こなた×かがみSS保管庫

1月10日

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匿名ユーザー

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さてはて、1月初旬と言えば、高校3年生にとってはセンター試験を間近に控えた時期であり、寸暇を惜しみ、寝食を蔑ろにしても勉学に励むことを義務付けられた悪夢のような年明けである。
勿論、有数の進学校である陵桜学園も例外ではなく、生徒、教師を問わずに試験対策に、塾、特別講義と走り回らねばならない。
故に、3年生のクラスは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた……訳ではなく、実際の高校生は割合気楽なもので、それこそ首都圏にある、日本名物の赤門を潜ろうとでも企んでいない限りは、普段とたいして変わらない。
学力に応じた所には入れればそれでいいさ。
さて、この物語の主人公である4人組も、一人を除いて、割と真面目に進路を考えてはいるが、何も昼休みまで勉強すること無いだろうと、授業開始までの休み時間、雑談に終始していた。
そして、その真面目に進路を考えていない一人、泉こなたの発言が、今回の物語の切欠となったわけである。

「あ~、この時期って、センターや入試で勉強ばっかで嫌になるよね~」
 そう言って机に突っ伏すこなた。その表情は完全にだらけきっており、言葉通りの緊張感など、微塵も感じさせない。
「そういうことは、真面目に勉強してる奴が言いなさいよ」
 と、こなたの台詞にツッコミを入れるのは柊かがみ。この二人は傍目からも仲が良すぎるほどの親友で、仲の良さから生まれたある感情が、冬休みと、始業式の日ににちょっとした事件を引き起こしたのだが、ここでは割愛させていただく。
「でもさ、勉強勉強って、周りが言うじゃん?そういうの聞くとさ、却ってやりたくなくなるんだよ」
「まぁ、分からなくは無いけどね。家でも母さんや姉さん達が勉強してるかって、うるさいの何の。ちゃんとしてるっていうのに」
「でしょ?あ~、こんな環境じゃ勉強できないよ~」
 さて、こういった発言は、勉強をしたくない人間が言う、所謂言い訳。自分のやる気のなさを他の要因に求める、逃げの一手。
 だが、この逃げの一手を、その言葉尻を捉えて、自らの望む結果へと繋ぐことが出来る程頭の切れる人間が、ここにいた。
 その名は高良みゆき。成績は学年トップクラス、運動も出来る、容姿端麗、ドジッ娘属性(こなた談)を持つ、隙の無い、まさに完璧超人だ。
 そして、そのみゆきは、こなたの言葉を聞いて、こう会話を繋げた。
「確かに、今は色々と騒がしい時期ですからね。そうですね、もし、よろしければ今度の連休にでも、気分転換をかねて、遠出をして、勉強をするというのはどうでしょう?」

「えっ、どこに行くの?」
 その言葉に反応したのは柊つかさ。かがみの双子の妹で、こちらも天然(こなた談) 専門に学校に行くつもりなのに、わざわざセンター試験を全科目受験するという、ドジッぷりを発揮して、姉であるかがみ他、担任の黒井ななこを呆れさせている。
 つかさの疑問に、みゆきはこう答えた。
「みなみさんのお宅には別荘があるのですが、そこを借りて勉強合宿をするというのはいかがでしょう?」
 ここで言うみなみとは岩崎みなみ。みゆきの家の近所に住み、姉妹同然の付き合いをしている。ちなみに、ものすごい金持ち。
 さて、高校生が集まって勉強合宿なんて開いても、当然その目的から脱線するのは日の目を見るより明らかだ。
 特に、こなたがいる限り勉強という趣旨はマッガーレ、という状態になるだろう。
 だが、それを分かっていながらみゆきが提案したのには意味がある。こなたとかがみ、二人は親友だが、同時に互いに恋心を抱いている。そして本人達には自覚が無いときたもんだ。
 第3者が後押しをしなければ、互いの気持ちに気が付くことは無いだろう。
 だが、同性愛という壁が立ちはだかっている以上、そのまま「お二人は相思相愛です」なんて言うことは、どこかで他人に甘えることを生み、関係に歪みを作る。
 故に、みゆきは切欠を与えることのみで、二人には自らの意思で壁を越えてもらおうと考えた。そして、環境を変えての泊り込み、これは良いチャンスになると考えたのだ。
「いいね!やろうやろう!!」
 みゆきの提案に、真っ先に食いついたのはこなただった。つかさも、そしてかがみも割りと乗り気な顔をしている。
 手応えあり、か。みゆきはとりあえず上手くいったことにふう、と溜息をついた。
「珍しいわね、みゆきが溜息をつくなんて?」
 こなたに完璧超人と言わしめるみゆきが溜息をつくとは。かがみは興味本位で、軽いノリで聞いてみた。と、みゆきは、
「ええ、勉強が忙しいというのもありますが、最近、ある人達がお互いの気持ちに中々気が付かないのが歯痒くて」
「ふ~ん。それって、誰のこと?」
 かがみが聞くと、みゆきは微かに目を細めながら薄く微笑み、
「さて?誰が、誰に、誰の事を気にしているのでしょうね」
 とだけ答え、前髪を指で爪弾いた。

 さて、その日の帰り道。冬の夕暮れは早く、例えば学校を4時に出たとしても、既に天の6割は茜色に染まっている。
 更に言えば、寒い。そんな時にわざわざ外出しようなんて思う人間は、夕方の特売狙いの奥様方か、学校帰りの学生が殆どではないだろうか。
 故に、道に人影などなく、こなたとかがみの影だけが長く長く、舗装された道路に伸びていた。
「いやぁ、二人だけで帰るのなんて久しぶりだね~」
 そう言ったのはこなた。それを聞いてかがみも、
「そうね、冬休みは殆ど会わなかったし、最近は進路相談やら補習やらで忙しかったからね」
 と、頷く。つかさとみゆきはかがみが言った通り、みゆきは進路相談、つかさは補習に引っ掛っていた。
 こなたも成績で言えば、補習に引っ掛りそうなものだが、どうやってすり抜けたのか、かがみは微妙に怪しんでたりするのだが、一緒に下校する、という状況がその疑問を掻き消す心の高揚を生み出していた。
「しかし、みゆきがあんな事を言い出すなんてね」
 みゆきの勉強合宿提案は意外だった。だが、根を詰めすぎると良くないのも事実。やはりみゆきは深いな、とかがみは思う。
「そだね~。ま、みゆきさんも遊びたいんじゃないかな」
「あんたと一緒にするな!」
 と言っても、流石にこの時期にグッズを買いに行かない辺り、こなたも常識を弁えているのだが、ツッコまずにはいられない。

 ふと、一陣の風が吹き抜けた。陵桜には指定のコートがあるが、着ていても寒いものは、寒い。
「ぶへぇっくしょぉい!!」
 盛大にくしゃみをするこなた。その後、体をブルっと震わせると「お~、寒」と呟いた。
 そんなこなたの前に、差し出されるものがある。化学反応によって熱を帯び、携帯することで体を温める、所謂、
「はい、ホッカイロ」
「ふぇ?」
「この時期に風邪引いたらやばいでしょ?体調管理はしっかりしなさいよ」
 そう言ってかがみは、こなたの手に懐炉を握らせた。

 ――あ、まただ。
 こなたは、思う。何だろう、この気持ちは?かがみといると、胸がもやもやして、でも甘酸っぱくて、キュウってなって、それでも、嫌じゃない。この気持ちは……。

 ――ブルルルル。

 突然のバイブ音に、こなたはハッと我に帰る。見れば、かがみが携帯を開いている所だった。
「あ~、つかさからだわ」
 そう言って、返事を打ち始めるかがみ。その携帯には、以前、こなたがあげた、ストラップが付いている。
 いいもの見つけた。こなたは、にやぁ、と口を歪めると、
「それって、私があげたストラップだよね?ちゃんと付けてるんだ」
 と言った。聞いたかがみは、ビクッとしたが、
「あ、あの時大事にするって、言ったじゃない。だ、だからよ。こなたは、付けてるの?」
「モチのロンロン。じゃ~ん!!」
 取り出した携帯、しっかりと付いている。二人で一つのストラップ。
 さてはて、こなたとかがみの顔が赤いのは夕暮れのせいか、寒さのせいか……それとも別の要因か。
 長く長く伸びた影は、日の加減で重なって、見えた。




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