心地よい熱

このページを編集する    
暑い。とにかく暑い。ゲームもマンガもアニメも、何もかもやる気が全く起きてこない。
意味もなく見飽きた天井をじっと見つめたところでユカイは降ってきやしない。
ただベッドに寝そべっているだけなのに吹き出てくる汗。不快だ、実にフユカイだ。
エコのためでも、文明の利器に頼る弱い現代っ子でありたくないからでも何でもなく、単純に壊れてしまったため使えないクーラー。
耳に届くのは窓を閉めようが開けようがけたたましい蝉の大合唱と、気の抜けるような扇風機の駆動音。
正直ものすごくつまらない。時間がもったいないし、何しようかな。
でも動きたくないんだよね、暑すぎるもん。何もしてなくたって汗だくだよ。

『てってれってー♪』

不意に楽しげな音楽が私を誘った。携帯の着信だ。
そういえばどこにしまったんだっけ。この部屋の中にあることだけは確かなんだけど。
流れるメロディに合わせて歌詞を口ずさみつつ探す。自然体も揺らしてたりして。
待って待って、すぐ見つけるから切らないで。なんて心の中で必死に呟く。
ずぼらな私の携帯電話のほうにわざわざかけるような人なんて私の周りに一人くらいしかいない。
早く出ろよー、なんてイライラしているかも。やっぱりあいつのケータイは無駄だ、なんて呆れているかな。
引き出しの中やベッドの下やテレビの裏とか。焦りながら探しているとどうにか切れる前に見つかった。
黄色のふかふかクッションの下でかくれんぼしてた。

「も、もしもしかがみ」
「……あ。もしもし、こなた?」
「うん、こなただよ。というかかがみが私にかけてきたんじゃん」
「あーうん。あんまり出るの遅いから家電のほうにかけ直そうかと思ってたところでさ」
「そっか。なら間一髪だったね、私」

ふっふー、と自慢げに言うと「携帯をちゃんと携帯しろよ」と突っ込まれた。
私としてはちゃんと携帯のほうに出るだけでも十分進歩してると思うんだけどね。
以前までは電源が切れちゃってたり一二日探しても見つからなかったりしたんだから。

「ところで用件なんだけど」
「あ、うん」
「今からそっちに行ってもいい?」

ちらり時計を確認。だいたい一日の中で最も暑くなる時間帯だった。
こっちに来るのは大変かも、と思いはするけれど来てくれると言うなら大歓迎なわけで。

「というか実はさ、もうすぐ着くのよね、あんたん家」
「ぜんぜんおっけーだよ……って、へ?」
「いやまあ、なんとなく? 気がついたらあんたん家に向かってたのよねー」

気付いたらってどんなノリですかかがみさん。アポなしなんてらしくないっていうか初めてじゃないの。
なんてつっこみたい衝動にかられたりするけど、急きょかがみが来ることになって驚き以上に嬉しがってる自分がいたり。
あとどれくらいで着くのか尋ねたら「もうあと一、二分?」となぜか疑問形で返ってきて。
「じゃあプラス十分くらいかけて来て」なんて別に今さら気取ってもしょうがないのにドタバタ掃除やら整理整頓やら。
開きっぱなしの漫画とかいくつも転がってるゲームソフトとか拾い上げて。無意味に布団のしわを伸ばしたり、クッションをセッテイングしたりした。
そわそわしていてかつふわふわしてて、急かされてるけど嫌いじゃない緊張感っていうか。
電話が鳴る前と後での自分のビフォーアフターっぷりに笑える。でもその可笑しさこそ私らしいやなんて受け入れちゃってますよ。

「おじゃましまーす」

とかなんとか自分の不思議加減を考察しているうちにかがみがインターホンと一緒にやってきた。
連絡を入れてからまだ五分も経ってない。どうやら私の願いは華麗にスルーされたようだ。
トントンと足音が近づいてくる。勝手知ったる我が家みたいな感じでかがみがこの部屋に向かってきているのがわかる。
……まあ、呼びかけてもゲームしてたり寝てたりとかでろくに出迎えられてなかったから、気にせず上がってきてよって言ったのは私だけど。

「おっすこなた」
「やあかがみ、いらっしゃい」
「あー冷房ががガンガンに利いてて涼し……くないじゃない全然! むしろ外より暑いわよ、この部屋」
「それがさクーラー壊れちゃってて。この夏真っただ中な盛りに死んじゃうじゃん、って感じだよ」

はああああ、と長い長いため息をつくかがみ。そりゃこの炎天下をやってきてたどり着いたのがオアシスじゃなくてサウナじゃ、ね。
どうしようもなかったのだけど一応心の中でごめんと謝って、私もこの異様な蒸し暑さを再認識していた。
髪がこの上なく重く感じて汗をかいて、水分を吸ってますます髪が重くなって鬱陶しい。
普段通りツインテールにしているかがみの首周りは涼しそうだけど、やっぱり汗もしっとりかいているみたい。

「あーもう。じゃあさ、かがみシャワー浴びてきたら? さっぱりするよ」
「え、借りてもいいわけ?」
「まあ着替えは用意できるわけないし、バスタオル貸すくらいだけど。大丈夫、お父さんならちょうど出かけてるし」
「なんの心配だよ……」

呆れているかがみの背中をさぁさぁと押す。体育の後とか結構気にしているみたいだけど、健康的というかいい匂いだなって思ってたり。
まあともかく、汗ぐっしょりなのは気持ち悪いだろうし、シャワーくらい迷惑でもなんでもない。私もかがみの後に浴びてこようかな。

「ちょっと押すなって。ていうか本当にいいわけ?」
「全然へいきだよ。というかかがみ自身匂いとか気になってるんじゃない?」
「うっ……ま、まあこなたがせっかくそう言ってくれてることだし、いただこうかしら」
「はい決定。一名様ごあんないー」

お泊りの時とかで何度か利用しているから当然かがみは知ってるはずだけど、まあノリで。

「じゃあバスタオルここ置いとくからね。ごゆっくりー」

と、微笑みを残してこの場を去る、つもりだったんだけど。

「あ、そうだ。どうせならこなたも一緒に入らない?」
「ほえ?」
「あんた気づいてないみたいだけど汗、ひどいわよ」

ちらり、かがみが私を見下ろすように一瞥してついっと目を背けた。
その妙に意味ありげな視線にもやもやして、肌にはりついて気持ち悪いデザイン性の欠片もない真っ白のTシャツを指でつまんではがす。
絞れそうなくらいに水分を吸ってまさに布地は透き通るようだった……

「やん、かがみのえっち」
「アホか。てかそういうことをもっと気にしろ。女の子なんだし、匂いとかも」
「んー、かがみの汗の匂い、別に私は好きだよ?」
「な、なに言って……っ」

かがみが少し発火しかけていた。いやあ可愛いんだけどね、これ以上暑くなっちゃったら困る。
しばらく眺めていたいのは山々だけど、私がいたらシャワーに入れないので早めに切り上げることにする。

「あっ、ちょっこなた」
「ん、どったのかがみ」
「あんたもしかしてずっとそのスケスケTシャツのままでいるつもり? あと、言いたくないけど、少し」
「な、ななに言ってんのさかがみ。もちろんかがみの後にするつもりだから、さっさと入りなよ」

ばかがみん。聞こえないように小さく呟いてピシャンと戸を閉める。
廊下に出るとけたたましい蝉の大合唱がお出迎え。一段と暑さが増したみたいだった。

「ただいま。ふぅ、さっぱりしたよ」
「あ、おかえりー」

読んでいたラノベを閉じてかがみが迎えてくれた。
お風呂上がりといったらやっぱりこれ。持ってきた牛乳をコップに注ぐ。
まだ乾ききっていない髪を普段と違ってストレートにしたかがみが受け取る。

「あの時にも思ったんだけどさ、かがみって髪下ろしてるとちょっと大人っぽく見えるよね」
「そうか? でも確かに二つ分けは少し子どもっぽいかもしれないわね」
「えー、かがみはツインテールにしてこそかがみなんじゃん。ツインテはツンデレの基本」
「前も髪切ったら印象薄いとか言ってくれたな。というか私はツンデレじゃないし」

ちょっぴり怒気が含まれていたので牛乳を飲んで誤魔化した。
かがみの髪も長い方だけどそれ以上に長い自分の髪をわっしゃわっしゃと乾かす。

「こなた、ドライヤーは使わないの?」
「いやーこれだけ暑いとドライヤーの熱とか耐えらんなくて。逆に自然乾燥も早そうだしね」
「そんな理由でダメじゃない。女の子なんだから手入れとかもっと気をつけなさいよ」
「えー面倒くさいよ」
「何言ってるのよ、もったいないじゃない。なんなら私がしてあげるわよ」
「へ?」

バスタオルの間からうかがうと、かがみがドライヤーを左手に、右手で自分の膝をポンポンと叩いていた。
……百歩譲って誰かにしてもらうのは楽ちんだしいいとして、なぜに膝?
抗議の視線を送るといつになく優しい声でかがみが言う。

「ほら、おいで。やってあげる」

ちょ、ちょまっ。
クリティカルヒット! 私の中の何かに大変な衝撃、体温上昇顔面トマト化。
あまりに強烈なデレに対処しきれていない私に先ほどから顔色一つ変えずにかがみが追い討ちをかける。
で、立て続けの攻めに対して防御の体制も構えていなかった私はしたがって、

「あー、人にやってもらうのって気持ちいいねー」
「そうよね、って言ってもつかさがよくそう言ってるからそうなのかなって思うだけだけど」
「ふーん、かがみは誰かにやってもらったりしないわけね。ところでつかさにはこういう風によくやってあげてるの?」
「たまにね。このまえしたのは二週間くらい前かしら。あ、でもさすがにつかさにはこんな風にはできないけどね」

『こんな風に』の辺りでぐいっと上体を引き寄せられた。
いくら私でも膝抱っこは恥ずかしいよかがみは恥ずかしくないの? 私が軽いから大丈夫なのかな重いとか思ってない?
とかなんとか、このくすぐったい空気をどうにかしたくて思考を巡らせても言葉にはならない。
ドキドキなってる鼓動の止め方なんてわからない。とりあえず落ち着こうと、そのままかがみに身を委ねることにした。

「あんたってちっちゃいだけあって軽いし、あったかいわね」
「それって褒め言葉じゃないよね?」
「ううん、褒めてるのよ。こなたの髪、さらさらしてて綺麗」
「あ、ありがと。かがみもあったかいし、なんか安心する……」

確実に二度くらい上昇している気がする。心がざわついているし、今の私の顔はきっと赤く染まっていることだろう。
どうしようもない恥ずかしい。逃げ出したい。
それでも今この瞬間こそがきっと何よりも幸せなのだと、私は知っていた。


コメントフォーム

名前:
コメント:
  • 敢えて共用シャワーでなく膝だっこなところに萌えました!! -- 名無しさん (2014-12-24 18:56:20)
  • kkさん、私も期待しました・・・ -- ぷにゃねこ (2013-01-22 17:51:00)
  • こっちにもクリティカルヒットしましたぜ -- 名無しさん (2012-12-12 16:51:54)
  • 自分も膝に乗りたいです♪ -- かがみんラブ (2012-09-16 21:00:22)
  • こなたを恥ずかしがらせるほどのデレを無自覚でかますとはw
    -- アオキ (2012-01-29 17:39:19)
  • かがみの無自覚なデレに読んでる自分までクリーンヒットになりました/// -- 501 (2011-08-28 18:26:59)
  • 母性全開かがみんキタコレ‼2828が止まらん!
    シャワーシーンは俺も期待したw -- 名無しさん (2011-08-21 15:34:00)
  • いつもながら読んでいて2828が止まらんです。
    2人一緒のシャワーシーンを期待した俺はオワテル? -- kk (2011-08-19 14:32:33)



投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)


|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
  



★Counter

TOTAL: -
TODAY: -
YESTERDAY: -

★更新履歴

取得中です。