おとなとこども

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新年度が始まってから早いうちに誕生日を迎える私は正直今年のその日をあんまり期待していなかった。
理由は単純。祝ってくれる人がそんなにいないから。
いや別に昔から誕生日が好きってほどじゃないんだけど。それでも誕生日が特別なんだと気付いたと言うかなんと言うか。
待ち遠しいだとかそんな気持ちにさせるのは高校時代の友人達のせい。無頓着だった私を色々と変えてくれた親友がいたからだ。
だから世間一般ではただの平日の一日にすぎないけど、今日という日に期待とちょっと寂しさを感じてしまう私がいた。

大学も入って二ヶ月足らずじゃ大して人間関係を築けない。
それでも同志の子達とかみさきちがいたこともあって何人か仲良くなれた人達からはお祝いの言葉や誕生日プレゼントなんてもらったりした。
今のところ知り合いの中じゃ一番先に誕生日を迎えたらしく、全然年上に見えないって言葉が第一声。
全く成長してないのは高校生の頃からだけどやっぱり言われたら少なからずへこむ。まあ誕生日に落ち込んでらんないからテンプレ反応で笑いをとっといて。
別々の学校に進学したんだからつかさやみゆきさんに会えるわけもなく残念だけど、二人とも日付の変わるタイミングでメールをくれるという味なことをしてくれたし。
そこまで深く知り合えたわけでもないのにプレゼントを貰えただけで十分幸せ者だと思う。
それなら今感じているこの気持ちは一体なんなんだろう。


「たっだいまー」

荷物を抱えて勢いよく玄関をくぐったのはいいけど、返事が何もない。
あれ、今日ってお父さん打ち合わせかなんか言ってたっけ。ゆーちゃんだって帰ってきていい時間なのに。
さては去年誕生日パーティーすっぽかしたから仕返しも兼ねたサプライズかなんかかな。
無音の圧力って結構心臓に悪い。とりあえず荷物を部屋に置いてからっと。

「おかえりこなた誕生日おめでとう!」
「ふぉっ!?」

自室の扉を開けたら目の前に仁王立ちのかがみ。クラッカーは自重してくれたみたいだけど声大きすぎ。
驚いて持ってた物全部落としちゃったじゃん。食べ物割れ物なんてないからいいけど。

「あ、ありがとかがみ。それと、ただいま」

去年とは違う満面の笑みで言われると少し照れくさい。
素直なのは良いことだけど、たまにはアイデンティティーを思い出してくれてもいいと思う。
なんて、がっしりホールドされてかがみの柔らかさと暖かさを感じながら考えていた。


「と言うことは今日はかがみと二人きりってこと?」
「そ。おじさんにダメ元で話してみたら二つ返事で良いよって。ゆたかちゃんも喜んでって言ってくれたわよ」
「……平日なんだしそんな無理しなくてもいいのに」
「土日に改めてパーティー計画してるみたいだし。いいじゃない、せっかくの好意なんだから甘えときましょ」

帰ってから全然私を離すつもりがないらしいかがみはニコニコと経緯を説明してくれた。
甘えればってもねえ。……あんまり都合が良すぎると私的には嬉しくなかったりするんだよね。
時間はまだ18時すぎ。晩ごはんはこの状況だと期待できなさそうだけど、大学でみんなと少し食べたりしたからお腹もそんなに空いてないしいいかな。
かがみに抱きしめられながら考える。この腕にすっぽり収まる感覚は嫌いってわけじゃないけど。

「19歳かあ。もうあと一年で二十歳になるんだよね。全然実感湧かない」
「年食っただけで全然変わんないわよねーあんたは。……良い意味で」

ふっと耳に息を吹きかけられたので反射とお返しに後頭部頭突きをかましておく。
ちょっと痛そうな声が聞こえたけど抱きしめてる手の力が緩んでないあたり効果はなさそうだ。

「お母さんを見てたらしょうがないかなって思うけどさ」

背格好はこれ以上望めないかなって心構えはできてたし。
でも写真に映るお母さんは『お母さん』で、見た目は小さいけれど雰囲気があるって言うのかな。
私自身は大人に近づいてるなんて思えてないから、ちゃんとお母さんみたいに立派になれるか不安になる。
私が一足先に誕生日を迎えたのに周りの子達のほうが全然大人っぽくて。

「ねえかがみ」

もぞもぞとかがみの腕の中で体勢を変える。
呼び掛けながら見上げた瞳が真っ直ぐ私を見つめてきて気恥ずかしくさに少し俯く。両手はかがみの背中に回して。
私より大きいけれど柔らかくて細くて同じ女なんだなって思う。強いけれど男の人みたいな強さがあるわけじゃない。
かがみは変わったよね。私に対する接し方とかじゃなくて雰囲気が大人っぽくなったよね。
待ち合わせ場所での凛とした姿勢とか、話し方話す言葉とか、ふとした瞬間に見せる表情とか。
薄く塗られた口紅が艶めいて色っぽいなと思う。

「どうしたの?」
「ごめんなんでもない」

それに比べて私はどうなんだろう。言葉通り成長してないんだろうか。
優しい笑みを浮かべるかがみに私は何も言えなかった。


「どしたー?隠し事はなしだぞー?」
「別になんでもないってば」
「嘘でしょ。なんでもないわけないじゃない」

両手で私の頬を挟んで顔を背けることを許してくれないかがみ。
見透かすような瞳が怖くて、そして吸い込まれるように綺麗で。
じっと見つめあっていると顔が熱くなっていくが感じとれる。恥ずかしいのに逃げ場がない。

「ほんと、あんたは可愛いわね」

からかいを含まずに笑うかがみはやっぱり綺麗だなって思う。
そういう色っぽさとか優しさとか。かわいいね萌えとか言ってた頃のかがみとは別人のように大人びて見えた。

「そ、そんなことないよ」
「あるわよ」
「ないっ」
「あるの!」

だってこんなちんちくりんで子どもっぽいのに。かわいいって言うのは幼いってことじゃん。
年不相なところが誉められたって嬉しくない。こうやって否定してるのも駄々こねてるみたいでイヤになる。
こんな日に、かがみの前で、こんなことしたくないのに。

「もう、どうしたっていうのよ?」
「……今日が誕生日っていうのに私は全然変わってなくて」
「そんなことないわよ」
「そんなことあるよ。で、大学生になって周りの人達は、かがみは急に大人びていって。私だけおいてけぼりみたいで」

なんか考えてることが情けなくて泣きたくなってきた。
上を向いてるから涙は零れたりしない、のであればいいのに。
こんなこと話したってかがみに呆れられるだけ。はぁー、とわざとらしいため息をついて。

「私はこなたが一番大人だと思ってたんだけどな。いつもの四人の中で」

くしゃくしゃと乱暴に頭を撫でられた。
普段は優しく髪を梳くようにしてくれるのに。ふざけてるわけじゃないもん。

「いつもアニメとかゲームの話ばかりしてて全然先のこと考えてないように見えて、どこか冷めた眼で本気を見せなかったり。距離感が掴めないって言うか、踏み込んできたかと思えば全然自分の底は見せてくれなかったり」

かがみの言ってることは合ってるとも違ってるとも言える。
そういう心構えはしてなくなかったけど、全部人間関係に臆病だったからって理由。

「達観してるって言うのかな。そういう意味で大人びてるって思ってたけど」
「……」
「だからこそ私は今のこなたが一番好きよ」

と、言われましても。そんな話だっけ。
私のリアクションにかがみはなぜか声をあげて笑い私を強く抱き寄せた。

「こうして私の一言一言に反応するところとか特に。装ったりしない素顔を見せてくれるから」

なにさそれ。結局私は子どもに逆行してるんじゃん。
とか思ったけど言わない。認めるのは気恥ずかしいけど昔より今の私は幸せって言えるから。
全部かがみのせいだよ。

「私も好きだよ」

軽く唇を触れさせ精一杯の笑顔を見せる。
応えるように笑ったかがみは、やっぱり見惚れるほど綺麗だった。


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  • こなたのは幼さというよりあどけなさ、いや やっぱり幼さかな...?w
    まぁ一方でラノベやダイエットの件でかがみが幼く見えることもあるし、どっちも似て非なる意味で可愛いなって思います。
    この二人の友情もとい愛情が長く健やかに続きますように... -- 名無しさん (2015-01-10 23:15:30)
  • 子供から大人へ、この年頃の微妙な心境がスゴク伝わってきました。
    読んでいて過去の自分も思い出せた様な気がします。
    GJ!! -- kk (2014-05-29 01:11:13)



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