パーフェクトスター 第2章Aパート

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今日から本格的な熱帯夜が続くでしょうってテレビで言ってたっけ…。
日中の熱をそのまま残した夜道と相変わらず汗で張りつく下着が、その言葉を証明している。



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『パーフェクトスター』
●第2章「夏の始まり、変わる日常」
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私は地元駅から家までの帰路を歩いていた。
手にはケーキが二つ、入った箱と自分の荷物。
ケーキは、バイト先で余ったものを店長が「持ってかえっていいよ」といってくれたものだ。



―― かがみ、喜んでくれるかな?



あれから2週間たった今でも、かがみの好みはわからない部分が多いけれど、
きっと笑顔を見せてくれると期待して、その同居人と出会った曲がり角に差し掛かる。



 * * *



ちょうど2週間前、かがみが自分の名前を思い出した後に私たちは朝食をとった。
前日、余らせておいたチキンカレーはいつかのように腐ることなく、一晩寝かせた効果もあって満足な出来に昇格。
そんなカレーを堪能した後、時を同じくして食事を終えたかがみに今日の行動指針を示そうと口を開いた。



── 今日は講義もバイトもないし、警察行って話聞いてもらおうか。



その言葉は喉で掻き消え、音にはならなかった。
どうしてだろうと考えたのは一瞬で、どこから沸いたのか、コウモリみたいな羽根と矢印型の角をつけた私、
欲の象徴である“悪魔こなた”が原因を代弁してくれた。



『こんなギャルゲーみたいな体験をリアルにしているのに。自分からフラグ潰して、エンディングみちゃうの~?
見た目、悪い人には見えなさそうだし、自分が行きたい方向に事を進めてもいいんじゃない?』



悪魔こなたが言うように、私はギャルゲーではありがちなこのシチュエーションを、そのままゲームの感覚で見始めていた。
声にならなかった原因は選択肢を選ぶときの迷いと同じ、カーソルを上へ下へと動かしながら迷ったときと一緒。
いつも通りの私なら迷わずフラグが立ちそうな方を選ぶはずだ。



そう考えて悪魔こなたと私が手を結びかけたとき、今度は小さな黄色い輪っかと白い羽根をつけた私、
常識と道徳の象徴“天使こなた”が否定しにはいる。



『いやいや。フラグとか選択肢とかゲームの中だけで、その考えはかがみに対しても失礼だよ。
常識的に考えれば警察につれていくのが普通でしょ!』




確かにかがみは三次元の人間であり、リアルに記憶が無くて悩んでいるところに、こんな考えで対応するのは大変失礼だ。
普通に考えればそういうもんですよね。
と、天使こなたの言葉が心の奥底に染みたのを見て、天使こなたが勝利を確信して消える。
私は常識と道徳に従い、もう一度さっき言いかけた言葉を音にしようとしたとき、
悪魔こなたは消える前にほくそ笑み、捨て台詞を残した。



『日常に変化を望んでいたのはどこの誰だろうねー』



負け犬の遠吠えを華麗にスルーしつつ、目の前のかがみに言った。



「かがみさ、もしよかったらだけど記憶戻るまでの間、もしくは他に何かあるまではうちで暮らさない?」



あれ? 私、スルーできてなかったみたいだ。



 * * *



かがみはとびっきり驚いた顔をして、少し考えてから「こなたがいいのなら」という言葉と笑顔をくれた。
こうして私たちの同居生活が始まった。



ちなみに──
逆転さよならホームランを打たれた天使こなたの意思を汲んで、ことが決まった後に“かがみ”という
名前の家出人届が出ていないか、警察に確認しには行ったけど、届け出はないと言われて、進展のないまま初日は終わった。



 * * *




「ただいまーって、ふぉっ!?」
「おかえり。って、こなた、何驚いてんの?」



ドアを開けたら、すぐ近くにエプロン姿のかがみが立っていた。
正確には玄関を開けるとすぐに台所がある構造のため、かがみは台所に立っていることになる。



「…かがみ、台所でなにやってんの?」
「へ? 何って、見ての通り晩ご飯の支度だけど」



一緒に暮らし始めて、かがみが台所に立つ用事といえば冷蔵庫から何かを取り出すとき、
または洗い物をするときくらいで、今まで一度も料理をしていた記憶が無い。



「ねぇかがみ、鍋とか爆発させた記憶とかないの?」
「んなっ!?そ、そんな記憶あるかーっ!」



ニヤニヤしながら冗談でかがみをからかいつつ、ケーキを冷蔵庫に入れながら、改めて状況確認する。



夢ではないらしい。



強火のコンロの上には、ぐつぐつと音を立てている鍋と、
かがみの手には「初心者にもできる簡単クッキング」と書かれた本がある。
その状況と、これまでの生活で知ったかがみの状態を照らし合わせて、そこから導きだされるものを考えた。




かがみは、例えばお箸の使い方やトイレなど日々生活するため、
生きていくのに必要なことは体がしっかりと記憶を残しており、個人情報や過去の記憶、
いわゆる“個人歴”といったものを喪失している。
もしも過去のかがみが料理をしていたならば、その手に「初心者にもできる簡単クッキング」などといった本はないはず。



「っていうのは冗談。かがみさ、過去に料理してた記憶はあるのー?」
「ん、記憶自体はないわ。ただ、帰りがけにスーパーで材料を色々見たとき、
レシピが思い浮かんでこなかったことから考えると、多分無いか、無いに等しいと思うけど。
まぁだからこの本をって、あ!」



物言いからするとかがみも私が考えたように、自身の状況には気づいているようだ。
それはさておき、最後の「あ!」で、ハッとして手に持っていた本を背に隠した。



── もう遅いけどね、かがみん。



煮物は初心者家庭料理の代表とも言える料理で、まさにあの本に載るにふさわしいもの。
ということは、手探りで作ってくれてる、というのが私が導きだした答え。
今の私はきっと誰が見てもわかるくらいニヤニヤしながらかがみに言った。



「手探りで一生懸命、晩ご飯を作ってくれてるかがみ萌え」
「…あんたね、ご飯抜きがいいわけ?
そ、それにただバイトが早めに終わったから作ってみようと思っただけだし、別にあんたのためじゃ…」





背にはあの本を隠したまま、口では強がりを見せるかがみの頬は赤い。
その仕草と言動は、私の“萌え”のストライクゾーンを見事射止めていたのは言うまでもない。



「いいえ、滅相もありません、かがみ様!」



ボルテージがMAXになった私が、かがみに飛びつくと
「ええいっ!火元のあるところで抱きつくなーっ!危ないし、暑苦しい!」と赤かった頬を余計に上気させていた。



こんなやり取りやスキンシップが成立し始めたのは、名前を思い出した後にかがみが徐々に変わっていってからのこと。
いや“変わった”のではなく、かがみ本来の人格が戻ってきた、が正しいのだろうか。



―― まぁ、どっちが正しいかなんて、過去のかがみを知らない私にはわからないけどね。



行動とは裏腹に冷めた思考は、目の前の鍋によって中断させられた。



「で、かがみん。」
「な、何よ?」
「鍋、そろそろ弱火にしたほうがいいと思うよ。」
「あっ!」



泡を吹き出し始めた鍋を指して言うと、かがみは急いで火を弱火にした。
記憶喪失のツンデレ属性。これが私の同居人。




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  • 結局、悪魔こなたに負けてるこなたに噴いたwww -- 名無しさん (2008-06-22 00:57:40)

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