コトバノチカラ

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「私はそんな都合の良い人間じゃないわよ!!!」
昼休み、3年C組の教室中に響いたその怒鳴り声は、誰よりも私を驚かせた。
「か、かがみ……?」
驚きながら、名前を呼ぶ。
私の声は喧騒の中だったら聞こえないくらい、小さな声だった。
なのに、いつもよりも響き渡っていた。
それくらい、教室全体に静寂が広がっていた。
誰も何も言わない。
教室にいる人はみんな、その異様な雰囲気に何も言えず、ただ私とかがみの方を呆然と見つめるだけだった。



いつもの冗談のつもりで何気無く言った言葉。
けれど、返ってきたのはいつもと違った返事。


私は、何も言えなかった。
言えないくらい、動揺していた。混乱していた。

かがみも、何もいわなかった。
どんな顔をしていたのかは見なかった。見たくなかった。



―――キーンコーンカーンコーン。

鳴り響くチャイムの音。
それは授業開始の合図。
普段なら、かがみと別れなきゃならない嫌な宣告をする電子音も、今だけは天からの助け船かとすら思えるほどありがたいものとなった。
「そ、それじゃ私は戻るね~」
私は動揺を隠すようにいつもの口調で言って、急いで自分の教室の方に逃げ出すように向かった。
……ように、じゃないね。
実際、私は逃げた。


―――窓から見える茜色の染まった葉が、木々から逃げていくように。
私は逃げ出したんだ―――。
かがみから。
恋人から、私は逃げたんだ――――。



自分の教室に着いたとき――――


たった数十メートルなのに、私の息は普段以上にあがっていた―――。




数ヵ月前、私はかがみと付き合い始めた。
その経緯については、……うん、なんてゆうか……その……恥ずかしい……ので割愛。

私とかがみ。

二人で色んなことをした。
二人で色々な場所に行った。
二人だけの思い出も増えた。


「――ちゃん!」


いつも私の冗談に呆れながらも突っ込みを入れてきてくれるかがみ。
そんな今までの関係は、付き合い始めてからも変わることはなかった………ハズだったんだけど……。
あんまりにも冗談ばっかり私が言うから……かがみ、私のことが嫌いになっちゃった……のかな……。
それとも、やっぱり―――。


――――かがみ――――。


「こなちゃん!」
「ふわっ!?な、何!?」
突然の呼び声で、私は我にかえる。
声の主、つかさの方を向くと妙に焦ったような顔をしている。
「どうしたの、つかさ?」
「『どうしたの?』じゃないやろ、このバカ!」
「むぎゃっ!」
突然呼ばれたかと思うと、今度はゴンッという威勢の良い音の後に、突然頭に痛みが……。
「せ、先生……」
そういえば、今は授業中だったっけ……。
「授業中くらい、勉強に集中せい!」
ううむ、恋愛の悩みで周りが見えなくなるなんてゲームやマンガの中だけだと思ってたけど、
まさか私もそうなるとはネ……。
「す、すいません」
授業中こそ、ついつい眠くなったりする……とは、流石に言えないよね。
……まぁ、家でも眠くなるんだけどネ。
でも今は、眠くなったわけではない。眠くなるわけがない。
かがみにあんなことを言われちゃったから……。


『私はそんな都合の良い人間じゃないわよ!!!』

頭にその言葉が木霊する。

言霊ってものが、昔日本で信じられていた。
そんな話を、いつかにマンガで読んだっけ……。

私が冗談で言った言葉は、かがみを怒らせる力を持っていた。
かがみのあの言葉は、私をこんなにも悩ませる力を持っていた。



本来の意味とはずれるけど……言葉って、ホント怖いんだなぁ……。

はぁ、と思わずため息をついてしまう。

「いーずーみーッ!」
再び先生の声が後ろから聞こえてきた。
「あっ!す、スイマセン先生、実は昨日、24時間間隔で出現するモンスターを他のプレイヤーにとられたのがショックでして……」
咄嗟に言い訳。
「んなもん、自分のせいやろッ!!」
「いやー、そうともいえないんですよ~!先生も知ってのとおり、最近チートやらツールやらの違法プレイヤーがいますからねぇ、一概に私のせいとは……」
実際、色んなネトゲで深刻な問題となってるしね~。
RMTもいくつかのMMORPGで黙認しちゃってるからなぁ……。
まぁ、一部では垢BANしてるみたいだけどね。
「そんなんどうでもええわッ!今は授業中や!ゲームの話は授業以外でやれッ!」
「す、スイマセンーーッ」
とりあえず謝るのが吉っ!!
私はそう判断して、すかさず謝る。
「せやけど、泉……」
「何ですか?」
「……いや、なんでもあらへん。罰として、今日の放課後は泉一人で掃除や!」
先生の無慈悲な宣告。
「そ、そりゃな……」
『そりゃないですよー!』と言おうとして、私は止めた。
「……わかりました」
私は、渋々了承した‘フリ’をした。




本日全部の授業が終わって、やっと放課後。
「こなちゃん、ごめんね……もっと早く言ってあげればよかったよぉ……」
つかさが泣きそうな目で私に謝ってきた。
「いいっていいって。つかさ、言ってくれてありがとね」
「でも……。手伝おうか?」
「いや、いいよ。もし見つかったら、黒井先生に二人とも怒られちゃうし」
「こなちゃん……」
「ですが泉さん、教室は本来一人で掃除するものではないですよ」
みゆきさんが私たちの話に入ってきた。
「まーそうだけど、仕方ないしね」
「黒井先生も、おそらく本気で仰ったわけではないですよ」
「いやいや、それはないね。あの人はいつだって理不尽なくらい本気だよー?
この前だって、ネトゲでメチャクチャなこといわれたからねー」
「でもこなちゃん、それはゲームの中だけじゃないの……?」
むぅ、二人ともなかなか折れてくれないな……。
「実はちょっとワケがあって、少し時間潰したいんだよね」
この言葉………ウソではない。
「ワケ、といいますと……?」
みゆきさんが心配そうに聞いてくる。
「それは、乙女のヒ・ミ・ツ」
「こ、こなちゃん……どんだけ~」
つかさが苦笑しながら言う。
「……そうですか……。分かりました、ではお先に失礼しますね」
「うん。二人ともわざわざありがとね」
「どういたしまして、こなちゃん」
「いえいえ、お礼を言われるほどのことじゃないですよ」
「あ、それと……」
一瞬言おうか迷って、結局言う。
「かがみも、もしこの教室来ようとしてたら、帰ったって伝えてくれる?」
まぁ、そんなことはないだろうけど……。
「えっ?」
つかさが不思議そうに言った。
みゆきさんも驚いたような顔をしていた。

二人は私がかがみと付き合ってることを知っている。
もしかしたら私がかがみと二人きりになりたいから、二人の申し出を断った、と思われたのかな?

まぁ……そう思うのが普通……だよね。

でもさ……今は普通じゃないんだ……。

「ほら、勉強時間を邪魔しちゃいけないしさ」
「あ、そっか~。お姉ちゃんにそう伝えとくね。また明日~バイバイ」
つかさは、納得したようにそう言った。
が、みゆきさんはまだ納得していないような顔。
けれど、それ以上言及してくることはなかった。
「失礼します」
「二人とも、またねー」
つかさとみゆきさんも教室から出て行き、残すは私だけになった。


まだ、かがみと会いたくない。


いつもの調子で言った冗談が、あんな風にかがみを怒らせてしまった。
もしかしたら、かがみは前々から冗談を言われるのが嫌だったのかもしれない。

――――それだけじゃない。

出来れば考えたくない……。
けど、いやでも私たちの前に立ちふさがってくる『それ』。
―――『女同士の恋愛』である私たちに対する社会的な立場。
かがみは、『それ』に耐えられなくなったのかもしれない……。

そんなことはない、と思う私。
もしかしたら……、と思う私。

どっちも、心の中にいる私だった。
……どっちのほうが思いが強いんだろう……?

かがみの気持ちが分からない。
それどころか、私の気持ちも分からない。
かがみと会ったら、顔を見たら、どうすればいいのかわからない。


だから、会いたくない。

いつもと時間をずらせば、かがみと会うこともないハズ。
その口実として、黒井先生の課した罰は、私にはとてもラッキーなものだった。

これなら、ゆっくり一人で考えられるよね……。

「とりあえず、やっちゃおう」
私は箒を手にとって掃除を始めた。


―――結局、掃除中どころか一日かけても、私の考えがまとまることはなかった。




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