『疾風魔法大作戦』

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誰かを好きになるとか、分かんないな、と思ってた。
私は私のために頑張るし、他人のためには頑張れない。
人は人、自分は自分で、踏み込まれるのは鬱陶しかった。
でもかがみに会うことで、少しづつ変わって行く気がして。

それはたぶん、気のせいじゃない。




『疾風魔法大作戦』



「バイト~~?! あんたが!?」
と、かがみが不審そうな声をあげた。
あんたみたいな社会不適合丸出しの人間が、周囲と上手くやっていける訳? お金をもらって仕事をするというのは、本当に大変な事なんだから、そのへん分かってる? とかがみの目が言っている。
「そんな目で見なくても」
「正直、あんたがやるのが、どんなバイトか全く想像できん」
まあ、メイド喫茶なんだけどね。
「あんまり、迷惑かけないようにしなさいよ」
と言いながらも、かがみが心配してくれているのが分かった。
かがみが心配してくれると、よし、頑張るぞ、と素直に思える自分が不思議だった。
でも、頑張る。



そこそこ流行っているメイド喫茶で、バイトを始めた。
私は一応はメイドの格好をしているけど、日によっては人気アニメのコスプレになったりする。
そういうシステムなのだ。店長曰く
「大事なのは、異世界、そこまで行かなくても、非日常の体験なんだ」
と力説する。
「だって、メイド喫茶って言って、普通にいらっしゃいませとか言ってコーヒー出されても、それは店員がメイド服着てるただの喫茶店じゃないか。お客さんや僕の求めるものは、そういうものじゃないよ」
近年の執事喫茶がどうとか、なんやらかんやら、店長は店長なりの信念があるらしかった。
仕事熱心な人だ。
でもとりあえず私は元気よく「お帰りなさいませ、ご主人様」と言って走り回っている。
お客様……じゃなくてご主人様の水は足さなくて大丈夫か、注文は通っているか、新しい注文を頼もうと思ってるご主人様はいないか、料理が出てきたらすぐ運べているか、などなど。
レジうちも同時にしなきゃいけなくて結構大変だ。
「うは、幼女メイド!」
「マジ萌える!」
何故か客受けは上々。
私、幼女じゃないんだけどね。なんだろう、他人に幼女呼ばわりされるのは、微妙な気持ではある。悲しいことに、慣れてるけど。
でもなんか、思ったよりきついなあ。
たちっぱなしの仕事で結構大変だし、皿を一度にたくさん運ぶのはコツもいる。
アルバイトの基本みたいな飲食の仕事だけど、想像以上にきつい。
世の中の働く人々は、みんな大変なんだなあ、と私は実感した。
「ちょっと、泉さん、あそこ水出てない」
と、異様に厳しい口調で先輩のメイドが言った。
「言われなきゃ出来ないんなら辞めてね。遊びじゃないから」
すげー、アルバイト数日で、こういうお局的な人物に出会うなんて。
というかまあ、どこにでもいるよね、こういう人。
その後も、何度か怒鳴られた。実際に私が気付いてない事があって叱られるから、まあ仕方ないのかな、とも思うけど。
お局さまは、いつもピリピリしている。
「おかしいわね、六時のシフトなのに、川崎さんが来ないわ」
そう言ったお局さまが、川崎さんという人に電話すると、「今起きました」という回答だった。
これって結構困る。
飲食だと、書類仕事みたいに、後からきて自分の割り当て分の仕事を取り返す、という事が出来ない。
ランチタイムや夕食時に、お客さんが一杯来るから人員が必要なシフトなのに、遅刻して来てから長く仕事をしても、失われた時間は取り戻せないのだ。
今、ここに、時間通りにいること、がまず何よりも大事になる。
結局、30分遅れてきた川崎さんは、何事もなかったように仕事を始めるのだった。

まったく、社会は、色々大変だ。



「こなた、最近帰るの早いわね」
と、かがみが心配そうだ。
買いたいものが一杯あるから、とか適当に答えてその場は誤魔化したけど、かがみは何か言いたそうだった。
私はそんな親友の態度をちゃんと汲んであげて、かがみが言い出すのを待つ。かがみは言う。
「あのさ、ちゃんとやれてる? バイト?」
「問題ないよ」
かがみはいつも、きちんとしなさい、と言うけど、バイトしてからその理由がより分かるようになった気がする。
きちんとするのは、大事なことではあるよね。
とにかく、かがみは真面目なのだ。
たとえばかがみなら、私のやってるバイトで、どんな風に仕事するだろう?
真面目過ぎて、ちょっとギスギスしちゃうかな?
それとも、私よりも、もっとずっと上手くやるだろうか?
「まあ、問題なくやってるならいいけどね!」
と、ちょっぴりツンデレ風なかがみなのだった。



いつの間にかお局さまが辞めていた。
店長は引き止めたらしいが、駄目だったそうな。
「飲食のバイトは、人の出入りが激しくて、なかなか定着しないんだよ」
と店長は愚痴る。
でも、当然かもしれない。
人間、いつまでもメイドをしてる訳にもいかないだろう。職業:メイド、というのも余り見たことがないし。
つまり、メイド喫茶のメイドは皆、バイトなんじゃないかという疑念も湧くけど、資本主義社会の謎は尽きない。
「引き止めたんだけどね、彼女真面目だし、融通の利かないところはあったけど……難しいね、いい子だったんだけどな」
かがみ、お局になりそうだよなあ、なんて場違いな事を思う。
そんな中、川崎さんは相変わらずバリバリ遅刻していた。反省の色も全く無い。
私の仕事はその分増える訳で、結構きつい。
一度聞いてみたら、「夜が遅くて」とか「眠くて起きれない」とかそんな回答だった。
なるほど。
「でも、そんな遅刻してて大丈夫なんですか?」
「え、なに? 説教? 調子のってんの?」
川崎さんの目が鋭くなる。被害妄想だと思うんだけど。
「あのさあ、私ってお客さんに人気あるんだよね。この店、私で持ってるようなもんだよ。だから店長も私をクビにしないでしょ。ちょっとあんた、マジ生意気すぎ」
別に何の悪意も無かったのだが、目を付けられてしまった。
けっこう、川崎さんは陰湿だった。
そんな訳で、あんまり楽しくない出来事と共に、バイトの日々が過ぎて行く。やれやれ。
たとえば、ちょっとのミスを針小棒大に騒ぎ立てたり、ことさらに責めたり、ギスギスした空気が流れて、でも相手は先輩で何もいえなくて、でも社会ってそういうものなのかな、とか。
バイトの本当の目的は、社会経験を得ることだったのかも知れない。
資本主義社会で、人気がある子が、多少の遅刻をおめこぼしされる、それは当然かも知れない。
現に店長は何も言わないし、合理的に利益を追求したら、そうなるのかも。

あーあ、でもなんだか、やっぱりちょっと、社会ってつまんないな。

何も言わないけど、ストレスはあった。
ある時、休憩室で延々と私の悪口を言っている川崎さんを見かけた。
入っていっても、悪びれた様子もない。
いやな空気。
キッチンの人は苦笑いを浮かべていて、川崎さんの遅刻の尻拭いをするのは私で、怒られるのも私。
なんだか、嫌だった。
辞めようかな、とも思う。
でも、バイトをちょっとやって辞めるのは、凄く、嫌だった。
ちょっとしたトラブルで折れそうになる心、それを克服したかった。
かがみに、見合う人間になるために。
唐突にそう思って、私は、自分がバイトを始めた本当の理由を知る。
私は、かがみに胸を張れる人間になりたかったんだ。
そう思うから、頑張れた。
だから、これでいい。
かがみがいるから、まだまだ頑張れる。

そんなある日、私は店長に呼び出される。
「どうしたんです、店長?」
「あー、川崎さん、辞めてもらってね」
「え?」
「いや、遅刻が多かったろ、余りにも酷いから、注意したら逆切れしてきてね、面倒なんで辞めてもらった」
「でもあの人は、お客さんにも人気があって、この店は私で持ってるとか」
「はあ? そんなこと言ってたの? 人気なら泉さんの方があるよ。まあ、言われて見ればそんな勘違いしてる様子はあったな。お客さんは君達をチヤホヤするだろうし、そういう勘違いする奴はいるよ。でもそれは、メイド服や、メイド喫茶の作り出す空間が支持されるんであって、個人の力じゃないし、個人の力に頼っちゃいけない、それは店長としての僕の使命だね」
店長なりの信念があるみたいで、つまり、どんなに人気のある女の子がいて、その女の子が抜ければ店がボロボロになるとしても、本当に大事なのは、店の空間=非日常なのだ、とかなんとか。
でもそれ以前に、川崎さんの人気はそんな大したもんじゃないらしい。
「別にあれくらいの子、よくいるよ。そんな凄いもんでもない」
「でも、川崎さんの抜けた穴、どうするんです?」
川崎さんがそんな人気者でなくても、そもそもシフト自体が一杯一杯なのだ。
「そう、そこで相談なんだが……」



私は店長からの頼みで、心当たりがないかと言われ、周りまわって、パティが入るようになった。
新メンバーだ。
メンバーが変わってみれば、川崎さんくらいの人気は、別に難しいものでもないし、それ以前に、私に結構固定客がついているのにも気付いた。
それって、頑張れば彼氏とか出来るのかも知れないけど、何故か私は全く頑張る気がない。
それよりもむしろ、新しいメンバーと仲良くやることが出来たのが嬉しかった。
「泉さんも先輩だな」
と店長は言う。
先輩になったけど、これはこれで大変だ。
そんな、教える大変さなんかを学びつつ、なんだか、自分の居場所がある仕事をしている、そんな気がした。
バイトの癖にね。
「泉さん、我慢するのも大事だけど、私が店長だから、問題あったら私に言ってね」
「たかがバイトですよ、私」
「一番現場に近い人間の話ぐらいは、聞くよ。もっと早くそうしていれば、上手く周っていた気がするから。この年で、店長でも、学ぶことはたくさんある、結局、生涯勉強だよ、勉強」
店長は、お局さまの退職や、川崎さんの放置を、失敗として認識しているようだった。
やっぱり、社会は大変だ。
でも、私は、労働しながら生きていく、そういうものなんだろう。



何回目かのお給料。
残念ながら、初回とかはグッズに消えてた訳だけど、今回こそは買いたいものがあるんだよね。
私は、できるだけ可愛いリボンを買って、鞄に詰め込む。
自分が何のために働き始めたのか、分かったから。
かがみと二人の帰り道。
私はかがみに言う。
「私、メイド喫茶でバイトしてるんだ」
「あんたらしいわね」
「そうかなあ」
かがみのツインテールが揺れている。
「あのさ、バイトしたり、人と触れ合ったり、そういうので社会とかを知ろうって思ったりとか、あるじゃん」
「社会勉強って奴ね、それが?」
「そういう風に思えるようになったのって、かがみのお陰だと思う」
本当は、他人にも、社会にも、興味なんか無かった。
誰とも繋がってなかった。
でも、かがみが繋げてくれた。
私の言葉に、かがみは顔を赤くしている。
段々、心が惹かれていく。
「だからさ、これ、受け取ってよ」
私はプレゼントを差し出す。かがみが目に見えて動揺した。
「え、え、何!? 何で!?」
「給料入ってさ、余裕あったから、びっくりしたでしょ」
ちょっと、気持ち悪いかな、友達から突然プレゼントなんて。
「何企んでんのよ」
「失敬な~、日頃の感謝で他意はないよ」
「ほんとかなあ……でも、ありがと」
えへへ、とかがみが照れる。
「大して高いもんでもないよ」
「こういうのは気持ちでしょ!」
あんまり、プレゼントプレゼントした包装をしても気持悪いだろうから、入れ物そのままのリボンを、かがみが開けて髪に結んでみせた。
「ど、どうよ」
「よく似合ってるよー、かがみんラブ!」
「ラブじゃねえ!」
照れているかがみをみながら、言葉に出来ない想いを感じる。
後戻りできない気持ち。
かがみが毛先を弄る癖を出しながら、私に言った。
「でもさ、バイトって大変じゃなかった?」
私は、バイト先での出来事を思い出す。
色んなこと。
人々のこと。
この社会のこと。
労働ということ。

「別に普通だったよ」

と、私は笑った。





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  • 新しく入るバイトがかがみだと期待した俺逝っていいな
    ともあれこなたの成長が細やかに描かれていてGJです -- 名無しさん (2011-01-04 11:17:17)
  • こなた格好良いなあ
    ナガモン登場にちょい期待したw -- 名無しさん (2010-12-09 12:26:30)
  • これは社会の一コマを見事に切り取った作品ですね!
    自分も飲食の経験が長いから気持ちはよく分かるw
    GJ -- 名無しさん (2010-12-08 05:12:45)
  • 店長は長門似の店員て解釈でいいのか?何はともあれGJ! -- 名無しさん (2010-12-07 20:34:05)



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