終わりじゃなくて、始まり

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薄々は感じていたけど、まだまだ先のことだと思ってた。
まだ夏休みがあるんだから、まだ受験があるんだからと、真正面から受け止めるのを
拒んできたそれは、でも徐々に迫ってきて、とうとうぶつかった。
気にしないようにと、考えないようにと、必死に抑圧してきたけど、それはただの現実逃避。

終わりは必ずやって来る。
それは入学してきた時、すでに運命づけられていたもの。
桜に彩られたあの日から、忍足で近づき始めていたもの。

――卒業

明日で、高校生活も終わりか……。

放課後の、校舎の屋上。
三月の、まだまだ肌寒い風が体を吹き抜けていく。
空は、どんよりとした曇り空。
気持ちを整理したかった。

明日で、今までの日常は終わりを告げる。
四人で学校に行って、四人でお昼ご飯を食べて、四人で家に帰る。
そんないつもの生活も、次で最後。
後一回で、もう絶対に戻ってこなくなる。

ずっと、いつも通りの毎日が続いていくんだと思ってた。
でも、それは理想を夢見ていただけ。本当は最初から分かってたのに。
終わるときが来るって。

受験が終わって、
一応みんな現役合格だけど、全員、大学も学部もばらばらだ。
わたしは独り暮らしをするつもりだから、つかさとも逢うことは少なくなるだろう。

これからは、みんな別々の道を歩んでいく。
もう一緒に並んで歩くことはないんだろうな。
そう思うと、少し悲しくなる。

卒業したら、どうなってしまうんだろう。
新しい環境での、新しい生活。
慣れ親しんだ友達もいない。
そんな中で私は、楽しく過ごせるのかな。

考えるだけで、怖くなってくる。
どうしようもない不安で、体がぶるっと震えた。

フェンスにもたれながら、ぼんやりと空を見つめる。
空は、今にも振り出しそうな暗い天気。
一つ大きなため息をつく。

出来るなら、ずっとみんなで、重なっていたい。
叶わない幻想だけど、それでもそう願わずにはいられなかった。

「あ、かがみ。ここにいたんだ」

背後で、聞き慣れた声がする。
振り向くと、こなたがいた。

「どうしたのよ、こなた」
「どうしたのって、かがみを探してたんだよ。今日私の家で打ち上げするの忘れたの?
 つかさとみゆきさんはもう買出しに行ったよ」
「あ……」
そういえば、今日の朝こなたがそんなことを言っていた気がする。
卒業のことで頭がいっぱいで、全然耳に入っていなかった。

「ごめん、忘れてたわ」
久しぶりにみんなで集まるというのに、私の心は全く晴れなかった。
嬉しさよりも、これでおしまいなんだという虚無感の方が大きい。最後の晩餐のような、そんな感じだ。

こなたが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
隣まで来て、同じようにフェンスにもたれかかった。

「かがみ、最近おかしいよ。なんていうか、全部上の空って言うか、ずっと考え事してるみたいで」

「こなた……」
「今だって、独りでぼんや~り空を見てたじゃない。もしかして、恋煩い?」
「な、そんなんじゃないわよ」
「分かってる分かってる。冗談だって。でも、かがみもセンチメンタルになることがあるんだね~」
「……」

こなたはあくまでいつもの調子だ。明日で終わりだっていうのに。
なんで、平気なんだろ。
……本当に、私の気持ちを分かってるのかな。

「……かがみ? どしたの?」
「ねえ……こなた」
「え?」

こなたに聞いてもらいたかった。分かってもらいたかった。
自分の不安を。
それで少しは不安を消すことが出来るかもしれないから。

「明日で、私たちも卒業ね」
「……そうだね。長いようで短かったよね~」

何気ない日々の記憶が、止め処なく頭に浮かんでくる。
当時は、そこにあるのが当たり前で、だから、全然気づかなかった。
あんなに毎日が楽しかったなんて。

こなたにゲーマーズに連れて行かれたり、みんなで一緒に勉強したり、取り留めのない話をしたり。
そんな何でもない出来事が、今ではとても懐かしくて、輝いて見える。

「もう、四人で一緒に学校に来て、なんでもない話をしてたあの頃には、戻れないのかな……」
こなたは何も言わなかった。
独り言のように、空に向かって溢れ出る言葉を紡いでいく。
「この三年間、普通の毎日が続いていただけだと思ってたけど、今考えたら、その日常が、本当に幸せだったのよね」

生温い風が吹く。
全てを持っていく別れの風。
それを真正面から受けながら、でも喋り続けた。
何が変わるわけでもないのに、何か変わらないかと期待しながら。

「卒業式なんて、来なければいいのに。ずっといつも通りの毎日が続いていけばいいのに……」

涙が出そうになるのを、必死にこらえた。
「卒業したら、みんなバラバラになってく……。ずっと、一緒だと思ってたのに」

少し迷った。
どっちだろう。
こなた、
「私、みんなと離れたくないよ……」
こなたはじっと空を見ていた。私が言い終わるのを待っているように。

「かがみは、今までの普通が終わって、新しい環境になるのが、怖いんだよね」
こなたが口を開く。
「やっぱりかがみんは寂しがり屋のうさちゃんだな~」

いきなりこなたが私に抱きついてきた。
しきりと頬擦りをしてくる。
「むにゅぅぅ、かわいいなあ、かがみんは」
「な、ばっ、やめなさいよ。恥ずかしいじゃない」

こなたを無理矢理引き剥がす。
不満げな顔をしてるけど、こっちだって恥ずかしいんだからやめてほしい。
「かがみ。かがみが感じてるのは、アニメの改変期と一緒だよ」
「え……」
「一つのアニメが最終回近くになると、みんな哀しんだり、鬱になったりするけど、それは一時的なものなんだよ。
 軽めのファンは次のアニメを楽しむだろうし、コアなファンだって最初は落ち込んだり、
脳内補完したりするけど、いつの間にかまた、別のアニメに染まってく」

こなたが何を言おうとしているのかは大体分かる。
でもそれだと……。
「それって、もうみんなと会うこともなくて、新しい友人を作っていくってことじゃない」

アニメが消費されていくように、友達も使い捨てなのかな。
「そんなの、そんなの嫌。私は、みんなと一緒に、いたい……」

涙が止まらなかった。
どんなに止めようとしても、言うことを聞かない。

「大丈夫だよ、かがみ」
そう言って、こなたが横からしがみついてくる。
「アニメが終わっても、関連グッズはどんどん売り出されるし、むしろ終わってからの方が凄いんだよ。
最終回は終わりじゃなくて、無限の可能性を持った始まりで、
それに、他のアニメを見るようになった人も、ずっとそのアニメが好きなまま。そういう気持ちは永久に変わらないんだよ」

今度は引き剥がそうなんて思わなかった。
ただ、嬉しかった。
顔を押し付けてくるこなたの背中を、ゆっくりと撫でる。

そうだ。卒業したって、こなたたちがいなくなるわけじゃない。
離れたからって、交流がなくなったりはしない。友情が消えたりもしない。
私たちは、友達なんだから。
例え何があっても、ずっと。

そう思うと、いつの間にか、心の中に影を下ろしていた不安がゆっくりと解け始めた。
おしまいは必ず来るけど、何かが終わると、また別の何かが始まる。
それに、変わらないものだってある。

もう夏休みも終わったんだから、もう受験も終わったんだから、真正面から受け止めよう。
卒業を。
ずっと四人で重なってはいけないけど、毎日色々な話をすることも出来なくなるけど、それもしっかり受け止めよう。

いつも通りの日常は終わる。四人で同じ道はもう歩けない。でも、
大学に行っても、また四人で一緒に過ごせる日が絶対に来るから。それを信じて……。

こなたは、このことをもう分かってたのかな。
それとも、私が気づかなかっただけかな。
「ありがとう、こなた」
それから、
「これから先、何があってもずっと……親友だからね」

顔を上げると、風に流されていく雲の隙間から、太陽が顔を出していた。
少し早いけど、今日はみんなの門出を祝おう。


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  • 妙にこなたに説得力があってよかった -- 名無しさん (2008-10-15 02:42:31)

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