例えばドミノが倒れるように

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こなたがみゆきに告白した日から、私はこなたを避けるようになっていた。
好きな人と一緒にいるせいか、いつもよりも上機嫌なこなたを見てるのが辛くて。友人二人が
付き合うようになったんだから、祝福しなきゃと思っているのにそれができない。

(…こんな私を知られたら嫌われちゃうよね…)


クリスマスまで後一週間だというのに、私の心はどんよりと曇ったままだった。
控え目に部屋のドアがノックされてつかさが顔を覗かせる。
「…お姉ちゃん、買い物しに行かない?」

この前からふさぎ込んでいる私に気を遣ってくれているんだろうか。
でも、良い考えかも。気分転換に外でも歩こう。
そうすればこのどろどろした感情も少しはすっきりするかもしれない。
「ん。支度するからちょっと待ってて?」


「…で、何買うつもりなの?」
「え?…あ、えーと…実はなんにも考えてなくて…。…あ! でもほら飾り付けとかキレイだし!」
 やっぱり私のことを考えてくれていたんだ。そう思うと自然に笑みがこぼれて来る。
まったく、優しいんだからこの子は…。
「そうね。じゃあ、大通りの方に行ってみよっか」
「うん!!」
街路樹や店の看板には色とりどりのライトがつけられていて今はそうでもないけれど、
夜になれば息を呑むぐらい綺麗になるに違いない。
「うーん…夕方とかに来ればよかったかも」
「そうだねー」
取り留めのない会話をしながら歩いていると、急につかさが足を止めた。
「あ、あれ…こなちゃんとゆきちゃん?」
「……え」
「なんだか最近仲良いよねー」
つかさの見ている方に私も目を向ける。車道を挟んで反対側、そこには今一番会いたくない
人物――こなたの姿があった。隣には当然のようにみゆきが居て、二人で幸せそうに笑っている。
嫌だ。止めて。見たくない。
治まりかけていた醜い感情が一気に吹き出しそうになって私は胸を押さえた。
「…ごめん、つかさ。私先に帰ってるね」
「え?お姉ちゃん!?」
つかさの顔も見ずに私は元来た道を早足で歩き始めていた。

家に着いてから、コートも脱がすにベッドに倒れ込む。
少ししてつかさも帰って来て、何度か私の部屋を訪ねようとしたけど寝たふりを決め込んだ。
ごめん、つかさ。ただ、今は誰とも顔を合わせたくないの。

部屋にこもったまま半日近くをぼんやりとベッドの上で過ごし、夕食も摂らずパジャマにだけ
着替えてから寝ることにした。
明日なんて、来なければいいのに。



私の祈りも虚しく、いつもと同じように朝はやって来て。昨日入れなかったお風呂に浸かりながら、
どうやって今日一日を乗り切るか、それだけを考えていた。
今日は終業式だから、午前中だけ何とかすれば後は来年まで、会わずにすむかな。会わないからって
私の想いがどうなるも思えないんだけど、ね。
ぶるり、と思考を中断させるように頭を振って私は湯舟から出ることにした。


バスの時間をずらす為、意図的に早めに家を出て学校へと向かう。
気が重いなあ…。


終業式も終わり、漸く放課後がやって来た。
無事に、というわけじゃないけど今日はまだ一度もあいつの顔を見ていない。
学校指定のダッフルコートを来て、帰り支度が完了する。
後は家に帰ってしまいすればー…。
「かーがみーん!」
人生はそう上手くはいかないものらしい。
幻聴であって欲しいと願ったけれど、振り向くと声の主であるこなたがしっかりと居て。
「な…なによ…」
「え、とかがみ。時間、あるかな?」
「…ここじゃ駄目なの?」
「うん、ちょっと来て欲しいんだ」

なんだろう、こなたのここでは言えない話って。
ああ、もしかしたら付き合うことになったって報告かも。
そう言われたら私は――言ってあげなきゃ。おめでとう、よかったねって。
「…わかった…」
悲鳴をあげている心を押し殺して、私はこなたの後に付いて行った。


数分後、私は判決を言い渡される直前の容疑者みたいな心境でこなたが何か言うのを待っていた。
「ね、かがみ。25日なんだけど…予定、ある?」
「………え?」
何でそんなこと、私に聞くんだろう。
あんたにはみゆきが居るじゃない。

なんで、なんで、なんで。その言葉だけが私の心に渦巻いて、とうとう抑えていたものが爆発した。
自分で何を言っているのか解らない。感情のままに叫んだ後気付いたら、走り出していた。
教室に戻って鞄を引っつかむと、後ろを振り向くこともせず。涙が顔から熱を奪っていって、
体も、それから心も冷えていった。



☆☆☆



恋をすると人は変わるものだ、と聞いていた。
おしゃれに気を遣ってみたり、普段は読み飛ばしてる雑誌の占いコーナーの恋愛運に
一喜一憂してみたり。

私――泉こなたも例に洩れずそんな一人らしい。
今まで全くと言っていい程服装なんて気にしていなかったけど、もう少し何とかしてみようかな、
なんて思って買って来たファッション雑誌をめくる。
 一応私も女の子だったんだなあと他人事のように思う。

 あれから三日。
 人を好きになると世界もまた、これまでとは違って見えるみたいで。すべてが砂糖菓子のように甘く、
きらきら光っていた。

 だから、私は解らなかった。いや、気付いていたとしてもその時の私にはどうすることも
出来なかっただろう。
 あの日からかがみが私を避けていることを。


 はあ、と吐いた息が白い。いくらここが関東で、北海道とかよりはあったかいって言ったって
12月も半ばともなればその寒さは身に染みる。雑誌を読み耽っていたせいで、待ち合わせの時間に
遅れてしまいそうだ。
(待たせたら悪いよね)
 少し歩くスピードを上げて私は目的地へと急いだ。


「ごめん!待たせちゃった?」
「いえいえ。私も今来た所ですよ」
 恋人のような会話を交わしながら、私とみゆきさんは肩を並べて歩き始めた。

 今日はみゆきさんとショッピング。本当はかがみと一緒に遊びたいなー、とか思っていたけど、
こればっかりはそうもいかない。
 なんで私がみゆきさんとデートみたいなことをしているかというと、時は昨日に遡る。


「…え、クリスマスプレゼント?」
 みゆきさんからの電話で明日、クリスマスプレゼントを買いに行かないかと誘われた。
 単語の意味は解っていたけど、何となく聞き返してしまう。
「ええ、…その、来週私も…つかささんにプレゼントを贈りたいんですが、他の人の意見も
聞いてみたいですし…どうでしょうか?」

 ふむ。もうそんな時期か。全くそーいうイベントに興味がないから忘れてた。
 あー、でもバイト先のコスプレ衣装にそんなのあったかも。最近はそれどころじゃなかったからなあ…。

 …うん、私もかがみにプレゼントしたいかも。
 …かも、じゃないや。贈り物をして喜んで貰いたい。嬉しそうな顔が見たい。幸いにも、
バイト代のおかげで財布は潤ってるし。
「行く!じゃあ明日、お昼食べたら―…」

 そうして、今に至る訳で。チカチカと昼間だというのに光っているイルミネーションと、
どこからか流れてくるジングルベルがクリスマスなんだな、ということを実感させる。
「みゆきさんは何をあげるつもりなの?」
「お恥ずかしながら、まだなにも決めていなくて…泉さんはどうですか?」
「んー…実は私も。色々候補はあるんだけど、実際に見てから決めようと思って」
 好きな人のことを考えるのはすごく楽しい。自然と顔がほころんでしまう。
 それはみゆきさんも同じみたいで、幸せそうに微笑んでいて。二人で笑いあいながら、
私たちは歩き続けた。


 デパートに入って一階から順番にまわって行く。店内も緑と赤のツートンカラーで、家族に、
あるいは恋人に贈るためのプレゼントが所狭しと並べられていて目移りしそう。
「これとこれ、どちらがいいでしょうか?」
「んーこっちの方がつかさっぽいかも」
「それでは、こちらにさせて頂きますね。泉さんは決まりましたか?」
「うん。これにしようと思って」

 私が選んだのは淡いピンクのマフラー。ふわふわしてて、女の子な感じが絶対かがみに合うと
思うんだよね。それに手触りも色も…どこと無くウサギっぽいし。
 みゆきさんは私が言った真っ白な手袋にしたみたい。うん。つかさに似合いそう。

 それらを綺麗にラッピングして貰って私とみゆきさんはデパートを後にした。
 クリスマスは今週の土曜日で、明日つまり月曜日は終業式。
 わざわざ月曜に終業式をやる意味がわかんないけれど…明日かがみを誘おう。

 告白したいわけじゃない。ただ二人で楽しくしゃべったりケーキを食べたい。
 今はまだ、それだけで良いんだ…。


 そして月曜日、式が終わった後私はかがみのクラスに久しぶりに行った。
「かーがみーん!」
「な…なによ…」

 あれ? なんか妙な感じ。話しかけられた時びくんと肩を竦めたし、私の方を見ないように
している。まさか私の気持ちがバレたとかじゃないよね?
 …それはないか。ボロを見せた覚えはない。…気のせい、かな?
「え、とかがみ。時間、あるかな?」
「…ここじゃ駄目なの?」
「うん、ちょっと来て欲しいんだ」
「…わかった…」

 遊びに誘うだけだと頭では解っているのに、どうしても気恥ずかしくて、人に聞かれない所に、と
移動していたら屋上まで来てしまっていた。
 うう、寒い…。でも少しの間だし、と我慢することにする。
「ね、かがみ。25日なんだけど…予定、ある?」
「………え?」
「なにもなかったら…その、一緒に遊ばない?」
「……ん…で…」
「え?何?」
 聞き返すとかがみがばっと顔を上げて叫んだ。
「なんで私なの!? みゆきと一緒に居ればいいじゃない!!」

……………はい?

「ちょ、ちょっと待って!なんでそこにみゆきさんが出て来るのさ?」
「とぼけないでよ!!私…聞いてたんだから…! あんたがみゆきのことを好きって言ってたの!
それにっ! 昨日だって二人でデートしてたじゃない!!」
 あ……頭が痛くなって来た。
 ツッコミ所はたくさんある。けど、とりあえず誤解を解かないと。
「かが……」
 しかし私が言い終わらないうちに、一気にしゃべってはあはあと荒い息をついていたかがみが、
キッとこっちを睨んで走り去っていった。…目には涙が浮かんでいた気がする。

 それを見た途端、足から力が抜けて、私はぺたんと地面に座り込んでしまった。
「………なんっで、そうなるかなー……」
 私の呟きは冷たい北風に掻き消されていった。



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