据え膳食わぬはオトメの恥

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「ただいまー」
 買い物から帰ってきたつかさが玄関を開けると、そこには家族の物とは違う、
見慣れない──けれども、どこかで見た覚えのあるような──靴が一足あった。

「誰か来ているのかな?」
 自分の部屋に戻ろうとすると、居間にいた上の姉から声がかかる。
「おかえり、つかさ。こなたちゃん、来てるよ」
「あ、こなちゃんかー」
 どおりで、見た覚えがあるはずだ。
「たぶんかがみの部屋にいるからー」
「うん、ありがとー」

 階段を上って、二人のところに行こう、としたところで、つかさはちょっとしたイタズラを思いついた。
(そおっと部屋に近づいて、いきなりドアを開けたら、二人ともビックリするかなぁ)
 二人の驚いた顔を想像すると、それはとても楽しそうに思えた。
 普通に歩くとギシギシと鳴る古い階段を、音をさせないように静かに進んでいく。
 抜き足、差し足、忍び足。抜き足、差し足、忍び足。

 いつもの倍以上の時間をかけて、階段を上りきると、つかさはかがみの部屋の入り口に近づいていく。
 そっとドアノブに手を伸ばしたとき、部屋の中から声が聞こえた。

『あっ』
 こなたの声だった。
 ただ驚いたような声とは違う様子だった。少し鼻にかかった、切なげで、
そして、甘さを含んだ──吐息。
『ご、ごめん、痛かった?』
 続いて聞こえてくる、双子の姉──かがみの声。
『うん、ちょっと……』
『悪い。わたし、こういうの初めてだから……』
『いいよ、続けて……』

 部屋の中からの声がとぎれる。つかさが耳をそばだてると、『あぁ……』という、こなたの
抑えきれずに漏れだした声がかすかに聞こえた。
『どう? こなた?』
『うん、きもちイイよ、かがみん。もっと……奥まで入れて』
(ど、どんだけ~)
 さすがにこの空気の中に入っていくことはできず、つかさは来たときと同じように足音を殺して自分の部屋に戻った。


「まったく……」

 かがみは、こなたを見下ろしてため息を吐いた。
 こなたは、正座したかがみの太ももの上に頭を乗せて、横になっていた。いわゆる
膝枕、という奴だ。

「高校生にもなって、自分で耳かきできないってのは、どうよ?」
「いや~、だって、自分で見えないのに、入れるのって怖くない? もし、勢いあまって
大事な膜を破っちゃったらどうしよう、って」
「いちいち変な言い方するな。鼓膜と言え、鼓膜と。だいたい、今まではどうしてたのよ?」
「ん? おとうさんにやってもらってるけど?」

 かがみは、こなたの父親がこなたに膝枕をして、耳かきをしているシーンを想像してみた。
 ……仲睦まじいはずのシーンなのだが、妙にムカツクのは何故だろう。
「あんたね……高校生にもなって、それは無いんじゃない?」
 再び、盛大なため息とともにかがみが呟く。
「でもね、膝枕って安心できるんだよ、ほんと。あったかくて、柔らかくって。それが
好きな人のならなおさら」
「えっ、ちょっと……」
 かがみの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「ほ、ほら、もう耳掃除終わったんだから。どきなさいよ」
 こなたは、そんなかがみの言葉には耳を貸さず、かがみの膝の上で体をひねって
真上を向いた。真下から見上げるかがみの顔が、こなたには新鮮に感じられた。
「ん~、もうちょっと、このまま~」

「ったく、しょうがないわね……」
 かがみは三たびため息を吐くと、そう言いながらこなたの髪に指を差し入れて
ゆっくりと梳き始めた。
 指の間を、こなたの長い髪がすり抜けていく感触が心地よい。こなたの髪の毛は太くて
硬くて、お世辞にもサラサラヘアーとは言いがたいのだけど、それがかえって
心地よさとなってかがみの指と手のひらを刺激していた。
 こなたも、満足げな様子で目を閉じて微笑んでいる。
「つかさが、うらやましいな」
 小さな声で、こなたが呟いた。
「なんで?」
「だって、かがみんにいっつもこうしてもらってるんでしょ?」
「ば、ばかっ。そんなことしてないわよ。そりゃ、小さい頃はお互いに髪を梳かしてたりしてたけど……」
「だからさ、そういうのが……でも、ま、いっか。今はかがみんがこうしてくれてるんだし」
 こなたが口を閉じると、再び、部屋に静寂が戻る。聞こえてくるのは、指の間を髪の毛が
通り抜けるかすかな音と、お互いの呼吸だけ。ほんの小さな出来事で壊れてしまいそうな時間。

 こんな時間がずっと続けばいいのに──。


 しばらくして、こなたが再び口を開いた。
「なんか、眠くなってきちゃったな……」
「ま~た、どうせ夜中じゅう、ネトゲでもしてたんでしょ。……いいわよ、寝ちゃっても」
「ん~、でも、このまま寝ちゃうと、かがみんに変なことされそうだしな~」
「変なことって、何よ?」
 自分が信用されていないことにちょっと傷つきながらも、かがみは続きを促した。
「キスとか」
「するかっ!」
 かがみは、こなたの肩の下に両手を入れると、そのままこなたの上体を起こした。
「はい、もう終わり。そろそろ外も暗くなってきたし。帰らなくちゃヤバイんじゃないの?」
「そか、もうそんな時間か……そうだね」
 こなたは立ち上がると、持ってきたカバンを手にとって、かがみの部屋のドアを開けた。
「駅まで送っていこうか?」
 かがみの提案を、こなたは首を横に振って辞退した。そして一言だけ呟くと、ドアを閉めて
静かに階段を下りていった。
「かがみの、ヘタレ」



  • fin -

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  • なんだつかさの勘違い! -- かがみんラブ (2012-09-25 23:44:23)

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