あなたに食べてほしくて

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 私には、高校の数ある授業の中で、どうしても苦手な授業がある。
 言語だとか数式だとか、そういう勉学的なのは得意だし、体育だって人並みにはできる。
 でも、こればっかりはというものが必ず誰にでもあるだろう。

 ……短冊切りって何?

「かがみ人参切り終わった? ……って、何で銀杏切りなのさ」
「だ、だってどう切ればいいのか分かんなくて」
「教科書通りにすればいいんだよ。ほらこれ、薄い長方形の形だよ。名前の通り短冊の形」
「こ、こう?」
「あー違う違う」
 人参と包丁を持ち上げて人参に包丁を入れようとした私の手を掴んで、まな板まで戻させる。
 私を見上げるこなたの顔は、いつものにんまりに呆れがプラスされている感じだ。
「普通持ち上げないよ、流石かがみだね。勉強とかの理解力はあるのに、どうして料理となるとこんななんだろうね」
「う、うるさいわよ!」
「怒らない怒らない」
 誰のせいだ。
「私が教えてあげるからさ。ちょっとごめんよぉ」
「ちょ、こなた!?」
 こなたは私の後ろに回りこみ、私の両手を掴むようにして手を回してきた。
 必然的に密着した状態になる。

「んしょ……私小さいからこのくらいくっつかないと、とどかないね」
「な、何でくっつくのよ!!」
「だって、手を取って教えた方がかがみも集中して覚えられるでしょ? じゃあまず私が動かすから」
 余計集中できないっての!!
 そんな私の心の声などいざ知らず、こなたは私の手ごと包丁を動かす。
 こなたの暖かい手が私の手の甲に乗っている。加える力を変える度に、柔らかい掌の感触が伝わってきた。
 背中には、小さいけれど確かにそこにある女の子特有の膨らみが、ふにふにと押し付けられている。
 トクントクンと規則正しい心音が、背中を介して私に届いた。
 こなたが何か言っているけど、とてもじゃないが聞いている余裕はない。
 こなたと接している部分が、だんだん熱くなってきた。
 心臓が必要以上に脈打っている。ドキドキしてるのがこなたにばれてないか心配になってきた。
「……って感じで、自分でやってみて。大丈夫だよね? 私はあっち進めないといけないから」
「う、うん」
 そう言い残すと、コンロのところに戻っていくこなた。
 私はやっと解放された。
「はぁ」
 なんで私ばっかりドキドキしなくちゃいけないんだろう……なんかずるいよ。
 こなたの方を見ると、その手には鍋と菜箸が握られていた。
 つかさと会話しながら鍋を見るこなたは、なんだか優しい顔をしていた。
「こなた、料理する時あんな優しい顔になるんだ……」
 やっぱり食べてほしい相手のことを想いながら作ってるからなのかなぁ。
 将来こなたがお嫁さんになったら、あんなふうに旦那さんに料理を作ってあげるんだろうな……
 想像したら相手が憎らしくなってきたわ。意地でもこなたの隣は私が
「いたっ!!」
 持っていた包丁を反射的に床に落とす。カランと金属特有の音をたてた。
 余所見(+妄想)をしていたからだろう、間違って自分の人差し指を切ってしまった。
 深くはないけど、血が出ているのを見るとなぜかパニックになってしまう。
 ど、どうしよう。
「かがみ!? 指切っちゃったの!?」
「どど、どうしようこなたぁ」
 フライパンを操っていたこなたが、急いで駆け寄ってくる。
 隣のつかさもそれに続く。心なしか2人とも顔が青く見えた。
「わ、お姉ちゃん血がでてるよ!?」
「どうしよう、どうしよう!!」
「あーもう、2人とも落ち着きなって。全く、何でかがみは家庭科の時間だけどじっ子になるかなぁ」
「だ、だって!!」
「ほら、手貸して」
「う、うん」
 素直に右手を差し出すと、両手で掴んで少し眺めるように傷口を見ている。
 だんだん傷口の辺りが熱を帯びていることが分かった。
「傷はそんなに深くないみたい……あむ」
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
 突然、人差し指が温かいものに包まれた。こなたが指を咥えていた。


「ここここここ、こなた!? あんたなにやって!!」
「ん? ひょーどくだおひょーどく」
 消毒って……確かに唾液には殺菌作用もあるけど、別に水で洗い流せばいいだけなんじゃ。
 なんて思考は即効中断された。こなたの舌が、傷口をなぞってきたんだ。
「あぅあぅあぅ」
「ん……ちゅ、あむ」
 消毒だけにしては妙に念入りに指をしゃぶっているこなた。
 なんだか頬が染まっているようにも見える。
 こなたの柔らかい舌と唇とほっぺの内側が指に触れて、頭がおかしくなりそうだ。しかも耳からもチュパチュパ音が入ってくる。
 何よりそのビジュアル。大好きな人に指を舐めさせているみたいな背徳的映像に、全身の血が顔に集まったような錯覚を覚えた。
 何かに目覚めそうだ。やばい、これはいろんな意味でやばい。
 視線をこなたから外すと、少し離れたところでつかさとみゆきが指を咥えていた。
「……お姉ちゃんいいなぁ」
「……羨ましいですね」
 何がだ!!
 こっちはいろいろ我慢するのでいっぱいいっぱいだってのに!!



「「「いただきまーす」」」
「……」
 4人でテーブルに向かって、出来上がった料理を囲む。私はあの後、端っこで見学していたので、あんまり手伝えなかった。
 右手の人差し指を見つめる。その傷口にはこなた……間違った、猫がプリントされた絆創膏が貼られている。
 こなたが所持していたものだ。
 未だにそこが熱く感じるのは、たぶん傷が熱をもっているからじゃないんだと思う。
 左手で、ギュッと絆創膏を掴んだ。

「かがみ食べないの? ダイエット?」
「違うっての!!」
 向かい側のこなたに0.1秒で突っ込む。こなたが『おぉ~なんて鋭い突込みだ。吉本もびっくりだよ』などといっていたけど
 無視しておいた。取り敢えず私は、3種類の料理の中から目の前の皿に乗ったおひたしを口に運んだ。
 ほどよいしょっぱさが口の中に広がる。私好みの味付けだ。
「かがみ、おいしい? それ私が作ったんだ。ちょっと塩少なめにしたんだけど」
「あ、そうなんだ。私にはこのくらいが丁度いいわね」
「ふむ」
 それだけ言って、私はまたおひたしを口に含む。
 噛むたびに味が染み出る。やっぱりちゃんと家事やってるだけはあるのね……
 ふとそこで、未だにこなたが視線をこちらに送っているのが分かった。
 テーブルの上に乗り出すような体勢で、何かを期待した目をしている。
 ……あ、そっか。

「……おいしいよ、こなた」
「あ……えへへ」
 そう言ってあげると、少しだけ頬を紅潮させながら、擽ったそうに笑った。
 そんな顔されるとこっちも照れるんだけど。
「かがみを想いながら作ったかいがあったよ……」
「……え? 何? よく聞こえなかった」
「な、なんでもないよ」
 元の体勢に戻り、何やらメモ帳を取り出してペンを走らせ始めた。
 表紙には『かがみ』とか書いてある。なんで私の名前?
「こなた、何よそれ?」
「ん? かがみのことを書いてあるメモ帳だよ。えっと、基本は薄味っと」
「なんでそんなの書いてるのよ」
「そりゃあもちろん……」
「?」
「ううん、今は秘密」
 そう言ってウインクするこなた。メモ帳をしまって、料理をつつき始めた。
 メモ帳のことが気になって仕方がない。
「かがみ、はいあ~ん♪」
「ん? あ~ん、って!!」
 危うくナチュラルに受け入れるところだった。
「こ、こんなみんな見てるところでできるか!!」
「見てなかったらいいのですかい?」
「ぐっ……」
「恥ずかしがりやさんめぇ♪ 可愛いのぉ、可愛いのぉ♪」
「だぁああぁあああ!! 頭を撫でるな!!」
 なんだかこなたに振り回されっぱなしな気がするんだけど……
 でも、こなたが楽しそうだからいいか。なんて思っちゃう私は、こなたのことが本当に大好きなんだろうなぁ
 なんて……なんだか嬉しくなった。


「……ゆきちゃん。なんか夫婦がいるよ」
「つかささん……あ、あ~ん」
「ゆ、ゆきちゃん!?」


【 fin 】


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コメント:
  • ゆ…ゆきちゃん!? -- かがみんラブ (2012-09-26 00:02:45)
  • 調理するまでもなく既に甘いですねw -- 名無しさん (2009-04-12 23:34:59)
  • 最後ワロタwww -- 名無しさん (2009-04-06 03:49:15)
  • みwikiwww -- 名無しさん (2009-02-02 05:05:57)
  • ラブラブ夫婦はやっぱりよい(≧∇≦)
    GJ!! -- にゃあ (2008-12-02 04:04:40)
  • こなたに後ろから抱きつかれたいです…私も染まってきましたかね…(-_-;) -- 無垢無垢 (2008-12-01 21:19:37)

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