ぴゅあぶるー

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 何でも気兼ねなく話す間柄。四六時中とは言わないまでも共に過ごす時間も長い。そんな親友にもまだまだ私の知らない面がたくさんある。
 でもそれは別に驚くことでもなんでもないかもしれない。生まれた時から一緒に歩んできた子の全てを理解しているわけじゃない。
 ただどれだけ経とうと飽きないというのはとても面白い。もっと知りたくなってくる。
 私の知らないあなたの素顔。あのとき初めて見せてくれた表情。
 だんだんとできかけていたものがあっけなく崩れ去る。新たな素材が代わりに加わってまた一から作り直し。
 たくさんの要素があって、また増えて。私の中で彼女はどこまでも大きくなっていく。

 出会った時の印象はそれほど残っていない。
 もちろん外見的な特徴は結構目を引いたんだけど、性格的な話。どういう人かと言われればやはり妹の言うように良い人、としかないのかもしれない。
 今となってはそれが単に取り繕っていただけの仮面だって分かってる。
 別にそれはよかった。私だって初対面の人には気を遣うしそんな簡単に素が出せるはずもない。
 つまりはあの時の私は泉こなたをまだ何も知っていなかった、ということになるかしら。
 まぁ、そんな化けの皮、半年も持たずに剥がれちゃったけどさ。
 一年後くらいになると私の中でのこなたはまずオタク。言動もしばしばついていけなくなるけど、人付き合いは悪くないかも、って感じ。
 例えばどうしようもないくらいだらしないところとか、趣味に対する異様なほどのエネルギーとか、意外な生活力とその背景とか。
 色々と付き合いの中でわかってきた部分はあった。驚き、呆れもあれば、やっぱり最初の頃とそんなに変わってないかなって思ったりもする。
 そんな風にしてなんとなく思い描けていた泉こなたのイメージ。誰にでもないけど嫌いじゃない、と言っておく。
 たった二年半で何がわかるんだって言われても私の中では結構自信があった。良い意味で裏切られた、かな。


「こなたー」
 声を潜めつつその名を呼ぶ。自分で言うのもなんだけど優しげだったと思う。
 ただ返ってきた反応はそっけなくて。ずっと下を向いていたこなたは顔を上げて無言で私を見つめてくる。眼鏡効果なのか視線が鋭い、と感じる。
「あ、邪魔してごめん。えっと、どう? はかどってる?」
「まずまずかな」
 時計の針は開始時刻から二回りちょっと動いていた。時間が経つのが早いことと、それだけの時間集中できていたことに驚き。
 一旦手を休ませたせいかこなたは眼鏡を外した。
「そろそろきゅうけー、ってか、帰らないとまずいかな」
「そ、そうね」
 まだ立ち上がらない。図書室の大きな机に広げられたノートと教科書とを眺める。
 今日は珍しく勉強していこうとこなたが言った。夏休みも近づいてきたので良い心がけだと頷いた私。みゆきは早めに帰って自宅で、つかさは家の手伝い
 が決まっていた。
 ほんの数ヶ月前までは遊び優先、宿題は写すのが基本だったこなたの変化は首を捻りたくなるほどだ。
 進学校かつマンモス校でもある我が校の図書室はこの時間になっても人はそれなりにいた。
「そういえばさ、こなたって視力悪かったんだっけ」
「うんにゃ。昔からゲーム三昧だったけど、特別身体に影響が及んだことはございませんよ」
「実害を被れば多少はブレーキも利いたのかしらね」
「さて、それはどうだろうねー」 
 普通に話せる。こなたがいつもの笑顔を見せる。勉強中は周りのことはほぼ意識の外みたいだった。
 ウチの家庭では縁のない眼鏡を手にとってみる。細い黒のフレーム。レンズはちゃんと度が入っていて少し目がくらむ。
「かがみも眼鏡興味あるの?」
「いや、別に。みゆきがかけているしいつも見てるはずなのになんか新鮮」
「うんうん。今や眼鏡イコールださいじゃなくてオシャレになってるからね」
 こなたは考え込むせいか、勉強をする際にまるで机にかじりつくかのように顔を近づける癖があったから。
 それで何気なく目が悪くなるから眼鏡でも、と言ってみたのが始まり。あんまり学業に関しては言っても無駄かとも思いつつ。
 翌日に「眼鏡属性っていうのも悪くないよねー」なんて言ってきたときはなんか可愛かった。
「それにさ、これかけてるとなんとなく集中できる気がするんだよね」
 こなたが得意げに笑って見せる。でもそれはたぶん元々の本人の力だと思う。
 趣味、自分の興味のあることに関しての情熱についてはすごいものがあったのだし。感心はできなかったけど。
 ただそれがこんな風に身を結ぶなんて思ってもいなかった。もっと言えばこなたが自主的に勉強しようと言うこと自体嘘みたいだ。
「かがみぃ、私だって危機感とか、将来のことちゃんと考えてるよ」
 そんなこと言われても、ぷぅっと頬を膨らませてたらどうも子どもにしか見えないんだけど。

「ねぇ、そろそろ離してくれないかしら」
「まだだーめ」
 私の願いをなぜか嬉しそうに笑いながら却下するこなた。
 私の反応を楽しんでいるだけかもしれない。そう思いつつも普段のニマニマ笑いじゃなくて、つかさみたいな邪気のない笑顔に手を振り払うのは
 憚られた。
 帰り道、当然一般道なので人の行き交う姿も見られる。空は大分暗くなってきていた。
 繋がれた手を見る、小さな手。隣に並んでいる私より頭一つ分近く背の低い女の子。
 さっきみたいに勉強している時はひどく真剣で、少し話しかけにくい雰囲気さえも醸し出すくせに、今は屈託なく笑っている。
「くるくる表情が変わるわよね。子どもみたいに」
 小さな声で呟いた。はっきりとは聞き取れず、不思議そうな顔でこなたが見上げてくる。
 小首を傾げるという小動物っぽい仕草に頭を撫でてやりたい。でも利き手は繋がれてるんだった。
 勉学に真面目に取り組むこなた。らしくないことをしたと赤くなるこなた。物憂げに桜の木を見つめていたこなた。
 昔は表現に乏しかったというか、笑うことも少なかった。今のこなたは可愛くなったと思う。
 あの憎たらしいけどなぜか嫌いになれないニヤついた笑みよりも、無邪気な笑顔を最近よく見るようになった。
「なんかさ、あんた最近幼くなってきた?」
「んなっ。人が気にしていることをこれ以上ないえぐり方で」
「あっ、いや、悪い意味じゃなくてね」
「幼いって言葉、高校生相手に悪口以外の何物でもないデスよ」
 こなたが泣き真似をする。そのオーバーなリアクションは以前からだったかな。
 そういうネタのように過剰な反応をしてみせるのはなんだかんだで結構気を遣っているからで。
「ごめん、言い方が悪かったわ、訂正する」
「言い方が悪いって、訂正しても結局何も変わらない気がするんだけど」
「今のこなたは何と言うか、感情がすぐ顔に出ちゃう子どもみたいというか」
「あの、何も変わってませんよ? 傷口をさらに掻き混ぜて広げてないですか?」
「そうね。子どもみたいに純粋っていうか、ね。素直になったのよ」
「一人で納得しないで。恥ずかしいこと言わないで」
 手に刺さるような痛みが走ってこなたのほうを向いた。うつむいていて表情は見えなかった。
 生暖かい風が吹きつけてくる。風になびくこなたの長い髪。ちらりと垣間見えた赤色の耳。
「こなたって結構照れ屋さんなのね」
 言うと痛みがさらに強くなった。振りほどきやすそうなちっちゃな手が離さないとばかりに握りしめている。
 まぁでも、夏らしくなってきたとはいえ、こなたの体温は悪くないかな。
 いつの間にか足が止まっていたみたいで引っ張るように歩き出す。
 こなたから言い出したことだけど、先を歩いて先導するのは楽しい。
「勉強疲れ、かな? 最近結構甘えてくるわよね」
「……」
 後ろを振り返ってみたけどまだこなたはうつむいたまま。
 例えば今みたいに手を繋だり、抱きついてきたり、もたれかかってきたり。たまに私が頭を撫でたりしたり。
 たいていは急なことで慌てて赤くなる私だけど、たまには主導権を握ってみたかった。
「でも、今みたいによく笑って怒って照れて、甘えたりして。そんなこなたは好きだな」
 無表情の時より今のほうが絶対に可愛いし。
「人のことをからかってきたり、放っておけないくらいだらしなかったりするけど、友達の中で結構好き、かな。……って、こなた、どうしたの?」
「ふぁっ!? ぇ、あっ、いや、その」
「ん?」
「ええっと……うん。私もかがみのこと、す、好きだよ」
 これ以上ないくらい真っ赤な顔で見上げてきたので抱きしめたくなった。というか、力いっぱい抱きしめた。





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  • あと少しな距離感がすごくいいです!! -- 名無しさん (2010-07-14 17:03:07)
  • 情景が目に浮かぶようだ…。GJです! -- 名無しさん (2010-07-12 06:06:53)
  • うーっやっぱこの作者様の作品は好きだ!、どうしても続きを期待してしまいます。
    あなたの作品でずっと『かがこな』を見て行けたら良いのになとさえ思えます・・・GJ


    -- kk (2010-07-10 00:38:47)


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