『泡沫──うたかた──』~シャボン玉 Konata side~

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「ごめんくださぁい」
本当はこんな挨拶等せずに、すぐに入っていきたい。
だけど、初めてこの家に来たとき“意外に最低限の常識はあるのね”と言われたので、この儀礼は外せない。
自分でも子供じみてるし、いつまで根に持ってるんだか、とは思うけどね。
「おーす。早かったわね」
お決まりの挨拶を返して、戸を開けてくれたのは勿論、柊かがみ。私の親友、だ。
「いやぁ。かがみんに早く会いたくなっちゃって」
「な、何言ってんのよ!」
しまった。そう思った。“早く会いたくなった”など、不自然すぎはしないだろうか。
私の想いを悟られては、ならないのだ。落ち着け、私。
平静を保つんだ。いつも通り、自分の思い描く自分を演じるだけでいい。
「あれあれ~。もしかしてかがみん、ドキッてしちゃった?」
そう。それでいい。私は瞬時にニヤニヤとした、貼り付けたような笑みを浮かべた。
つくづく、この点に関してだけは私は完璧すぎた。
少しぐらいボロを出せれば、もしかしたら本当の私に気付いてくれるかもしれな──危険な考えはよせ。
そうだ。これは考えてはダメな領域。自重しろ、私。かがみは一般人だ。同性愛など、以ての外だ。
「冗談はこの辺にして、つかさ居る?」
私は耐え切れなくなって、つかさの元へ逃げ出すことにした。
なのに、
「……縁側に居るわよ」
そう、はき捨てるように、機嫌を悪くして言うのはどうしてなの?
私はエロゲやギャルゲーの主人公みたいに鈍感じゃないつもりだよ。
ねえ。かがみ。私にはそれが嫉妬に見えてしまう。それは私の期待が入っているから?
「そっか。いや、借してた漫画、また読みたくなっちゃってさ」
「そ、そうなんだ」
かがみの、どう見ても無理矢理造った笑顔が、私を狂わせる。
そんな顔しないでよ。私、期待しちゃうよ……。
かがみ、どうしてそんな悲しい顔で笑っているの?
「そうだ。読み終わったらかがみにも貸してあげるよ」
ダメだ。本当に、もうコレ以上ここに居るのは危険だ。早く会話を終了させよう。
「私に理解できる内容ならね」
「その辺は大丈夫。つかさぐらいの一般人でも楽しめる仕様だよ」
少し早口で答えて、私は足早に縁側えと向かった。
勝手知ったる程入り浸っていたから、すぐに逃げられたのかもしれない。
そうなるまで私が依存しているからこそ、困っているのだけれども。
なんだか、皮肉な話しだな。心中で、自嘲した。

目の前で、こんにちは。こなちゃん、とつかさが言った。

何処かで、パズルのピースが崩れるような音がした。


つかさは、シャボン玉で遊んでいた。
年齢を考えれば若干クエスチョンマークが浮かんでしまうのだが、つかさだと違和感がないのはどうしてだろう。
近所でシャボン玉で遊んでいる子供を見て、自分もやりたくなったんだそうだ。つかさらしいな。
ついでに、シャボン液が安売りしていて、十個も買ってきたらしい。
「そんなに買ってきてどうするの? ま、つかさらしいけど」
こうやってつかさと談笑するのは、楽しい。だけど、辛い。
だって、目はつかさを見て、口はつかさに語りかけているのに、その実中身は皆かがみに支配されているんだから。
結局私はつかさのことを、第一に友達としてでなく、かがみから、否。
この私の無限に繰り返される妄想から、少しでも脱却するだめの、道具として捕らえているのだ。
なんて、我侭なんだろう。
「こなちゃんもシャボン玉やる?」
「やるやる!」
つかさとの間接キスだけれど、私は何にも気にしなかった。
というよりは、そんな事気がつかなかった。
やはり頭の中が、かがみで一杯だったからだ。
私の名を優しく、熱っぽく呼ぶかがみ。手が私の背に回り、引き寄せられる。
そして、私は少しだけ背伸びをして──かがみの唇と自分の唇を重ねた。そんな、有り得ない、泡沫の、夢。
かがみの唇は、どれほど柔らかいのだろう。甘い味がするのかな?
キスはレモンの味って、ほんとうなのかな。そんな、夢見る少女のような、戯言。
いや、そんなことは分かってる。十分に理解している。だけど、永久に続いて欲しい、戯れ言。
悪循環な誇大妄想と思考がループする。
「そうそう、くさいんだよ」
「クサイよね」
会話の内容など、頭に入ってはいなかった。
「ジュース持ってきたわよ」
ドキリとした。
丁度、脳内で私がかがみと濃密な時間を過ごしている最中だったのだ。
「でかした、かがみ!」
出来る限り馬鹿っぽいテンションで、笑みを浮かべてコップを奪った。
「有り難う、お姉ちゃん」
つかさが私の隣に座る。少しだけ足が触れた。
……かがみだったら良かったのに。思ってはならないことが、頭をよぎる。
何か、喋らなくちゃ。
「そだ、かがみもシャボン玉やろうよ」
あ。な、な、何を口走っているんだ私は!?
うぅ、やっちゃった。妄想垂れ流ししてるよ。
「え、あ、な、何言ってんのよ!」
ほら、かがみの顔が真っ赤になっている。
でも、かがみとの間接キス。なんて素晴らしい響きなんだろう。
だけど、臆病な私は、
「もしかしてかがみ。間接キスとか意識してるのかにゃぁ?」
そうやって茶化すことしか出来なかった。
「そんなわけ──」
だから私は、後悔した。もう二度と会えないのかと一瞬、本当に、思った。
いつも思い知らされる。永遠など、ないのだと。

──かがみが、倒れた。

パタパタパタ。パタパタパタ。
扇風機を回し、団扇も扇いでいた。
かがみが倒れた後、何も考えられずただ泣きじゃくる私を、つかさが叱責してくれたおかげで今は比較的冷静だ。
つかさに助けられるなんて、ダメだなぁ。私。
件のつかさは「熱はそんなにないみたいだから、起きた後食べる用にアイス買ってくるね」と言って私にかがみを任せた。
“そうそう、きっかり一時間で帰ってくるから、お姉ちゃんに何かするなら、それまでにね”とも言っていた。
何かとは一体なんだというのか。しかもその含み笑い……実はつかさが一番敵にまわしたくない人間かもしれない。
「んっ」
「かがみ? 気がついたの?」
かがみの瞼が、ゆっくりと開いた。
「あ……うん」
かがみは、状況が掴めない、といった顔をしていた。
「かがみ、覚えてる? 倒れたんだよ。びっくりしたんだから。熱もあったし……」
かがみは未だに自分がどうなっているのか判らず、目をパチクリさせていた。
しおらしく、私の膝の上で小首を傾げる様子がとても可愛く、そして、私に恐怖を思い出させた。
もし、かがみがこのままいなくなってしまったら……。
“永久不滅”なものなんて、ないんだ。
「──シャボン玉とんだ 屋根までとんだ。屋根までとんで、壊れて消えた──」
そう思ったら、いつの間にか唄いだしていた。

ねぇ、かがみ。
「何?」
この歌ってさ、ちょっと残酷じゃない?
「アンタはまた、屋根“までもが”とんだ、とかいうんじゃないでしょうね」
違うよ。自分が楽しんで、一生懸命作った物がものの数秒で、消えちゃうんだよ。夢は儚い。私にはそう詠っているように聞こえちゃうな。
「…………」
何でかな。もしかしたら、お母さんの事があるからなのかもしれないけど、私は昔から“永遠”に憧れてるんだ。
「だけどね、半分諦めてる。永遠なんて、ただの幻なんだって。かがみや……つかさや、みゆきさんと永遠に笑って暮らすなんて、不可能なんだって」
そう、それは唯の幻想だったのだ。いや、そんな可愛いものじゃない。これは私の我侭だ。
私もそうであるように。つかさにもみゆきさんにも。そしてかがみにも、自分自身だけの未来があるんだ。
私が干渉する資格など、あるはずが、ない。そして私には勇気も、ない。
かがみとの関係を崩す勇気が。二人で大衆と偏見に立ち向かっていく勇気が。
私は自分の未来を、定められない。
「ちょっと待ってて!」
突然、かがみがそう言って走り出した。呆然と、疾走する背中を見つめた。

「こなた!」
「あ、何処行ったのか、心配したよ。てか、何持ってるの? たらいと、ハンガー?」
そう、かがみの両手には、たらいと、変形させて円を描くハンガーが大小二つ、握られていた。
そして、つかさの買って来らありったけのシャボン液を、突然たらいにぶちまけた。
「何、してるの?」
かがみは私の質問に答えず、たらいに広がるシャボン液に、小さい方のハンガーをつけた。
そして、シャボン玉をつくる。
「…………?」
間髪いれずに、大きい方のハンガーにシャボン液をつけて、大きなシャボン玉を、つくる。
「あ」
思わず声が出た。二つのシャボン玉は、割れてしまったのだ。
もう一度。もう一度、もう一度、もう一度……。かがみはそれこそ永遠の繰り返した。
「ねえ、かがみ。何してるの?」
私がもう一度そう言った時だった。
「出来た!」
二つのシャボン玉が、片方を包含して、浮いていた。
それらは、運命共同体。どちらかが失われるとき、もう一方も消えてしまう。
そして、数秒を待たずして、壊れて……消えた。
「こなた、やっぱり“永遠”なんてない。私はそう思う」
かがみが、私にゆっくりと語りかける。私は顔を伏せた。そうしないと、何かが零れ出そうだった。
「だけど、今、一緒に居ることが出来る。大切なのは今、どうするかなんだよ。明日どうなっているか、一年先にどうなのか。そんな事を心配していたらキリがない。だから、今を精一杯良い方向に生きるんだ」
嗚呼、そうか。なんで気がつかなかったんだろう。

大切なのは、今だ。

私達が生きているのは未来なんかじゃない。過去なんかじゃもっとない。ただ、今を生きているんだ。
精一杯生きた今は、確実に素晴らしい足跡となって、精一杯繋げる今は、確かに輝かしい未来になるんだ。
その区切られた、一瞬一瞬での、私達の貴重な今こそが唯一、永遠なのだ。
「今の二つのシャボン玉のように、私がこなたを包んで、二人で一緒に、いよう。今を二人で」
だから、私は今をちゃんと歩くために、言おう。私の気持ちを。後悔のないように。
「かが、み……」
私の頬にはいつの間にか、暖かい涙が流れていた。
かがみも、目に涙を溜めていた。


──ねぇ。かがみ──


──何?──


──私、かがみの事が、好き……です──


──私もだよ、こなた──


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コメント:
  • この話アニメ化にしてくれないかな? -- マイケル (2009-08-17 03:01:07)
  • かがみもこなたも、お互い不安を抱えていたんですね…。
    二人とも、強く今を生きていってほしいです。
    GJでした。 -- 名無しさん (2008-12-18 11:27:03)

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