かがみの誕生日

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玄関のチャイムを鳴らすとすぐに、「いらっしゃい」という言葉と共に扉が開いた。
私にとっては、もはや慣れ親しんだ場所で、友人の家に上がりこむときの特有の高揚感というものは感じられなかった。
「ハッピーバースデー」
と、お決まりの文句が私の第一声だった。親しい仲に改めて誕生日を祝うというのはどうも小っ恥ずかしく、
ちょっとした冗談も思わず添えてしまったのだが。
「お誕生日おめでとうございます」
一緒に来たクラスメイトもお決まりの挨拶をした。普段どおり礼儀正しく、なのに初々しく。
「おお、サンキュー」
ほら、そうしたらさっき私の冗談で怒っていた顔が、ふわりと柔らかくなって、私には滅多に見せてくれない
可愛らしい笑顔を隣に向けてしまうのだ。
こういうことになるのは分かっているのに……私はいつも素直になれないのだ。
目の前で微笑む私の大好きな人は、しかしその笑みが私に注がれることはなく、それに嫉妬してしまう自分が
本当に嫌になる。
「これ、つまらない物ですが」
ドロドロとした嫉妬にも気付かず、やんわりとした微笑を讃えながら、彼女は更にプレゼントの入った紙袋を手渡した。
あまり表情は変らなかったが、しかしいつも見つめている私には分かってしまった。彼女からのプレゼントに
本当に喜んでいることを。
そして私はまた彼女を恨めしくまた羨ましく思ってしまう。
ドロドロ。ドロドロ。ドロドロ。どす黒く、粘性の強い溶岩が体の中を流れていくような感覚。強い、独占欲が、
私を、支配して──
「……ッ」
冷や汗がつーっと流れた。また、やってしまったと思った。
私はそんな邪まな感情を拭い去ろうと、平静を装ってプレゼントを渡した。
やはり、あまり喜んではもらえなかった。私の想い人は、センスや趣味が私とはまるで違うのだ。
いや、それはきっと言い訳。勇気のない自分への言い訳。
本当はもっと別のものを買ってきていたのに、結局渡す勇気がなかったのだ。
部屋に上がらせてもらった私達は、愛すべき人の妹がつくったクッキーを肴に話に花を咲かせていた。
だけど私は、クッキーを食べてばかりいた。彼女の方ばかり見て話すのにまた嫉妬していたからだ。
なのに、あの人に『他人の誕生日なのだから遠慮しろ』と言われてしまった。
ああ、まったく私の行動は裏目に出てしまう。好かれたいのに、そのせいで嫌われてしまいそうなジレンマ。むしろ恐怖。
でも私はやっぱり意気地なしだから「美味しいからね」などとはぐらかす。
だけど私は一瞬手を止めてしまった。今回は自分も一緒にそのクッキーを作った、などといわれてしまったのだから。
体が、顔が火照るのが分かる。頬が高潮しているのかもしれない。
それはそう、ごく自然な反応。だって、家事が得意というわけでもないのに、私のために作ってくれたかも
知れないクッキー。
・・・・・・・・・・・・
そう、作ってくれたかも知れないクッキー。本当は彼女のために作ったのかもしれない。
「どうしたの?」
またドロドロしたものがこみ上げる。私は咄嗟にごまかすことしか出来なかった。
「そう聞くと、美味しいのとそうじゃないのがある気がするから不思議だよね」
だって、あなたが作ってくれたものに叶うものなどないのだから。
「なんだと!」
また怒らせてしまった。




そうやって憎まれ口を叩いてばかりでその日は終わる──はずだった。



「じゃあ、私はこれで失礼しますね」
おっとりとした足取りと口調で彼女は退室した。
正直、ほっとした。最近彼女といると、嫌な感情ばかり覚えていたから。
「私も夕飯の準備してくるね」
妹もそういって出て行った。
気まずい。お祭りが終わった時の余韻と、やるせなさが混ざったのと同じ感じがする。そして何より、2人きり。
本当はもっと一緒にいたかったけど、その空気に耐えられず、私も帰ることにした。
「じゃあ、私も帰るね」
なのに、私は腕を掴まれた。
「え?」
ドキドキした。私の腕を掴む、その手を通して、鼓動が伝わるんじゃないかと思うぐらいに。
「その……送ってくから」
「ど、どうしたの。珍しいね。というか初めてじゃない?」
多分そんなようなことを言ったと思う。口早に言った台詞は、あまり考えずに言ったので覚えていないのだ。

あっという間に家についてしまった。
始終ドキマギしっぱなしだった私にとっては数分の出来事に思えた。
ガチャッという音をたてて、カギが開いた。
「それじゃ、さよ──」
うなら、と続けようと後ろを振り返り、私は瞬間固まってしまった。
「…………」
・・
そこには、いつの間にか髪を下ろした愛おしい少女がいたのだから。
「あのさ、私ね、誕生日に言おうって決めてたんだ」
彼女が、言葉を紡ぐ。
「私……貴女の事が好きなの。
好きだから照れ隠しに怒って見せたし、好きだから一緒のクラスになりたいと思ったし、好きだから
いつも一緒にお弁当を食べてたの!!」
狂おしいほど愛おしい。だけど届かないところにいたはずの彼女が、そんなことを言ったのだ。
もう、この気持ちを言葉にすることなど不可能に違いない。私はこんな気持ちを表す言葉を知らない。
「私、、、もぉ。私も、好き。大好きぃ」
「う、わ、ちょっと、なんで泣くのよ」
「だって、だって、だって」
嬉しさで涙が出るなんて本当にあるんだ、と思った。
「もお、仕方ないな」
そういって彼女は私をそっと包み込んでくれた。
彼女の手が、腕が、体が、暖かい。丁度彼女の胸の辺りに私の頭が、トンと乗った。
「ぅ……ぐしゅ」
「ほらほら、よしよし」
「うん……」
そっと、そおっと、彼女の手が私の髪を梳いていく。
まるで髪の毛の一本一本まで、彼女に染められていくようだった。



小一時間程たった頃だろうか。ポツリ、と呟いた。
「あたしもう帰らなきゃ」
「ヤダ」
「いや、ヤダって」
「ヤダもん」
もっともっと、こうしていたかった。
きっと一日中こうしていても足りないと思うのに、今だけなんて、耐え切れない。
「今日家に誰もいないから、泊まっていって」
「……わかったわ。まったく、こんな甘えんぼさんだったなんて」
私はその日最高の笑みを浮かべた。



とりあえず戸棚にあった紅茶でもてなすことにした。



今こうして私の部屋に一緒にいること。それだけだったら今まで何度かあったことだけど、今では
私達の関係は全く一転している。
それがとても不思議で、大切で、奇跡のようで、信じられなくて、夢を見ているような私がいた。
「えへへ」
自然と、頬の筋肉が緩む。
「あのさ、本当は誕生日プレゼント、別に用意してあったんだ」
私は、綺麗にラッピングされた小さな箱を渡した。
彼女は、しゅるしゅると紐を解き、箱を開けた。
「コレって……指輪?」
「うん。その、恥ずかしくて渡せなかったんだ」
私とあなたの指輪ですだなんて、言えるわけがなかった。でも今なら言えるから。
「ありがと。ねぇ、目、つむって」
「え、あ、うん」
指が触れているのが分かった。
もしかして、この感触は、という淡い期待が胸を満たす。
「目、開けていいよ」
ゆっくりと閉じていた瞼を開けると、私の左手の薬指に、指輪があった。
「こ、これ……」
「もらったプレゼントをどうするかは私の勝手でしょ?だから、これを私達の婚約指輪にしましょ」
「うっ、うぅ」
「ああん、もう。また泣く」
感無量とはこのことだった。もう、戻れない。私はこの人のことを、本当に愛しているんだと実感した。
そしてもっと、愛を感じたいと思ったのだ。

「ごろぉん」
私はもっと甘えたくて、その健康的な太ももの上に頭を乗せてはにかんだ。
「も、もう、何なのよ」
抗議を述べる顔が、少し赤くなっているのが嬉しかった。
だからなのか、私はとてもいい事を思いついてしまった。きっととてつもなく甘く、淫靡なこと。
「キス、して」
一瞬彼女はびっくりした顔をして、
「いいよ」
と、顔を近づけた。
勿論、唇を合わせるだけで終わるわけもなく、私達はボーっとした頭のまま、互いに舌をねじ込ませていった。
「んっ、くちゅくちゅ」
目の前の可愛らしい目が潤み、とろんとしていた。
「んっ、ぁっ」
そして左手が伸び、私のスカートを捲り、
「私、こなたが欲しい」
「ん……かがみになら。ううん。奪って、かがみ」
そしてその日、私達は初めて肌を合わせた。



「おーっす。こなた」
私達の関係のことはまだ誰も知らない。少なくとも、つかさにはいつか絶対に言わなきゃならないと思う。
だけど、同性愛というのは社会的バッシングを受けやすいものの一つだ。
慎重に、進めていきたい。かがみとの仲を。
「かぁがみぃ~」
でもやっぱり、私は甘えずにはいられない。
2人きりでない時でも、私達の距離は少しだけ変わった。
「ちょっと、くすぐったいって」
人前でベタベタすることも少なくない。
「かがみん、いい匂い~」
私達は大変な道を選んでしまったと思う。でも絶対に後悔はしない。
「嗅ぐな、恥ずかしい!」
これからかがみと一緒に歩んでいけるのだから。


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  • 作者です。随分久しぶりにここに来ましたが、未だに感想を書き込んでくれている人がいるようで、幸せで胸が一杯です。
    本当に有難うございます。
    今はSSを書く機会もめっきり減っていますが、それでも少しずつ書いています。また機会があれば、こな×かがのSSも書きたいです。 -- 1-636 (2012-11-26 02:32:33)
  • いい百合ですね♪ -- かがみんラブ (2012-09-20 12:17:08)
  • ↓レズじゃなくて、百合って言って下さい( *`ω´) φ_ -- 名無しさん (2011-02-23 19:55:40)
  • レズ萌えー// -- 名無しさん (2010-08-22 22:19:39)
  • wwwwwwwwwwwwwwwwwwww -- 名無しさん (2010-08-11 20:33:04)
  • お幸せに… -- 名無しさん (2010-06-17 17:56:45)
  • 二人で幸せを勝ち取ってくださいっ!! -- 名無しさん (2010-04-25 17:21:35)
  • 4話のあの数分間の描写からここまでふくらませるとは・・・
    ゆっくり味わせていただきました -- 名無しさん (2009-11-08 01:13:17)
  • 2人とも・・かっかわいすぎる・・ -- 名無しさん (2009-03-19 13:11:54)
  • 細かい心理描写にドキドキさせられました。
    作者GJ!! --   (2009-03-19 12:32:30)
  • むう…この感動と言うか何かを表せない自分の文才が恨めしいな…
    とにかくすごく良かったですGJです! -- 名無しさん (2008-06-18 13:41:08)
  • 水竜の上ビレ -- 名無しさん (2008-03-24 17:47:43)

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