シャボン玉

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──シャボン玉とんだ 屋根までとんだ──

──屋根までとんで、壊れて消えた──

ねぇ、かがみ。

「何?」

この歌ってさ、ちょっと残酷じゃない?

「アンタはまた、屋根“までもが”とんだ、とかいうんじゃないでしょうね」

違うよ。自分が楽しんで、一生懸命作った物がものの数秒で、消えちゃうんだよ。
夢は儚い。私にはそう詠っているように聞こえちゃうな。

「…………」


~シャボン玉~


「ごめんくださぁい」
舌足らずな、小学生のような声が聞こえた。
こんな声を出して、なおかつ家にやって来るのはアイツしかいない。
「おーす。早かったわね」
泉こなた。私の親友、だ。
「いやぁ。かがみんに早く会いたくなっちゃって」
「な、何言ってんのよ!」
こなたの顔がニヤニヤと私を見ていた。
「あれあれ~。もしかしてかがみん、ドキッてしちゃった?」
うぅぅ。ドキドキするに決まっている。だって目の前で、大好きな、だけど親友のこなたがこんなにも嬉しいことを言ってくれているのだ。
「冗談はこの辺にして、つかさ居る?」
一気に、熱が冷めてしまった。
「……縁側に居るわよ」
ああ、自分でも嫌になる。こんなにも態度に出てしまうなんて。
勿論、つかさのことが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。でも私の好きな人の口から紡がれる、その三文字に嫉妬してしまう。
つかさが居なければ。そんなことを思ってしまう自分が恐ろしく、怨めしかった。
「そっか。いや、借してた漫画、また読みたくなっちゃってさ」
「そ、そうなんだ」
無理矢理、笑う。きっと、酷い顔をしているんだろうな。
だけど、こなたは造っているようには見えない、綺麗な顔で、笑うんだ。
「そうだ。読み終わったらかがみにも貸してあげるよ」
「私に理解できる内容ならね」
「その辺は大丈夫。つかさぐらいの一般人でも楽しめる仕様だよ」
そう言ってこなたはスタスタと廊下を歩いていった。縁側へ向かっているのだろう。
もうこの家のほとんどが、こなたにとって勝手知ったる場所なのだ。

遠くで、こんにちは。こなちゃん、と聞こえた気がした。

近くで、ギリ、と歯同士が擦れ合う音が聞こえた気がした。

つかさは、シャボン玉で遊んでいた。
年齢を考えれば若干クエスチョンマークが浮かんでしまうのだが、つかさだと違和感がないのはどうしてだろう。
近所でシャボン玉で遊んでいる子供を見て、自分もやりたくなったんだそうだ。つかさらしいな。
ついでに、シャボン液が安売りしていて、十個も買ってきたらしい。正直、そんなにあってどうするんだ。

でも、今つかさはこなたと何を話しているんだろう。つかさはこなの事を、どう思っているのだろう。
そして……こなたはつかさの事を、どう思っているのだろう。そんな事を考えてしまう。
手が、震える。そうであればどんなに良かったか。
結局震えているのは私の心だけで、手など全く震えていない。
私のこなたを想う気持ちは、この程度なのだと、自己嫌悪する。
眩暈がする。立っているのが辛くなり、冷蔵庫にもたれる格好になってしまった。
やけに、肌に冷たさを感じる。それとも、自分が熱いのだろうか。

はたと、思い出した。三人分のジュースを持っていこうとしていたんだった。

「そうそう、くさいんだよ」
「クサイよね」
こなたも、シャボン玉で遊んでいた。
「ジュース持ってきたわよ」
「でかした、かがみ!」
こなたが勢い良くお盆からコップをひったくった。
「有り難う、お姉ちゃん」
つかさは苦笑するようにして、こなたの隣に座った。
私もそう自然に振舞えたらいいのに。そう、理不尽な嫉妬を覚える。
「そだ、かがみもシャボン玉やろうよ」
「え、あ、な、何言ってんのよ!」
出来るはずがない。だって、そのプラスチックのストローは、一本しか、ないのだ。
それは必然的に、私とこなたの間接キスを意味する。
──同時に私は気付いてしまった。つかさとは、したんだな。
「もしかしてかがみ。間接キスとか意識してるのかにゃぁ?」
「そんなわけ──」
ないじゃない。と立ち上がって抗議しようとしたが、最後まで台詞を言えなかった。
ゆっくりと、私の視界はブラックアウトした。


パタパタパタと、団扇が頭上で扇がれていた。
「かがみ? 気がついたの?」
「あ……うん」
思わず、しり込みする。
状況が掴めなかったのもそうだけど、こなたの顔がとても近かったからだ。
「かがみ、覚えてる? 倒れたんだよ」
びっくりしたんだから。熱もあったし。そう、こなたが続けた。
そっか。私、倒れたんだ。眩暈がするなぁとか思ったら……風邪でもひいたかな。
「──シャボン玉とんだ 屋根までとんだ。屋根までとんで、壊れて消えた──」
突然、こたが歌い出した。
「ねぇ、かがみ」
何?
「この歌ってさ、ちょっと残酷じゃない?」
アンタはまた、屋根“までもが”とんだ、とかいうんじゃないでしょうね。
「違うよ。自分が楽しんで、一生懸命作った物がものの数秒で、消えちゃうんだよ。夢は儚い。
私にはそう詠っているように聞こえちゃうな」
…………。
「何でかな。もしかしたら、お母さんの事があるからなのかもしれないけど、私は昔から“永遠”に憧れてるんだ」
こなたの目が、遠くを見ているのは、お母さんの事を思い出しているからなのだろうか。
「だけどね、半分諦めてる。永遠なんて、ただの幻なんだって。かがみや……つかさや、みゆきさんと
永遠に笑って暮らすなんて、不可能なんだって」
どうして、気がつかなかったんだろう。この子は見た目どおり、こんなにも脆く、儚いのだと。
いつも明るく振舞っていたから?
違う。そんなのはただの言い訳だ。私が自分の責から逃れようとしているだけ。
それに、そう。今するべきことは、過去を悔やむことじゃなく、今を後悔しないように行動することだ。
「ちょっと待ってて!」
「え、ちょ、かがみ」
こなたの制止を振り切り、私は台所へ走った。
コイツは酷い勘違いをしている。それを私が正さなきゃいけない。否、私が、正したい。
どこにしまってあっただろうか。上の戸棚に──あった。後は、ベランダだ。

「こなた!」
「あ、何処行ったのか、心配したよ。てか、何持ってるの? たらいと、ハンガー?」
そう、私の両手には、たらいと、変形させて円を描くハンガーが大小二つ、握られていた。
つかさの買って来た、ありったけのシャボン液をたらいにぶちまける。
「何、してるの?」
私はこなたの質問に答えず、たらいに広がるシャボン液に、小さい方のハンガーをつけた。
そして、シャボン玉をつくる。
「…………?」
間髪いれずに、大きい方のハンガーにシャボン液をつけて、大きなシャボン玉を、つくる。
「あ」
二つのシャボン玉は、割れてしまう。失敗だ。
もう一度。もう一度、もう一度、もう一度……。
「ねえ、かがみ。何してるの?」
こなたがそう言った時だった。
「出来た!」
二つのシャボン玉が、片方を包含して、浮いていた。
それらは、運命共同体。どちらかが失われるとき、もう一方も消えてしまう。
そして、数秒を待たずして、壊れて……消えた。
「こなた、やっぱり“永遠”なんてない。私はそう思う」
こなたは俯き、それでもその足でしっかりと立って、私の次の言葉に耳を傾けている。
「だけど、今、一緒に居ることが出来る。大切なのは今、どうするかなんだよ。明日どうなっているか、
一年先にどうなのか。そんな事を心配していたらキリがない。だから、今を精一杯良い方向に生きるんだ」
こなたの頭が少しだけ、動く。
「今の二つのシャボン玉のように、私がこなたを包んで、二人で一緒に、いよう。今を二人で」
「かが、み……」
こなたの頬には、いつの間にか涙が流れていた。
私も、泣いていた。

──ねぇ。かがみ──


──何?──


──私、かがみの事が、好き……です──


──私もだよ、こなた──


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コメント:
  • ☆☆☆☆☆
    -- 名無しさん (2010-08-12 07:48:58)
  • 最後ぐっときました -- マイケル (2009-08-17 02:53:54)

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