パーフェクトスター 第3章Aパート

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『パーフェクトスター』
●第3章「貴方の存在」Aパート
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予期せぬ言葉で自我が一気に吹き飛びかけて、私はそのまま立ち尽くしていた。
携帯の受話口からみゆきさんの声が聞こえるけど、今の私には何も届いていない。
だって最初になんて言ったの、みゆきさん。



── つかさが? 事故に? どうして?



思い浮かぶこと全部に疑問符を含んでおり、私は何一つ分からない。
最後にかろうじて残っていた冷静な部分が、事を整理して私に理解させようとする。



―― 仮につかさが事故に遭ったとする。じゃあ、つかさは?



とりあえず仮定することで状況をつかむ。そこから広がった“最悪の状況”は。つかさの──



『 ──さん、泉さん!』



最後に思考が及ぶ前、受話口から自分の名前を強く呼ばれ、ようやく私の自我は現実に戻った。
同時に、今まで止まっていた感情が一気に溢れ出し、気づいたときには携帯を強く握りしめ、電話の相手に叫んでいた。



「あ、あの、つ、つかさは!!」
『落ち着いてください、泉さん!』



「でも」と言いかけた私に、受話口のみゆきさんがそれを制止するように言葉を重ねる。



『泉さん、安心してください。つかささんは生きてます。話の切り出し方に不備がありましたね、申し訳ありません…』



言葉の続きは私が望んでいたものでもあり、さっきまで考えていた最悪の状況を完全否定するもの。
それとこんなときでも他者を気遣うみゆきさんらしさが、私の高ぶった感情を少しずつ下げてくれた。



「よかった…生きてたんだ…」
『ええ、私も状況が状況だっただけに事を詳しくは聞いてはいないのですが、
命に別状はなく、意識もしっかりあるとのことです』



これがドラマのひとこまだったら、命に別状はないなんて曖昧だよね、と突っ込みをいれたかもしれない。
けど、その言葉をうける当事者となった今の私には大切な言葉だった。



『あの話を続けさせていただいても大丈夫ですか?』
「あ、うん。ごめんね、みゆきさん」



言葉の届く状態なのを確認したみゆきさんは、仕切り直す意味を兼ねて『それでですね』一言置く。



『面会の許しも出ているということでしたので、明日つかささんのお見舞いを、
泉さんもよければご一緒しませんかということでして』
「そりゃぁもちろんいくよ!!!」



最後まで話を聞かずに私は即答する。
その勢いに、きっとみゆきさんは電話口で困ったような笑みを浮かべてるんじゃなかろうか。
私の名前を呼んでいたときと打って変わって、柔らかい声色で『では』と話を続けていた。
そして、明日の待ち合わせ時間と場所を固めてその電話は終了した。




そっと携帯を閉じる。
強く握り締めていたのもあって、携帯には手のひらの汗がみっちりついていた。



── 事故に遭ったけど、つかさは生きてて、明日はみゆきさんとお見舞いにいくんだ。



得た情報を脳内で整理しつつ、べたべたになった携帯と手を服で拭うと、汗とはちょっと違う雫が手の甲に落ちてきた。
雫の正体は解らないけど、行動で改めて自分が落ち着いたことを実感していた。



「こなた…?」



後ろからかがみの声がする。その声には心配の色が見え隠れしていた。
私は忘れていることがあった。



── ああそうだ、かがみと一緒に帰ってきた後だったんだよね。



帰宅直後に声を荒げた始めたら、それは心配もするはずだと。
心配の種を除いてあげようとかがみに振り返ると、かがみの目が大きく見開かれた気がする。



「ごめんね、急に大きな声出したりして。高校の友達からの電話でさーちょっと色々あってねー」



あくまで普段通りに言ったつもりが、ちょっとだけ声が震えてる気がする。
なんでだか私には解らないけど、かがみが答えをくれたのはその後だった。





「こなた…あんた、自分が泣いてるの気づいてないの?」




「…へ?」



そう言われて咄嗟に目元に触れると、確かに私の目は濡れていた。



「あ、あれぇ?おかしいね、泣くような事なんかなかったはずなのに。」



事実と反して私には泣く理由はないはずなのに。
拭っても拭っても止まらない涙の理由は私にはわからなかった。



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   Interlude
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“私”は、一番最初に出逢えた人がこの子であって本当よかったと思ってる。



名前を思い出してから、ずっと傍にいてくれた子。
マイペースでだらしなくて、冗談言って私をからかったり、時々マニアックでよくわからないことも言うけど、
あの子がくれる笑顔は、記憶が一向に戻る気配のない“私”に、ここに居てもいいという安心感を与えてくれた。




この子に抱く気持ちは、家族や友人、または親友のどれかに向けられるものに近いのかは、記憶のない“私”には分からない。
もしかしたら、全く違う存在に向ける気持ちなのかもしれない。



ただ一つだけ、確信を持っていえることがある。
それは、たった2週間という短い時間しか経っていなくても、今の“私”にとってこの子はかけがえの無い大切な存在だ、と。



そんな大切な人が今目の前で泣いているのに“私”は何もできないのか。
いや知っているような気がする。大切な人が涙を流しているとき、助けられなくても何かを与えられる方法を。
身体に残っていた行動の記憶を再生すると、“私”の身体が勝手に動いていた。



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  Interlude OUT
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視界がさっきより狭く暗い。気づいたら涙を拭い続けていた腕ごと抱きしめられていた。
不思議とその腕を振り払おうという思考はない。



「…か、かがみ?」
「状況はわからない。けど、こなた。あんたが今流してる涙は少なくとも悲しいものじゃないと思うから」



その言葉とともに、かがみは私の頭をさらに胸へと引き寄せる。
それは“我慢しなくていいよ”と言われているようで。
かがみの想いが私の心の深い部分に届いたとき、知らぬ間にかけていた感情の箍が壊れていくのを感じた。
抑えるものがなくなった感情が一気に溢れ出し、かがみの胸元を濡らしながら、私は声を挙げて泣いていた。



しばらくは私の泣き声だけが響く部屋の中、かがみがくれた温もりの中で涙の理由に思い当たる。



みゆきさんの一言で、私は“つかさ…大切な人の喪失”を妄想し、勝手に不安を募らせて。
そして事実は別に存在し、妄想は妄想のままである解ったとき、心から安心していた。
その不安も安心も自分の思っていた以上に大きかった、ただそれだけのことだった。



私の嗚咽が小さくなり、本当の意味で落ち着きを取り戻したころにかがみの優しい声が耳に届く。



「こなた、少しは落ち着いた?」



落ち着いたという意思表示をするため、かがみから身体を離す。
優しいかがみの目には真っ赤な目をした私がしっかり映り込んでいて、
目を反らしたい衝動にかられたけど、想いを伝えたい言葉があるから、ここは我慢してかがみの目を見続けた。
温もりと安心感をくれたお礼を、彼女に──



「ありがとね、かがみ」



 * * *



私がお礼を口にした後、かがみは優しく微笑んだ。



数秒後。



未だ私の肩に置いてある自分の手に気づいたかがみは、微笑みを一瞬で崩して慌てて手を離した。
何故かかがみの顔は赤い。



── ノリと勢いで抱きしめてくれたんですか、かがみさん?





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