パーフェクトスター 第3章Cパート

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『パーフェクトスター』
●第3章「貴方の存在」Cパート
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 * * *



夕暮れも終わり、夏の星座が自己主張を始める時間。
つかさの前では故意的に避けていた訳ではないけど、一度も話さなかった話題をみゆきさんとしながら帰路に着いていた。
ツンデレで、素直じゃないのがまた堪らない人の話題。かがみのことだ。



「そういうところがかがみらしいんだけどネ」
「うふふ、素直になれない気持ちもわからなくはありませんが」



といっても、かがみと一緒に過ごしたこの二週間の面白エピソードを私が一方的に話しているだけで、
みゆきさんは相づちをうちながら時折口を挟んでいる感じ。
あれからみゆきさんが考え込んで活動停止することはなかった。



そうしながら歩を進めていくうちに、みゆきさんが「泉さんは」と話を切り出した。
これまでずっと喋りっぱなしだった私は耳を傾ける。



「かがみさんのことを信頼なさっているのですね」



「へ?」とアホ丸出しな私の返事に対して、みゆきさんは何故か憂いを秘めた表情で別れ際にこう言った。



「かがみさんのことを泉さんがとても楽しそうにお話していてそう感じただけですし、
あまり深い意味はないので、気になさらずいてください」




帰宅ラッシュで混みあう電車の中、吊り革に掴まる私のアホ毛を冷房の風が揺らす。
頭の中ではみゆきさんの言葉が回っていた。



―― 信頼ねぇ…。



自分の家に住まわせる以上は道徳的・人道的な信頼は当然している。
そもそもかがみに過去の記憶が存在しないことや一緒に暮らすきっかけについては
みゆきさんには一言も言ってないから、こういう信頼を意味して言った訳じゃないのはわかってた。
もっと感情的な、友達や家族に対して抱く信頼のことなんだろう。



昨日、つかさの事故を知った後、私の涙を止めてくれたのはかがみで、
あのときからかがみに対して何かしらの感情が芽生えていたのは自覚している。
でも、芽生えた感情がなんなのかは今でも分らないままで、認識できない感情は、みゆきさんの言った“信頼”とも繋がる事はなかった。



電車を降りてからもしばらくはそんな思考に囚われていたけど、
元々物事を深く考える事に長けていない私は“みゆきさんの言葉”と“認識できない感情”をドラッグして、そのままゴミ箱に放り込み、



── 疲れて帰ってくる同居人のために、たまには腕を奮っておいしいご飯でも用意しますか!



ポジティブシンキング.exeを実行した。




 * * *



「むぅ、遅いなぁ」



パソコンに向かいながら、電源をいれてから何度も確認している右下の時計に視線を向ける。
22時。あと1時間もすれば、みゆきさんがお布団にはいる時間。
そんな時間にかがみはまだ帰ってきていなかった。



かがみと一緒に暮らし始めてというもの、今までゲームに費やしていた時間はかがみとのコミュニケーションへ回していたため、
ネトゲはまだしも、カセットの存在するゲームが今まで以上に積みゲーになっていて密かに部屋の一部を圧迫している。
かがみの帰宅を待つ間、積みに積まれたそんなゲームの消化を試みるもマウスカーソルの動きは遅い。
…私の気分的な意味で。
気分がのってないときにやっても捗る訳もないと、開始20分にして積みゲー消化は終わり、
マウスカーソルはネトゲのショートカットを避けてシャットダウンを選んでいた。



電源の落ちたディスプレイが黒一色に染まり、鏡になったディスプレイが暗い表情をした私を映し出す。



── なんて顔してるんだか。



そんな表情を一蹴するかのように嘲笑ひとつして、パソコンデスクから立ち上がって大きく伸びをすると、
僅かな時間しか座っていなかったのに四肢がポキッと気持ちいい音を立てた。



改めて壁掛け時計をみると、さっき確認したときより30分が経過していた。
…かがみがここまで遅くなることは今までなかった。
大体19時~20時には家にいて私の帰りを待っていてくれた方が多かったから、きっと私は心配しているんだ。



そう自分に言い聞かせて、かがみに連絡しようと鞄にいれっぱにしていた携帯を掴み、
ベッドへそのままダイブすると、揺れるベッドにお布団の肌触りがほのかに気持ちよくて睡魔の足音が聞こえた。
それに抗いながら、発信履歴から「かがみ」を選び、発信ボタンを押した。
しばらくするとコール音が鳴り響き、20コール鳴ってもかがみは出なかった。
しびれを切らして終話ボタンを押すと、バイブレーションで気づかないのだろうかと、
自分の都合のいいように解釈をしてから携帯を閉じて枕元に放り投げて、その横の枕に顔を埋める。



── ……もうハンバーグ冷たくなっちゃったかな。



刹那。
フライパンの中で冷たくなっているだろう2つのハンバーグを気にしている私を無視して、
不意打ちもいいところな睡魔が頭を乗っ取った。



 * * *



ノイズが混じる不鮮明な映像が視界一杯に広がり、今見ているものが夢だと教えてくれる。
私は実家のトイレの前にいた。



「お父さん?」



トイレの引き戸を全開にして、新聞を読みながら便座に座るその人を呼びかける。
夢の中と言えど扉くらい閉めて用を足してほしいものだ。



「よう、こなた」
「お父さん、いつも言ってるけどゆーちゃんも居るんだしドアくらい閉めてよね」



家にいたときはこんな注意を諭してから扉を閉めるのが習慣になってたっけ。
律儀なもので夢の中の私は習慣通りに扉を閉めようと引き戸に手をかけた。



「なぁこなた、──のことはどう思ってるんだ?」



ドアを5割閉めたところで、お父さんが新聞で顔を隠したまま、現実では知り得もしない人物のことを聞いてきた。
目の前にいるお父さんは私の記憶から成り立っているから、私が一人暮らしを始めてからのことを知っててもおかしくない、
記憶にないものは再現されない、だからお父さんは彼女のことは呼べないんだと傍観者的な立場にいるもう一人の自分が訴える。



…でも、どうしてよりにもよって“かがみ”のことなんだろう。



「どうって…友達だと思うけど?どうしてそんなこと聞くのさ」
「いやな、こなたの様子みてると、お父さんてっきりこなたが思っている以上に
──のこと好いているんじゃないかと思ってな」



新聞を畳んで顎にある無精髭を撫でながら平然と言い切るお父さんを前に、
驚いた私は8割ドアを閉めた手を止めざる終えなかった。
自分の親ながら、この人は言ってることの意味を理解してるのかと疑ってしまう。



「はぁ…。仮に私の気持ちがそうだとしても、かがみは女の子だよ?それじゃ──」



百合じゃないかと続けようとしたとき、お父さんが私の声を遮った。



「こなた、人を好きになることに別に性別なんて関係ないんじゃないか。
大切なのはこなたの想いだとお父さんは思うぞ」
「…っ」



これが夢だとしても現実のお父さんも同じ事を言い兼ねなくて。
お父さんの言葉で疼きだした想いを否定したくて、気づいたら声を張り上げて閉めた扉を自分で開けていた。



「お父さん、それってどういうことさ!!!」



勢いよく開いたドアの先にお父さんはもう居なかった。




「こなちゃん?」
「…つかさ」



昼間にみた病室のベッドからその身を起こしてるつかさが私を見ている。
夢特有の場面移りは私に考える猶予をくれないようだ。



「ねぇこなちゃん。こなちゃんは──のこと好きなの?」



お父さんと同じような事を聞いてくるつかさの視線に、疼き続ける想いが余計に揺れ動く。
まっすぐな目に耐えきれなくて私から視線を外す。
── 私はかがみのこと好きなの?
傍観者の私が今の私に追い打ちを掛けるように問いかける。
私の想いは……好きかもしれない。でも、それは目の前にいるつかさやみゆきさんに抱く“Like”の好きと同じものだ。



「──と私やゆきちゃんは一緒なの?過ごした時間は全然私たちの方が長いのに」



きっとそうだと心を固めたとき、つかさが私の心を読んだかのようにその心を砕くようなことを言う。
つかさの言うように、かがみとつかさやみゆきさんを同系列に並べるには無理があるのも心のどこかで理解していた。
…今の私にはそんな答えしか見つからないのに。



「ねぇ、つかさ。だったら私にとってのかがみの存在ってなんなのかな?」



答えが欲しくてつかさに向き直ったつもりが、そこはもう病室じゃなかった。
つかさの代わりに暗く何もない世界に居たのが、
蒼く長い髪に右目に泣き黒子がある傍観者。鏡に映った私、“こなた”がそこに居た。



『お困りのようだネ。おおっと、そんな怖い顔しても私からは何も出てこないよ?』



不敵に笑う猫口笑顔を今すぐ張っ倒して、本当の気持ちを吐かせてやりたい衝動に駆られる。
でも、“こなた”の言うようにそんな事をしても、私が欲してる答えは出てこないだろう。
“こなた”もまた私で、私も“こなた”だから。



『よくわかってるね、でも正確には私は“私”とは違うんだけどねぇ~?』



ニヤニヤ笑顔の“こなた”の思考は私には届かないことを考えると、
どうやら私の思考は共有しているくせに、“こなた”の思考は私に繋がっていないようだ。



『まぁこれは不毛なやりとりだよ?だって夢の中だし』



私もこれ以上続ける気はない。それより私が欲しいのはまだ疼いてる心の奥底の想いの答えだ。
思ってるだけで言いたいことが届くのは楽だけど、これじゃ“こなた”の手のひらで踊らされているようで気に食わなかった。



『“私にとってのかがみの存在が何か”それが君の欲しい答えだったネ』
「そだよ、“私”は何か知ってるの?」
『本当に知りたいの?知って後悔しないの?』
「知りたいと思ってるから聞いてるんだけど?」



疼く想いと焦る心を抑えながら特殊な自問自答は続く。


『ふーん。なら教えてあげるけど、知ってるも何ももう気づいてるんじゃないの?』
「質問を質問で返されてもね…」
『と言われてもねー。答えはもうそこに在るでしょ?』



“こなた”が私の胸を指差す。
すると、今まで疼いていた想いが孵化するように割れ目を入り、ひらくと同時に私の視界を白く埋めた。
…“こなた”がいうように私の心の中に既に答えは在った。



そこに見えたのは───
かがみと出会い、一緒に過ごした2週間の思い出ばかりで、どれも楽しそうに笑っている私がいて。



私はかがみとこうしてずっと一緒に笑っていたいって。
私はかがみを大切にしたいって。
私はかがみに信頼されたいって思ったんだ。



昨日かがみがくれた優しさが想いを確かなものにして、でも現実ではあり得ないからって殻に閉じ込めた。
そう想ったのは時間の問題じゃない。出会ったときから私はかがみが気になっていたんだ。
ツインテールのつり目の彼女の事を、出会ったときから好きだったんだんだ。



『そう、それが答えだよ』



光が消えて、相変わらず不敵な笑みを浮かべる“こなた”が言う。
答えが見つかってこのまま夢が覚めてもいい心地でいた私にその笑みが不快感を隠しきれずにいた。
不快感の正体をすぐに“こなた”が形にした。



『答えが見つかってすっきりしてるところ悪いけど。
夢から覚める前に、いや絶望する前に、一つだけ忠告させてもらっていいかね』



“こなた”の思考がここにきて初めて私の中で繋がり、“こなた”の姿が消えた。



── 現実のかがみの存在は、蜘蛛の糸みたいにいつ切れて消えてもおかしくないものだからね?
   私の気持ちを無視してでも、ね。



「待って!それってどういう意味!?」



思い当たる節があった。想いを閉じ込めた殻の正体はそれだったから。



── 分らないなら、少しだけ体験していけばいいよ。



もう見えない“こなた”は最後にその思考を残して気配を消した。
入れ替わりに後ろから人の気配を感じ、振り返ると──かがみがいた。



「かがみ…」



想いを再認識して、改めてかがみと向き直ると何か新鮮な気持ちがした。
けど、歓喜余って抱きついてしまいそうになる私の行動を制するかのような雰囲気がかがみから出ていた。
その雰囲気が嫌で、いつものように「こなた」と呼んでほしくてもう一度かがみに声を掛ける。



「かがみ、どうしたの?」



呼びかけに反応して、冷たく、そして他人を見るような目でかがみが私を見据えると──



「貴方は誰?私の知ってる人?」



その言葉と共に闇に囲まれた世界が砕け、私の身体は堕ちていった。



── かがみは私の事を忘れる可能性もあるんだよ。



夢が終わり行く中、最後に消えたはずの“こなた”がそう言うのが聞こえた気がする。



 * * *



身体がびくりとして起き上がる感覚に身を任せながら私は叫んでいた。



「かがみ!!!!!!」
「え、あ、ちょっ!こなた、まっt」



ゴンっ!!!!



叫んだ言葉の余韻と言いかけの叫びも間もなく、鈍くゴンっと音がしたのは私の額が何か堅いものにぶつかった音で。
私は身体を起こす力を痛覚に奪われて、上半身は後ろに落下した。
落下した頭と背に当たるのは柔らかい枕と布団で、胸元に感じるのは掛け布団ともう一つ違う重量があった。
完全に覚醒した痛覚が額を震源地としてズキズキと頭痛を発生させていたため、
胸元にある重量にすぐ意識をまわす余裕がなかったけど。



「ふぉぉぉぉ………」



身体を悶えさせようとして、その身体が動かない事に初めて気づいて。
額を押さえて痛みに耐えながらちらりと自分の状態を確認すると、私の薄い胸らへんに薄紫の頭が埋まっている。
その正体を私は知っていた。



「か、かがみ…?何やってんの…?」



白煙をプスプス出しそうな薄紫の脳天がぴくりとした。
密かに憤怒のオーラ、怒髪天を衝くように見えるのは私の気のせいだろうか。
私と同じく頭を抑えていたかがみの手が、例のホラー映画の井戸からでてくる○子のように布団を這い上がってくる。



── …正直貞○より怖いです。



「…こぉぉ~なぁぁぁ~たぁぁぁ~~!!!」
「うわぁあああ!!」



額の痛みを忘れるくらいの恐怖を今のかがみは持っていた。
上へ上へとじりじりと逃げていたものの、逃げ場を無くなって私はベッドの背に今度は脳天を「ガンッ」とぶつける。



「ご、ごめん、こなた大丈夫!?」
「ふぉぉぉ痛い…脳細胞何個死んだかな……」
「…そういう問題なのか?」



その音と痛みで踞る私を見て、かがみが未だ私の上に乗った体制のまま我に返っている。
前後からくる痛みを涙目になって耐えてる私は、恐怖で忘れてた疑問をかがみに突きつける事にした。
…顔が近いのはこの際今は気にしない。



「っていうか…かがみこそ私の上でなにやってんのさ」
「うぅっ!!そ、それは…」



かがみの目が右へ左へ泳ぎ始める。
人の上で、しかもこんな至近距離で顔を真っ赤されたら逃がす気もしなくなる。
私はそのままかがみの肩をガシッとホールドした。
その様子に逃げれない事を悟ったかがみは重い口を開いていく。



「…帰ってきたらこなたが寝てて、お、起きるのがわかったから、
今朝のお返しをしようと思って、め、目の前にいて驚かせようとし、しただけよっ…」



── Oh、これは…やばい…。
今の、しかも至近距離でのかがみのデレは破壊力があった。



「かがみっ!!!!」



想いが勝手に溢れてギュッとかがみを抱き締めていた。
耳元で「なっ!」と声を上げて驚いて抵抗していたかがみだけど、
私の様子がからかうものじゃないと感じたのか抵抗をやめる。



「帰ってくるの遅いよ…ご飯作って待ってたんだよ?」



…ただ、かがみの存在をここにあると自分の中で確かめたかったから。
今は素直に想いを伝えたかった。



「…ごめんね、こなた」



かがみもその想いに答えてくれた。
── こんな私でもかがみに信頼してもらえるかな?
そんな願いを込めながら、かがみの温もりを感じていた。



しばらくそのままでいたけど、お互いの腹の虫が空気を読まずに大合唱した。
その音に同時にクスリと笑って身体を起こした。



「ご飯食べようか。今日はハンバーグ作ったんだよ」
「へぇ~おいしそうね」



かがみが時計を確認するのを見計らって、私も時計をみるとすでに23時半になっていた。



「む。1時間くらい寝てたんだ…かがみ、帰ってきた時に起こしてくれればよかったのに」
「へ?帰ってきたの20分前くらいだし、あんたすごい気持ち良さそうに寝てたから起こすに起こせなかったのよ。
それにこなた電話くれたでしょ?あのとき電車の中だったから出れなかったけど、降りてから電話掛けたわよ」
「ほえ?」



そう言われて枕元の携帯を確認すると「着信履歴2件」と小窓に表示されていた。
携帯の設定はマナーモードのままです。



「…ま、まぁかがみがこうして帰ってきてくれたし結果オーライってことで!」
「今の間はなに。詳しく話を聞こうじゃないのこなたさん?」



かがみから逃げるように台所に飛び込む。
ハンバーグを温め直しながら、見た夢の内容を詳しく思い出そうとするけど、
覚えていることは自分の想いに気づいたことだけだった。



── 私はかがみが好きだ。



自分の気持ちがこの先茨道が続くのも知っているけど、今はそれだけで幸せだった。




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  • 二人の互いを想う気持ちがなんとも可愛らしい…

    『…正直貞○より怖いです。』 ちょw -- 名無しさん (2008-06-22 01:33:46)

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