パーフェクトスター 第3章Bパート

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『パーフェクトスター』
●第3章「貴方の存在」Bパート
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 * * *



翌朝、本日も晴天なり。
午前中特有の明るく熱い日差しを浴びながら、家から駅までの道のりをかがみと一緒に歩いていた。




あの後、事情を説明して一緒にお見舞いに行かないかと誘たものの、かがみはこの日にバイトを入れていた。
私的にはそのバイトを休んででも一緒に来てほしい気持ちはあったけど、相手は共通した友人じゃないし、
あくまで私の親友のお見舞いのためにバイトを休んでくれとかがみに強要するのは躊躇われた。
でも、きっとかがみのことだ。
私が「バイトなんか休んで一緒にきてよ」と言えば、私の気持ち通りにツンデレながらも行動を起こしてくれたとは思う。
けれど、目の前で返答に悩んでいるかがみの取り巻く雰囲気が、
“バイトの有無で行くかどうかを悩んでいるわけじゃない”と伝えてくれているようで、不思議と私は言い出せなかったのだ。



結局お誘いに対してかがみの返事は“No”で、本来ならこうして肩を並べて会話しながら歩く事も無かったのだけど、
朝食食べながら何気なくかがみに今日のバイトの事を聞いたことにより、2人に共通の用事を私が作り出したのがその起因。
バイトの勤務地や勤務時間の話を聞いて行くうちに、興味のあることにしか働かないはずの私のCPUが勝手に起動して、
かがみの通勤経路とみゆきさんとの待ち合わせ場所に接点の抽出し、時間次第ではみゆきさんとは会えるという事実を結論として導きだした。
その結論に対し、私の身体はかがみに思惑を伝えるよりも早く、みゆきさんに電話していた。



…無論、その内容は待ち合わせの時間変更。



私の突飛的な行動に終始訳がわからんといった顔のかがみに決定事項を伝え終わると、
「はぁ!?あんた何いってんの?」と噛み付く勢いで詰め寄ってきた。
が、この時点でかがみに拒否権なんて存在していなかったから、ムツ○ロウさんみたいな大らかな姿勢で形だけ意向確認をすると、かがみは観念したように了承を口にしていた。



── で、今に至るわけだけど。



「あんたがバイトもなしにこの時間に起きてるって珍しいわよね。むしろ快挙じゃない?」
「快挙って…。まぁさすがに今日は寝坊しちゃいけない気がしてねー」



他愛もない会話をしながら、横を歩いてるかがみの表情は明るい。
今日のかがみはツンツン成分が当社比2割増しな気もするけど、今はそんな会話の合間にくれる笑顔が嬉しかった。




 * * *



待ち合わせ場所には、白いワンピースにピンクの七分袖くらいのカーディガンを羽織り、
手には小さなひまわりを基調にした花束を備えた桃色の髪の人がいた。
それは紛れもなくみゆきさんであり、当初より20分くらい前倒しになった待ち合わせ時間は彼女にとって大きな問題ではなかったらしい。
私たちより早くその場所にいるのは、さすがみゆきさんといったところだ。



「やっほー、みゆきさん。元気してたー?」
「あ、泉さん、こんにちは。泉さんもお元気そうでなによりです」



声を掛けるとこちらに気づいたみゆきさんは、相変わらずの笑顔で挨拶を返してくれた。
つられて私も顔の筋肉が緩む。



「すまないね、みゆきさん。いきなり時間ずらしちゃったりして」
「いえ、お気になさらず。私も丁度家を出たところでしたから」



そのまま硬直。



―― あれ?私が電話したのは2時間前のはずだけど…。



硬直の解けた思考が危うく脱線しそうな突っ込みをしそうになるのをどうにか我慢して、何事もなかったように本題へ繋げる。
後ろに立ってるかがみが時間はあまりないと言いたげに「ごほん」と咳払いをしたからだ。



「で、早々にその待ち合わせ時間を変更した理由なんだけど」
「はい、会わせたい人がいるとのことでしたね」



おおまかではあったけどみゆきさんには電話で用件を伝えていただけあって話が早い。
私はかがみを紹介するために、本人に視線を向ける。



「友達のかがみだよ。今ちょっと訳あってうちに居候してるんだ。
…あ、といっても夏休みの間だけだけどね」



そう紹介したかがみがもの言いたげな視線を私に向けていて、その視線の意味を瞬時に把握した。



── かがみ…!空気読もうね…!



みゆきさんに怪しまれないようにと考慮してついた嘘にかがみが釣れたようだ。
思念を送っても伝わるはずもないので、嘘だとばれてる前にフォローという名の脅しに入る。
「ね、かがみ?」とにぱー☆と擬音が付きそうなくらいの笑顔が、きっと私の今の表情だ。
その笑顔を向けられているかがみは「えっ?あ、うん」と間の抜けた返事をしながら読めた空気に従って、



「えっと、初めまして。かがみといいます。」



…如何にも他人行儀な自己紹介をしていたけど。
思惑通りに事が進んで満足しながら、みゆきさんに視線を戻すと、頬に片手を当て、何かを考えているような表情で活動が停止している。



「みゆきさん?」



2つの視線に気づいたようで、みゆきさんがハッとした。
考え込むのも相変わらずらしい。



「す、すみません」
「いやーそういうところもみゆきさんらしいけど、一体どしたの?」

活動停止理由が自分にあるのかと焦っているかがみを前に、みゆきさんは言いにくそうに、でもはっきりと。



「かがみさん、でしたよね。あの…大変失礼なことをお聞きしますが、以前どこかでお会いしたことありませんか?」



まさに想定外。
言われたかがみも、聞いてた私も唖然とした。



── 待て待て、COOLになるんだ、泉こなた!



カウンターすぎる言葉が徐々に私を貶めていく中、惨劇の多い村の主人公みたいに自分を落ち着かせようと試みる。
みゆきさんとかがみが過去に会った事があるかどうかなんて解るはずがないけど、私の知ってる世間はそこまで狭くないはずだ。
しかし絶対ないという確証もないだけに、さすがに「過去の記憶がないのでわかりません、あはー」とぶっちゃけるのもどうかと思う。
正直に言うと、今の私は全然冷静になれてません。本当にありが─と思考を続けようとしたそのとき。



「初見だと思います。もし会っていたとしても、私覚えてないみたいで…ごめんなさい」



かがみが事実をありのまま、でも曖昧にして返していた。
みゆきさんもその言葉に納得したようで、すぐに申し訳なさそうに「すみません、私の勘違いでした」と謝罪を口にしていた。



結論としては丸く収まった気がするけど、ネガティブ方面に向きっぱなしなこの流れは本意じゃない。
方向修正を謀るため、ちょっとだけかがみに犠牲になってもらうことにしよう。



「まぁ誰だって勘違いくらいあるし気にしなくていいよ、みゆきさん。相手は優しい優しいかがみ様だしねっ!」



自分の出来る限りの明るさを持ってそう言うと



「様をつけるな!気恥ずかしい!」



突っ込み役のかがみが一本釣りで引き上げたマグロのように勢いよく釣れた。
これだけでも十分雰囲気を戻せた気がしたけど、かがみの反応が楽しくてつい調子にのってしまう。



「むふ、優しいって部分は認めるんだネ」
「そ、そんなこと一言も言ってないっつーの!!…あんた、ケンカ売ってんのか?」



握り拳を作りながら負のオーラを放つかがみを前に、
怖くもないのに芝居がかった叫び声を出しながら、みゆきさんの後ろへ隠れるように逃げる。
2人の様子を一部始終見ていたみゆきさんから「くすっ」と笑い声が漏れた。
私とかがみの意識が一斉にその声の主へ向く。



「す、すみません。お二人のやり取りが楽しくて、つい…」



本日3回目の謝罪が含まれるその言葉には、喜怒哀楽の“楽”が含まれていて。
私も少し照れてたかがみも笑声を聞き届けて小さく微笑んだ。




ふいにみゆきさんの手に付けられているベルトの細い時計が目に入る。
みゆきさんのカウンターに、2人で漫才をやってた分、かがみがバイトへ向かわなくては行けない時間が迫っていた。



「かがみ、ごめん。バイトの時間大丈夫?」



かがみが自分の携帯の時計を確認すると「やばっ」と小声で呟いていた。
そしてみゆきさん、もとい私に近づいて



「── こなた、今晩覚えてなさいよ。さっきのお返したっぷりとしてあげるわ」



意地の悪そうな目つきのかがみが、私の耳元でそう呟いて踵返す。
耳元で呟かれたこそばがゆさとかがみの執念深さに身を震わせていると、みゆきさんが思い出したようにかがみを呼び止めた。
かがみがこちらを振り返る。



「私とした事が自己紹介を忘れてました。改めまして、高良みゆきと申します。
また、お時間ある時に是非お話させてくださいね」



かがみはやんわりとした笑顔を浮かべながら



「ええ、今度は時間があるときね。それと改めてよろしく、“みゆき”」



かがみなりの優しさと気遣いが詰まった言葉を返し、駅へ歩き出していた。



 * * *



かがみと別れたあと、私たちもつかさの入院する病院へ向かった。
思ったよりも大きな病気で、つかさはその最上階の病室にいた。



「あ、こなちゃんにゆきちゃん、着てくれたんだ!」



スライド式のドアを開けると、いの一番でつかさの声がする。
数か月ぶりに聞く声だけは元気なつかさと相違なかったけど、薄紫の頭にはぐるぐる巻かれた包帯、
ギフスをしているせいか膨れている右手が事故が嘘じゃないことを物語っている。



── 昨日かがみが抱きしめてくれなかったら、この状態を見ただけで泣き出してたかも。



姿だけ見れば痛々しいくらいその光景に対し、
あくまで冷静な自分を考察していると、つかさが喋り始めた。



「入院してから寝てばっかりだから、こなちゃんやゆきちゃんが来てくれてよかった」
「それはそうとつかさ、もう身体の方は大丈夫なのかね?」
「うん、あとは怪我治すだけかな。あと1週間もすれば退院できるって言われてるよー」



入院経験がないからわからないけど、この勢いをみてると本当に暇を持て余していたみたいだ。
そんなつかさとは対照的に、病室にはいってからみゆきさんが一言も発していないのに気づく。



「みゆきさん、どしたの?」
「あ、いえ、なんでもありません。ごめんなさい。なにやら今日はよく考え込んでしまうようで」
「そいうところ、ゆきちゃんらしいよねー。あはは、なんだか久しぶりだなぁ、こういうやり取り」



先程この似たようなやり取りを交わした内容のせいか、みゆきさんの“考え事”に興味があったけど、
つかさが楽しそうにしていたこともあって、完全に聞くタイミングを逃してしまった。



その後、きっかけはつかさのお見舞いではあったけど、数ヶ月ぶりに会った私たち3人は、
高校時代のときと同じく、話に糸目を付けずに色々な会話を交わしていたと思う。
事故にあったのは約2週間前のことだったり、運ばれた当時は意識不明の重体だったこと。
3日後に意識が戻ったこと。病院食がまずくて早く退院したいとか、今通ってる大学や専門学校のこと。
でも、結局事故にあったときの詳しい話だけはつかさは触れなかった。



まるで昔に戻ったような感覚と共に時間は流れ、気づけば高かった日差しはいつのまにか病室をオレンジ色に染めていた。
それは面会時間の終了を知らせる合図でもあった。



「さて、そろそろ時間も時間だし、つかさも休憩いれないとだね」
「そうですね、ついつい長居してしまいました」
「こなちゃんにゆきちゃん、今日は来てくれてありがとーすっごく楽しかったよ」
「退院するまでにまた暇をみつけてお見舞いにくるからさ、つかさもあんまりドジして怪我酷くさせないようにネ」



そう言いながら、帰り支度も終わり、病室を出たとき。



「あ、泉さん。先に外に出てもらっていてもよろしいですか?」
「ん?何か忘れ物でもした?」
「ええ、ちょっとつかささんに渡しそびれてしまったものがあるのでお渡ししてきますね」



みゆきさんが再び病室へ入っていった。
このままドアの前で待っているのもなんなので、みゆきさんの言葉通りに外へ出ることにした。



選択肢を間違えていたことは外にでてから気づく。
外は日差しが傾いていると言えど暑さが残っており、今まで冷房によって齎されていた爽快感が一気に吹き飛んで行った。
それからみゆきさんが来たのは10分後だった。




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