磁石の両端

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 顔を上げる。
 目の前は机で、その上には問題集とノート。三日後からは中間テストがあり、今は
そのための勉強をしている。

 でも……。
 はぁ、と溜息を一つ。ノートの上にシャーペンを転がして、大きく伸びをする。

 時計を見ると八時半で、勉強を始めてからまだ一時間くらいしか経っていなかった。
 最近遅くまで勉強してるから眠いし、今日はあまりやる気が出てこない。
 集中しないといけないのは分かってるんだけど、どうしても別のことが頭に浮かんでくる。

 今日の放課後のこと。何度でも、蘇ってくる。

 はっきりと、正確に。



「かがみ~、勉強教えて~」

 放課後になった途端、教室にこなたが入ってきた。
 こなたは半ば泣きそうな顔で、私のところにふらふらと寄ってくる。表情を見るからに、
本当に絶望の淵に立たされているようだ。

 でも、クラスも違うのに、なんで私なんだろ。

「別に私じゃなくても、みゆきに教えてもらえばいいじゃない。
 クラスも一緒なんだし、みゆきの方が頭いいんだし」

するとこなたは肩を落としてから、首を左右に振って、

「いや~、みゆきさんはテスト勉強で忙しいからね。頼みづらいというか、迷惑な気がして……。
 その点かがみなら私も気が楽なんだよね」


「ふーん。それはつまり、私が勉強してないって言いたいわけ?」

 腰に手を当てて、威圧するように。

「いや、その、なんというか……イメージ?」

 ……どういう意味だそれは。
 確かにみゆきは一生懸命勉強してるようなイメージがあるけど。

 私だって、私だって……。

「私だって、ちゃんとテスト勉強してるのよ。あんたに勉強教えてあげるほど暇じゃないわ。
他の人に頼みなさいよ」
「え?」


 こなたの表情が一気に曇るのを視界の端にとらえつつ、ふんと鼻を鳴らして顔を逸らす。
 心外だった。努力をけなされたような感じだった。

「あ~ん、ごめんなさい、かがみ様~。私を見捨てないでー」
 視界の隅に映るこなたは、しばらくこっちを見てから、今にも泣きそうな顔で
私にしがみついてきた。

 え? え? どういうこと?
 予期せぬことに、頭が混乱してくる。
 こなたが、私に……。

 ようやく現状が分かってくる。
 少しずつ、柔らかさが伝わってくる。
 それから、こちらへと注がれる周囲の視線に気付いた。

「ちょ、ちょっとやめてよ。皆見てるじゃない」

こなたを引き剥がそうとするけど、こなたは上目遣いで、

「教えてくれないの?」

……うわ。

 なんでそんな表情で、そんなことを言うのよ。
 哀しそうな目で、怯えた小動物のような姿勢で、心に訴えかけてくるような声で。
 もう、こんなの見たら、断れるわけないじゃない。

「……わ、分かったわよ。教えてあげるから」
「本当? ありがとうかがみ~。やっぱり持つべきものは親友だね」

 親友……か。
 なんでだろう。その言葉が何故か頭に引っかかる。私とこなたは親友で、だから何も
おかしくはないんだけど……。

 そして今にも跳びはねんばかりの笑顔で、こなたは目を輝かせて言った。

「じゃ、ここでやるのもあれだから、図書室に行こうよ」


 隣同士の椅子に並んで座る。私が右側で、こなたが左側。私は左利きだしね。

「それで、何を教えてもらいたいの?」

 思い返すと、元々忙しくて教える暇はないなんて言ってたのに、結局教えることに
なってしまっている。
 本当に私もテスト勉強しておきたいんだけど、こなたの為だもの。仕方ないよね。
 親友の頼みを断って、自分だけ勉強して、それで成績が良くても嬉しくないし。


「数学だよー。最近授業中眠くて、気がついたら全然知らないところをやってたんだよね」

 そう言って、頭を掻きながら照れ笑いを浮かべる。
 ほんとに分かんないのかと思ってたら、聞いてないだけだったのか……。
 私は大げさに溜め息をついて、チクリと一刺しする。

「それはアンタの自滅でしょ。やっぱり自分で何とかしたら?」
「えー!?」

 微笑の表情が一気に愕然としたものになる。
「お願いだから教えてよー。今度からはちゃんと授業聞くからー。テスト切り抜けたら
ケーキとか奢ってあげるしさー」

 しきりに私の腕を掴んで揺さぶってくる。

 それは親におねだりをする幼子のようで、断ることに罪悪感みたいなものを覚える。元々
断るつもりなんてないんだけど。

 ただ、こうやってこなたの反応を見てるのが楽しいというか、子供みたいで、動作の
一つ一つが本当に可愛い。

 でも、これ以上するのはさすがに可哀想かな。

「あー、分かった分かった。でも、今回だけだからね」

自然と顔は笑みになる。

「おー、さすがかがみん。心の、友よ~」

 今度は嬉しさに満ち溢れた表情で、私に抱きついてくる。
 こんなところで、恥ずかしいわよ。
 再び刺さってくる、周りからの視線が痛い。

 でも、何なんだろうこれ。全身がきーんと震える感じがする。ちょっとだけ、気持ちが
いいような、変な気分。

 ……こなたは抱きついたらどんな感じなんだろ。やっぱり、柔らかくて温かいのかな。
 でも、背も体つきも私の方が大きいから、不釣り合いかもね。私には似合わないかな。

 それに、心の友……か。
 やっと私にも言ってくれたね。あの時はネタだっていうのは分かってたけど、結構
哀しかったのよ。

 でも、今の私はその言葉を求めていたのかな。
 ほんの一瞬、お腹がギュッと痛んだ。

「ほらほら、時間もないんだし、早く始めるわよ」

 ……とにかく、このままでいるわけにはいかないから、そっとこなたを椅子の上に戻す。


 こなたは不満そうな顔だけど、渋々とカバンから教科書とノートを取り出した。
 ページを開いて、私の前に置く。

「こっからなんだよー。ほら、この問題とか意味分かんないし、この公式も
何がなんだか分かんないし……」
「ああ、これね」

 私はシャーペンを出して、左手に握る。こなたはノートを開いて教科書の横に置く。
 ここは授業を聞いていても難しいと思ったところだ。それなのに寝ていたんじゃ、
いくらこなたでも分からないだろう。
 ……教えてあげないとな。

「これはね、例えば……」

 ノートに自分なりの解説を書いていく。
 こなたは口をへの字に曲げて、いつになく真剣な眼差しで、ノートを、私が綴っていく
数式を見つめている。

 書いて、口で説明する度に、こなたはふーんとか、へ~とか、なるほど~とか、
いろんな感想を、いろんな表情で呟く。
 驚いたような顔。納得したような顔。理解できて嬉しそうな顔。その全てが、とてつもなく……。

 私が、分かった? とか、分かる? って聞くと、うん、と元気な、そして嬉しそうな声で
頷く。私の目を見て、大きな動作で。
 そんなに大げさに返答されると、私もなんだか嬉しくて、くすぐったい。こなたに
勉強を教えているだけなのに、それだけで不思議と楽しくなってくる。

 とりあえず解き方の説明は一通り終わらせたし、こなたも分かってくれた感じだ。

「じゃ、ちょっとこの問題解いてみて」
「うん」

 教科書に載っている練習問題。これが自分の力で解ければ、この範囲は理解できたことに
なるだろう。
 教科書にノート、シャーペンを渡すと、こなたはシャーペンを握って問題に取り掛かる。

 あー、そんな顔をものすごくノートに近づけてちゃ、目が悪くなるわよ。
 でも集中してるみたいだし、声かけるべきじゃないかな。

 こなたは数式を書いてはシャーペンを止め、むーっとうなってから、また書き始める。
 どんどん座る位置が椅子の奥の方になり、机に顎が当たるくらいに体が傾いていく。

 机の端にちょこんとかけた右手。制服の上からでも分かるほどほっそりとした体。
 もっと自己主張してもいいのにと思うほど控えめな胸。
 スカートから伸びる、すらっとしていて、弾力のありそうな脚。
 緩やかな背中をさらさらと流れる、青色の煌くような髪。
 ぽこんと飛び出したアホ毛と、綺麗な曲線を描いてノートへと垂れる、織糸のような前髪。
 しだる青の合間から見える頬は、焼きたてのパンのようにふっくらしていて、つきたての
おもちのように柔らかそうな肌色で、そのすぐ横には、猫の口のようにくるりんと丸まって、
ぷにっとしていそうな、唇がある。

 ――こなたの唇って、どんな味がする

「わぁぁぁぁ!」

 慌てて机を叩いて立ち上がる。机は机でも、私の部屋のものだ。

 ようやく我に返って、現実世界に戻って、
 ……なんで私はこなたのことばかり見ていたんだろ。
 なんで私はこなたのことばかり考えているんだろ。

 時計を見ると、どういうわけか九時を過ぎていた。今日の時計は絶好調らしい。
 落ち着いてきたから、また椅子に座りなおす。

 なんでかな。こなたのことが頭から離れない。
 勉強しようとしても、頭に浮かぶのはこなたの姿。

 あの目と鼻と頬と耳と髪と首と胸と腕と手と指と腰と脚と、それから、唇。
 それははっきりと私の瞼の裏に焼きついたイメージ。もちろん動くし、喋る。

 そしてそのこなたは言葉を紡ぐ。私が求めている台詞を、赤らめた顔で無理矢理作った
ぎこちない笑顔で、私を見つめて。

「かがみ……、あのね。私、かがみのことが……だいs」
「うわぁぁぁぁ!」

 頭を抱えて、机に肘を突き、手で髪を掻きむしる。
 わ、わ、私、何考えてるの?
 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。……とりあえず、そうだ、勉強。勉強しないと。

 ノートに転がしたシャーペンを拾うと、数学の問題集のページをめくって
問題を解いていく。

 ……そういえば、こなたもこのシャーペンを使ったのよね。

 そっと、両手で握り締めてみる。
 こなた……。

 私にとって、こなたは何なんだろう。
 友達、いや、親友……なのかな。
 でも、私はあの時、こなたの言葉を、どう感じたんだろう。
 親友、心の友。それは結局、友人という枠を超えてない。
 だけど、私たちは女同士だし、友人じゃなかったら、何だっていうのよ。

 あー何やってんだろ、私。ちょっと頭を冷やそう。

 椅子から立ち上がって、ベッドにうつ伏せに倒れこむ。

 ――こなたは教科書の問題も無事に解き終えた。
 やっぱり理解力は高いのよね。一夜漬けだけである程度点は取れてるし。

 そして図書室を出る間際、振り返って、私を少し見上げるようにして、

「ありがと、かがみ。やっぱりかがみは優しいね~」

 面と向かって言われて恥ずかしかったけど、嬉しかったな。

 それから、二人で並んで帰った。途中色んな話をしたけど、あんまり覚えてない。
 あの時は、一緒に帰れるってだけで、幸せだったから……。

 ――こなたは今何してるんだろ。
 ゲーム……はないか。いくらこなたでも、さすがに今日は勉強してるわよね。

 ……ちょっと電話してみようかな。また分からなくて困ってるところが
あるかもしれないし、それなら私が教えてあげないといけないから。
 これは、こなたの為なんだから。

 携帯を手にとって、電話をかける。
 コール音が耳に鳴り響く。一回、二回、三回、

「もしもし、かがみー?」

ノイズがして、それからこなたの声が聞こえた。

「あ、こ、こなた?」
「どうしたの、そんなに慌てて。何か急用でもあるの」
「え、えと、さっきまで何してた?」

 あれ? なんでこんなに緊張してるんだろ。何を焦ってるんだ私は。
 吐息の音が漏れないように、携帯から離れたところで深呼吸をする。
 ……少しは落ち着いてきたかな。


 そんな私とは対照的に、こなたはあくまでゆったりとした声で答える。
「勉強してたんだよ。そろそろやっておかないと、大変なことになるからね」

 やっぱりなー。

「どう? 今日教えてあげたところはちゃんと分かった?」

 電話口から元気な返事が聞こえる。

「うん。ばっちりだよ! これもかがみのおかげだね~」

 言うなら今だ。それで――

「え~……それで、他にも分かんないところとかあったりする?」

 もしあるって言ったら、明日こなたの家にでも行ってみっちり教えてあげないとな。
 私も勉強しないといけないけど、それもこなたの家で、こなたと一緒にやればいいか。これなら
いつでもこなたに分からないところを教えてあげられるしね。

 そう。これはこなたの為なんだから。こなたが勉強の内容を理解できるように、私が
教えてあげないといけないから。

「う~ん、別にないよー。分かんないのあれだけだったし。後は自分で出来るよ」

こなたの、機械を通して少し変わった声が耳に届く。
え……。

「そ、そう、なんだ」

 それは、良かった……のかな。珍しく、頑張ってるみたいだし。
 でも。こなたが自力でやれるって言ったんだから、嬉しいはずなのに、どうして私の心は
こんなにも暗くて寒くなってるんだろ。
 ぽっかりと開いた穴から、色んなものが零れ落ちていくような感覚。

 それに、自分で出来るってことは……一緒に勉強する必要もないってこと。
 お腹の奥から、零れ落ちたものが混じった息を吐く。全身から力も緊張も期待も、
全てが抜けていく。

 だけどこなたは私のことを気にする素振りもなく、話を続ける。

「うん。今日もかがみに時間を割いて勉強教えてもらったし、もうこれ以上迷惑かけるわけには
いかないからね。明日からは私のことなんて気にしないで、勉強頑張ってね」

 そうじゃなくて……。どうして、分かってくれないの?

「ねぇ、こなた」
「ん、何?」

 一息。これを聞いてどうなるってわけじゃないけど、

「勉強には、集中できてるの?」

 こなたは声のトーンを上げて、

「もちろんだよ。今までで一番の集中力かもね」
「そう、なんだ……」

 やっぱり私みたいにはなってないよね。当たり前、か。


「それで、用事って何?」
「え?」

 どういう意味だろ。……あ、そうか。

 こなたは、これを用事の前の雑談くらいにしか思ってないんだ。

「……な、なんでも、ないわよ」
「そう?」

沈黙。数秒か、或いは数十秒か。無言の時間が続く。

「ほんとに?」
「ほんとだって! ちょっとこなたの声が聞きたかっただけよ」

 あっ、しまった。

「へ~、私の声が聞きたかったの~?」
「え、いや、違うわよ!」

 こなたのニヤニヤした小悪魔のような顔が頭に浮かぶ。
 思わず本心が漏れ……本心?

「かがみんは可愛いなあ。わざわざその為に電話してくれたの?」
「だ、だからそんなんじゃないって……」

 恥ずかしくて、別に見られてるわけじゃないのに、布団に顔をうずめる。

「じゃあ、用事は何?」
「それは……」

 言葉に詰まった。でも、さっきのことが本心じゃないって言うのは言い切れる。
 本当は……。

「や、やっぱりなんでもない!」
「ふーん」

 こなたは急に声のトーンを落とした。
 また、少しの沈黙。

「用事がないなら、もう切るよ? 今まで勉強してたし、今日は色々と忙しいからね」
「え……」

 突き放すような台詞。見えないけど、多分真顔で言ったんだろう。
 そうか。私は、私は……。

「うん……。ごめんね、勉強の邪魔して。じゃぁ、またね」

 通話を切って携帯を放り出し、布団の中に上半身をねじ込む。

 私は、こなたの邪魔をしてたんだ……。勉強を教えてあげるなんて大義名分を掲げて、
結局こなたに迷惑をかけてただけ。
 自分のことしか考えてなくて、こなたの都合なんて無視してたんだ。

 ごめんね、こなた。



 変だってことは自分でも分かってる。だけど、どうしても抑えきれない何かが私の中にある。

 何でだろう。なんで私、こんなにこなたに会いたいんだろう。
 それは――

 横になっていると、徐々に睡魔が襲ってくる。
 もう何も考えたくなくて、眠気に身を委ねた途端に、意識はすぐなくなった。

 どれくらい経っただろう。何処かに飛ばしていた意識が戻ってきた。
 何時だろうとか、勉強しなきゃとか、そんな思いが駆け巡る中、目を開ける。

「え?」

 目の前に、こなたがいた。

 まだ、夢を見ているの?

「おはよう、かがみ」

 こなたはベッドのふちに両手をかけ、私のほうをじっと見つめていた。

「こなた……? なんでここにいるのよ」

 これは現実のはず。なのに、どうして、どうして会いたかった人が、目の前にいるの?

「いや~、かがみが私に会いたくて、恋しそうにしてたからね。ちょっと会いに来たんだよ」

 何で分かったんだろう。私の、小さな願望が。

「かがみは嘘が下手だからね。話してるだけで、大体分かるんだよ」

 こなたは寝た姿勢のままの私と同じ目線で、ニヤニヤと小悪魔のような表情を浮かべた。

「それにしても、携帯放り出して上半身だけ布団に入れて寝ちゃってるなんて、私の態度が
相当ショックだったんだね~」

 こなたは膝立ちになって、うつ伏せの私よりも背を高くして、

「私の言葉一つで落ち込んじゃうなんて、かがみんは可愛いなあ」

 見下ろされながら、思いっきり頭を撫でられた。

「な、や、やめてってば」

 布団に隠れようとして、その布団がないことに気づいた。

「ふっふっふっ、かがみが潜り込んでた布団なら、こっちにあるよ~」

 こなたが自分の足元を指差す。

「布団が邪魔でかがみの寝顔が見えなかったから、ひん剥いちゃったんだよね」

……ということは。

「もちろんかがみの寝顔はばっちり観察させてもらったよ。やっぱり何度見ても可愛いねー」

 今度は両手で髪を弄られたり、頬をつねられたり、色々と弄ばれる。

「や、恥ずかしいから、やめてよ……」

 恥ずかしいし、やめて欲しいけど、何故だか立ち上がる気にはなれなかった。
 じっとベッドに伏せたまま、こなたの成すがままにされる。

「う~ん、愛い奴め、愛い奴め」

 こうやって撫でられていると、なんだか気持ちがいいって言うか、幸せな気分になってくる。
 やっぱりこなたに気にかけてもらいたいし……触れ合っていたい。だけど。
 ツインテールを左右に広げられながら、ベッドを見つめながら、呟くように疑問を尋ねてみる。

「どうして、来てくれたの。こんな遅くに……」

 こなたは一度私から離れて、少し静まった口調になった。

「それはね……、今日のお礼だよ。かがみも勉強しなくちゃいけなかったはずなのに、わざわざ
私に教えてくれたから。まあ、教わってる間ずっと、凄い視線を感じてたんだけどね~」

「し、知ってたの?」
「当たり前じゃない。私のことをじーっと見つめてるんだもん。誰だって気づくよ」
「う……」

まさか、あれがこなたにばれてるなんて。言い訳のしようもないじゃない。

「私のことがそんなに気になるのー?」

 頬を指で何度もつつかれる。
 もうどうにでもしてくれと、こなたの手の動きに全てを委ねた。

 だけど、こなたはすぐに手をベッドのふちに戻して口を開く。

「でも、私が恋しくて勉強にも集中できなくなるなんて、かがみも一途だね~」
「そ、それは……」
「違うの?」

 答えられない。多分、こなたの言う通りだから。
 こなたは私の無言を返事と受け取ったのか、言葉を続けた。

「かがみは、待てが出来ないんだね」

 待て?
「……え、どういうこと」

 いきなり変なことを言われて、思わず聞き返した。
 こなたの言いたいことが分からない。待てが出来ないって私は犬か。

「だから、かがみはテストが終わるまでお預けされるのが耐え切れないんだよね」
「……ちょっとこなた、何のこと言ってるのよ」

 テスト後に何かあったっけ? 思い出してみるけど、何も浮かんでこない。
 確かにテストが終わるまで極力娯楽は我慢してるけど、そんなことじゃないだろうし。

「え? も、もしかして、覚えてくれてないの? かがみなのに」

 こなたは目を丸くして、信じられないと言いたげな顔になった。

「覚えてないって、何が?」
「い、いや、覚えてないなら、いいよ……」

 こなたは急に顔を赤く染めて、俯いてしまった。どうしたんだろう。

「何よそれ。気になるじゃない。ちゃんと言ってよ」
「な、なんでもないって。気にしないでよ」

 顔を上げて、大げさに手と首を振る動作がますます怪しい。
 問い詰めてやろうと、そう思ってベッドの上で膝立ちになる。

 こなたの目の前まで行って、有無を言わさぬ口調で真意をただす。

「あんた何隠してるのよ。ちゃんと白状しなさい」
「そ、そんな大したことじゃないから……」

 こなたは指で頬を触りながら顔を反らして、私と目を合わそうとしない。
 それを見ていると、何故だか顔が綻んでくる。

「こなた。白状しないと、もう絶対に勉強教えてあげないわよ」
「え、そんな……」

 こなたは数時間前と同じような、今にも泣きそうな、愕然とした顔になった。
 あ~、可愛すぎる。

「あ~あ、誰かさんに勉強教えてて自分の勉強が出来なかったから、今度の中間は
成績が落ちちゃうかもね~」
「う……。わ、分かったよ、言うってば」

 やった。不思議な優越感に浸って、こなたを見下ろす。

 こなたは紅潮させた顔をほとんど真下に向けて、囁くようなか細い声で、
「えっとね、ホントに覚えてないの? 『テストが終わったらケーキ奢ってあげる』
って言ったの……」

 あ、そういえば……。
 口実だと思って適当に聞き流してたけど、確かにそんなことを言っていた。

 頭部しか見えないこなたが、一段と小さく見える。アホ毛も心なしか
しおれているような気がする。

「そ、それで、かがみのことだから覚えてくれてると思ってて……。だから、私は
勉強やっててちゃんと切り替えが出来てるのに、かがみは、その、えと、多分
待ちきれないんだろうなって……」

 髪の毛しか見えないから、しゃがんで下から覗き込む。
 こなたは上気して真っ赤になった顔で、目をしばたたかせていた。でも、私と目が合うと
一度潤んだ目を大きく見開いて、わ、と言って斜め上の方に顔を向ける。
 何故だか楽しくて、そして嬉しい。

「ふ~ん。つまりこなたは、テストが終わったら私とケーキを食べに行くって、
約束したと思ってたんだ~」
「う、うぅぅ……。そ、そうだよぉ」
「へ~。……あんたも結構可愛いとこあるじゃない」

 さっきのお返しとばかりに、こなたの方を意地悪くつっついてみる。
 ぷにぷにとした触感が心地いい。

「や、やめてよかがみ~」

 こなたが悲痛な叫びをあげるけど無視。
 今度は頬を引っ張ってみると、おもちみたいにむにゅーっと伸びた。

「本当は、恋しがってたのはこなたの方じゃないの?」

 こんな時間に私の家に来てくれるなんて。
 ……もちろん嬉しかったけどね。

「う~、かがみ様~」
「えっ、ちょ」

 こなたがいきなりベッドに乗り上がって、四つん這いになっていた私に飛びついてきた。
 そのままに後ろに倒され、ベッドに仰向けになる。

「い、いきなり何するのよ」

 密着するほど近くに、こなたがいる。しかも、ベッドの上で。
 胸が本当にドキドキと脈打っている。体の芯が痺れてくるような感じ。

「うにゅぅぅ、かがみはあったかいなぁ~」

 私の腕に頬を摺り寄せてじゃれ付いてくる。
 身長差もあるし、こうやって見てるとほんとに小動物みたいだ。
 体が熱を持ち始めるのが分かる。頭がぼーっとして、しばらく仔猫のように
私にくっついてくるこなたを見つめていた。

「でもね、かがみ」

ふと、顔を上げてこちらを見たこなたと、目が合った。

「恋しがってるのは、かがみもでしょ?」

「それは……」

 やっぱり、こなたの言ってた通り、そうなんだろうか。無意識のうちに、こなたを
求めるようになっていたんだろうか。
 いつの間にか、勉強してる時もこなたのことが頭から離れなくなっていた。
 気がついたら、こなたのことをぼんやり眺めていることもある。親友って言葉が
心に引っかかったり、こなたの傍にいると変な気分になったり。
 多分、私は……。


 こなたはどうなんだろう。
 親友って言ってたけど、本当に、私たちは親友だって思ってるんだろうか。
 今、私の腕の中でもぞもぞ動いているこなた。

「ねえ、こなた。私たちって、何なのかしらね」

 そっと、こなたに聞いてみる。

「え?」

 こなたは目を瞑ってしばらく悩んでから、少し笑って、

「何なんだろうね」
「親友?」
「う~ん、そんなんじゃないと思うな」
「じゃあ、何?」
「そんなこと急に言われても、分かんないよー」

 お手上げという風に両手を広げる。

 だから、体を横に曲げて、こなたと向き合うような姿勢になって、逆の腕で抱きとめた。

「ほんとは分かってるんじゃないの」
「う……」

 こなたははっとした顔でこっちを向いた。その頬は、僅かに朱になっている気がする。

「そ、それはかがみも同じでしょ」
「え?」

 思いもよらない振りに、思わず声を上げてしまう。

 同じってことは、私の気持ちイコールこなたの気持ちってこと?
 だったら、この感情を、こなたも持ってるのよね。
 私と、一緒の思いを……。私がこなたに対して抱いてる気持ちと、同じものを。

「ねぇ、かがみ。覚えてなかったんなら、もう一回言うよ」

こなたは熱を持った小さな身体を精一杯丸めて、私の両腕の中に全身を入れるようにして、

「テストが終わったら、一緒にケーキ食べたり、遊びに行ったりしよう」

 上気した顔で、はにかんだ笑みで。
 だから私も、それに応える。

「いいわよ。……それなら、テスト勉強頑張らないとね」
「うん。……でもね」

 私の胸に顔をうずめてくる。
 くすぐったいけど、じゃれつくこなたが可愛いし、気持ちがいい。
 そしてくぐもった声で、

「まだ、今日は、終わってないから」


 今日? どういうことだろうと考えて、ようやく電話でのこなたの台詞が蘇ってきた。
 こなたは振り向いて、時計を見つめる。私もその視線を追う。
 いつの間にか、もう十一時になっていた。

「ほら、後一時間くらいしかないけど、それまでは一緒にいられるよ」
「そう、ね……」

 明日になったら、さすがに勉強しないといけないな。
 その先には、こなたとの約束もあるし。気合入れて頑張らないと。
 だけど、まだ今日は続いているから……。

 もやもやした気持ちで勉強したって集中できないし、一方通行じゃないはずだし、
声にしてみよう。

「こ」
「かがみ……、あのね。私……」

 私が口を開くより早く、不意に両腕が首に回された。
 それからこなたは私の顔の方に身体全体で近づいて、私の耳元で、頭の中で何度も
何度も再生していたのと、同じ台詞を囁いた。


だから私も、何度も何度も頭の中で紡いだ言葉で応える。


大好きな人へ。



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コメント:
  • ラブ×2ですのぉ -- 名無しさん (2010-08-13 14:15:33)
  • いやいや素晴らしいイチャイチャを披露してくれましたなぁwwwもう読みながら悶え狂っちゃうよ!! -- 名無し (2010-08-10 01:56:42)
  • あああああああああああ、もうベッドの上でイチャイチャしる様が甘くてたまらないよw恋の成就の瞬間の甘い一時ってたまらないよねw -- 名無しさん (2008-08-22 00:08:01)
  • 甘いよう(゜∀゜)甘すぎるよう(/∀`) -- 名無しさん (2007-11-15 02:03:48)
  • かがみんかわええ -- (*´д`*) (2007-11-16 01:23:08)
  • この曖昧な距離がたまんねえ!曖昧を崩すラストも見事なお手前でしたっ! -- 名無しさん (2007-11-20 02:15:01)

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