りに付いた。一つの疑問を抱えながら…。


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