和楽の夜・前半

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「和楽の夜・前半」

――ところでさ、少し離れてるんだけど、ちょっと行った所の神社でお祭りがあるんだって。知ってた?

――とにかく屋台がぎっしり詰まった、長い参道があるらしいんだよ。行ってみない?


見上げた空は深い青に染まり、そこを流れる風が火照った肌を急速に冷やしていく。
突然の寒さに思わず身震いした。
徐々に人が増していった電車と、ぎゅうぎゅう詰めの臨時バスを乗り継いで、今いるのは参道から少し離れたバス停。

「……はぁ、まさか本当に来るとはねぇ」
溜め息混じりに吐いた息は瞬時に白くなり、夜の闇に溶けていった。
その向こうには、

「いいじゃん。楽しそうだよ~」
「まぁ、そうだけどね。結構賑わってるみたいだし」

バスから降りた人々は、ぞろぞろと遠くの喧騒に向かって歩いていく。
友達同士、家族連れ、それに、カップル。
皆足取り軽く、背中から麗らかさが溢れ出しているようで、
その後姿に、心地よい騒がしさを覚えた。

「うわっ、寒っ!」
悲鳴のような声に振り返ると、丁度バスからつかさとみゆきが降りてくるところだった。
てか前の方だったし、私達のすぐ後ろの席に座ってたのに、なんでこんなに遅いんだ?

「すみません。人が多くて席から立てなかったので、最後になってしまいました」
「いいっていいって。みゆきさんの優しさの証拠だよ。
それに引き換え、かがみは人を押しのけてでも降りようとしてたからね」
「誰がそんなことするか! 早めに立っておいて、流れに乗っただけじゃない」

そう言いつつ、反芻するのはついさっきまで乗っていたバス内のこと。
運良く一番最初にバスに乗れて、私たちは前の方に座ることにした。
丁度四人だったし、二人用の席に座るのは暗黙の了解で、
こなたが先頭で、私がその後ろだったから、
必然的に、私とこなたは一緒に座ることになって、
それに荷物を横に置いた都合上、どうしても密着しないと座れない状態になったわけで。
だけど、床に置くわけにもいかないじゃない。仕方なかったのよ。

服越しに伝わってきていた柔らかさが、左半身に蘇ってくる。
べ、別に身体を押し付けてたわけじゃないのよ。
でも、こなたの身体は温かくて、私の身体もどんどん熱くなっていって……。
耐え切れずに、バス停の少し前で立ち上がってしまっていた。

あれは反則だと思う。
こなたとくっついたまま座っているだけで、胸がドキドキしてきて、自然と身体が震えていた。
なんとなく恥ずかしくて……い、いや、とにかく、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
これから境内までの道のりを、屋台を巡りながら歩いていくんだから。
人ごみで溢れているはずだから、ただでさえ小さいこなたがはぐれないように、手でも……

「かがみ、どしたの? そんなぼーっとして」
「お姉ちゃん、置いてっちゃうよ」
「……え? あ、ごめん。今行く」

少し走って、三人に追いつく。
私たちがバス客の中では最後尾のようで、後ろを振り返っても、誰もいなかった。
私たちが、この喧騒と静寂の境界線になってるようだ。
騒がしくて寂れた、不思議な感じ。
どちらでもない今の状態に、微かな焦りのようなものを覚えた。

「でもこなちゃん、こんなところでお祭りやってるの、どうして分かったの?」
「んー、ネットのニュースに載ってたんだよ。ここのお祭りのことが」
「……へぇ、あんたもそんなの読んでるんだ。意外ねぇ」
「失礼だな~かがみは。私だってニュースくらい読んでるんだよ」

言って、こなたはぷくっと頬を膨らませた。
ヤバい、可愛い……。

「あ、あんたの場合、ジャンルが偏ってるんじゃないの?」
「でも、ニュースはニュースじゃない。時事ネタを知るのは大事なんだよ。ね、みゆきさん」
「ええ。私もよく新聞を読んだりニュース番組を見たりしているのですが、
 知識も増えますし、世界の情勢を知ることが出来るので、とても役に立ちますよ」
「ほらね」
「あんたがニュースで知る世界なんて相当限定されてるだろ……」
「私は狭く深くなのだよ」

どうやら私の考えていたことは、こなたに読まれてはいないみたいだ。
でもこうやって普通に会話をしていると、焦燥感もいつの間にか霧散していた。

「あ、見て見て、もう屋台があるよ」
「え?」

つかさの声に前を見ると、暗がりの中に一つだけ、屋台があった。
多分参道に入れずに溢れてきて、ここに店を構えたんだろう。
騒々しさから少し離れた場所にある、賑々しさの中心にあるはずの屋台はまるで夢のようで、不思議な感慨さを醸し出していた。
橙色の光でぼんやりと闇夜に浮かぶベビーカステラの古びた文字。
微かに漂ってくる、ホットケーキみたいでおいしそうな香り。
それはここが祭りの端っこで、私たちが祭りに加わったことを告げているみたいだった。

「ようやくお祭りって感じだねー」
「ふっふっ、甘いねつかさ。ここのお祭りはこんなもんじゃないよ。参道に入ったらもっと凄いんだから」

先を見据えると、暗闇の所々に屋台が点在していて、その奥には参道の活気があった。
さっきよりも大きく、行き交う人々までくっきりと見える。
……あそこに辿り着いたら、一体何が起こるんだろう。


見上げた空は暗い青で、そこを流れる風は今まで歩いてきて温まった身体に快い。
数多くの外灯や提灯、屋台の電球で照らされた道は、明け方のように輝いていて、空までがその光で穏やかな青紫に染められている。
もう夜も更けているのに、いや夜遅くだからこそ、往来する人々は本当に楽しそうで、屈託のない笑みを顔に浮かべていた。

「すごい人だかりね。正直想像以上だわ」

入り口から見た参道は、文字通り人でごった返していて、目に入るのは誰かの頭とテント状の屋台の屋根だけだ。

「ね、言ったでしょ。すごいって。密度で考えたらコミケに匹敵するかもね」
「……あんた、ここに来たことあったの?」
「ううん。今日が初めてだよ」
「憶測でものを言ってたのか、こいつは……」
「予想通りってことだよ。じゃあ、ここで立ち話してるのもなんだし、行ってみようよ」

そう言ってこなたは先陣切っててけてけと、雑踏の中へ歩き出した。
途切れることなく参道へと吸い込まれ、そして参道から吐き出されていく群集。
左側通行の人の波は、一つの循環を生み出していた。
こなたはその流れに乗って、するすると奥に進んでいく。
コミケとかに何度も行ってるみたいだし、こういう人ごみの中を移動するのは得意なのかな。

ともかく早足で追行して、こなたの隣をキープ。
少し遅れて、後ろからつかさとみゆきも追いついてきた。

「こなちゃん速いよー。私とゆきちゃん迷子になるかと思っちゃったよ」
「ごめんごめん。つい周りのスピードに合わせてて」
「というより、あんたが小さくて見失いやすいだけじゃないの?」
「あー、またそうやって人の身体的欠陥を! 私だって気にしてるんだよ……」

俯くこなた。
ちょっとからかっただけなのに、真に受けちゃったのかしら。
あー、どうしよ……。

「……ごめん。で、でも、小さい方が可愛いし、こなたらしいわよ」
「あれ~、かがみ、私のこと可愛いって思ってくれてたんだ」
「え、そ、それは違……」
「励ますつもりでつい本音出しちゃうかがみ萌え」
「う、うるさい!」
「それに、背が小さいのも需要があるし、私は全然気にしてないよー」

こいつ……。
思わず左の拳に力が入るけど、実行には移さなかった。
周りからいじめてるように見られるかもしれないしね。

「あ、ほらあれ、綿菓子だよ」

こなたが指差す先を見ると、大きな機械と、いくつもの膨らんだ袋がディスプレイされた綿菓子の屋台。
そして、というかやっぱり、その袋にはアニメのキャラクターがプリントされていた。

「泉さんは、綿菓子がお好きなんですか?」
「違うわよ、みゆき。こいつは袋が目当てなのよ」
「当ったりー。こういうのって、結構レアなんだよね。アニメが放送されてる間にお祭りに行かないと手に入らないし」
「でもあんたが見てるやつなんてないんじゃないの?」
「何も私は深夜アニメしか見てないわけじゃないんだよ。日曜の朝とか土曜の夜とか、普通の時間帯のも見てるんだから」

こなたは私……私達の方を向いて、
輝かせた目を見開いて、

「ねぇねぇ、皆で綿菓子買わない?」


横一列になって、参道を歩いていく。
割と狭い道路だけど、それくらいのスペースは十分にある。
最初は二人ずつ二列だったけど、綿菓子を買ったときに崩れて、今の形になった。
私は右端で、左側にはこなた。

「ねぇ、みゆきさん、綿菓子って家で作れるのかな?」
「ええ。専用の機械があれば、自宅で作ることも可能ですよ」
「やっぱり機械がいるのかぁ。一回自分で作ってみたいんだけどなぁ、綿菓子」
「バイキング形式のレストランには、そういう機械があって、自分で綿菓子を作れるというお店もありますよ」
「う~ん、レストランか……。お父さんを煽てて連れてってもらおうかな」
「こなちゃん、綿菓子好きなの?」
「大好きってわけじゃないけど、なんかほら、お菓子見てると自分で作って食べたくなる時ってあるじゃない」
「あー、あるある。私もさっき、りんご飴家で作れないかなーって思ってたんだよ」
「そういえばりんご飴って、りんごなの?」
「ええ。串を刺したりんごの表面に、着色して温めた砂糖水をつけたものがりんご飴なんですよ」
「へ~、さすがみゆきさん。でも、割と簡単なんだね」
「こなちゃん、今度一緒に作ってみない?」

ずっと続いていく、料理の話。
私には全くついていけない。
会話の内容は分かるけど、なんと言うか、口を挟めない感じがしてしまう。
料理も出来ない私が入る隙間は、何処にもなかった。
それに、多分こなたが簡単だと言ってたりんご飴ですら、今の私には作れないだろう。

つかさとこなたは、尚もお菓子作りの話や屋台で売ってる食べ物の話で盛り上がっていた。
周りを眺めながら、小さく溜め息を吐く。
何だろう。胸が苦しいような、不思議な感覚が襲ってきた。
お腹が冷たくなってくる。でも逆に熱くなっているような気もする。

こなたはずっとつかさと話してばかり。
隣から楽しそうな声が聞こえるたびに、よく分からない感情が心の中で疼く。
つかさが嫌いなわけじゃない。大切な妹だ。
でも……。
思わず空を見上げた。暗かった。


うー、お腹空いてきたなぁ。何か食べない?
あ、こなちゃん、あのたこ焼きはどう?
お、つかさ、分かってるねえ。やっぱりお祭りといったらたこ焼きだよね。

喧騒。
がやがやと騒がしくて賑やかなはずなのに、それはまるで、高い所に行って耳が変になった時みたいに、やけに静かに聞こえていた。
ずっと遠くから聞こえていた。
自分だけが、この雰囲気から切り離されたかのように。

ここ、金魚すくいってないのかな。
そういえば、全然見当たらないねー。
今は冬ですし、水を使う金魚すくいというのはやってないのではないでしょうか。
そうかー。残念だなぁ。
こなちゃん、金魚欲しいの?
いやー、ちょっとやってみたくてね。

左右に何処までも続いているたくさんの夜店。
歩くたびに、次々と新しい屋台が目に入ってくる。
焼きそば、くじびき、射的、フランクフルト、りんごあめ、水笛、フライドポテト、お面、チョコバナナ……。
どれも明るく、そして活気に満ちていた。

わっ! ゆきちゃん、あれ何?
ええと、ちょっと変わった色をしてますけど、あれはチョコバナナですよ。
チョコバナナ? あれが? なんか黄緑色なんだけど……。
恐らくチョコレートに色をつけてるんだと思います。
うわー、何でも時間が経てば新しいカラーリングが生まれてくるもんなんだね。
でも、あんまりおいしそうに見えないなー。
けど、なんか面白そうじゃん。ちょっと買ってこよ。

小走りに反対側にある屋台に向かっていくこなた。
横から押し寄せてくる人波を、小さな身体を活かしたフットワークですり抜けて、
屋台の前に立って、店のおじさんに話しかけたところで、こなたの姿は見えなくなった。
人通りが急に多くなった上に、小さいからすぐ見失ってしまう。
人の隙間から見えないだろうかと首を動かしていると、不意に何かが目の前に突き出された。

……チョコバナナ。

はい。これ、かがみにあげるね

「え……?」
「一つだけ変なやつがあったから、かがみに買ってあげようかなーって思って。それに、……なんか元気なさそうだったから」

喧騒が近くに戻ってきた感じがした。
自分がまた、祭りに加われたような、そんな気がした。

「あー、いいなー、お姉ちゃんばっかり」
「違うってつかさ。これは、かがみがチョコバナナの誘惑に勝てるかどうかの実験なのだよ」

こなたは自分の黄緑色のチョコバナナを少しかじって、

「ほら、かがみ。おいしいよ」
「……え、ええ、ありがと」

お礼を言って、こなたが差し出してきた串を握る。
その先には反り返ったバナナが刺さり、イチゴ味っぽいピンクのチョコレートが塗られ、そして大量の赤色のトッピングがしてあった。
確かにこのトッピングの量は変、というか異常だ。チョコレート部分がほとんど見えていない。

太るかしら。……これ一本くらいなら、大丈夫よね。うん、きっと大丈夫だ。
一口、食べる。
ストレートな甘さが口いっぱいに広がり、それからバナナの抑えられた甘みが生まれてくる。

「あ、おいしい」
「でも、そのおいしさに比例して、体重も増えていくよ~」
「うるさいわね、これくらいなら平気よ」

また、歩き出す。
チョコバナナを手に持って、時々頬張りながら。

途中、つかさとみゆきはりんご飴を買った。
私たちがチョコバナナを食べてるのを見て、何か甘いものが食べたくなったみたいだ。

……でも。
こなたから、プレゼントもらっちゃった。
それが例え本当に面白半分で買ってきたものだとしても、私は、嬉しい。
それはやっぱり……。

「かがみ、焼きそばがあるよ。一緒に買わない?」
「……あんたまだ食べるの?」
「うん。お祭りとかの時って、不思議とお腹が太らないんだよね」
「あー、そうよね。だからついつい食べ過ぎちゃうのよ」
「かがみの赤いチョコバナナなんて、通常の三倍のスピードで食べられてたからね」
「誰がそんな速さで食べるか! で、私も買おうと思うけど、つかさとみゆきはどうする?」
「私はもうお腹いっぱいだからいいよー」
「私もまだりんご飴が残っているので構いません」
「そう? じゃ、ちょっくら買ってくるね。行こう、かがみ」

こなたに連れられて、反対側の少し先にある焼きそばの屋台に向かう。
こなたの後ろについて、行き交う人々の間を縫って、
ふと、周囲のどよめきが一つ一つ、はっきりと聞こえてくる感じがした。
立ち止まる。

弾む会話を紡ぐ楽しそうな声。客を呼ぶ屋台の人たちの景気づいた声。
鉄板の焼ける音。水笛のか細い清音。
くじ引きの当たりを知らせるベルの音。リズムを刻む足音。
その全てを、何処からともなく流れてくる管弦の音色が包み、混ざり合ってざわめきとなり、
一つの音楽を奏でていた。

……祭りの音。
自然と心が弾んでくるような、聴いているだけで楽しくなってくるような。
そんな気分になる音楽。
私は今、その中にいる。
その中で、楽しんでいる。
楽しめている。

不思議と足取りが軽くなって、
浮き立つ気持ちでこなたの後を追っていく。
ステップを踏むように障害物を避けていきながら。
こなた……。

「あ、私ちょっとくじ引きするよ」
「ん? 何か欲しいゲームでもあったの?」
「いやー、なんというか、お祭りに来たら一回はやっておきたいじゃん」
「どうせ変なおもちゃもらうだけでしょ? ディスプレイされてるゲームなんて当たるわけないわよ」
「もう、かがみは夢がないなー。どんなにエンカウント率が低くても、踏み込まないと当てることすら出来ないんだよ」
「あーはいはい、分かったから、やりたいのならさっさとやりなさいよ」
「うん。すいませーん……」
「……にしても、こんなことするより食べ物とか飲み物買った方が得なんじゃないかしら」
「客観的に見ればそうですけど、泉さんからすると、くじ引きの方が魅力的なのかもしれませんね」
「こなちゃん、頑張れー」

こなたは期待に反して、というか予想通り六等を引いて、ハリセンをもらっていた。
でもその顔は、どこか嬉しそうだった。

「ほらほら、かがみにぴったりのハリセンをもらったよ~」
「……ほお、それはどういうことかな、こなた。お望みどおりハリセンで叩かれたいか?」
「え、えと、ほら、かがみってきょうb……ツッコミ役じゃん」

こなたからハリセンをひったくって、思いっきり頭のてっぺんを叩いた。
気持ちのいい打撃音が周囲に反響する。

「痛たたた……。かがみは加減ってものを知らないんだから」
「あんたが変なこと言うからでしょ」
「で、でも本当に痛いよー」
「……あー、大丈夫? ちょっと力入れすぎたかしら」

腫れ物に触るように、そっとこなたの頭に手を置く。
それから、ゆっくりと頭を撫でた。
左手に伝わるさらっとした青髪の感触。
小さな背のこなたは、こうして見るととても可愛い。

「う~、素直に謝れないかがみ萌え」
「もう一回叩かれたいか?」
「い、いえいえ、なんでもございません」

手を離して、溜め息をつく。
祭りの光で照らし出された空は、ほのかに明るさを持っていた。

心に浮かんでくる思い。
私は……。
泉こなた。
こなたのことが……。

祭りの喧騒がまた遠ざかっていく。
自分の周りだけ、時間が止まったように感じる。
目に入ってくるのは、こなただけ。
後は全部、ぼやけたようになって焦点が合わない。
ぼやけた光は滲んで、こなたの背後を彩っている。

こなた。
話は合うし、気も合うし、一緒にいると楽しくなれる。
気づけばいつも一緒にいたし、一緒にいようとしてた。
私のことを分かってくれる気がしたから。
怖がられることが多い私のことを、ツンデレと言ってからかってくるなんて初めてのことだった。
だから、知らず知らずのうちにこなたを求めていたのかもしれない。
今日だって……こなたの傍にいようとしてたし。

何も目に入らない。何も聞こえない。
ただ、好きな人。大好きな人だけが見える。
……こなた。

自分自身に言い聞かせる。
バスで隣に座って身体が熱くなったのも、隣に並べてほっとしたことも、
つかさとばかり話していて胸が苦しかったのも、チョコバナナをもらって嬉しかったのも、
ハリセンで叩いてから撫でたのも、全て。
こなた……こなたのことが、好きだから。


ごった返す参拝客が目指すのは、踊り場つきの緩やかな階段の頂上にある、神社の拝殿。
上りも下りも、とにかく人で溢れていて、上まで辿り着ける気がしなかった。
ここが一応は参道を歩いてきた人たちのゴールで、その為他のどの場所よりも人が多かった。

「……あれ? 参道自体はこの先も続いてるの?」

参道は神社の鳥居を避けて、更に奥へと続いていた。
もちろん、屋台も今までどおり両脇に並んでいる。

「続いてるって言うか、あっちにもこの神社への入り口があるんだよ」
「あー、だから中心部はこんなに人が多いのか」

それにしても、これだけ参拝客が多いとは……。
建物を見て、改めてこの神社、祭りの規模の大きさを痛感した。

「ねぇ、みゆき。この祭りって何を祈願してるか知ってる?」
「数が多かったと記憶しているのですが、確か、無病息災、学業成就……」
「そ、そんなのなんだっていいじゃん。そそそれより、ちょうど道が二つに分かてるんだし、二手に分かれない?」
「えー、どうして?」
「境内の方は人の量が異常だから、四人で行ってはぐれるよりは、最初から分かれてた方が動きやすいかなーって思って」
「そうかー、こなちゃんすごいね」
「参道と境内の両方を回ったら、またこの鳥居の前に集合するんだよ」
「……で、どうやって分かれるのよ」

もし選べるのなら、こなたと一緒がいいな……。
折角のお祭りなんだから、出来れば二人きりになりたい。
でも、どうやって決めるんだろ。単純に考えて、確率は三分の一。そんなに高くはない。

「それじゃ、もうかがみが決めちゃってよ」
「え!?」
「そうですね。かがみさんがお相手を決めれば、自動的にもう一組も決まりますし」
「ちょ、ちょっと……」

私が決めるの?
そりゃ、言うべきことは決まってるけど……。
これは、よかったんだろうか。悪かったんだろうか。
確実にこなたと一緒にはなれるけど、そうするには私がこなたを指名しないといけない……。
何て言えばいいのよ。何言っても弄られそうだし。
こなたでいいわよ? いや、絶対ツンデレって言われる。
こなたがいいな? デレかがみ萌え~とか言ってきそうだな。
いい台詞が思いつかないけど、とにかく大事なのは平常心だ。
変に気負わずにさりげなく言えば、こなたも反応しないだろう。

「早く決めなよ~。恥ずかしがらずにさぁ」
「そ、それならもう、こ……こここなたでいいわよっ」

あー、なんでこんな時に限って……。
しかも言わないようにした台詞そのままじゃない。
予想通り、こなたはにやにやした表情になって、私の肩をぽんぽんと叩いた。
もうどうにでもしてくれ。

「可愛いなぁかがみは。さすがツンデレ。……つかさとみゆきさんもこれでOK?」
「ええ。大丈夫ですよ」
「じゃ、私たちは先に参道の続きの方に行ってくるよ」
「それなら私たちは境内だね。行こう、ゆきちゃん」
「はい」





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