初デート

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一週間前、隣のクラスの男子から手紙をかがみが受け取っているのを見た。
くわしくはよく知らない。けれど、ため息がその後増えたってことぐらいは知っていた。


青と黄色が目立つお店の看板が、お日様のひかりを浴びてぴかぴか光っていた。
私は今日の戦利品(臨時収入があったので今日は少し多め)を両手いっぱいに抱えて
うす茶色の階段をうきうきと、それでも慎重に1歩1歩おりていく。
後ろをふと振り向くと、付き合ってくれたかがみが今日買ったばかりのラノベの最新刊をぱらぱらと捲っている。

「階段なんかで読んでると、つまづくよ?」
「・・・わかってるわよ。」
「もー、せっかちなんだから。かがみは」

まー、気持ちは分からんわけでもないんだけどね。最新刊は気になるもんだし
からかうつもりで少し意地悪く笑うと、かがみはふん、と罰が悪そうにぱたんと本を閉じた。
閉じられる間際のラノベが立てた音はすこしつめたい。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

で、そのまま沈黙。ふう。
なんだかね、こういう空気は好きじゃない。言葉での説明は難しいんだけど一番近くて簡単な言葉は気まずい、だと思う。



かがみは私があの現場を目撃した事を知っている。話が終わった後、ぼけっと見ていた私の目と彼女の目とが合ってしまったのだった。
しょーがないよね、私はあわてて目をそらしてしまった。しばらく経ってちらりとかがみを見たら、あっちも気まずそうに目をそらしていた。
そんな感じのかがみを見たら、なんであろうと突っ込むのが私の習慣であり本分、そして逃れられぬ運命!
・・・・だったはず、なんだけど。口についてでたのは『よかったじゃん』というふつーの7文字。
でもそのときの夕日に照らされたかがみの顔が忘れられない。
そのくらい、あの7文字はあんなにもおもく、放課後で騒がしいはずの廊下に凛とひびいたのだった。



それから、私たちはふたりになると大抵こんな感じだ。気まずい。
それでいてなお、ふたりだけになりたがってもいるのか、一緒にいる機会は増えていった。
聞きたいことがたくさんあるのに、なかなか聞けないってのはもどかしかった。
なんか痒いところに手が~って感じで。
けれど、それよりも断然心地良い気分も味わえるから、私はかがみといたがるのかもしれない。
そんな彼女は私にとってとても良いともだちで、
それならば、かがみのことは黙って見守るのが最善なんだろう。



なのに



私は、そうしたくなかった。




理由なんか知らない。あ、その男子のことを私も好きだった。とか、そういうのはないから。名前知らないし。
『どうするの?』とか、まじめな話は嫌だからおちゃらけて
『今時ラブレターかあ、萌えの基本だね!女子だったら☆』
そうふざけてもいい。とにかく私の知らないままこのことが終わるのは嫌だった。
嫌ということばには語弊もあるかもしれない。
こう、複雑なんだけど。体じゅうになんだかどろっどろした黒いものが蔓延していく感じ。
どうすれば溶けて消えてしまうのか。私はバカだから分からなくて、たまっていくばかりだった。
最近はかがみのつくため息にさえ、それがどこかから沸いてしまうのだから重傷だ。



「かがみがハッキリしないからダヨ・・・。」
「は?・・なんか言った?」
「別に~~~~☆」



怪訝そうにわたしを見つめるかがみにふっと嘲笑を送って、とりあえず怒らせておく。
怒らせる理由?ないけど、そんなん☆←しつこい
ええっと、そんなことより話題だ、話題。
なんにも話さず無言でいるなんて他人みたいだし。一緒にいる意味ないよね。
黙って意思疎通しあえる人はいいけどこっちはそうもいかないんだ。
きょろきょろ、話題を探す私の目の中に入ってきたものといえば



「可愛いよね」
「えっ?」



ラノベの表紙・・・そんなんしか無かったんだヨ~。
ぶつぶつ文句を言っていたかがみは良く聞こえなかったみたいで
何?と聞き返す。
せっかく話題提供したのに!と私は少しいらだちながら



「だから」



それ、という意味でかがみの持っているラノベを指でびしっと指し示す。


「かわいーな、と思って」
「ええっ!!!?」



突如、かがみが変な大声を上げた。
かがみの手から落ちたラノベが階段をばさばさと転げて私の足元まで落ちる。
「ほえ?」
唖然とする私。え?なにかしましたっけ。かがみは真っ赤になって落ちたラノベを見つめていた。
口を大きく開けて、あうあうとたまに小さく動かすかがみを、私は不思議そうにじっくり眺めた後、
小さいビルおよそ3分の1階分を落下して少し可哀想な姿になった新品の本をのろのろと拾って、はい、と差し出した。
頭ではまだなにかしたっけと、先ほどまでの行動を繰り返し思い出している。うーん?
かがみもかがみでわれに戻ったのか、「お、おう」と平然とした態度を作って受け取った。
でも、顔はまだ赤い。そんで私はその理由をしらないから、たぶん赤くはないんだろうと思う。
だから、この理由はしらなくてもいいかなとしばらくして考え付いた。




こんな事があって、行けども行けども沈黙の道は続いている。終わりは必ずあるけども、けものみちより辛いよ。精神的に。
せっかく話題を提供してあげたのに、そりゃないんじゃないですか?とかがみのことを少しうらんだ。
じと目を送っても、彼女はまだ引きずっているのか耳を赤くして、私のほうを向こうとしない。むかり。
じゃ、困らせてやろう。と、馬鹿なことを考えた私は意地悪のつもりで



かがみの腕にぎゅっと抱きついた。
瞬間、かがみの肩がびくっとなった。驚いたかがみはほんのり赤くしていた顔をもっと上気させて、
ていうか煙吐きそうなぐらい真っ赤にして、私に噛み付いてきた。



「にゃ、なによ・・・・っ。」
「(・・・・今噛んだ)ねえ、かがみ。」
「なに?」



「さっき階段でなに考えてたの?」



最高の笑顔(嫌な意味で)で言おうと思ってたんだけど、変だな
私のいやらしくゆがんでいるはず瞳はかがみでも、だれでもなく、ただ青い空をうつしていた。
真っ赤なかがみが、う、と詰まる。絡ませた腕がゆらゆらと揺れている。
彼女が腕をはずしたがっているのを感じて、私はさらに力を込めて抱きついた。



「恥ずかしいこと考えてたんだ。」
「なっ!?」
「男だ・・・ぜったい男だ・・。」
「・・・・・こなた?」



くふふ、と笑って言うつもりの言葉が、意に反して、つめたく私の口から吐き出されていった。
はっとしてかがみの顔を見ると赤い顔がだんだん凍りついて。私はあわてて取り繕うけれども
あれ?なんか私必死な人にしかなってないよ?



「こなた」
「かがみさぁ、どーすんの?」



変わっていく顔を見て、私は目をあわせられなくなった。
だって、嫌な顔すんだもん。あの時と同じで、なにか言いたげでまじめな視線。
その顔を見ると、なぜだか胸が苦しくなった。
だから、目線を下におとして今までいえなかったことを私は漏らしてしまった。



「なにを?」



答えたかがみの声は少しうわずっている。
むりやり落ち着かせようとしている声はなんだか少し落ち着いた。



「少し前に手紙・・・もらってたやつ。あれさーやっぱりラブレターっしょ?
やったねかがみ初ラブレターじゃん♪だから・・・さ、少し気になって。
ほんとに少しだけね。や、いまどきラブレターなんてなかなかないしさー☆」

あ、だめだ。めっちゃ、うわずってる。てかどうして手の震えが止まらないんだろう。止まれ止まれ、止まってよ。
どうしても駄目なら、それがかがみにはどうかつたわりませんよう。
どこかには落ちているであろう流れ星に勝手にお願いをしておいた。
どーせ勝手だらけな願いばかりなんだから一つくらい増えてもいいよね?許せ☆
かがみは、私の調子に気付いているんだかいないんだか
一呼吸置いたあとにぽつりと簡潔に言った。

「デートしてほしいんだってさ。明日。」

もっと強く抱きついたなんて、たぶん気のせいだと思う。
それでも、どうしても『良かったね』の一言がいえなくて黙り込んでいた私。


「・・・それで、ずっとお願いしたかったことがあるんだけど」

そんな私の手に手を重ねたかがみの顔を見ることが出来なかったことは、一生の後悔。
そのときはただ、あったかいなと寒くもないのにぼんやり思ってしまった。
真っ赤だけど大真面目な顔をしてかがみは私にひとつだけお願いをした。


「一緒について来てほしいの。明日・・・デ、デートに」


私がその言葉を理解するのにかかった時間、プライスレス。
いや、本当にはかりしれない時間を使った後。わたしは

「は?」

そんな間抜けな声を出したのだった。


デートに突如知らない他人が入るとか、ギャルゲだったらその時点でクソゲー決定
都合の良いゲームではそんなことはほぼ確実に起こらないわけだけれども。
現実でだって非常識だということぐらい、私にだってわかること。

 この日はなんだか曖昧なお天気。あつくも、さむくもなく。
私のもやもやした気持ちをそのまま表したように灰色の雲が太陽をおおっていた。

駅の前、私の隣で落ち着きなく立っているかがみの服は
うちに遊びに来るようなラフな格好なんかじゃなくて、洒落た薄紫のワンピース。
大人びた服装は珍しくて綺麗だったけど
なんとなくいつものほうが好きかな、と思った。

「なんでだろうね」
「え?」

かがみがきょろきょろと回していた目を私に向けた。
その声や目には恐れにも近い不安の色が感じ取れる。よっぽど緊張しているようだ。

「かがみ。そーんな暗い顔しちゃそのワンピースに失礼だよ?
せっかく年に数回しか着ないお出かけ用なのに。はーい、りらーっくす、りらーくす」
ぬふー、そんな息を吐き出しながらわたしが言うと、
かがみは小馬鹿にしたような目で私を見て、けれど案外素直に深呼吸をした。
「……そう言うあんたはまったく変わらんな。ジャージで来ないだけましだけど」
「そりゃかがみのデートだもん。私関係ないじゃーン?」

「…………」

何も考えずに言った言葉にかがみは、数秒固まって、それから気まずそうにうつむいた。
(あ、あれ?)予想外の反応にすこしだけ私がひるんでいたら
忘れものを思い出したかのようにかがみは頬を赤くした。

「う、うるっさいわね」
「……」

とってつけるように言ったかがみ。
わたしはからかう気をすっかりなくして、かがみはかわいいねぇ、と
女子のおきまりのような冗談を返した。

で、また訪れるいつもの気まずい沈黙。
つまらなくて隣を見るとかがみはまたそわそわを取り戻していた。
こんなふうにしているかがみは、たまにあるけど、なんだか子供っぽいと思う。
つかさのお姉ちゃんとしてのかがみも、私の悪友としてのかがみも、今ここにはいない。
子供っぽい彼女は、なんでか少しいらいらするけど、それでもどこかでかわいいと思ってた。でも

……そんなかがみも、いつか彼氏とかに取られちゃうんだね。

頭の中で、私自身の驚くぐらい意地悪い声がささやくように私に告げた。

 近い未来かもしれないその時を想像してみる。相手は同じ学校か。うーん。
いつものように一緒にはお弁当、食べられなくなるのかな。
可愛げのない手作り弁当二人で食べたりして、あーん…は無いか。
帰り道では「さきに帰ってていいわよ」なんて私たちに言って、もじもじと彼を待ってみたり、
私は、つかさやみゆきさんと三人でごはんを食べて、時々色惚けたかがみをいじったりするのだ。
うん、楽しそう。かがみはきっともっとかわいくなって………

考えれば考えるほど私の中には最近おなじみの感情がどろりとこみ上げてきた。
さみしい?憎らしい?悲しい?それともこの感情も嬉しいの一つだったりするのだろうか。
さまざまな感情はどれもこの気持ちにほんの少しずつ当てはまる気がした。
けれどどれもパズルのようにはぴったりと重ならないらしかった。

「………ふぅ」

もどかしさをはき捨てようと深く吐いた息と、緊張した誰かの声とがかさなった。

重なっても綺麗に溶け合うわけじゃないんだよね。
そう何かを諦めたように思いながら、私は笑顔をつくると肘でかがみをつついた。

「がんばるんだよ、かがみ」
「う、うっさい」

腕を動かした拍子に、普段は持ってこようとさえ思わないケータイがポケットから落ちて
かしゃんとなんだかさみしい音をたてた。

「デ、デート?」
「そ、そう!あんたもついてきてって言ってんの!!」
「何言って」
「あんたが行かないなら、あ、あたしも行かないから!」
「は、はあ」

大丈夫だろうか、頭。少しいやかなり心配。

「かーがーみ、落ち着いて」

真っ赤になりながら『ついてこい』と同じ言葉を繰り返すかがみ。
せっかくの休日。ぶっちゃけ他人のデートに付いていくとか有り得ないし。
じゃ、『いかなきゃいいじゃん』って言えばよかったんだよね。
なのに結局は

「…わかった、行くよ。」
「や、約束なんだからね!」
「うぃうぃ」

~絶対に、一人にしないこと!!~
指きりまでして、ご丁寧に約束を取り付けられてしまったのだった。

◇◇◇

 先ほどから小雨がぱらついている。
先ほど遠くに吹っ飛んでいったケータイが、私を呼んで、
いまだに場にそぐわない喧しくて明るい着信音を奏でていた。
そういえば、コレ随分昔のアニソンだ。なつかしい。
ふだん触らないからネ…。もう解約しようかなぁなーんて、

アスファルトに押し倒された私は、かがみに殴られながら、ぼんやり思っていた。

あの、なぜに私は殴られているのでしょうか?そんで
なんでかがみは泣いているんでしょう。

私たちのそばでは手紙の男の子がおろおろとしている。
さっきまでは汚れ一つなく光っていた白いTシャツが彼の鼻血で真っ赤になっていた。
かわいそうに、キレたかがみを止めようとして殴られたのだ。
こんなに騒いじゃって、周りの視線も集めまくったし、
もうそろそろおまわりさんとか来ちゃうカモよ?

なのに肝心のかがみは泣きじゃくって、わたしの胸をばしばし力任せに殴るばかりだった。

「あだっ、いだっ、ぐふっ、ひでぶっ!」

殴られるたびに私の口からお世辞にも上品とは言えない声が漏れる。結構本気で、かなり痛い。
かがみ、悲しいけどねここ骨と皮ばっかりなんだよ!肉とかないの!
どっかのたゆんでぽよんな人みたいにはじき返したりできなああうらやましいなぁ!!って
…そんなこと考えてる場合でもなかった。

「かが」
「嘘つき!」

名前を呼ぼうとした私の声をかがみが叫んで掻き消した。
どこのキャラよ。かがみ。確かに最近はやってるけどさ。
冷ややかな軽蔑にちかい視線を送るけど、かがみは殴る手を休めない。

「だから痛いってば!どしたのかがみ!!?」

かがみがひどく興奮しているから私は少しだけど冷静にいられのたかもしれない。
けど、手に負えなくなったかがみに心の中では怒ってる。これでも
だって今日はボロも出さず良い友としてふるまっていたハズ。
休日にわざわざやって来てだよ?バカみたいに空気読んで茶化してみたり、むしろ超偉いほう。
嘘だって吐いてなんかないのに…「こなたの嘘つき!!」

「………はぁ?」

何それ?
あまりの理不尽に対する怒りは爆発寸前。
冷静さなんてどこかに掻き消えてしまいそうだった。そして

「約束破るなんて、人じゃない!!!」
「……なにがじゃああああ!!!!!」

かがみのその一言がきっかけで限界突破した私たちは
通報でやって来たおまわりさんが数人がかりで止めてくれるまで
往来のど真ん中での大乱闘をやってのけたのだった。

そもそも、私は思っていたより優しいじゃないかと、デートの間自画自賛していたくらいだ。
相手の男の子は結構カッコ良かったし、数十分だけいっしょにいただけだけど

かがみのこと、ほんとに好きなんだって分かった。

かがみへの細かい気配りが、第三者の私から見てもわかるもん。
あ、ちなみに私のことはかがみが伝えてなかったみたいで驚いてた。
最初は気まずそうだったけど打ち解けてくれて、いやー逆にほれぼれしちゃいますねーっ
って感じ。すごくいいひとなんだ。このひと。
かがみもかがみでさっきまでとはうってかわって時間が経つほど
どんどん気楽に話すようになってたし、これならオッケー?
私は彼らを茶化しながら、こっそり協力者にメールで合図をした。

「い・い・よ……っと。」

バイト先の子から嘘のヘルプをもらって、さっさと帰るぞ☆作戦。
合図をすると約束通りすぐに彼女は電話をかけてきてくれた。
大きめの着信メロディに、かがみたちが振りかえるのを確認したら
通話ボタンをおして、作戦開始。

「もしもし?」
「……どうしたんですカ?」

向こうの第一声は随分といぶかしげだった。


「は?」
「イヤ、声が…まあいいか、あの、スグに来てくだサーイ」
それから私と彼女はそれっぽいことを適当に話して電話を切った。

「こまったねー」

わざとっぽく顔も顰めたりして、本当に大変なのだと言葉以外でも伝える。
でもいまいち話を理解できなかったらしい彼らに、こほんと咳払いをして事を説明した。

「バイト先が大変なんだってさ」
「こなた?」
「私じゃなきゃ駄目って言うんじゃ、しょうがないよね?」
「……え」
「ごめんね~、じゃ、あとはふたりでよ・ろ・し・く~♪」

にやりと笑うと、男の子の方はなに考えたのか、真っ赤になった。
……がんばれ、少年★上手くいったら一回ぐらい殴ってもいいよね?
かがみはなんだか良くわからない表情で、ぼーっと私を見つめている。
「……それじゃ」

私は彼らに背を向けると、そのまま振り向かずにまっすぐ歩いた。
こっち側は駅じゃないけど、問題ない。どうせ、これからは暇なんだから。
そこらへん寄った後、家に帰って寝よう。その後ネトゲだ。うん。

「私って……けっこーいい人だったり?」

歩き出してから数十歩ぐらい。私の口はひとりでにそんなことをつぶやいた。
雨が一粒ぽつりと鼻に当たる。


「これもなかなか良い萌え要素……いやはや、また需要が上がっちゃうネ☆って誰のだよ!」

かがみが、突っ込みを入れるはずのところを自分で突っ込む。
かがみのあきれ顔が瞼のうらにきれいにうつった。あんたにはついていけんとため息をつく。
また、雨がぽつりと当たる。こんどは2、3粒同時に。

「………やだな、一雨くるのかなぁ。人気者が風邪ひいちゃだめ…だよねえ?」

ぽつ、ぽつ、ぽつ。雨はどうも続くらしい。
かがみの呆れ顔が、ぐにゃりとゆがんだ。目がどうにも痛い。
まばたきをし忘れていたことに、ふと気がついた。


「…………駅のほう向かって帰れば……よかった…かなぁっ」



どうしようもなく胸がつまって泣きたくなった。とても、息がしづらい。


「……………っ」


私は自分でもなんて言ったか分からないほどの短い言葉を、無意識にそしてちいさくつぶやき、
もう見えないはずの姿を見たくて、今更後ろを振り向いた。


刹那、ゆがんだ風景にうつったものは握りこぶしを作って私に突進してきていたかがみの姿だった。


景気よく空中にふっとばされた自分の体が地面に落ちるまで
私は殴られたんだとも思いつかなかったし痛いとも感じなかった。
別の感情で胸がいっぱいになったのだ。

…私としてはこんな気持ち認めたくもない、しかもすぐ怒りに変わったし。
その上ほんの数秒の間だけだった。
なのに私はあの時たしかに、



「かがみ…?」



からだの全てで嬉しいと感じたのだった。

こってり絞られたあと警察からようやく解放されて、降り始めからは大分時間がたったというのに、
まだ雨は止む気配もなく、ぱらぱらと降っていた。
罪のないあの男の子は早めに釈放された、いや、本当に悪いことしたなって。
彼は警察のいた間、ずっと泣きそうな顔でうつむいていた。



傘なんて持っていないのに、濡れながら二人で歩いた。
雨のつめたさを紛らわせるためにどちらともなくつないだ手があったかい。
殴りあったトコは痛いし、泣いたせいで目は真っ赤、おまけに濡れてびしょびしょで、なのに
心はひどくかるくなったんだから不思議だ。怒鳴ったからかな?
ドロドロしたものが消えて、新しい、やさしい気持ちが入り込んでくる。



「なんかさー」
「うん?」
「寒いって感じるの、久しぶりダヨ」
「そーねー、夏ももう終わりか」
「うん」
「でも」



かがみが、私の手を少し強く握る。



「あんたの手はあったかいわね」



そうして優しく、嬉しそうに私に微笑んだ。
私の体はあったかいを通り過ぎて、かあーっとあつくなっていく。



「うん、ぽかぽかする」



でもそれがなんだか気恥ずかしくて、
私も少しだけ握る手のひらに力を入れた。




しばらくそのままだったけど、かがみの白っこくて細い指を見ていたら
私はふといいことを思いついた。



「かがみ」
「こなた?」



私は不思議そうなかがみの正面にさっとまわると、彼女の左手の小指と
自分の小指とをゆっくりと絡ませた。うん、これでよし。
かがみはよくわからずに、え?え?と焦った声を出している。
私は息をおおきく吸い込むと思いっきり声を出した。



「ゆーびきーりげんまん!うそついたらはりせんぼんのーます!!」



かがみも一緒に歌ってよ!
そう笑顔で言うと、目をまるくしていたかがみは私につられて笑顔になった。



「「ゆびきった!!」」



 こんなに楽しいことも最近なかったなぁ。ひさしぶりに私は子供みたいな大声で誰かと笑いあった。
かがみは、まだ絡ませている小指をどこかいとおしそうに眺めて、
(そんな目で見ていることがなんだか照れくさくて)体を火照らせた私に聞いた。
「でも、なにを誓うのよ」
「約束だヨ!」


~絶対一人にしないこと!~


「あの約束、破っちゃったから」

約束を二度と破らないって約束。
ごめんね、小指を絡ませたかがみの左手を私の右手でそっとつつんでそう言うと、
今度はかがみが何故か真っ赤になったあと、

泣きそうな顔で、けれどきれいに笑ってみせたのだった。


「それが、かがみと一番はげしく喧嘩したときの話」
「それって付き合う前の話?あとの話?」
つかさが眠そうな目を時たまぱちぱち瞬かせながらぼんやりと私に聞いた。
もうだいぶ体がソファに沈んでいる。このソファ気持ちいいもんね。今日は時間も遅いし。



私たちは今、かがみの帰りを『私たち』の家で待ってるところ。
「二週間後に告白されたんだよね」
私はかがみの大切な赤ワインをガラスのコップについでちびちび飲みながら。
かがみのベッド下にあったアレでナニで薔薇っぽい本をぱらぱらめくった。
「色々あったんだけどその話も聞く…?ってかがみ、おかえり~☆」
「おかえり、おねーちゃん」



ドアの開く音に振り向くと、話のメインヒロインが面白い顔をして
私の傍に丸まっている彼女の双子の妹を見ていた。
「ただいま…って、なんでつかさがここにいんのよ……」
「泊まりにきたんだよ~」



つかさは「おどろいた?」と寝ぼけ眼でにこにこしている。
「ふうん」
かがみはかわいい妹の用意したちょっとしたビックリが嬉しかったのか、
いつもよりは上機嫌に上着を脱ぎ捨てた。
つかさも姉を見れて満足なのかしあわせそうに眠りの世界に落ちていった。

「……むぅ」
その様子に少しだけやきもちをやいた私はたった今電源の切れたばかりのつかさの頬を
人差し指で起こさないように軽くぷにぷにと突く。
「つかさはかわいーよねー。たべちゃいたいくらい」
酔ったふりして、ふふふとやらしー笑みをこぼすとかがみが露骨に嫌な顔をした。


「……つかさとなにしてたの?」
「今はかがみの初デートについて語ってました☆!!」
「何話してんのあんた!!?
てかつかさの前でそんな本読むなぁぁああああ!!!!!」
「ちなみに朗読会はすでに終わった・・・」


野太い声で言うと、かがみは全て終わったかのようにまっしろな灰となった。
まあまあ、と私はピンク色の本を放って、疲れきって座り込んでいるかがみに抱きついた。
「あんたといると疲れが取れる気がせん。離れろ。ついでに暑い」


「うぐ、つれないこと言うネ。
昔はあんなにかわいらしかった私の嫁はいったいどこに!?
初デートらへんのころはよかったなぁ!!かがみ→→→私って感じで!」


ふぅー、と悲しげに言ってみせると(気分は悲劇のヒロインだ。)
かがみがあんたなにいってんの?みたいな呆れ顔で言った。
「……あんただって、あのときは私のこと好きだったでしょ」
「へ?」
思わず気の抜けた声が出た。あれ?
好きだなって気持ちが芽生えたのは告白された時からのはず。
「……初デートの時はともだちだったヨ?」

あのどろどろした気持ちは、親友が遠くに行ってしまうかもしれないと思ったときの寂しさだ。
そう言うとかがみはきょとんとした後、とても愉快そうに笑った。
今度は私がきょとんとする番だった。

「さすがにそんなあやふやなのに告白なんてしないって。リスク高いのに。
あのデートはあんたが、わたしのこと好きだって確認するためにOKしたんだから」
かがみは笑い過ぎでこぼれそうになる涙を指で押さえながら、勝ち誇ったようにそう言った。

「え、ええっ!?」
「あんたさ、待ち合わせ場所に来たときからずーっとすねた顔して私の後ろについて来るんもんだから、
これはいけるかな、って大分自信持ったときに限って帰ろうとするじゃない?…がんばれ…とか言うし…。
振り向きもしないでちっさくなってく背中見てたら『なんでよ!?』って……なーんか腹立ってきちゃってね」

思わず殴っちゃった、と笑うかがみさまの顔はとっても輝いてました。
あれ?友達…ともだちじゃなかった?でも、友達だけどなんかイライラしたような、
私の余裕がだんだん無くなっていく。あれ?あの時から私………かがみのこと?
私は開いたままふさがらない口をぱくぱくさせて言う事を捜したけれど、
こんなにも卑怯で、ずるくて、ツンデレで、ダイエット下手で、そんでもって

「…………むぅ」

本当に私のことが好きな、この策略家にはろくな反撃を思いつかなくて、

しかたないからくっついていた体を離してそっぽをむいてやった。
かがみのくすくす笑う声が、真っ赤になった私の耳になんだかくすぐったい。

「それじゃ、あの人本当に可哀想だよ」
「でも、そのおかげであんたがいま私のそばにいるならいいわ」

勝手だよ、そんなの。口を尖らせて言うとかがみはそうね、と苦笑いした。


私は、今どんな顔をしているんだろう。もうよくわからないや。
恥ずかしいし、むかつくし、あの子にごめんねって気持ちもある。
でも、もやもやした気持ちの中には幸せって気持ちのカケラがしゃくだけどやっぱりあって、

そんな私をかがみは変な顔と評してから、いつもより優しいキスをした。

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コメント:
  • 最高のこなかがSSですね -- 名無しさん (2010-01-28 22:28:07)
  • gj
    -- 名無しさん (2009-12-20 04:03:18)
  • これ良い・・・てか最高!! -- kk (2009-12-19 21:16:53)
  • まだ出始めなのに上手いですな… -- 名無しさん (2009-12-19 19:44:07)

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