続・お見舞い(2009年版)

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「はい、かがみの大好きなアイスだよ。
 今、食べさせてあげるからね~」
「ちょっ…… そんな事しなくていいってば。
 一人で食べられるわよ」

 私がこなたのアパートにお見舞いに行ってから一週間後、
今度は私が『たちの悪いカゼ』にかかってしまっていた。
 そして今日は、前回のお礼だといわんばかりに、
息を巻いたこなたが、スプーンとアイスの容器を持ちながら、
私の部屋で看病を始めていた。

「ダメダメ、かがみは病人なんだから、
 私が色々してあげなくちゃね」
「全く、そういうセリフはもう少し早く聞いてみたかったわよ。
 特に、高校生位の時にね」
「まあまあ、こうやってアイスとかたくさん持ってきたんだし、
 その位で勘弁してよ~、かがみぃ」

 こなたは、髪の毛をぴょこぴょこ揺らしながら言い訳をしていた。
 そんなこなたの仕草が、今はたまらなく面白い。
 ふと、自分の机に視線を移してみる。
 そこには、こなたが持ってきてくれたお見舞いの花である、
赤と白に彩られたバラが飾られていた。

(それにしても、こなたがここまでしてくれるとはね~) 

 今までとは明らかに考え方が変わったこなたを見ていると、
自然と心が温かくなってくる。 それと同時に私は、
少し前に自分がしていた事を思い返していた――

『それでは、花などを持って行かれてはどうでしょうか』
「うん。 それいいわね~、どんな花がいいかしら」

 話は、十日程前の午後にまでさかのぼる。
 その日は、こなたがカゼをひいた事を初めて知った日だった。
 数日中にお見舞いに行く、とこなたに約束したものの、
どんなものを持っていけばいいのかいまいちピンとこない。
 そこで、みゆきに電話して聞いてみる事にしたのだった。

『そうですね…… では、バラ等はいかかでしょうか。
 泉さん、よくバラについての話をされていましたから』 
「な、なるほどね~。 そうしようかしら」

 いやいや、それは多分違う意味でのバラだと思うんだけど。
 こなたの言う事を真に受けちゃう所は、相変わらずね。
 ま、そこがみゆきのいい所なんだけどね。

『――以上の様な準備をすれば大丈夫だと思いますよ』
「うん、ありがと。 参考にさせてもらうわね。
 そういえば、みゆきもこなたの所へお見舞いに行くの?」
『ええ、近い内に伺おうと思っていますよ。
 ただ、講義が多いので合間を縫って行くことになると思いますけど』

 ちなみに、みゆきの方はたっての希望通り有名大学の
医学部に進学して、優秀な成績を残しているらしい。
 ……と言っても、私たちの通っている大学のすぐそばに、
その有名大学があるもんだから、みゆきともしょっちゅう
会ってるんだけどね。

「うん、わかったわ。 こなたもきっと喜ぶと思うわよ。
 それじゃあまたね、みゆき」
『はい。 それではごきげんよう、かがみさん』

 通話が終了したのを確認してから、携帯電話を折りたたむ。
 そして、携帯電話を机の上に置いてから、ふと窓の外を見てみる。
 強烈な日差しが容赦なくアスファルトを照らしだし、
そして空は、一片の陰りのない青に覆われていた。 

「こなたの奴、大丈夫かしら。 暑さにやられてなきゃいいけど」

 そんな事を呟いた矢先、玄関のドアが開く音がした。
 『ただいま~』という声が家の中に響き渡り、
ガサガサッという音と、パタパタという足音がそれに続く。
 私は、その足音の主が真っ先に向かうであろうキッチンへ、
そそくさと先回りして出迎える事にした。

「おかえり~、つかさ」
「あっ。 ただいま~、お姉ちゃん」
「頼んでいたもの、ちゃんと買えた?」
「うん、大丈夫。 メールの内容通りに買ってきたよ。  
 だいこん、にんじん、それにほうれん草……」

 つかさは、左手で持っていた買い物袋に手をいれながら、
順番に中身を確認し始めた。 額からは汗がしたたっており、
外がどれだけ暑かったというのが伝わってくる。

「これでよし……と。 大丈夫、全部揃ってるよ~」
「ありがと、助かったわ。 けどごめんね~、
 大学からの帰りだったからって、色々頼んじゃって」 
「ううん、平気平気。 お姉ちゃんは今日、
 講義無い日なんだからゆっくりしてなきゃ、ね」

 そういうとつかさは、いつもの様ににっこりと笑っていた。
 屈託のない、その笑顔をみるだけで、私はとても幸せな気持ちになる。
 そして私は、この溢れ出る気持ちを『あいつ』にも伝えてあげたいと、
思うようになっていた。 その為には、私自身が頑張らなきゃね。

「……さてと、材料も揃った事だし、そろそろ始めよっかな」
「でも、本当にいいの? 手伝わなくて……」

 つかさが、いかにも不安そうな顔をして私を見つめていた。  

「大丈夫。 一人でも平気よ。
 つかさの方こそ、レポートは上手く書けてるの?」
「はうう……。 それはちょっとまだまだかな。
 何とか、こなちゃん家に行く時間が出来るように頑張ってみるよ」
「まあ、いざという時はこなたにちゃんと理由を言えば大丈夫よ。
 ……それはさておき、いよいよ本題ね」

 目の前のキッチンには、戦いに使用する材料が勢揃いしていた。
 小鍋に包丁にまな板。 冷やご飯に調味料少々。
 そして、つかさが買ってきてくれた野菜がそれに続く。

(見てなさいよね、絶対に美味しい料理を食べさせてあげるんだから!)

 心配そうなつかさを横目にして、私は左手に包丁を握った。
 そして私は、あまり慣れていない料理の練習を始めた――

「お……、かが……」
「……」
「お~い、かがみ様~」
「わっ、こなた!?」

 不意に、声をかけられて体がびくんと震えた。
 そんな中こなたは、アイスを片手に持ちながら、
 不思議そうに私を見つめていた。

「全く、どうしちゃったのかと思ったよ。
 もしかして、熱がひどくなっちゃったとか?」
「だ、大丈夫。 ちょっと考え事してただけよ」
「……ほっほ~う」

 こなたは、顔をにやにやさせながら、スプーンを回し始めていた。
 私は、こなたが次にいう言葉がなんとなく分かっていた。

「かがみ! それはずばり、おと……」
「男の事とか考えてないっつ~の!
 ていうか、もう少し病人をいたわりなさいよ!」

 ついつい、いつもの調子で突っ込んでしまった。
 こういう所は、大学生になっても全然変わらないのよね。 

「まあまあ、落ち着きなさいって。
 時間はたっぷりあるんだからさ」
「何言ってるのよ。 レポートもろくに書いてないくせにさ。
 このカゼが治った後で、みっちり面倒みてあげるから、
覚悟しなさいよね!」
「うひゃ~。 ありがたいような、恐ろしいような……」

 小さい体を揺らしながら、気のない声を上げている
こなたを横目に、久しぶりに窓の外を見てみる。
 どこまでも広がる空は、一面のうろこ雲に覆われて 、
青と白とがまんべんなく溶け合っていた。

 季節は、一歩ずつ秋へと向かっていた――


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コメント:
  • ↓その発想は無かった -- 名無しさん (2013-05-03 11:11:06)
  • 俺はてっきり酒鬼薔)ry -- 名無しさん (2010-01-09 21:36:17)
  • 馬鹿な考えですが、秋葉原のばらかとおもた -- 名無しさん (2009-09-04 00:37:20)
  • ベルサイユの薔薇…… いやなんでもない -- 名無しさん (2009-01-06 19:28:09)
  • こなたの考えるバラは薔薇(隠語)のほうですね。分かります。 -- 名無しさん (2008-07-02 10:49:29)

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