風の魔法

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広い、広い、どこまでも続く青い空。
8月上旬という暑さを優しく和らげてくれる風が私たちを撫でていく。
見渡す限りの草原と、草原のはるか向こうにわずかに見える山々。
私とこなたは、そんな場所を二人で歩いている。

『風の魔法』

”せめてコレくらいは済ませておきなさいな”
そんな台詞と一緒に渡されたのは、結婚式の段取りの書かれた用紙と旅行のパンフレット。
今まで頑張った私たちへのご褒美だと、お母さんは笑って渡してくれた。
こなたと私の、結婚式と新婚旅行。
身内の、それもほんのごく一部だけの慎ましやかな式を上げたあと、私とこなたはこの場所に来た。
こなたと繋がる右手はそのままに、あまった左手で青空を彩る白い雲をつかんでみた。
「かがみー」
「んー?なあに、こなた」
当然つかめるわけも無く、でも何かの手ごたえを左手に感じる。
「来て良かったね」
そんな事を言ったこなたを見ると、その幼い外見からは不釣合いなほど綺麗な微笑みで私を見ていた。

あれから、少しだけ月日が経って。
私たちの逃避に終わりの日が来た。
あの日、電話越しに聞いた母との会話は今もハッキリ覚えていて、きっとこの先も忘れる事はないだろう。

『かがみ・・・そろそろ帰ってきなさい』
『父さんと母さんが認めてくれるなら、今すぐにでも帰りたいわ』
『・・・辛くないの?』
『・・・・・・辛いに決まってるじゃない』
『確かに、父さんや母さんの言うとおりだったわよ・・・・・・皆、私たちのことを軽蔑するか引いて接するかだわ』
『・・・まだまだ、もっと辛い事も起こるわよ?』
『・・・うん。分かってる、つもり』
『それじゃあ』
『でも』
『・・・』
『でも、こなたと二人で耐えてきたわよ。今まで』
『耐えられるのは今だけよ』
『そんなことないっ』
『耐えてるならいつか無理がくるわ。5年先か、10年先か・・・20年先か』
『・・・』
『若いうちはまだ良いわ。でもね、ある程度年がいくと後戻り出来なくなるのよ』
『そのとき、きっと二人とも後悔するわ・・・それからじゃあ遅いのよ』
『後悔なんて・・・』
『周りに味方は居ない、血の繋がる子供も居ない。たった一人だけを頼りに生きていくなんて、無理なのよ』
『私だって、そんなの分かってる!』
『だから、母さんに、みんなに分かってもらおうとしたんじゃない!一生懸命説得したじゃない!』
『・・・』
『この状況のままでこの先どうなるかなんて、大体の見当はついてるわよ!・・・私も!こなたも!』
『でも、分かってくれなかったじゃないっ、こなたと別れさせようとしたじゃない!』
『かがみ、別に別れさせようとしたんじゃないわ。ただ、恋人にするのは』
『一緒よ!”好きなのはかまわない、でも恋人になるのはダメ”なんて、別れろって言ってるようなものよ!』
『・・・かがみ』
『何回も言ってるけど、もう一度言うわね』
『私とこなたの仲を認めてくれるまでは、絶対に帰らない』

「ほんとねー。すっごく気持ちがいいわー」
「いくら標高が高いとはいえ、とても8月の暑さとは思えないよー」
「そうよねぇ。吹いてくる風もすっごく涼しいし、ほら、見てっ」
空を見上げ、左手でもう一回雲を掴む。
「ふふっ。ゲットっ」
なんて、柄にも無いくらいおちゃらけて、横に居るこなたに笑顔を向けた。

 『・・・・・・』
 『これは、こなたとの約束なの。みんなが認めてくれるまでは絶対にあきらめないからね』
 『・・・・・・覚悟はもう出来てるのね?』
 『そんなの、そっちを出るときに済ませてるわよ。最悪、一生帰れなくても諦めない』
 『・・・』
 『・・・だから、まだ、帰れない』

「おやおやー。今日は何時に無くデレてますなー。かがみんや」
そういって、私の前に回りこみながらからかい始めた。
「だぁぁぁ!だからデレとか言うなって何回も何回もっ、それこそ高校の頃から言ってるだろうがー!」
「だってツンデレがかがみの基本仕様じゃーん」
「しつこーい!」
お知りの辺りまである髪を風にたなびかせながら、こなたは私をからかっては逃げる。
それを、私が怒鳴りながら追いかける。
あの頃の光景そのままに。
・・・少しだけ、違う現在を見せて。
「うりゃあ!」
「んにゃ!?」
私から逃げるのに、決して解かない繋がれた手。
それは、こなたと私の色々なものを表している。
これが今の私たち。
そして、何時ものように逃げるこなたを、何時ものように引っ張って自分の胸に引き寄せた。

 『・・・うん。分かったわ』
 『・・・』
 『じゃあ、帰ってらっしゃい。かがみ』
 『・・・は?』
 『お父さんは、もう許してるわ。こなたちゃんのお父さんも、みゆきちゃんも・・・当然、お母さんもね』
 『・・・・・・・・・ほんとに?』
 『本当よ。ずっと前からみんなで集まって話してたのよ。二人を認めるか認めないのかってね』
 『・・・・・・・・・ほ・・・・・・とに?』
 『信じなさいな。・・・漸くみんなの意見がまとまったの。この前だけどね』
 『かがみの覚悟が本物なら、認めてあげようって』
 『・・・こなたは?』
 『大丈夫よ。かがみの後にこなたちゃんも電話するんでしょ?その時に泉さんから同じ事を直接言われるはずよ』

「んぎゅ・・・えへへ。かーがみん」
「ふふふ・・・こーなた」
左手でこなたを抱え、こなたの右手が私の首に回ると、それが合図となって私とこなたの唇は優しく重なった。

あの後、電話BOXから出てきた私を見てこなたは酷く驚いていた。
こなたに言われて、私は、自分が泣いていることを知る。
色々心配してくれるこなたを無理やり電話させ、私はBOXの横で止まない涙と格闘しつつこなたの様子を見ていた。
そして、こなたが私に弾けたように振り向くやいなや、笑顔で、やっぱり涙を流してくれた。

広い広い空を見ながら、私たちは草原に実を預けている。
風がそよぎ、雲が流れ、光がそそぐ。
なんて、素敵な瞬間なんだろう。
「こなたー」
「なーに?かがみ」
「私たちってさ、子供作れないでしょ?」
「そだねー。私が性転換してアレくっ付けても無理だねー」
相変わらず一言多い奴だ。
「多分、養子とかも難しいと思うのよ。日本じゃあね」
「日本人はまだ固いからねー。レズの夫婦に養子は流石に認めないかなー」
教育上がどうのこうのとかで、ね。
「だからさ、せめてなにかペットでも飼おうよ」
「ペットかー・・・犬とか猫とか?」
うん。それも良いし、インコとか九官鳥とかの鳥類でも良いわねー。
そんな私にこなたは楽しそうに同意してくれた。
「まぁ、何を飼うかはゆっくり考えようよ。時間はたっぷり出来たんだからさっ」
「ふふ、そうねっ。今はこの旅行を満喫することにしましょうか!」
そういって、私がこなたの右手の甲にキスをすると、こなたは私の左手の甲にキスの返礼。

 そして、久しぶりに見る家、久しぶりにくぐる玄関・・・久しぶりに顔を合わせた、家族、友人、小父さん。
 私は、お父さん、お母さん、そしていのり姉さん、まつり姉さん、つかさの順に抱きしめてただいまと伝えたのだ。
 そして、そこで一つだけ約束を交わした。
 『二人の関係は、絶対に秘密にしなさい』
 『私たちはかがみとこなたちゃんの関係を認めるけど、周囲も認めるとは限らないでしょ?』
 『かがみさんと泉さんの関係がこの先どのような形になったとしても、これだけは守って欲しいんです』
 『こなた、これはね、二人を守るために絶対守って欲しい事なんだ・・・今なら、分かるだろう?』
 うん、分かる。
 二人で生きてきて、嫌になるほど理解させられたから。
 これは、私たちだけでなく、私たちを許してくれた皆のためにも必要な事。
 こなたと私は、当然、固く約束した。

「さて、かがみん。向こうに見える丘まで行って見ようよ」
「おー、いい感じに展望台っぽくなってるわね。見晴らし良さそう」
今の位置より高いところにある丘の頂上から見るこの草原を想像しつつ、私はこなたに引かれるように歩き出す。
「こなた」
「なーに?かがみ」
今更だけど、定番過ぎて面白みの無い言葉だけど。
なにより大事な言葉だから、万感を込めて伝えよう。
「大好きよ・・・心から愛してるわ。本当に、今、幸せよ」
そんな私に、こなたは最高の言葉を私に返してくれたのだった。

揺れるカーテンの隙間から零れる日差しが私の顔を照らす。
クーラーは体に悪いからと、開けた窓から入り込む風が気持ちよく私を凪いでくれる。
「・・・・・・また、この夢」
土曜日。
とくに出かける用事もなく、無理に外出してお金を使うのもアレだなーという事で、こなたと二人でゲームで遊んでいたのだが。
お父さんとお母さんが用事で近所まで出てしまい、いのり姉さん以下3人の姉妹は揃って用事で外出中。
家は私とこなたの二人だけとなった。
・・・・・・気を使われたのだろうか。
こなたは二人きりだと凄く甘えてくる。
私もそんなこなたが愛しくてたまらないので、キスをしたりしながら寝転がっていたのだが、どうやらそのまま寝入ってしまったらしい。
こなたはまだ、私の右手を枕にして寝息を立てている。
それにしても。
「2回目・・・ね」
最初に見たのは月曜だっけ?
私とこなたが二人で逃げる夢だったかな。
まったく、とんでもない夢だった。
「今のは・・・・・・・・・割と、良かったわよね?」
自分に言い聞かせるように、疑問系でつぶやく。
うん。なんか、すっごく幸せな夢だった。
なにより、こなたと一緒に幸せだというのが最高だ。
右側に寝るこなたの頭をゆっくり撫でながら、前回と違った夢をかみ締めていた。
「・・・やっぱり、夢ってそのときの心理状況が影響するのかしらねー」

月曜日。
放課後みゆきやつかさに集まってもらい、こなたとの関係を伝えた。
火曜日。
こなたのお父さんとゆたかちゃんに、二人揃って伝えた。
水曜日。
お父さんとお母さん、いのり姉さんとまつり姉さんにこなたと二人で伝えた。
流石にこなたのお父さんや私の両親には少し渋い顔をされたが、それでも認めてくれたのだ。
何より、夢と違ってみゆきが正面から受け入れてくれたのが嬉しい。
あんな夢を見た後だから凄く怖かったのだけど、それでも自分の気持ちやこなたとの関係への覚悟をしっかり伝えた。
それが良かったのかもしれないわね。
不安だった先週と、幸せな現在。
夢の中の私たちは本当に幸せだったのだ。
つまり、今の私も本当に幸せなのだろう。
・・・ちょっとこじつけっぽい感じだけど、ま、いっか。
窓から、少し強めの風が入り込んできて、私の髪がこなたの顔に覆いかかる。
その髪がこなたをくすぐったからだろうか。
「・・・んにゅ・・・・・かがみ~?」
こなたが目を覚ました。
目を擦りながら私を見、すりよって来る。
「おはよう、こなた。良く寝れた?」
うんー。と、寝ぼけ眼で返事してくるこなたに、私は先の夢を話してあげようと思った。
こなたはどんな感想をくれるかな?
こなたの反応に淡い期待を持ちつつ、私はこなたを抱きしめながら話しかけたのだった。
「こなた、あのね」

‐8月初頭、窓から入り込む風が送り届けてくれた昼下がりの素敵な夢とひとときのこと‐



劇終


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  • いいねー、すごく甘くて幻想的で不思議な気分になりました。
    こういう作品もっと読んでみたいです! -- 名無しさん (2008-11-12 09:42:20)

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