パーフェクトスター 第4章Aパート

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つまらない日常から抜け出したくて変化を望んでも、
変革した日々がいつのまにか“日常”になってる。

“日常”は例外なく私を閉じ込めて、逃げ出せないのなんて解ってた。

でも、今いる“日常”なら私は囚われたままでいい。
今まで以上に毎日が楽しくて、優しくて、大切な人が傍にいてくれるならそれでいいと思ってた。

…なのに、今いる“日常”が“日常”じゃなくて。
── これが“夢”だったなんてあまりにも酷すぎやしない?

―――――――――――
『パーフェクトスター』
●第4章「夢の終わりに謳う歌」Aパート
―――――――――――

私が自分の想いに気づいてから1週間ちょっとが経った。

…といってもかがみとの関係が急に発展するわけもなく、
まさに恋する乙女な自分を満喫しながら同居生活を楽しんでいた。

久しぶりに外で一緒に夕食を済ませた帰り道、隣を歩くかがみをチラリと盗み見る。
私の視線に気づいてないかがみはツインテールの片割れを手で弄んでいた。
先っちょをくるくる指に絡めたり、撫でたりするこの“テールいじり”は
どうやらかがみの癖らしく、大体何かを深く考えてるときか、
極度の照れ隠し中、無意識に行われるものだと最近知った。

普段なら私との会話中で多発する癖が、
こうして何も会話を交わしていない時に出ているのが妙に目についた。

「かがみ、どうかしたの?」
「え?」

そんな意味を含むであろう行動を無意識にしている本人は、
私の突飛な指摘には疑問符を返すだけ。
けど、すぐに私の意図と自分の思考が繋がったのか、かがみはテールいじりを止めた。

「あー…なんでもないわよ、こなた。」

その“なんでもない”わりに人の目を見ないで言葉を返すのは、
嘘をついてたり、何かをごまかそうとしている証拠なのも知ってる。
思考・感想・意見を、無意識に表情や癖で、時々表に出してしまうのが、
私がこの3週間で知ったかがみなのだ。

―― …私の好きなものに対しての観察意欲と熱意は相変わらず健在だね。

と、自分の想いをこんな形で再確認してる場合ではない。
かがみの思惑を聞き出そうと、私はわざと歩みを止める。

「……嘘へったくそだよね、かがみ」
「…わざわざ強調して言わなくてもわかってるわよ」
「ふーん。で、もう一回聞くけど、どしたの?
まさか、いやらしい妄想してたとか!?」
「あるわけねーよ」

ここ3週間でかがみもすっかり個性を確立したらく、
崩れた口調の突っ込みもなんのその。
私にマゾっ気はないけど、そんなかがみのきつい突っ込みを嬉しく感じてしまう。

今まさに歓喜の嵐が吹き荒れてる私の心中を余所に、
かがみが「大したことじゃないんだけど」と前置いた。

「ただ、さっきから誰かに見られてるような気がしたってだけよ」

ぎくり。
私の中にそんな擬音が響き、嵐が止む。

「へ~…そうなんだ」

ここ一番で声が裏返ったのはなかったことにしたい。
私的に表面上は至って平穏を保ったままのつもりで返して、
心の中にやましい部分なんて…ない私はかがみから視線を外した。

「か、勘違いしないように言っとくけど」

何故か恥じらいを含むかがみの物言いに視線を戻す。
数秒目を反らした隙に、かがみはほんのり赤い頬のまま、意地悪な顔をして私を見ていた。

「あんた以外の視線のことだからね?」

── 気づいてたのネ…かがみさん…。

軍配はとっくに昔にかがみに上がっていた。

「まぁ気のせいよ、きっと。今は感じないし」

私の動揺に追い打ちを掛けたかがみは、自己完結して歩みを再開する。
その後ろ姿を見届けながらも、私はやられっぱになったこの状況が悔しくて、
攻守逆転するための画策を練っていた。
背が大分遠くなったところで、私の脳に一筋の光が射す。

…作戦実行!周りを見渡す、オールクリーン。

「かがみーっ!」

大げさに叫んで、かがみに走って追いついて。
かがみが「げ!」と言いながら振り向いてから、
隙だらけになったかがみの手と自分の手を重ねて握る。

「せっかくだし家まで手繋いで帰ろうか、かがみん♪」
「ちょ、ちょっとこなた!
あ、暑苦しいから離しなさいよ!は、恥ずかしいし!」
「かがみんったら♪恥ずかしいもなにも、周りに誰もいないじゃん?」

事実、もうこの時間のこの道には目視できる限りでは誰もいなかった。

「そ、そういう問題じゃないわよ!」

上擦った声に照れと焦りがたらふく籠もっているかがみの叫びが辺りに響く。
明らかに“暑苦しい”より“恥ずかしい”の気持ちが勝っていることは、
振りほどこうと思えばすぐほどける手をそのままに、
顔だけ真っ赤にしながら反論してるかがみ自身が教えてくれた。

「ねぇ、こ、こなた、放す気、ない、わよね…」
「うん」

そうして一向に手を離そうとしない私に改めて意思確認をしたかがみは、
溜め息を一つついてからその手を受け入れてくれた。
私は自分の目論見が成功したことに喜びを感じ、
繋いでいる手から伝わってくるかがみの存在に安堵する。
外気のせいだけじゃない、自分の秘めたる想いで汗ばむ手を
もう一度握り直すと、喉の奥から密度の濃い想いが溢れだそうとする。

「ねぇかがみ」
「…何よ」

このまま最後まで想いを口にしてしまおうか――
自分の気持ちに歯止めが利かなくなり始めた頃合いを見計らって。

ブルル…ブルル…ブルル…

何かの振動によって私は沈黙を覚える。
数秒、静寂が流れ。

「…んにゃ。やっぱなんでもない」
「変なこなた。…いつも変だけど」
「…かがみ、一言余計だよ」

メール受信を知らせる携帯のバイブレーションに
タイミングを奪われた私が想いを口にすることはなかった。

かがみのゆでたこ顔を堪能していた私は、あと2分も歩けば家に着く場所で、
かがみと繋いでいない手をポケットの中の携帯に伸ばす。
空気を読めなかったメール送信者を明確にするためだ。
簡易表示されたメールボックスには、未登録なアドレスに何も書かれていない件名のメールが1件入っていた。

誰かも解らない人に暴走を止められたのかと、
半ば呆れた気持ちを持ちつつもメールを開封する。

── へ?

内容こそ短いものだが、それは迷惑・メールアドレス変更メールの
類いではないと私へ訴えてる。
受信者を間違えてはいないか、内容の見間違えはないか、
何度も何度もディスプレイに表示された文字を追った。

「こなた?」

私の変化に気づいたのか、かがみが呼んでいるのが数歩先から聞こえる。
自身の気づかぬうちに私は足を止めて、かがみの手を離していたらしい。
かがみは怪訝な表情で私を見ていたが、その声には上辺だけでも
嫌がってたとは思えないくらい、寂寥感を含んでいて。
…無意識であってもその手を離したことに私は後悔した。

でも──
もう一度手を繋ぎ直すための力は、メールによって示された
次の行動へ回されることになる。

「かがみ、ごめん。…先に帰ってて!」
「え、こなた!ちょっとまって!」

かがみの制止を無視して、私は踵を返す。
再び駅に向かうために走り出していた。

指定されたリミットまで十分余裕があったけど。
走り出したのは、かがみのことで動揺した自分を、かがみにあれ以上見せたくなかったから。

―――――――――――
21:13
From:k.hiiragi0707@***
Subject:
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
かがみさんのことでお話があります。
知る覚悟がありましたら、駅前にある公園にお越しください。
本日22時頃までお待ちしております。
―――――――――――

指定された駅前の公園が視界に入る。
走っているうちに雑念や無駄な感情が取り払われたのか、
さっきよりは冷静になっていた私はぐちゃぐちゃになってる頭の中を整理した。

メールに感じたものは二つ──

かがみの存在が私の近くにあることを知っているのは、
認識している限りでは一人しかいない。
メール内で使用されている見た事のある文体と前記のことを掛け合わせると、
自ずと差出人に思い当たる人物が浮かび上がっていた。

もう一つは、メールアドレスを見た時点で既視感に似た感覚を覚えた。
その詳細は…冷静になった私にも解らない。

そこまで整理できたところで、目的地の公園に着く。
公園の入り口には一つの街灯があり、私はわざとその灯りに身を置いた。
もちろんメール送信者が私を見つけやすいように、だ。

気休め程度に左胸に手を当てながら乱れた息を整えていると、
街灯の灯りと夜の狭間に二つの人影を捉える。
闇に不慣れな目が徐々に適応して、シルエットを確実なものにしていく。

目の前には予想された人物とそうでない人物がそこに居て。
私はただその名前を呼ぶ事しかできなかった。

「みゆきさんに、…つかさ…?」

そう、私を公園に呼び出したメールの差出人は高校時代からの親友ふたり。
みゆきさんとつかさだった。

 * * *

「…で。何から聞こうか正直迷ってるんだけど。
とりあえず、つかさ病院どうしたのさ?」

みゆきさんの提案により場所を移して話をすることにした。
駅近くの24時間営業のファミレスの禁煙席に今はいる。

ちなみにファミレスまでの移動中は、こんな風に呼び出された手前、
和やかな空気が流れるはずもなく、気まずい空気に制圧された私を含める3人が会話を交わすことはなかった。

入店してからもしばらくその空気が続いてたけど、
息も吸うのもつらい空気が苦手な私が業を煮やし、話の切り口には丁度いいので、
どうしても気になっていたことを質問したところだ。

「ふぇ?まだ右手が治ってないけど、一昨日には退院したよー」

──…確かお見舞い時点であと1週間で退院できるようなことをいってたっけ。
つかさとしては、私がその事を覚えている前提でここにいたのだろうか。
話題の中心、話を振られた本人のつかさはきょとんとしてそう答えた。

…つかさは私の質問にしっかり答えたはずなのに、よく解らない違和感が私の中に残ってるのは気のせいだろうか。
その違和感の理由を自分の中に探すため、現実から乖離し始めていたとき、
みゆきさんが「泉さん」と私を呼び戻し。

「突然このようなお呼び立て申し訳ございません」

続けた言葉はいつも以上に他人行儀で、みゆきさんなりに感情を抑えるためなのか、酷く冷たい響きを持っていた。

私は後で思い知る──
みゆきさんの声の冷たさの意味。そこにある思いやり。
…自分は中途半端な覚悟でこの場に赴いていたこと。












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