5話 甘過ぎココアの作り方

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「最近さー、やたらとダルいくない?」
「ゲームのし過ぎじゃないの?」

コチコチ・・・リビングにある時計は19時を刻む。どんな時でも、同じペースで時を刻む。
それなのに、最近、時間が早く過ぎる気になるのは何故だろう?

「違うよー。ダルいからゲームに走っちゃうんだよね。」
「あー、分かるかもそれ。私もやる気出ない時はつい勉強よりラノベに夢中になっちゃうわね。」
「でしょー?桜藤祭の準備で疲れてるからかな・・・あ、チキンカレーできたよ!」

お腹減ったなー。今日はあんたの当番だよね?あんたのチキンカレー、食べたいな。
そんな会話をしたのが30分前。あっという間に夕飯の出来上がり。

「美味しそうね!いただきまーす!」
「オカワリあるからね。食欲旺盛なかがみんの為に愛を込めて沢山作ってみました。」
「ば、ばか!気持ち悪いこというなっ!」
「うぅ・・・私の愛はかがみに届かないのか・・・」

本当にあっという間。春、夏、そして初めての秋。毎日が楽しくて、何を思い出にしたら良いか分からないくらい。
私の時計は狂っている。それに伯爵をかける友達。特に不思議な同居人。氷がとけた同居人。

「愛かどうかは分からないけど、凄くおいしわよ。はやくこなたも食べたら?」
「ひとえに愛だよ。んじゃいただきまーす!」
「ったく・・・」

恥ずかしげもなく愛だとか騒ぐ同居人。こいつのせいで私の時計はリビングの時計よりも早く回る。でも、それが心地いい。
同居人、妹、隣のクラスの学級委員。そこにある確かな私の居場所。そこは時間の歪み。幸せの、在処。

「あ、そういえばこなた達のクラスは桜藤祭何やるの?今週だからもう準備出来てるんでしょ?」
「んー?・・・禁則事項です。」
「・・・要は本番のお楽しみって事か?」
「びっくりするから楽しみにしててよ!つかさとみゆきさんもすごいから!」
「分かったわよ。楽しみにしてるわ。」

早く刻め。私の時計。そんな事を考えながら食べるチキンカレーはとても美味しかった。


‐‐‐‐

「えへへ。似合うかな?」
「とても恥ずかしいのですが・・・記念だと思えばいいものですね。」
「二人とも似合ってるよ!これを着たからにはご主人様に奉仕しないとね!」
「あのさ、一緒にいて恥ずかしいのだが・・・」

賑わう陵桜。私の通った中学でも文化祭はとても賑やかだった。でも、その比じゃない。
色々な格好をした生徒。クラスのコスチュームで色めく廊下。でも、私の隣にいる3人は郡を抜いて目立っている。

「でも可愛いでしょー?ホントのメイドさんになったみたい!」
「あんたね・・・ていうか提案したのこなただろ?」
「いいえ。クラスの男性の方々が是非、と言って引き下がらなかったので・・・」
「独断と偏見はいけないよ、ご主人様。」
「誰がご主人様だ?」

パシャ。私達が他愛無い話をしながら歩いていると横からシャッター音。
音源を見るとそこにいたのは中年の男性だった。これが俗に言う犯罪者予備軍なのか?

「すみませーん。もう1枚いいですか?」

私達が返事をする前に、シャッター音がなる。呆然とするしかなかった私達を余所に中年の男は、3枚、4枚とどんどん写真を撮ってゆく。

「もうちょっと笑ってね!はい、もう1枚!ピースでもしてみようか?」
「ちょ、ちょっと!勝手に撮るなっ!」

私ははっ、と我に返って慌てて男性に抗議した。
その時、深い青色の髪が目につく。そしてふと目があう。とても、優しい目をしていた。

「君は・・・もしや噂のツンデレ少女かい?はいチーズ!」
「はぁ!?」

ワケが分からないうちにまた1枚。なんだろう?この感覚。どこかで味わったことがある。

「あ、いいね、その表情。流石、俺の娘が目をつけただけの事はあるね。」

暖簾に腕押し。柳に風。掴み所がない。

「ちょっと!こなた、つかさ、みゆき!あんた達も何かいいなさいよっ!」

未だ呆然としている3人に助け船を求める。私一人では無理です。
するとこなたが、はぁっとため息をつきながら男に向かって声を発した。

「そろそろ自重しなさい、お父さん。」

オトウサン?思考回路がショートしたような、気がした。


‐‐‐‐

「す、すみませんっ!こなたのお父さんだとは知らずに・・・」
「あはは。ごめんは俺の方だよ。今日は娘がコスプレすると聞いててね。」
「ったく・・・皆困ってたよ。皆、これ、ウチのお父さんだよ。お父さん、クラスメイトのつかさとみゆきさん。あと、同居人、噂のツンデレ。」
「柊つかさです。」
「高良みゆきです。」
「・・・誰がツンデレだ。柊かがみです。」
「どーも、こんにちは。」

柔らかい雰囲気。笑顔がまだあどけない。なんだか不思議。

「全く・・・お父さん一歩間違ったら捕まるよ?」
「何を!?オレはこなた達の発育、もとい成長を見届けるためにだな・・」

・・・やっぱり、こなたのお父さんだ。雰囲気云々より、言動がこなたの強化版。これだけで判断できる。

「気をつけてね、お父さん・・・かがみみたいなじゃじゃ馬がいるからね。通報されないように。」
「ちょっと待て!じゃじゃ馬は百歩譲ってつっこまんが、他に言うことがあるだろ!?」
「ふむ・・・お父さん、これが私の嫁です。」
「違うだろ!?」
「そうなのかこなた!?いやー、オレもついにお義父さんと呼ばれるのか・・・それも萌えるなぁ。」

な、なんなんだこの親子。この子にしてこの親ありだな、泉家。ため息が出てしまう。
でも相変わらず、嫌という感情はない。居心地はマル。難点はちょっと疲れるだけ。

「あ、泉さん、つかささん、そろそろ・・・」
「あー、私達の番かな?じゃお姉ちゃんちょっと行ってくるね。」
「お父さん、自重してね。かがみん、淋しくなっても泣かないんだよ?」
「誰が泣くかっ!あ、それより、あんた、ダルそうよ?大丈夫?」

先週から、ずっと引かないダルさ。余計な心配をしてしまう。

「んー大丈夫。なんとかなるさ。」
「無理しない事。」
「ふぇーい。」

いつものこなた。どこも変わらないのに、心配しちゃう私。よっぽど、友達にゾッコンなのか?

「柊かがみちゃん、だよね?」
「え、あ、はい?」

意外な声が私の名を呼ぶ。後ろにいた、こなたのお父さんだった。

「さっきはごめんね。今、少し時間あるかな?」


‐‐‐‐

カチコチ・・・時計はゆっくり時を刻む。ベッドに横たわる私の枕元にある時計の音。もう少しで日付が変わる。
それでもまだ昼間の喧騒、熱気は私の中で続いている。初めての桜藤祭。皆で歩いた。皆で遊んだ。新たな思い出が私に刻まれる。

「楽しかったな・・・」

自然と頬が緩む。だからまだ熱が引かない。炎が燻っているような感覚だ。
それと、原因がもう1つ。

『こなたが近況報告する時、いつも楽しそうに、君達の事を話すんだ。』

こなたのお父さんの言葉が反芻される。

『特にかがみちゃん、君の話をよく聞く。ツンデレだとか、お節介だ、いつも怒られている、とかね。』

悪いトコ、だらけ。可愛くないな私。素直になれないんだから、仕方ないじゃない。でも、こなたは。

『愚痴みたいに、俺に話すけど、こなたはかがみちゃんとの同居を心から喜んでいるよ。』

私が、こなたにお節介して、こなたを怒って、それで喜んでいる?

『・・・こなたは、誰かに怒られたり、世話を焼かれたりって事を知らないまま育ってしまった。』

この時のおじさんの顔はどこか影があるようで。私はこの言葉の意味を半分しか理解できなかった。

『だから、かがみちゃんのような友達を作って、普通を味わって、こなたは変わった。ありがとう、かがみちゃん。』

普通?変わった?疑問はまだ残る。斑のように存在する謎。でも確かに分かる事がある。
私は、喜んでいるんだ。おじさんの言葉が、まだ響いているのは、私が意識しているから。心から喜んでいるから。

『こなたは甘えるのが苦手だったり、とっつきにくかったり、臆病なとこがある。普通の女子高生とはちょっと違うかもしれない。』

思い当たる節はある。それでも、臆病でも、私達に心を開いてくれたのは

『でも、これからも同居人として、友達として、仲良くしてやってくれないかな?』

私達が友達だから。少し変だって、普通とはちょっとズレていたって、それは変わらない。

『ありがとう、かがみちゃん。』
「あいつ・・・まだ起きてるかな?」

昼間もダルそうにしてたっけ。よし、かがみ様お手製の温かいココアでも作ってあげよう。大切な友達へ。


‐‐‐‐

光が漏れるこなたの部屋。コンコン、とノック。けれど返事がない。

「こなた。入るわよ?」

ドアを開けて目に映った光景。机に突っ伏しているこなた。

「こなた!?どうしたの?大丈夫?」
「・・・かがみ。いや、ちょっと、ダルい、だけ。」
「あんた・・・熱あるわよ!?」
「いや、大丈夫。心配、しないで・・・」

普通とは異なる、たどたどしい言葉使い。いつものエメラルドに光が宿っていないように見える。

「・・・いつから?」
「・・・たぶん、1週間前の、チキン、カレー、作った時、から。」
「バカ!なんでもっと早く言わないのよ!?」

こなたの小さな体躯をベッドに運ぶ。心なしか、いつもより軽く、熱く。

「・・・ったから・・・」
「え?」
「・・・かがみに、迷惑、かけたく、なかった、から・・・」

胸に突き刺さる朿。何でこんなに?夏の時も、今も。何でこんなに、嫌われないようにするのだろう?
何でこんなに、甘えないのだろう?何でこんなに、私を信じてくれないのだろう?

「バカ、バカ、バカ、バカ、バカ!こなたのバカ!」
「うん・・・風邪、引いちゃって、迷惑、かけて、ごめんね、かがみ。」
「・・・まだ分かってない・・・」
「え?」

こなたをベッドに寝せ、私が作った、こなたの為に作った、甘すぎるココアを、こなたに差し出す。

「これ何だか分かる?」
「・・・ココア。」
「甘過ぎココア。あんたの為に作ったのよ!?言っている意味分かる?」
「・・・」
「迷惑だなんて思わない。だから、もっと甘えなさいよ!もっと迷惑かけなさいよ!・・・もっと信じなさいよ。」
「・・・うん。」
「私達、親友でしょ。」
「・・・うん。」
「分かったら、罰としてこの甘過ぎココア飲みなさい。今風邪薬持ってくるから。」

そう言って、部屋を出ようとした。すると、不意に感じる力。こなたが、私の手を握っていた。

「・・・甘えていい?」
「うん。」
「・・・薬より、傍にいて・・・寝るまで、傍にいて、かがみん。」
「・・・もちろん。」

手に感じるこなたの温度。私より熱い。この熱さが、私の想いを加速させる。
ふと、目があった。エメラルドには光があった。私は惹かれる。
大切に、しよう。もっと信じてもらえるように、もっと迷惑かけてもらえるように。大切な親友だから。


‐‐‐‐



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