トリケセナイジカン

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なんであんなこと言っちゃったんだろ……。
「私のバカ……。大バカ……」

授業は始まっている。
けれど、内容は全然頭に入ってこない。
たった一つのこと。
そのたった一つの後悔の念だけが、私の中の全部を覆い尽くしていた。


それが起きたのは、昼休みの終わり頃。
こなたが私の宿題をうつし終わった時だった。


『―――だね♪』

こなたがいつもの調子で、いつもの顔で言った言葉。
そんな『いつも』のことだったハズ。
それなのに、私の頭には血が上っちゃって……。


『私はそんな都合の良い人間じゃないわよ!!!』

気付いたら、大声で言っちゃってた……。


確かに、それは多少なりともむかっとくる内容ではあったかもしれないけど……。
でもいつものこなたを知ってたら、別に気にすることじゃないってわかるものだったし……。
ましてや私は、そうゆうところもひっくるめたこなたの全部が好きなのに……。


最近、受験勉強の今まで以上の本格化で、少し疲れていた。
……多分それで、少しイライラしてたんだと思う。
だからあんな、いつものこなたの冗談に怒鳴っちゃって……。
言った時、本人である私ですら驚いたんだから……。


……あのとき、なんですぐ謝れなかったんだろ。
驚いてる暇があったら、謝れば良かったのに……。


―――キーンコーンカーンコーン。

鳴り響くチャイムの音。
それは授業開始の合図。

『そ、それじゃ私は戻るね~』
こなたが私の顔を見ないでそう言うと、すぐに走り出した。
『待って!こなた!!』
私は遠ざかっていく背中に向かってすがるように言う。
けれど小さくなる蒼が、止まることはなかった。



「なかったことに出来たら、良いのに……」
小さく呟く願い。
でも、それは決して叶うことのない願い。
リセットボタンなんか、ない。
だから、苦労する。失敗する。後悔する。
そこから、省みることが出来る。学ぶことが出来る。



そして、見出せる。


―――すぐに謝りにいかなきゃ……!


「柊!聞いてるのか!?」
「は、はひ!?」
突然の声に現実に意識が戻った。
「今の問題、わかるか?」
桜庭先生がむすっとした顔で私を見る。
そ、そうだ、授業中だったんだった……。
「すいません、わかりません……」
先生は、はぁ、とため息を一度ついた。
「授業中に考え事するなとは言わないが、せめてバレないようにな。声がまる聞こえだぞ」
う、私、そんな大きな声出してたんだ……。
「……ごめんなさい」
桜庭先生は、ふむ、と少し考えるようにしてから言った。
「そうだな……。この授業が終わったら、この教材を持ってくのを手伝ってくれ。それで許しやる」
「えっ……授業の後……ですか……?」
「そうだが……他の先生に呼ばれたりしてるのか?」
こなたに謝りに行きたかったんだけどな……。
手伝った後に隣のクラスにいくのは無理そうだし……。
ホントは行きたくない。けど、仕方ない……。
こなたのところには、放課後にいくしかないわね……。
「いえ、大丈夫です」
「そうか、なら頼んだぞ」
「はい」
渋々私は頷いた。




授業終了の号令が終わって、私はかばんに教材を詰め込んですぐ隣の教室に向かう。
手伝いの次は授業延長。
とことん今日はついてないわね……。
そう思って廊下に出ると、見慣れた顔を見つけた。
「ごめん、お待たせ」
そう言うと、私のほうを向いた。
「私たちも先ほど来たばかりですよ」
「そうだよお姉ちゃん、気にしないで~」
そう、笑顔で言ってくれた二人。
けれど、私が一番向けて欲しかった人の笑顔は、そこにはなかった。
「そっか、なら良かったわ。ちょっと授業が長引いちゃってね……」
「そうみたいだね~。嫌だよね、延びるのって」
「先生方が私たちにより知識を授けてくださろうとなさってますし、ありがたいですよね」
つかさとみゆき、言った瞬間は同じだったけど、内容は真逆。
……同じことなのに、人によってこんなに捉え方が違うものなのね。

「それより、こなたは?」
さりげなく、私は尋ねる。
平静を必死に保ち、二人に悟られないように。
「こなちゃん、帰るって~」
「えっ、何で……?」
「用事がある、と仰ってましたよ」
「―――」
用事―――――?

多分、ウソ……ね。
こなたは、きっと私と帰りたくないのね……。
だから、ウソまでついて先に帰っちゃったんだろうな……。
「かがみさん、どうかされました?」
みゆきが心配そうに話しかけてきた。
「ううん、なんでもないわ」
二人の様子が変わらないを見ると、きっとこなたは、二人にお昼のことは言ってないわね……。

気にするようになってから、今まで見えなかったものも次々見えてくるようになった。
そこで初めて気付いたのよね……。
こなたが自分の中に色々ためやすい性格だ、ってことに。
だから二人に伝えると、余計な心配かけると思ってる……。


私は……2人に言ったほうがいいのかな……。


「それじゃ、帰ろっか」


ううん、言わないほうがいいわね―――。

だって―――。






「はぁ………」
勉強しようとするけど、どうも身が入らない。
「もういい、今日はここまで」
そう勝手に決めつけて、私はベッドに倒れ込む。
顔のすぐ横にある携帯。
勉強中もずっと気にしていたけど、私の思いとは裏腹に何の反応もない。
もしかしたら……。
そう願いを込めて、新着メールの問い合わせをする。




――液晶に表示された文字は、私の気持ちを汲み取ってはくれなかった。


もう5回も見てるのに……。


諦めきれず開いた送信ボックス。
液晶に一列に表示されている同じ名前。
その全部が送信完了になっていた。

送れてなかったってこともない……。


私は、ため息をつきながらメールメニューを閉じた。
直後、液晶に映される見慣れた顔。
画面の中のその顔は、画面の前の私にいつもの猫口のニヤニヤ顔を向けていた。


今のこなたはどんな顔してるんだろ……。
今のこなたはどんな気持ちなんだろ……。
こなた………。


迷惑かも知れない。
ウザいって思われるかも知れない。


でも………。
電話……しても良いよね?
私が謝りたいんだし……ね。


そう思った頃には、もう私の指は電話をかけていた。


こなたの声が聞ける……。
そう思うと、自然と嬉しくなる。


―――でも、発信音が聞こえてくることはなかった。


『――――電波の届かないところにいるか、電源が入っていないため―――』
無機質な電子音が、告げた言葉。
その言葉は、私の嬉しい気持ちを一瞬にして悲しいそれに変えた。

閉じた携帯をベッドの上に放る。


こなたは……私を拒絶してるの……?


そんな考えが、浮かんだ。


ぽつぽつという音が聞こえてくる。
窓から外を眺めると、歪んだ見慣れた風景がぱらぱらとした雨で濡れ始めていた。
まるで誰かの零した涙のように、悲しそうな、冷たそうな、そんな雨だった―――。



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