タマゴのこころ、ニワトリのこころ(後編)

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タマゴとニワトリ…ですか。

(さっきは本当にびっくりしてしまいました)
私は笑いながら心の隅で考えます。

(やっぱり泉さんにはかないませんね…)
泉さんは本当によく周りの方―特に親しい方には気を配っていらっしゃいます。
私もその中に含めていただけているのでしょうか。
…あう、自分で考えたことなのに、『親しい』という部分にこそばゆくなってしまいました。

それと同時に、先ほど思い浮かべた事柄がまた浮かび上がりそうになります。
私は誰にも分からないように少しだけ息を深く吸ってはき、『いつもの笑顔』をつくりました。

「いっただっきま~す」
「「いただきまーす」」
「はい、いただきます」
各々の掛け声で食事が始まります。
今日はつかささんの席なので、私の隣に泉さんとつかささん、そして私の前にかがみさん。
いつもと同じお昼ごはんの風景です。
でも少しだけいつもと違うところがあります。

「あ~むっ」
泉さんは気づいているのでしょうか。
かがみさんがパックのお茶を飲みながら、チョココロネに手をつけようともせずにちらちらと横目で泉さんの様子を見ていることに。

「んんっ!ぐぐぐ…」
「こ、こなたっ!?どっ、どうしたのよ?!」
お弁当を一口食べていきなり上がった泉さんの声に、かがみさんが慌てた声を出します。
「こなちゃん?!大丈夫?」
「の、飲み物をお入れしますか?」
私も慌てて水筒からお茶をついで、泉さんに差し出します。

「う、う…うまい!!」
…いきなり身体の力が抜けてしまいました。
つかささんも同じ様子です。

「もう、こなちゃん。びっくりしちゃったよ~」
「バカかあんたっ!?心配したでしょうが」
「いやいや、『お約束』と言ってくれたまへ。
美味しい料理を作ってくれた人への礼儀みたいなものなのだよ」
「へっ?!お、美味しかったって、わたしのおべ、お弁当が?」
「いや~腕を上げたねぇ、かがみん」
かがみさんのびっくりした顔が、まるで紅茶に入れた角砂糖のようにくずれます。
茶葉はローズヒップといったところでしょうか。
それを見て泉さんも嬉しそうに少しだけ笑うと、私の差し出したお茶を手にとられました。

「あっ、みゆきさんお茶ありがと。これ飲んでもいいのかな?」
「はっ、はい、どうぞ」
くぴくぴくぴ、と私の注いだお茶を一息に飲み干す泉さん。
たったそれだけのことなのにたまらなく嬉しくなってしまいます。

「ぷはー、やっぱりみゆきさんのお茶は美味しいねぇ…ところでこれって雁音?」
「いえ…ただの煎茶です。
ご期待に沿えずすみません」
思わず肩が落ちてしまいました。
まるで歯の治療が終わったばかりなのに、いきなりまた別の歯が痛み出した時のような気分です。
そんな私をかがみさんがフォローしてくださいました。
「みゆき、気にしなくてもいいのよ。
こなたが言っているのは、この子の好きなアニメの話なんだから」

「違うもん。あんまり美味しいから雁音かなって思っただけだもん」
泉さんがむうっとふくれます。
ですがすぐにいつもの笑顔に戻って指を立てながら言いました。
「『みゆきさんのお茶』ってだけで、何かものすごくレア度が高い気がしてさ。
お金とれるんじゃないかなぁ?」
「おいおい、またそんなこと言いだして…あんた本当におっさんだな。
まあいわゆる『みゆきの御手が差し出すものなら水道水でもエビアン以上の品質』ってやつね」
「そ、そんな…」
自分の顔が赤くなるのが分かります。
頬に手をあてるとやっぱり熱くなっていました。

それにしてもかがみさんの言う『アニメの話』とはなんのことでしょう?
雁音を取り上げると言うことは、茶道か何かを題材にしたものでしょうか。
泉さんが好きなアニメ――少しだけ見てみたい気もします。

「ねぇねぇゆきちゃん、雁音ってなぁに?」
「雁音ですか?」
そんなことを考えていると、つかささんに雁音について質問を受けました。

「雁音はお茶の一つで、煎茶や玉露をつくる際に取り除かれた茎だけを集めた茎茶の一種です。
茎茶には茶葉の甘み成分のテアニンが多く含まれていまして――」
私とつかささんとの会話の隣ではお二人がちょうどそのアニメの話をされているようです。

「ふっふ~ん。
かがみ、いつも私のこと『オタク、オタク』ってバカにするけど、
なかなか知識は私に負けず劣らずってところだね」
「何がよ?」
「いや~、『雁音』ってだけで『アニメの話』ってすぐにわかったしさ」

「――上質な茎茶ほどまろやかな味がします。
玉露の茎茶は『雁音』と呼ばれとても珍重されています」
私の口は疑問に答えながらも、ついつい耳はお二人の会話の方へと向いてしまいます。

「『暴走』でしょでしょ?」
「べ、別にそんなつもりじゃ…というかわたしはオタクじゃ――」

何について話されているのでしょうか。
暴走?…すたんぴーど?riotは暴動ですが…

「ゆきちゃん?」
「え?」
つかささんに呼ばれて我に返りました。
どうやら説明が途中で途切れてしまったようです。
「すみません。
少し興味ある話をかがみさんたちがしていたもので…
ご、ごめんなさい、どこまでお話しましたでしょうか?」
「ううん、ちゃんとわかったよ。
ゆきちゃんありがとう。
う~んとね…こなちゃんたちが話してるのは、お姉ちゃんが好きな小説の話みたいだね。
確かアニメ化して、こなちゃんがすっごくハマったって言ってたよ」
つかささんはちらりとお二人を見て小さくクスリと(私には真似できないくらい可愛く)笑って、そう教えてくださいました。

「そうなんですか」
「こんどその小説、お姉ちゃんに貸してもらって学校に持って来ようか?」
「ほ、本当ですか?ありがとうございます」
でも…私がそのお話を読んだところでお二人の間には入れるはずありません。

私の知らない話をする泉さんとかがみさん。
きっと私の知らないところで、もっとたくさんの私の知らないお話をされているのでしょうね…。

「もう、違うんだからね。
あんたが『雁音』なんて言い出すから、偶然思い出しただけだから」
そう言いながらかがみさんは照れ隠しのようにチョココロネにかぶりつきました。
ずっと泉さんと話していたせいか最初の一口です。
それを見て泉さんの顔がほころびます。

「何よ、急にニンマリして」
「別に~なんでもないよ」
泉さんはそう言ってお弁当をほうばります。

「変なの。」
そうつぶやいて、かがみさんはもう一口細い方をかじります。
かがみさんは気づかないかもしれませんが、私には泉さんが喜ぶ理由がわかります。

きっと泉さんはこう仰りたいのだと思います。
『私と同じだ』と。

――お誕生会の時とは逆なんですよね。
あの時の光景が自然と頭の中に浮かびあがると同時に胸がちくりと痛みだしました。

(回想:高校二年生の7月7日・かがみの部屋)

「いただきま~す」
「いただきます」
四人一緒に切り分けた誕生日ケーキを食べます。
ケーキはイチゴケーキ。
自然と春頃に泉さんやつかささんとした会話が思い出されます。

『イチゴショートのイチゴとかモンブランの栗とかはいつ食べる?』

もしあの時それを思い出さずにいたら、こんな想いをすることはなかったのでしょうか?
――いいえ、どちらにせよ遅かれ早かれ私は気づいていたと思います。

あの時の問いの答えはしっかり覚えていました。
私はケーキのクリームの量などを見てバランス良く。
つかささんはイチゴ―好きなものは一番最後に。
そして泉さんは――あれ?おかしいですね、手が動いていません。
泉さんは『やっぱり大好物は一番初めに食べないとね』と言っていたはずなんですが…

フォークを持ったまま動かない泉さんの視線の先には――がいて――
そして泉さんの顔が――

(回想終わり)

「ふふっ、相変わらず泉さんとかがみさんは仲がおよろしいですね」
私はもう一度誰にも分からないように少しだけ息を深く吸ってはき、
『いつもの笑顔』をつくってからそう言いました。

「ほえ?みゆきさん何か言った?」
かがみさんとは反対側(私の側)のほっぺたにご飯をつけたまま泉さんが顔を上げます。
「ええ、まるで…――姉妹のようですねと」
その無邪気な顔を見ていると、粘土が水を含み柔らかに形を変えるように私の表情も自然なものになります。

「み、みゆき何言ってるのよ。
こいつと姉妹だったりしたらたまったもんじゃないわ」
「こなちゃんとおねえちゃんなら、やっぱりおねえちゃんがおねえちゃんだね。
あれ?じゃあわたしとこなちゃんも姉妹なのかな?かな?」
「つかさ、あんたまで…」
かがみさんが頭を抑えます。
…でもやっぱりどこか嬉しそう。

「かがみがお姉ちゃんだったら宿題には困らないなぁ。
ねえ、お姉ちゃん午後の数学の宿題なんだけど…」
「また忘れたの?!昨日電話で朝起きてやるっていってたじゃない!」
「いやあ、あの後ぐっすり寝たらいつもの時間で…ごにょごにょ。
助けてかがみお姉ちゃん~」
「だめよ、少しは痛い目見てこりなさい」
「そんな~」
まるで緊急時に『救命ボートは定員オーバーです』と言われた時のような顔の泉さんに、
つかささんがおずおずと(でもちょっとだけ嬉しそうに)話しかけます。

「またぁ?もう、しょうがないなぁこなちゃ…じゃなかった、こなたは~。
じゃあわたしの見せてあげるよ」
「いや…つかさのは……というか、つかさより私の方が誕生日的にも姉でしょ。
つかさはどちらかって言うと妹キャラだし」
「むぅ!(こなちゃんのくせにー)」
つかささんがぷくっとお餅をふくらませました。
本当に仲の良い姉妹みたいです。

「じゃあみゆきお姉ちゃん宿題教えて~」
「わ、私ですか?!」
とくん、と胸が高鳴ります。

「そうそう、みゆきお姉ちゃん」
「そうだよ、ゆきちゃんは間違いなくお姉ちゃんだよね」
「あんたたちみゆきまで巻き込むなよ…
まあ確かにみゆきはお姉さんって感じだけどさ」
「でしょ?だからみゆきさんが一番上のお姉ちゃんで、二番目がかがみ。
で、私が三番目で、つかさが一番下。」
「だからこなちゃん、わたしの方が…
で、でも四姉妹っていいかも~」
「そうね、うん!みんな一緒なら楽しいわよね」

皆さんの会話で私の頭の中に、あるイメージが浮かび上がります。
そこでは私が長女で次女のかがみさんと一緒に、下の妹のつかささんや泉さんのお世話をしています。
毎日、お昼のお弁当はつかささんと泉さんが交代で作って、晩御飯は私がつくります。
ときどきかがみさんが腕を振るって、それを泉さんが喜んで――
いつまでもいつまでも皆さんとご一緒に仲良く、幸せに…

――いいえ、そんなことはありえません。
何度も自分に言い聞かせたことなのに、どうしてもそんな夢を見てしまいます。
今が幸せすぎるせいでしょうか。

あと半年もしないうちに、私たちは高校を卒業してしまいます。
大学が、進路が別れればきっと今のように毎日一緒と言うことは難しいでしょう。
それに、きっとその前に――さんのタマゴが孵ってしまうと思います。

『タマゴ』と『ニワトリ』――『友情』と『好き』。
――さんと――さん。
どっちが先でどっちが後だったのでしょう。
『友情』があったから『好き』になったのでしょうか?
それとも『好き』だったから『友情』が育まれたのでしょうか?
何より、『好き』から生まれた『友情』は新しい『好き』として生まれることができるのでしょうか?

『昔から有名なこの命題ですが、結論から言いますとタマゴが先なようですね』
先ほどした説明の内容がグルグルと頭を回ります。
何度も考えていたことです。
そして私の中で既に結論は出ていることなのです。

――さんの胸にはしっかりと――さんが産み落としたタマゴがあるのですから。

私がもし何かの奇跡で鶉くらい小さなタマゴでもあの方に渡せていたとして、
いくらそのタマゴをあたためたところで、きっと孵ることはなく、ましてやニワトリにはなりません。
だって私はニワトリでも、その祖先のセキショクヤケイですらないのですから…

『進化遺伝子学によりますと、生物が生きている間に遺伝物質が変化することはなく、
ニワトリ以外の鳥がいきなりニワトリに進化したということはあり得ないとのことです』

その言葉が私の胸を強く、強く締め付けます。
気が利かなくて、ノリが悪くて、微妙な子。

『…考えてみれば、生物はDNAという設計図に基づいて形作られる訳ですから、突然変異によって
タマゴの中の設計図が書き換わりでもしない限りニワトリとして誕生するはずはないのでしょうね』

それにもう――私のキモチはタマゴではないのです。

「ゆきちゃん?」「みゆきさん?」
泉さんとつかささんから同時に声をかけられました。

「すみません、またお気を使わせてしまいましたね。
少し考え事をしていまして…」
「えへへ、そんなことないよ~」
「もう、みゆきお姉ちゃんはぼーっとしてて、相変わらず萌えキャラだなぁ~」
「あんた姉だろうと容赦なく萌えるのな…」

かがみさんが呆れながら笑っています。
つかささんも笑っています。
泉さんも笑っています。
そして…私も笑っています。

やっぱりいつもの昼休みの風景、そしていつもの私たちの日常です。
好きな人がいて、その方がいつも笑っていること――
それはきっと、とても幸せなことに違いありません。
はい、ぜったいに間違いありません。

だから私はこの日常を決して失くしたくはないのです。
ですからお二人のタマゴを壊さないよう、少しでも喜びの中で雛が孵るよう、ご一緒に
あたためていければと思っています。
たとえそれが卒業まで―孵化するまでの短い期間だけだったとしても。

でも、せめて…
「こ、こなたさん」
「何?みゆきお姉ちゃん?」
「ご飯がほっぺについていますよ。
もう、しょうがありませんね」
かがみさんが気づく前に、泉さんの頬に手を伸ばす。
そっと頬に触れてご飯粒をつまみます。
そして―ぱくりと食べます。

「ふわっ?!」
「ちょ、み、みゆき?!」
「ゆきちゃん!?」
驚いたり、焦ったり、赤くなったりする皆さんを見て、私はにっこり笑います。

「ふふふ、お姉さんとしての特権です」
少しだけ、少しだけタマゴをつついたりしてもいいですよね?


おまけ
「(こそこそ…)」
「つかさ、あんたなんでご飯粒をほっぺにつけようとしてるの?」
「いや、べ、別に…なんでもないよ」
「まったく…こなたじゃないんだから」

ひょい、ぱく。

「ダメよ、バカな真似しちゃ」
「(お?!お、お姉ちゃん?!)」

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  • まさかつかさはみゆきさんに? -- かがみんラブ (2012-09-25 20:02:13)

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