パーフェクトスター 第2章Bパート

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『パーフェクトスター』
●第2章「夏の始まり、変わる日常」Bパート
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 * * *



かがみが本を見ながら一生懸命作ってくれたのは肉じゃがだった。
調味料の分量を間違えたのか、それとも好みの問題か、味が若干濃い気がするけどおいしい。
作ってくれた本人は、箸を止めて眉をひそめながら私の様子を伺っている。
多分、料理の出来映えを気にしているんだろう。
じーっと見られ続けて食事をするのは、ちょっとばかり息苦しいので素直な感想を伝えることにした。



「おいしいよ、ちょっと味が濃い気がするけどそれは好みの問題かね」



私の言葉を聞いて、かがみは眉を通常運営にもどしてほっと一息。あえて言葉にしないところがかがみらしい。
それから二人でお箸と会話を進めていく。



「今日、派遣先の一緒だった人が臭くってさー」
「うぉ、それは災難だったね」



かがみは1週間前から日払いの日雇い派遣のバイトを始めていた。
きっかけはかがみの言葉からで、彼女曰く、
「記憶がいつ戻るかわからないけど、お世話になる以上は生活費だけでも協力させてほしい。
それに出来る限り外の世界を見たほうが何か思い出せるかもしれない」とのこと。
根が真面目なんだなぁと思っただけで、私には特に反対する理由も思い当たらなかった。
が、始めるにあたって大きな問題があったことを失念していた。



かがみは名前以外の個人情報がすっぱり喪失しているため、書類を書くことができない。
どうしたものかと考えた末に行き着いたのが、日雇いの派遣バイトだったというわけ。
どうやって契約したのかは色々言葉にしたらまずいような事が含まれているので、
無事契約は出来たという事実を残して割愛するとして、
まぁ要は現場で労働力を提供しているかがみは、仕事中だけ“泉こなた”になっているだけの話。
こういった日雇いの派遣バイトは、仕事の請け負い等のやりとりは電話で、
このご時世便利なものでプリペイド式携帯電話の購入でそこは難なく解決した。



こうして始めたバイトだけど、思ったよりかがみは楽しんでいるようだ。
というよりは、記憶が無いから新鮮なのかな、とも思えた。



「そういえば、今日早くバイト終わったって言ってたけど、今日はどんな内容だったのん?」
「ん、今日は倉庫作業よ。昨日までやってたスーパーの試食より断然楽だったわ」



関係ないけど、試食コーナーで三角ずきんを被って売り子をしているかがみを想像して、
それはそれでありだと思った私がいる。



「ほぇ~試食コーナーの売り子なんかしてたんだ。
それなら、かがみもうちのコスプレ喫茶でバイトすればよかったのに。
かがみはツンデレだから翠の子とか似合いそうじゃん」
「…あんた、そういうコアな話通じないのわかってて言ってるだろ。
それにツンデレじゃないし、コスプレに興味はないから謹んでお断りしとくわ」



“ツンデレ”や“コスプレ”やらの言葉に対して、今は普通に返答できるかがみだけど、これはきっと私の影響が大きい。
居住まいが私の家ともなれば、こういうワードが出てくる本がそこら中に落ちている上に、
私がよく使うからきっと意味を調べたんだろう。
かがみが、その言葉の意味を知ったときの場に居合わせたかったと思ったのは後の祭り。
と、そんなことを思っているうちに食事は終わり、私は自分でいった“コスプレ喫茶”のキーワードで一個思い出したことがあった。



「あ、そだ。今日バイト先でケーキ貰ってきたんだけど食べる?
店長があまったから持って帰っていいよーってくれたやつ」



ケーキという言葉に、さっきの会話でジト目を何故か継続していたかがみの目に光が点る。
そこまでの反応を見せられたら別に返事もいらなかったけど、あえてかがみの言葉を待ってみた。



「こ、こなた、それは何ケーキなの?」



しばしの沈黙後、目で意思表示をしてしまった手前、言葉で素直に食べると言えなくなったかがみはお茶を濁す。
その反応があまりに楽しく新鮮で、ついついからかってしまう。



「その名も“ツンの中にもデレがあるツンデレショートケーキ”っていうごく普通のショートケーキだよ」
「なんつー名前だ!って、結局普通のケーキかよっ!」



期待どおりの突っ込みに満足した私は最後の落としにかかった。



「かがみんはいらないの?」
「うぅっ!……食べるわよ…」
「だよねーまったくかがみは素直じゃないんだから」



再びジト目になったかがみを横目に、掃けた器に二人分のお茶碗を流し台へ持っていき、冷蔵庫に入れてあったケーキをお皿に取り分ける。



―― かがみは面白いね。家にいる時間が楽しくなったよ。



そんなことを心で思いながら、ちょっとだけ変わった自分の心境に気づいた。
当初は“ゲーム感覚として”楽しんでいたこの状況を、今では“話せる相手がいるから”楽しいと感じている。
感覚が2次元から3次元に戻ったというと聞こえは悪いけど、その例えが妥当な気がした。



── じゃあ、話せる相手が“かがみ”じゃなかったらどうなんだろう?



例えばつかさやみゆきさんをそこに当てはめてみてもそれはそれで楽しいかもしれないが、何かが物足りないような気がした。
その物足りなさを感じる理由は今の私には解らなかった。



「こなた、どうしたの?」



声を掛けられハッと気づく、隣に疑問符を浮かべたかがみにいた。
私はケーキを取り分けるにしては長過ぎる時間硬直していたようで、かがみが様子を見に来てくれたみたいだ。



「暑さで体調悪くなったとか?」
「んーん、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」



そう返すとかがみは納得したようで、取り分けたケーキをみて目を輝かせる。



「へーまともなショートケーキじゃない」
「いや、だから普通のショートケーキだっていったじゃん」



私のまともな突っ込みに、かがみは「そ、そうね」と照れていた。
今日はいつもより多く照れてるかがみをニヤニヤ見つめていたら、かがみの着ているTシャツが僅かにほつれていることに気づいた。



── そういえばかがみの洋服、最近買ってないなぁ。



確か暮らし始めて3日後くらいに2、3着のTシャツと下着を買ったくらいで、それから何も買ってない。
私と身体のサイズが一緒なら洋服だって着回せたのに、生憎私の体躯はかがみより一回りくらいは小さいため無理があった。
根が真面目なかがみのことだから、稼いだお金は必要経費以外ほとんど手をつけていないはず。
例外は今日みたいに料理を作ってくれるときに自分のお財布から出してるだけで、
ここ1週間、かがみが自分のために何かを買ってきたことは一度も見たことがない。



そこで私は、某RPGのスキルが思い浮かんだときのように、頭の電球を閃かせた。



「かがみ、明日の予定はー?」
「いきなりどうしたのよ? 一応、明日はバイト入れてないから1日フリーだけど」



実は1週間前から大学は夏休みに入っており、幸い私も明日は午前中から夕方にバイトがあるだけで、夜はほとんどフリーだ。



「私も明日はバイトあるけど夕方から暇できるし、たまには買い物兼ねて涼しい場所で外食でもしよう、かがみん♪」
「別に私はかまわないけど、買い物って何か欲しいものでもあるの?」
「んーや、今回は私の買い物じゃなくて、うちの同居人の装備を揃えにね」
「はぁ?」



「また意味がわからないことを」とツッコミを入れかけているかがみを抑するために私は言った。



「とにかく!明日の予定はきまりだよ!」



ビシッと親指を立てながら有無を言わせない私をみて、かがみは小さく微笑み「はいよ」と了承してくれた。
かがみには「バイトが終わり次第連絡をする」とだけ伝えてその場は終わり、こうして明日の夜はかがみと出かけることになった。



 * * *



半ばノリだけで決まった今日のお出かけだったけど、私もかがみも大切なことを忘れてたのに気づいたのは、
実際バイトが終わって電話をしてからだった。



「あ、かがみ? バイト今終わったよー」
「お疲れさま、こなた。でさ、昨日すっかり聞き忘れてたんだけど、待ち合わせ場所ってどこ?」



といったやり取りの中で、待ち合わせ場所について決めることを忘れていたことに気づいた。
が、記憶がないかがみに「○○駅の△△で」と伝えてもすぐに解るはずもなく。
家にあるパソコンで待ち合わせ場所を検索してもらい、どうになりそうなところで電話は終わった。



8月に入って間もない日。
陽が落ちても熱は放出されず、さらに都内の街ともなれば余計だ。
今、私は待ち合わせ場所にいるけど、誰しもがここを待ち合わせ場所にするようなところなので人が多い。
身長142cmの私が人ごみに紛れると見つけにくくなるのは言われなくてもわかっていることなので、
出来る限りその人ごみを避けるようにして立っていた。



「おっす、こなた。お待たせ」



声を掛けてくる主は一人しかいないので、声の方向に顔を向けると、
ぶつかったときと同じ服装、深緑のオーバーオールに緑色のTシャツをきたかがみがいた。



「やふーかがみ。待ち合わせ場所のことはごめんね、すっかり忘れてたよ」



素直に自分から謝罪を口にすると、かがみはハニカミ笑顔で
「私もすっかり聞き忘れてたし、お互い様じゃない。」と答えてくれた。
そうして2人で街を歩き始める。こうやってかがみと肩を並べて歩くのは久しぶりな気がする。
同じことを考えていたのか、ほっぺた辺りにかがみの視線を感じると同時に、かがみが言った。



「こうやって並んで歩くと、あんた背低いわね」
「むぐっ!少しは気にしてるんだよ、これでも。いいもん、需要はあるし」
「需要って、あんた…」



剥れる私を見て、かがみは呆れた口調にも笑いを含めていた。



そして、今日の買い物の主旨を伝えて手頃なデパートに入る。
最初は「本当にいいの?」と言っていたかがみも、いざ服を見始めると楽しそうに選んでいた。
途中、店員もしくは店の差し金かと思うくらい、私にも「この服、こなたに似合うんじゃない?」と勧められたけど、
あまりファッションに興味がない私は遠慮した。服に金をかけるくらいならグッズを買うよね。



その後、資金と相談しながらかがみの洋服や下着を数点購入して、
小腹も空いたので私たちは某チェーン店のハンバーガーショップへ行き、食事をとることにした。



「こなた、今日はありがとね」



セットのポテトを摘みながらかがみは本当に嬉しそうに言う。
一方、私は自分の手より2倍近くあるテリヤキバーガーと格闘していて、大きく頬張っているところだ。



「んぐんぐ、ふぇつにこれくらいのふぉとなら」



私らしい間延びした口調のまま、口にモノを入れながら言葉を返してしまった。



「あーもう、モノを口に入れながら喋るなっての。それにほら、テリヤキのソースほっぺたに付いてるわよ。」



ごもっともな注意で私を諭しながら、かがみはペーパーナプキンで私の頬に付いたソースを拭き取る。





── なっ。こういう不意打ちは卑怯だよ、かがみ。



まるでその姿は家族や誰かを思わせる行動に、ここ最近そういうふれ合いがご無沙汰だった私は頬に熱が集まるのがわかった。
当のかがみは当たり前の行動のようにしか思ってないらしく、照れてる私の目の前できょとんとしている。



「どうしたのよ、ぼんやりして」
「い、いや別に。かがみは面倒見がいいなーって」



ここで自分の気持ちを完全に隠したら負けかなと思った私は、ストレートに伝えた。
きっと照れるに違いないと思っていた私の考えに反して、かがみは少し考えてから。



「そうかしら? 案外手のかかる兄弟とか居たのかもね」



と、小さく笑った。今日はかがみのターンらしい。
未だに引かない頬の熱をそのままにするのは癪なので、話題を変えることにした。



「それにしても今日は結構服買ったね。これで“かがみん専用スペース”も少しは賑やかになるかな?」



“かがみん専用スペース”というのは、かがみが暮らすことが決まってから、
私がかがみ用のプライベートスペースとして使うのに空けた引き出しのスペースのこと。
部屋が一つしかない我が家に、私もそういう“人に見られたくないもの”というのが多々存在するので、こういう気配りだけは忘れなかった。



「おかげさまで。まぁ洋服以外大したものは入ってないけどね」
「確かに。開けてギャルゲーとか入ってたらそれはそれでびっくりだよね」
「そんなものあるか!というかゲームなんかたくさん転がってるし、入れる必要ないじゃない」



それもそうだと自分の部屋を思い返しつつ、ようやく自分のペースが戻ってきたことに安堵した。
こうして食事は進んでいく。




 * * *



家のドアを猫のストラップの付いた鍵で開ける。
このストラップはかがみに渡してある合鍵についているのと一緒のもので、何かの付録についていたものだ。
なんで2個も同じものがあるのかは説明しなくてもわかるだろうから割愛。



「「ただいまー」」



そう言いながら2人で家の玄関をくぐる。
かがみは、早速買ってきた洋服をかがみん専用スペースに入れにいき、私は帰りがけに買ってきた食材を冷蔵庫に入れていた。
あらかた冷蔵庫にものが入れ終わったそのとき、
「みんみんみらくる、みっくるるん♪」と滅多に鳴らない私の携帯電話の着信音が響く。



── あれ、みゆきさんからだ。珍しいこともあるんもんだね。



ポケットにしまっていた携帯の外側についているディスプレイに表示されている名前を確認した私は通話ボタンを押した。
耳に携帯を当てると約2ヶ月ぶりの声が聞こえた。



『もしもし、高良と申しますが、こちらは泉さんの携帯でよろしいですか?』
「もしもしーみゆきさん、久しぶりー元気してた?」
『あ、泉さん、こんばんは。私は相変わらずです』



携帯にかけてきてるのに、いやに丁寧なところがみゆきさんらしい。
それとみゆきさんのことだから、この電話にも何かの意味があるはず。



「それで今日はどしたの?」
『泉さん、落ち着いて聞いてくださるといいのですが ── 』



若干声のトーンを落としたみゆきさんは、一息ついてから次の言葉を紡いだ。



『 ── 先日、つかささんが交通事故に遭われまして』



その言葉を聞いた私は、私はただその場に固まることしか出来なかった。





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