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お見舞い(2009年版)

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匿名ユーザー

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 きっかけは、大体わかっていた。
 生活の不摂生、ネトゲのやり過ぎ、徹夜でゲーム。
 そこで生じたひずみが、一気に私に襲いかかっていた。
 それは、『たちの悪いカゼ』とい名のモンスターとなって、
週末、そして休日の昼間を過ごす私を苦しめていた。

「う~、やっぱだるいな~。
漫画とか読む気にもならないよ」

 そんな文句を言いながら、私は布団を被ったまま寝返りをうった。
 しかし、うつぶせの状態から寝返ってしまったので、
パジャマと布団がはだけて、畳の上に散乱してしまった。
 私は、しんどい体に鞭を打って布団を必死にたぐり寄せた。

「……熱でも測ってみよっかな」

 手元にあったデジタル式の体温計を手に取り、わきに挟む。
 しばしの沈黙の後、甲高い電子音が部屋に響いた。
 そして、体温計には『37.8℃』という数字が表示されていた。

「う~ん、少しは下がってきたけど、
まだ動くにはしんどいかなぁ……」

 ……いっそのこと39度位まで上がってくれた方が、
かえって動けるよう気がするのは私だけだろうか。
 ふと、目の前にあるテレビのスイッチを入れてみる。
 画面には、最近まで開催されていた陸上の世界大会の
総集編が、延々と流れ続けていた。

「あ~あ、これのせいで何本アニメが潰れた事か……」

 頭に来たので、ぶっきらぼうにテレビの電源を切ってやった。
 そんな事をしていた矢先、ドアを叩く音が聞こえてきた。

「こなた、起きてる?」
「え? かがみ? うん、起きてるよ~」 

 そういえば今日はかがみ達がお見舞いにきてくれるんだった。
 私は、肝心な事を今の今まで忘れてしまっていた。
 このまま外で待たせていても悪いので、
ひとまず中に入ってもらうことにした。

「入っても大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。 少しは落ち着いてきたとこだから。
 それに、鍵とかかかってないし」
「そう? それじゃあ入るわよ」

 そう言って、静かにかがみが部屋に入ってきた。
 私は、ぐっと上半身を起こしてかがみを出迎えた。

「お~っす、色々大変だったみたいね~」
「そうそう、ここ数日は酷い目にあったよ~」
「ふふ、思ってたより元気そうじゃない。
 それじゃあ、お見舞いの花でも添えますか」

 そういうとかがみは、おもむろに花束を持ち出した。
 ……綺麗なバラだった。 赤いバラに白いバラが添えられていて、
その本数は、パット見じゃ数え切れない程だった。

「かがみが!? 私に、お見舞いのバラっ!?」
「言っとくけど、たまたま思い出したから買っただけだからな~。
 ……それじゃあ、ここの棚の上に飾っとくわね」」

 しかし、そういうかがみの声は、完全にうわずっていた。
 やっぱり生粋のツンデレなんだろうねぇ。 さっすがかがみん!
 と、そんな考えを巡らせている間に、私はある事に気が付いた。

「あれ? ねぇねぇ、今日はかがみだけでここに来たの?」

 そういえば、いつも一緒にいるはずのつかさがいなかった。
 ちなみに、みゆきさんは明日お見舞いに来てくれると、
事前に連絡があったのを思い出した。

「うん、私だけよ。 つかさも一緒に来たかったみたいなんだけど、
あの子、先生に提出しなきゃいけない物が多いらしくてね。
 だから、日をずらしてお見舞いに行くってさ」
「ふ~ん、そうだったんだ」
「それにしても、大分参ってたみたいね。
 髪の毛とか大変なことになってるわよ」

 そういうとかがみは、手ぐしで私の髪を整え始めた。
 私の髪の毛にかがみの手が均等に絡み、
よれよれになっていた髪が、少しずつ真っ直ぐになっていく。
 そんな中、私はかがみの手に『違和感』がある事に気づいた。

「あれ? かがみ、どうしたのその手……」
「え? ああ、この右手のこと?」

 よくみると、かがみの右手の指の人差し指や中指に、
丁寧に絆創膏が巻かれていた。
 そして、絆創膏をしているかがみの指が、
やたらと痛々しくみえた。

「どったのかがみ? ケガでもしたの?」
「まっ、まあね。 さっきのバラのトゲがちくってきただけよ。
 そんなことよりも…… はい、休んでたぶんのプリント。
 つかさから預かってきたわよ」

 次の瞬間、何枚もあるプリントが私の目の前に現れていた。
 だけど、今こんなもの見たらますます熱が出ちゃうじゃないか~。
 ……という風に突っ込みたくなったけど、寸前で思いとどまった。

「あっ、ありがと」
「お礼なら、つかさに言った方がいいんじゃないか?
 ……それより聞いてよ、つかさがね~」
「えっ、なになに。 どんな話なの?」

 その後、私は熱のことなんかそっちのけにして、
かがみと、とりとめのない話をし続けた。
 家の事、生活の事、趣味の事。 とても楽しい時間だった。
 そして、数十分の時が過ぎて――

「またあれが臭くってさ~」
「だよね~。 ……ふ、ふわ~あ」
「こなた? もしかして眠いの?」

 かがみの言うとおり、私の頭の中は眠気という勢力によって、
制圧されかけていた。 熱も下がりつつあるみたいだったから、
今の内にぐぅ~っと寝て、一気に体力全快だぁ!
 という風な事を、私は寝ぼけた頭で考えていた。

「う、うん。 なんだかすっごく眠いんだよね。
 だから、少し寝ることにするよ」
「そっか。 じゃあ私は一旦外に出てよっと。
 それじゃあ、お休み~」 
「うん。 お休み~」

 私の言葉を聞き届けたかがみが、
そっ~と部屋から出て行き、再び私の部屋は静かになった。
 その直後、静寂と眠気の挟み撃ちにあった私は、
いつも以上に深い眠りについた。

 ……

 …

 ――どのくらいの時間が経ったんだろう。
 私は、まどろみの中でそんな事を考えていた。
 ふと気づくと、まぶたの裏側が眩しい程の赤色の光に染められて、
幅広く全体を包み込んでいた。 どうやらもう夕方らしい。

(もうそろそろ起きなきゃね…… お腹もすいたし)

 私は、閉じたままの眼を開けようとまぶたを動かした。
 そして、開けてきた視界の中に、誰かの顔の輪郭が浮かんできた。
 その『顔』は、とても優しそうな表情をしながら、私を見つめていた。
 なんだか、とても懐かしい感じがした。 そう、それはまるで私の――

「お、お母さ……」
「あっ! ごめん、起こしちゃった?」

 目の前にいたのは、かがみだった。
 布団の脇から、見下ろすように私をのぞき込んでいる。

「わっ、かがみ? てか、顔近いよ」
「ごめんごめん。 寝顔が面白かったから、つい……」

 そういうとかがみは、ほっぺたを赤らめて顔をそらした。
 横を向いたままのかがみが、ちょっと可愛くみえた。
 そんなやりとりをした直後、忘れた頃になる目覚ましのように、
私のお腹が『ぐ~』という大きな音を出していた。

「あっ……」
「ふふっ。 こなた、お腹空いちゃってるのね。
 ちょっと待っててくれる?
 今、いいもの作ってきてあげるわよ」
「えっ? ん~、それじゃあ頼んじゃおっかな」
「りょ~かい。 すぐ戻ってくるからね」

 足取りも軽やかに、かがみが部屋から出て行った。
 そんなかがみを見送った私の頭の中に、
 突然大きなハテナマークが出現した。

「あれ? いいものを『作る』って言ってたけでど、
 かがみって確か料理が……」

 得意じゃなかった様な気がする。
 そんな疑問が、私の中にわき上がっていた。

「おまたせ~」

 十数分後、かがみが小さな鍋とレンゲを持って戻ってきた。
 鍋からは、白い湯気が立ちこめ、美味しそうないい匂いがした。
 そして私は、その鍋の中身を確認して、思わず声をあげた。

「え? これって、雑炊…… なの?」
「なに言ってんのよ、アンタは。
 これが雑炊以外の何に見えるってわけ?」

 かがみが言った通り、それは間違いなく雑炊だった。
 だいこんやにんじん、ほうれん草が綺麗に添えられ、
小鍋いっぱいに敷き詰められていた。

「だって、かがみって料理が……」

 そう私が言いかけた所で、かがみの動きが止まった。
 そして、小さな沈黙が続いた後、かがみが口を開いた。

「そう言ってくるだろうと思って、ちゃんと事前に練習したのよ。
 ま、ここまで人並みに作れるようになるまで、
 大分苦労しちゃったけどね」

 その直後、かがみは右手に貼った絆創膏を、じっと見つめていた。
それを見た私は、ようやく絆創膏の意味を理解した。
 あれは、バラのトゲのせいなんかじゃなかったんだ。
 私に、これを作る練習をした時に……

「……」
「どうしたの? 急に黙っちゃったりして」

 かがみが、怪訝そうな表情をして私を見つめている。
 私は、一つの決意をした上で、小さく言葉を紡いだ。

「あれさ、ずっと前にかがみがカゼひいてさ、
私がお見舞いに行った事あったよね」
「うん、そういえばそんな事あったわね」
「でもさ、私って全然ダメダメだったよね。
 あれじゃあ、ただ遊びに行っただけじゃん」

 それは、一種の自己嫌悪。 かがみがあんなに苦しんでいたのに、

何もお見舞いらしい事もしないで、ただしゃべってばかりいた。
 結局、『こういう時でも好きな物はよく入るものよね~』
といってアイスを頬張るかがみを見ているだけだった。

 そんな私を見ていたかがみが、一瞬クスリと笑った。
 ふと、かがみは持っていたレンゲを鍋の中へ置き、
小さく息を吐いた後、おもむろに口を開いた。

「バカッ、何言ってんのよ。 こなたらしくないじゃない。
 私を心配してくれてたから、お見舞いに来てくれたんでしょ?」
「かがみ……」
「それに、そんなこと言う暇があったら、いっぱい食べて、
 たくさん寝て、早く元気になりなさいよ。
 でなきゃ、張り合いがないじゃない」

 そう言っているかがみの顔は、とても嬉しそうだった。
 そんなかがみを見ていたら、急に視界がぼやけてきた。
 大粒の涙が、ほっぺたを伝って流れだし、
私の中にある色々な想いが全て混ざり合っていく。

「うっ、ぐすっ…… ありがとね、かがみぃ」
「なに改まっちゃってるのよ。 
 それよりほら、早く食べよ。 少し冷ましてあげるから」

 かがみは、再びレンゲを手にとると、ゆっくりと鍋の中身をすくった。
 そして、レンゲに息を吹きかけてから、ゆっくりと私の口に運んでくれた。
 その時食べた雑炊の味は、かがみの想いと私の涙が溶け合って、
とても美味しかった――

 ……

 …

「……そんな事があったって訳よ」
「へぇ~。 私がレポートとか書いてる間に、
 そんな事があったんだぁ」
「全く…… 包み隠さずしゃべっちゃうなんて、、
アンタも口が軽いのね~」



 残暑も厳しい晴れ空の下に、私たちの声が反射する。



 ――あれから数日後、私のカゼはすっかり良くなっていた。
 そして、久しぶりに『大学』のキャンパスを一緒に歩くつかさ達に、
あの日の出来事のの詳細を話したのだった。



「いや~、全部話したらスッキリしたよ。
 これにて完全回復! って感じだね」 
「アンタも気楽よね~。 単位落としても知らないわよ?」



 私たちは今、晴れて大学二年生。
 高校三年生の時に、つかさやかがみ達と一緒に猛勉強したおかげで、
都内にあるそこそこのレベルの大学に、三人とも合格することが出来た。
 私とつかさは同じ学部、そしてかがみは法学部にそれぞれ進学した。
 そして今は、大学の近くのアパートで一人暮らしをしている。



 ……そんな事を考えている内に、一つの謎が浮かんできていた。



「ねぇ、かがみ。 ちょっとばかし質問が」
「えっ? 何か言いたいことでもあんの?」
「かがみってさぁ。 確か他の大学にもたくさん合格してたハズなのに、
 何でここの大学に進学したのかな~。 ……ってな疑問が」 
「ええっ!? あ、いや。 それは、その……」



 私の発言に完全に動揺したかがみが、
髪を乱しながら手をブンブンとふって顔をそむけた。
 そんな感じであたふたするかがみを見るのも久しぶりだった。
 すると、私の中にいつものキレが戻ってきていた。



「おやおや~、顔が赤いよかがみん。
 熱でもあるのかな~?
 それとも、影の努力の結晶である『右手』の傷が……」
「う、うるさ~い! そんなんじゃないってば!」
「お、お姉ちゃん。 落ち着いて~」



 あ、なんか懐かしいなぁ、この反応。
 やっぱり、普段の私たちはこうでなくちゃ、
『張り合い』がないもんね~。



「こ~な~た~!」
「わっ、かがみが怒った~」
「こらぁ! 待ちなさ~い!」



 ちなみに、その後のかがみいわく、この時顔が赤かったのは、
本当に熱が出ていたせいだったらしい。
 そして数日後、私はかがみのお見舞いをする事にした。
 赤と白のバラと、ありったけのアイスを抱えて――





『お見舞い(2009年版)』    完


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コメント:
  • GJ! -- 名無しさん (2022-12-16 02:45:11)
  • ふふっ

    前のをちょっと変えてたのですね。

    でも、良かったですよ! -- uu (2010-01-14 22:10:56)

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