こなた×かがみSS保管庫

そして、采は投げられた

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yamase

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 いつからだろう。
 些細な、本当に些細な変化、というよりは違和感を感じるようになったのは。
 具体的に言うとその違和感は二つ。

 一つはこなたの様子。
 元から一般人とは掛け離れた言動や行動をするやつだったけどそれとは違う。そわそわしてたり、
ぼーっとしてる時が多いと思う。…これは私の気のせいかもしれないけどね。

 もう一つは私自身。
 そんなこなたのことが気になって仕方がないというか、何と言うか…。
 …とにかく、こなたの一挙一動に敏感に反応してしまう。前はこんなことなかったはずなのに、なんで?
 解るような解らないような…。朝からそんなことを自分の部屋で考えていると、すぐに
学校に行く時間が来てしまって、その気持ちに名前を付けられないまま、私はつかさと一緒に家を出た。


 バス停で5分程待っていると、いつものように少し遅れてこなたがやって来た。
 それを見て、私とつかさが手を挙げて挨拶する。
「おっす!こなた」
「おはよう。こなちゃん」
 なぜかちょっとだけこなたの目が大きくなる。
 その一瞬後にこなたも手を挙げて挨拶を仕返して来た。
「…おはよー。二人とも」
 あれ?なんかいつもよりテンションが低い?
 だけど目の下にクマを作ってないから、徹夜でネトゲをしてたわけじゃないみたい。
「…どしたの?こなた。何か元気ないみたいだけど…」
「え?そう?お姉ちゃん」
 つかさは解らなかったみたいだ。…私の考え過ぎかしら。
「…別になんともないけど?何なにかがみん、私が心配なのかなー?」
「ち…ちが…!そんなんじゃないわよっ! …なんともないならいいけど…」
 猫口でにまにま笑いながら私をからかうのは、すっかりいつものこなたで。
 やっぱり考え過ぎかな、と思いながら私はバスに揺られて学校へと向かった。

 学校に着いてこなた達と別れてから、席に座って鞄を置く。
 壁に掛かっている時計を見ると、まだ時間に余裕が有る。日下部も峰岸もまだ来てないみたいだし、
こなたの所にでも行くかー。


 教室から一歩踏み出すと、隣のクラスからちょうどこなたとみゆきが出ていくのが見えた。
 珍しい組み合わせだな、と感じつつも、また胸の中にもやもやが広がっていく。
 ちらりと見えたこなたの顔はいつになく真剣なもので。
(…なんか、嫌な予感がする…)
 本能がそう警告を発するのを無視して、手を繋いで人気のない方へと向かう二人を、悪いことだとは
思いつつも私は後をつけてしまっていた。



 こなたとみゆきは廊下の突き当たりまで来ると何かを話し始めた。
 ちょっと離れた階段の影に隠れているせいで会話の内容全部は聞こえない。
「………ゆき……好き……で………」
「…そう……か…」
 え…いま、なん、て…?
 こなたは今確かに「好き」と言った。……みゆきを……?

 何かが、ガラガラと崩れる音がして足元がふらついた。
 そして同時にもやもやの正体も、最近の違和感の理由も解った。解ってしまった。
 それは、嫉妬。
 それは、恋心。
 私はこなたのことが、好きなんだ。


 今すぐ飛び出していって、私の気持ちを伝えてしまいたい衝動に駆られる。
 言わなきゃ。こなたがみゆきを好きだったとしても、伝えないまま終わってしまうのは嫌だった。
 物影から顔を出すと、みゆきがこなたの耳元で何か囁いて、言われたこなたは
真っ赤になりながら、後ずさりをして背中を壁に打ち付けていた。
「………っ!」
 そっとそこから離れて私はまた階段の影に、耳を塞いでうずくまる。
 ――気付くのが遅すぎたんだ。
 あの二人はもうあんなにも心を通わせてる。
 私の立ち入る隙間なんてないじゃないか。
 でもまさか、みゆきとこなたが付き合うことで自分の気持ちに気付くなんて。
「……はは……」
 唇から乾いた笑いが漏れる。
(…バカみたいだ…)
 鼻の奥につんとしたものを感じながら、私はホームルームが始まるまでそこに座り続けた。



☆☆☆



 最近の私は変だ。何をやっても集中出来ない。勉強はいつものことだけど、アニメを見たり
ネトゲをする時さえも。
 ゆい姉さんじゃないけど、びっくりだ、と言わざるを得ない。
 そしてたびたび襲って来る胸が締め付けられるような感覚。これってなにかのビョーキなのかな…。
 お母さんのこともあるし、少しだけ不安になった私はお父さんにそのことを言ってみた。
 次の瞬間、お父さんの両目から洪水みたいに涙が溢れ出てそのまま自分の部屋に引きこもってしまった。
 時々部屋から「…つい…に…彼氏……でき…うおおおおおん!!!」とか、途切れ途切れに
聞こえて来て、私はますます混乱することになった。
 まあ、病院に行って来いとか言われなかったから大丈夫だろうと半ば無理矢理自分を納得させて
学校に行くことにする。
 お父さんを放って来たけれど…死にはしないだろう。


 バス停に近付くとすでにかがみとつかさが居て、私に気が付くとを挙げて挨拶をしてくる。
「おっす! こなた」
「おはよう。こなちゃん」

 どくん

 まただ。心臓を誰かに掴まれたような、痛いとも苦しいとも取れるこの感覚。
「…おはよー。二人とも」
 どくどくと勢いよく心臓が血液を体中に送り出しているのを知られないように、いつも通りを
装って私は返す。
「…どしたの?こなた。何か元気ないみたいだけど…」
「え?そう?お姉ちゃん」
 あちゃー、なんでこんな時だけ鋭いんだろうね、かがみんは。
 ごめんね、かがみ。ちょっとだけウソつくよ。心配させたくないから、ね。
「…別になんともないけど?何なにかがみん、私が心配なのかなー?」
「ち…ちが…!そんなんじゃないわよっ! …なんともないならいいけど…」
 ふう…何とかごまかしきれたみたいだ。
 それにしても、かがみはやっぱりツンデレのお手本だね。
 …あれ?なんでだろう。さっきよりドキドキが強くなったような…。


「じゃーにー」
「じゃあね、お姉ちゃん」
「んー」
 教室の前でかがみと別れ、自分の席に着いてからはあ、とめったに出さないため息をついた。
 本当、なんなんだろうこの気持ち。これじゃあ私の心臓がもたないよ……。

 バスの中から考え続けていたけど、答えはまだ出て来ない。…だけど小骨がのどに引っ掛かっている
感じというか、もうちょっとで解りそうなんだけど…。ああー…なんだっけー?
 しばらくうんうん唸って記憶の海からサルベージしてきたのは、ひよりんに貸して貰った所謂
乙女ゲームの一場面だった。


“あの人のことを考えるだけで胸がドキドキして落ち着かない。一つのことに集中出来なくて、
気付いたらあの人を想ってる。間違いない。私は恋してるんだ――…”


 ………いやいや、待て自分。
 確かにこれは今の私の状態にそっくりだ。
 だけど…恋…?……誰に……?
 自分で自分に問い掛けると、ぽん!と一つの顔がこれが正解だよ、と言わんばかりに思い浮かぶ。
 それは紛れも無く、親友の――かがみの顔だった。
「――っ!ありえないから!!」
 ガッと一気に顔に血が上るのを感じて、じっとしてられなくなった私は椅子から立ち上がった。
 ガタン!と思ったより大きな音が教室に響いて、クラスメイトの何人かが何事かとこっちを見る。
 さっきとはまた違う理由で赤くなるのを自覚しながら、今度はゆっくりと椅子に座り直す。
「ど、どうしたの?こなちゃん」
 怖ず怖ずとつかさが聞いて来て、私はなんでもないヨとはぐらかす。
 それでも何か言いたそうだったけど、諦めたのか自分の席に戻って行った。
 ごめん、つかさ。でもこれは……。


 私が、かがみを…?
 否定したいけど、もう一方でパズルの最後のピースがはまったみたいに、さっきまで解らなかった
気持ちが何なのか、するする解けていく。
 私はかがみに恋、してる。友達としてじゃなく好きなんだ…。

 認めてしまうと、最近の胸が締め付けられるような感覚の理由や今日の朝のこともそのせいなんだな、と
納得することが出来た。
 いやー…でもさー女の子同士だし…世間的には駄目だよねー…。確かにマ〇みてもス〇パニも
見ていたけど、まさか当事者になるとは思わないって…。


 何だか自分一人じゃ抱えきれなくて誰かに言ってしまいたい気分。
 つかさは…かがみに隠し通せなさそうだし…みゆきさんなら良いかな…?
 まだホームルームまで時間はあるし…よし!


「ね、みゆきさん」
「はい、なんですか?」
 みゆきさんの席まで行って話し掛けると、にっこり笑いながら振り向く。
 あー…なんか癒されるなー。いや、癒して貰うために来たわけじゃない。
「ちょっといいかな…?」
 廊下に呼び出してから、人があまりいない方へとみゆきさんの手を引いて歩いた。
 みゆきさんは何かを察したのか、黙って私についてきてくれる。

 廊下の突き当たりの所まで来てから、手を離して振り向いた。
「…あの、さ。みゆきさん…私、好きな人が出来たんだけど…」
「…そう、なんですか」
 何から話せばいいのか解らなくて、核心部分から話してしまった。唐突すぎだろ私!と
思わないでもなかったけれど。
「…それでね、その人は…女の子でさ…。…やっぱり諦めた方がいいのかな…?
こんなの普通じゃないし、相手も気持ち悪がるだけだよね…?」

 俯きながら喋っているせいで、みゆきさんがどんな表情をしているのかは見えない。
 私はなんて言って欲しいんだろう? 認めて欲しいのか、それともただ聞いてくれるだけで
いいのか。

 しばらくしてみゆきさんが口を開く。
「…恋愛の形は人それぞれですから。同性の方を好きになるイコール異常、ではないと思います。
日本では法律上結婚は認められていませんが、それが全てではないですし。…例えば養子縁組をして
家族になると言う方法もあります。それに、オランダやカナダアメリカの一部の州では、同性でも
結婚出来るんですよ。」

 みゆきさんに――友達に変じゃないと言われて、すごく安心した。
 結局の所、私はその言葉が聞きたかったんだと今になって解る。

「ありがと、みゆきさん。なんか楽になったよ。…でも、やけに詳しいね」
「え…!?あ、あの…実は私も…」
 そこまで言って頬を染めたみゆきさんが少し屈んで私の耳に唇を寄せる。わわ、くすぐったいよ。
「…つかささんを、お慕いしてるんです。泉さんは、かがみさんのことが好き、なんですよね?」
「へ、えぇええええぇ!!??」
 わ、私誰のことかなんて言ってないよね!? って言うかみゆきさんも!?
 ずざざざざっ!と音が聞こえるぐらいの勢いで後ずさると壁に背が当たる。
 でもその痛みよりも、顔面の方がマズイことになってる気がする。
「な、なんで…」
 ようやくそれだけを絞り出すと、みゆきさんが口に手をあててくすっと笑う。
「私も、同じですから。泉さんの様子で解ってしまったんです」
 な、なるほど。だけど全然気付かなかった。かがみのことも、つかさのことも。


「…ではそろそろホームルームが始まる頃ですね。行きましょうか」
「…ん」
「お互い、がんばりましょうね」
「…うん」
 今度は逆にみゆきさんに手を引かれながら、私たちは廊下を教室へと歩き始めた。




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