素直な想いを

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『この調子なら明日は大丈夫そうだよ』
電話越しに聞こえる声は聞き慣れたそれと同じ調子でホッと胸を撫で下ろす。
「だからって油断しちゃダメよ。ネトゲとかせずに早く寝なさい」
いつも通りの小言だけど、いつも以上に強い口調で言う。
ぶー垂れる様子も眼下に広がるようで、素直に聞くようなヤツなら今日みたいなこともないよなと思う。
最近暑くなってきたので冷房を効かせてたら消し忘れて風邪をひいたという。
全く見た目も中身も全然成長してないな。
思わず漏れたため息を敏感に聞き取ったのか、相手の怒りが電話越しでも分かった。
「こなた」
『……うん?』
「明日はちゃんと学校来なさいよね。あんたがいないとつまらないから」
話が通じないのもお構いなしにオタトーク全開で周りを振り回す。賑やかしいことこの上ない。
そんなこなたがいない学校は静かすぎて、ゆっくりできるはずなのに物足りなかった。
『うん。おやすみかがみ』
「おやすみこなた」

通話を切って一息。元気そうでよかった。
つまらないなんてもんじゃない、好きって自覚したあの日から。
こなたに早く会いたいと学校に向かう。
こなたの笑顔を見れば私も嬉しくなる。
こなたが落ち込んでたら力になりたいと願う。
欠席したと聞いてすぐにお見舞いに行きたいと思った。
でも今日に限っては家の用事で全然時間を作れなくて、メールだけでしか気遣えなくてもどかしかった。
声が聞きたい、なんて携帯を握りしめていたり。
なんでこんなにも、と思ったりもしたけど、そんな自分が嫌いじゃないって気付いた。
素直になりたい。そう願っていたその時に手の中の携帯が震え出して笑っちゃうくらい驚いた。
文明が産み出した魔法の小箱。距離の壁を越えて二人を繋いでくれた。
今は何の音も奏でていないけれど、いとおしさが募り唇を寄せる。
明日こなたと会えますように、という想いを乗せて。

日に日にこなたへの想いは大きくなっていった。
こなたと一緒に過ごす時間が何より楽しくて、こなたの笑顔を見るだけで幸せな気分になれる。
でもそれだけじゃなくて。
こなたが私以外の人と話していることに良からぬ感情を抱いてしまうようになった。
寂しさならまだいい。認めたくはないけど私は寂しがりな人間だ。
けれどもそれは独占欲、あるいは嫉妬に他ならない。
大事な妹、親友すらも無視してしまう、ドロドロとした感情。
恋ってもっと素敵なものだと思っていたのに。
強くなりすぎた想いが何をもたらすのか。
私達の未来のために早く答えを探し出さないと。



こなたの匂いに満ちた部屋で、こなたが毎日使っているベッドに腰掛けながら、私は自分自身と戦っていた。
客人に構うことなくギャルゲーに勤しむ青い塊。時折動きを見せるアホ毛はどういう理屈か持ち主の感情とシンクロしているらしい。
以前の私なら漫画を借りるか呆れつつゲーム画面を眺めていたかもしれない。
しかし今の私はこなたのことが好きだと自覚している、恋愛感情で。
画面の中の女の子が真っ赤になりながらも自分の想いを伝えていた。
私が好きだと言ったらこなたは照れてくれるのだろうか。
夕日で誤魔化しきれないくらい頬を染めて「わ、私もかがみのこと好き、かも」と小さく述べてそっぽを向く。……うん。
普段男の子みたいに振る舞うこなたの女の子らしい表情。例えば上目遣いで見つめてくる姿とか泣き顔とか。
今まで見たことがないこなたを見てみたいと思う私がいる。

「ふぅ。やっと一人目攻略か。今回のはちょっと選択肢ミスったら即バッドエンドで何度やり直したことか」
萌えを補給したこなたが達成感に満ちた表情で振り返る。
「ほんと好きよね。なんでそこまで夢中になれるんだか」
ゲームの中での恋愛、男の子になって女の子と付き合う。リアリティーのない二次元世界。
「萌えるからに決まってるじゃん。だって可愛くない?」
「可愛いとは思わないこともないけどさ」
ゲームの電源を落としたこなたは私の腰を下ろした。
「戦隊モノとか特撮のヒーローがかっこいいな、って思った時期もちょっとはあったけど」
肩が触れそうなくらいの予期してない急接近に半歩遅れて心臓が騒ぎ出す。
私が好きを感じるもので充満した場所、手を伸ばせば簡単に届く好きな人。
こなたの顔がゆっくりと近付いてくる。
「私が夢中になれるのは、女の子だけなんだよ」


「なーんてね」
いつものニマニマ笑いになって離れるけど、もう遅い。
こなたの肩に手をかける。軽く力を入れただけでこなたの体が傾けられる。
「え、あの、かがみ?冗談だよ……?」
猫口笑顔が困惑の表情に変わる。ほんのり頬が染まって見えるのは気のせいだろうか。
こなたの青く長い髪が白いシーツに広がっていて綺麗だな、と思う。
意識とは別に身体は勝手に動いていた。
「あんたが、あんたが悪いのよ」
違う、こなたのせいじゃない。
こなたからしてみればいつものスキンシップの延長だから。
今止まれば悪ノリが過ぎただけ、と笑って済ませることができるから。
「私は、私はあんたが……っ」
「かがみ?」
待て。言うんじゃない。一時の感情に流されるな。
最悪の場合を考えろ。そうでなくても良い方に転ぶ可能性は限りなく低いのだから。
何言ってるのよ。我慢できないんでしょ。一番欲しいものは分かってるでしょ。
本音をさらけ出したい自分とリアリストな自分がせめぎあう。
驚き戸惑い、それから若干照れを感じながらもこなたは私の目を見つめていた。


「かがみがどう思っていようとも、私はかがみが好きだよ」
「こな、た……?」
「絶対に嫌いになんてならないから」
劣情をぶつけようとしていた私の頬をこなたの両手が包む。
暖かくて優しい。どうしてこんなにも。
「ごめんこなた。でも聞いてほしい」
こなたの手に自分の手を重ねた。目は真っ直ぐこなただけを見つめて。
「私はこなたのことが好き。友達としてじゃなく、女の子として。恋愛感情で、大好きなの」
言った。言ってしまった後悔は多少ある。
でもそれ以上にきちんと自分の想いを伝えることができて良かった。
真剣に私と向き合ってくれるこの子のことを、好きになって良かった。
こなたに抱きつく。何度も謝りながら。
こなたは突き放したりしなかった。私の涙が収まるまでずっと頭を撫でてくれていた。

そっと背中を叩くのを合図にしてこなたから離れる。
初めて見る優しさに満ちた笑顔に不覚にも心臓が高鳴った。
「かがみ」
私はこなたに名前を呼ばれるのが好きだ。
宿題をやってなくてすがりついてくる時の呼び方。
鼻にかけて「かがみん」と甘えているような呼び方。
趣味のことで楽しくてしょうがない様子の呼び方。
毎回紡ぐ度に違う音色、気持ちを乗せているみたいで。
「さっきも言ったけど私はかがみが好きだよ。かがみとは違う意味かもしれないけど、かがみとずっと一緒にいたい」
私達は手と手を重ね合わせる。
「恋愛感情の好きがまだよく分からないけど、私を好きになってくれてありがとう、かがみ」
「好きでいていいの?」
「もちろん。かがみが嫌だって言っても私はかがみのそばを離れないからね」
だんだんと近付いてくる私の愛しい人。
「今はこれで我慢してね」
至近距離で不意に目を閉じた。
睫毛長いな。赤くなっている頬、こなたも照れるのね。唇、柔らかそう。
なんて感想を漏らしている場合じゃない、絶好のチャンスでしょ。
そう思った時には私の頬に何かが優しく触れていた。
ああ、なんて私は幸せ者なんだろうか。



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