始まりの予感

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もう梅雨も終わりかけ、太陽が日毎にその勢力を増してきて
そろそろ冷房のお世話になる頃かな、そんなことを強く思うようになってきたある日の夕方。
私は鞄を片手に廊下を早足で進んでいた。今日は委員会だったんだけれど
思ったよりも時間が掛かってしまった。
つかさは季節外れの風邪で休んでいて、みゆきもこれから図書室で調べ物があるらしい。
教室で待っているであろうもう一人の親友の顔を思い浮かべ、心の中で
謝りつつ私は歩く速度をさっきよりも速くした。

「こな―…」

最後の一文字が言えないまま、私はその光景に見入ってしまった。
オレンジ色でいっぱいの教室で机に肘をかけ、窓の外をぼんやりと見ている
もう一人の親友こと――こなたが怖いぐらい綺麗だったから。
そのまま輪郭がぼやけて、景色の中に溶けていってしまいそうな錯覚に囚われ
ぞくんと肌が粟立った。存在を確認するように、先刻よりも少し大きな声でこなたを呼んだ。

「こなた!」
「……かがみ?」

緩慢な動作で私の方を向くこなたの目はどこか虚ろで、私を見ているようで見ていない。
未だ夢の中を彷徨ってるみたいだった。

「…どしたの?…具合、悪い?」
「…んーん。そんなんじゃないんだけど、さ」
「そうじゃないにしても、なんか最近のあんた変よ?」
ここまで雰囲気の違うのは初めてだけど、ここ数週間のこなたは
上の空な時が多くて、時々ため息もついていた。

「恋の悩みかー?」

笑ってからかったつもりだった。いつも私をにやにや笑ってちゃかすこなたを
今日は私がからかって、それに冗談で返すこなた。
そんな反応を予想していたのに。

「…まあ、そんな感じ、かな」
「…はぁー…あんたにそんな人がいるとは…意外ねー…どんな人?」
行きも帰りも、休日だって一緒に居たけれどこいつにそんなやつがいるとは…
全然気付かなかった。一体どんな奴を好きになったんだか。
アキバ系ってやつかしらね?趣味の話で盛り上がったのかしら?

「…………秘密」
「良いじゃない。笑わないし、応援してあげるからさ」
「駄目。かがみには教えられない」
「…何よ、なんで私には駄目なのよ。つかさやみゆきだったら良いっていうの!?」

こなたの言葉にカチンときて、つい口調が荒くなってしまった。
こなたが小さくため息をついて首をふる。

「………どうしても」
「私たち親友でしょ!?」

解ってる。友達とか、ましてや家族にだって言えないこともあるってことぐらい。
私の言動が『親友』という言葉を盾にしていることも。
でも頑なに拒否する態度が何故だか心にぐさりと刺さる。

「…だからだよ…!!」

がばっと顔を上げたこなたの瞳にはようやく光が宿っていた。
だけど、それと同時に激しい口調とは裏腹の、静かな決意みたいなものも浮かんでいて。
その先を聞いちゃいけないと、頭のどこかで警告音が鳴り響いた気がした。

「こな…!」
「私のっ、好きな人はっ…かがみ、なんだよ!?」

ひゅうっと、喉が鳴った。心臓が痛いぐらいに鼓動を速くする。

「っな…っ…ははっ……私たち、女同士じゃない」
私の言葉を遮って言われた内容はあまりにも衝撃的過ぎて。
いつもの冗談だと信じたくて。
雰囲気や語気の強さからそれは違うと半ば知りつつも、私はなるべく軽い口調で言った。
「もう、そんな冗談は――…」
「冗談でこんなこと言えないよ!!女同士とか、そんなことも関係ない!
好きで、好きで、堪らないんだよ!
こういうことしたい、って思ってるんだよ…!!」

アニメを見て『萌え』とか言ってるこなたからは想像することが出来ない。
悲痛ささえ漂わせたこなたがそう叫んで、顔を近づけてくる。


キス、される。


そう思ったら両手を前に出していた。
どん、と思った以上の勢いで突き飛ばしてしまって、よろけたこなたが椅子へとぺたんと座る。

「あ…!こなた、ごめ…」
「…知ってたよ。かがみにそういう気はないって。
私とかがみはどこまでいったって『友達』なんだって。
でも私、どうしても諦められなくて…。…ただ、吹っ切れるきっかけが欲しかったんだ。
…だから、さ。もう気にしないで。私も明日から今まで通りにするから。
…だけど、…今日は、今日だけは一人にして。お願い」
「こな…」
「…ごめん」

俯いて、ただ「ごめん」とだけ繰り返すこなたに私はもうなにも言えなかった。
一人きりの帰り道は寂しくて、少しだけ、涙が滲んだ。



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