無題(1-80氏)

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わたしの遥か前方から宙に浮いた巨大な黒い円盤が迫ってくる。
端から端までが視界におさまりきらないほどの巨体は、緩やかな速度で移動してくる。
わたしとの距離は離れているはずなのに、ゴォォという凄い音圧が鼓膜を襲った。
そして、その円盤がわたしの頭上までくるとゆっくりと止まった。その瞬間だった。
その円盤の側面の部分から、無数の白い物体が鳥の大群のように出てきた。



「きたよぉ~、かがみぃ~」



 隣にいるこなたがその物体を見上げながら叫んだ。
その白い群れがわたしたち目掛けて急降下してくる。
最初は角砂糖のように小さく見えたけど、だんだん近づくにつれ、
その一つ一つはトラックぐらいの大きさだということがわかった。



「かがみ、レーザー銃を使って!ただ無闇に機体を狙っていてはダメ。
真ん中に緑色の点があるでしょ。そこがやつらの弱点なの!
AIさえ破壊してしまえば、こっちのもんよ。」



 白いその薄気味悪い物体たちには、こなたの言うとおりそれぞれ真ん中にポツンと
緑色の点があった。他の部分は真っ白だからまるで目玉のようだ。



「って、あんたも手伝いなさいよ!わたしだけじゃこんな数どう考えたってムリじゃないの!」



 空に浮かぶ、大きな目玉の数は10~20はある。



「わたしは地上から迫ってくる敵を排除するっ」 



 空ばかりに気を取られていたけど、確かに地上からはわたしが相手にしているやつの
3倍近い数の目玉の群れがはって歩いてくる。テレビでよく見る軍隊の行進みたいだった。



「じゃあかがみ、任せたよ!」



と言って、こなたはその群れをめがけて走っていった。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよー!」



・・・・数分後。目の前の画面にはGAME OVERという文字が映し出されていた。



「うーん・・・。今回の敗因は、ズバリかがみにある!」



「うっ。」



 隣に座っているこなたが眉をひそめながら、不満をわたしにぶつける。



「だ、だってこのゲーム初めてやったのよ・・・。しかたないじゃない!」



 そう。学校帰りに、こなたが面白い新作のアーケードゲームがあるから一緒にこないか、
と誘われこのゲームセンターまでやってきた。操作の仕方もよくわからないまま、
ゲーム台の前に座らされ、気がついたらゲームがスタートしていた。
そしていつのまにやらこのように負けている。
それで今、こなたから説教を受けている最中というわけだ。なんか腑に落ちない。



「もっと精進して、わたしの足を引っ張らないようにしてよね~」



「くっ、あんたの口から精進なんて言葉は聞きたくないわよ!」



 こういう時だけ、こなたはやたら得意そうな顔する。水を得た魚というかなんというか。



「で、どうする、こなた?そろそろ帰ろうか?」



「うう・・・。もうワンゲームやりたいかも・・・。」



 今日は、みゆきもつかさも文化祭実行委員の用事があるので、
わたしとこなたの二人で遊ぶことになったのだ。
まぁ二人っきりでも、結局、行くところはいつもと変わらないけど。
でも、つかさが文化祭実行委員なんて仕事を引き受けたって言ったのは正直意外だった。
みゆきがやるのはなんとなくわかるけど、つかさはわたしと違って自ら進んで人前に
出るタイプじゃないから、つかさの性格を良く知っているわたしからしてみれば、
ここ最近で一番理解しがたい出来事だ。つい気になって、本人にその理由を
尋ねてみたところ、自分を変えたい、とのこと。
どんな心境の変化があったかは気になるけど、別にそれ自体は悪いことではないので、
変な詮索はせず姉のわたしとしてはできる限りつかさに協力し応援してあげたいと思う。

その時、ゲームセンター特有の騒音の中に、拡声器を通した声が響いてきた。



「今日は9月23日、カップルの日!当店では特別キャンペーンといたしまして、
本日お越しいただいているカップルの方に、二人のあついキスシーンをプリクラで
とって頂きますと、こちらの当店限定涼宮ハルヒフィギュアをプレゼントさせていただきます!
是非、ご参加ください!」



 少し離れたプリクラの機械が何台か並んでいるあたりに、店員が立っている。
その脇には「カップル日キャンペーン」と書かれた小さなホワイトボードが立てかけられていた。



「何よ、カップルの日って。最近、なんとかの日って無理やりこじつけたの多いよね。
あんなんじゃあ、1年中、記念日だらけじゃない。」



と、わたしは笑った。



「げ、げ、げんていっ!?」



 しかし、こなたはわたしの言葉が耳に入った様子はまったくなかった。
勢いよくゲーム用のイスから立ち上がると、非常に興奮した様子でその店員とへ駆け寄っていった。
わたしもその後ろを追ってついていく。



「そのフィギュアがほしいわけ?まぁあきらめなさい。
恋愛とは無縁のあんたの学園生活を呪うしかないわね」



 店員の前で立ち止まると、わたしは意地悪そうに笑って言った。



 無縁ってのはあたしもだけど。ただ別に恋愛に興味がないわけではない。
恋愛もののドラマを見て、そんな世界にあこがれることもあるし、
あたしだって男子に告白されたことはある。でもそういうときは決まってお誘いを断ることにしている。
その理由ははっきりしていた。わたしは、こなたやつかさやみゆきと一緒にいる時間のほうが大事なのだ。
永遠にこのままで仲良くいたい。いつまでもみんなでこうやってつつがない日々を過ごしていたい。
でも、つかさが急に実行委員になったこととか考えると、やっぱり時は刻々と変化しているんだと
実感してしまう。だからせめて今の高校生活の間だけでも、少しでも一緒にいられる時間を
作りたい。これが親友ってやつなんだろう。こんな親友がいるわたしはすごい恵まれていると思う。





「かがみ・・・。ちょっと話があるんだけど・・・。」



 しばらくの間、う-ん、と唸り声を上げながら考え込んでいたこなたは急に拡声器を持つ店員を
キョロキョロ見ながら、わたしに耳打ちをしてきた。それはなんとも耳を疑う内容だった。



『物凄い名案を思いついた・・・。これは世紀の大発見だよ・・・。』



『名案って、何よ?』



 わたしもこなたにつられて小声になる。



『それはね・・・。わたしとかがみが恋人という設定になるの・・・。そうすればあの限定フィギュアが・・・。』



『えっ、ちょっと待ってよ。恋人ってことは、その、えーと、つまりは、キ・・・』



わたしの言葉がしどろもどろになると、こなたは業を煮やしたように、それをさえぎった。



『キスするの。』



息がとまりそうになった。いくらなんでも、それはやりすぎだよ、こなた、と言いたかったが
肝心のその内容を伝える声が出てこない。



『大丈夫。あとで特製パフェおごるからさ。』



『そ、そういう問題じゃないでしょ』



自分の顔が紅潮していくのがわかる。あつい。ふと、こなたの唇を見つめてしまう。



『つかさやみゆきさんにはナイショにするからさ・・・』



『そ、その方が怪しいじゃない!』



 こなたはわたしとキスすることはなんともないのだろうか。いくら親友という関係とはいえ、
友達同士でキスをするなんて聞いたことない。





「店員さん!キャンペーンに参加しまーす。」



と、いつのまにやらこなたは目の前にいる店員に声をかけていた。
えっ、ちょっと。あまりの突然のことでまた声が出ない。



「はーいこちらどうぞー。・・・・んっ?あぁごめんなさいねぇ、お姉さんたち。
今回はカップルのみの特別イベントなんだ・・・。」



 店員はわたしたち二人を交互に目をやると、ちゃんと説明を聞いていたのかといった表情をした。



「だーかーらー、わたしの恋人はこの子ですよ~。ねっ?」



 こなたはわたしに向かってウインクする。



「え、あの・・・」



 わたしも店員も困惑した表情でいる中、こなただけは一人意気揚々としている。



「ということで、失礼しまーす。」



 と、宣言するや否や、こなたはわたしの手を強く握り、強引にプリクラの撮影機の中に連れ込んだ。

『ちょ、ちょっと待ってよ。わたしまだよいなんて言ってないじゃない。それにわたし初めてだから、そのぉ・・・・』



『あたしも初めてだから。さ、ここは初めて同士パーっといこうか!』



 いつもならここで、いけるかーってツッコミしてるんだけど、今の私にはなぜかそれができなかった。
どこかでこの場の雰囲気に飲まれている自分がいた。別にキスぐらいどうってことないじゃん。



 分厚いビニールの仕切りが上から腰のあたりまで垂れていて、外への視界は完全にしゃだんれている。
そのため、騒がしいゲームセンターの中であってもこなたのその息遣いが感じられた。



「変だよ、こんなの!ほらっ、出よ!」



 やっぱりダメ。わたしたちは友達だから。わたしは中に入ってきたときとは
逆にこなたの手をつかんで外に出ようとした。



  その瞬間だった。



こなたはその右手で力強くわたしを自分の体に引き寄せた。



小さなこなたはつま先立ちで背伸びして、わたしと同じ高さまでその顔を近づける。



自分の心臓が速い鼓動を打っているのがわかった。



       トクン、トクン、トクン。



わたしたちの体が触れ合うと、こなたの心臓の音がわたしの右の胸へと伝わってきた。




      そして、わたしの唇とこなたの唇がゆっくりと重なる。




 わたしは抵抗しなかった。というよりできなかった。思考が停止している。
目の前にあるこなたの顔。それだけはわかった。



 その状態のまま、今度は器用な手つきで、こなたの左手がプリクラのスイッチへ伸びる。
カシャッと音がなるのが聞こえた。




「はい、完了!かがみ、ごくろうさま!」



そういうと、こなたはわたしからすっと離れていった。頭がぼーっとする。わたしはなんにも考えられなかった。



「じゃあ、約束どおりパフェおごるから!フィ・ギュ・ア、フィ・ギュ・ア!」



 こなたの声が聞こえてくるけど、こなたはどこかとても遠くにいる気がした。
 まだ、こなたの唇の感触が残っていた。そっと左手を唇へかざす。




 そうか。やっちゃったんだ、わたし。こなたと。


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コメント:
  • 後々ハードルを下げるためのこなたの策略 -- 名無しさん (2013-01-28 06:31:08)
  • やっちまったZE☆
    あぁぁぁぁあああ、わたしもぉぉぉぉおおお!!!!!ハァハァ -- ぷにゃねこ (2013-01-26 17:47:25)
  • やっちゃったぜ♪ -- 名無しさん (2012-10-31 12:59:52)
  • やっちゃった… -- 名無しさん (2010-04-01 14:26:34)
  • ちなみにこちらのプリクラは、一枚五千円からお買い求めになれます。
    お求めになるかたは、こちらにお並び下さい。 -- 名無しさん (2009-12-05 22:11:41)
  • 百合がどうのというより、普通に仲良くて、ほのぼのすりいい話だと思う。 -- 伝説の作家 (2009-07-22 05:42:00)
  • 1スレ目のこの話いいよね。 -- 名無しさん (2009-04-12 23:38:08)
  • かがみの初々しさと、こなたのそっけなさがいいと思います。 -- 名無しさん (2009-02-04 01:25:07)

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