でぃあふれんず

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 環境破壊、地球温暖化を招いたが故、と言うような天気が続いている。
 なかなか冬の寒さが抜けきらないなと思ったら、四月になったら急激に気温が上がったり。
 そうかと思えば、どんより曇り空にまたコートやらセーターやら引っ張り出してきて。
 もう夏が見え始めたころだというのに、どうも気温は右肩上がりに上昇する気はないらしい。
 目を覚ますとまずカーテンを開ける。空模様のチェック。
 このところ早くも梅雨入りか、なんて思ったくらいに天候が思わしくなかった。
 やや天気は持ち直し。少々恨めしい薄く張った雲も、朝日の眩しさには敵わない。
 体感温度からして良好と呼ぶには気が早いか。
 数日ぶりの晴れの日だし、寝ぼけ気分にも少しだけ高揚をもたらしていた。

 誰しもが、昨日と似たような今日を繰り返し、生きているんだろうか。
 毎朝の変わらない光景、うんざりするような人混みを見て思う。
 これが雨の日だと無数の傘が花開き、湿っぽい空気と独特の匂いにため息も出るでる。
 日差しの強い日は人々が光を真向に受けながら突き進む、って感じで好きだった。
 実際の一人ひとりの顔は眠たげでやつれ加減なんだけど。
 バス停前、同じ制服の学生たちであふれ、ざわめき立っていた。
 まだ初々しさの残る新一年生たちの会話。たくさんの情報交換を繰り返し、距離が縮まっていくのだろう。
 二年前の自分のことはよく覚えていない。というより振り返ると懐かしさより恥ずかしさのほうが込み上げてきそうで。
「こなちゃん、遅いね」
「どうせネトゲだかアニメだかで夜更かしでもしたんでしょ。相変わらずなんだから」
「好きだもんね、こなちゃん。あ、バス着たよ。どうしよっか」
「ほっといて、行きましょ」
 欠席とか心配するよりため息が出てくる自分がなんか空しい。

「おっす柊。今日は久々に晴れたよなー」
 日下部が太陽に負けないくらい眩しい笑顔で入ってきた。季節関係なく変わらない微笑みを浮かべた峰岸も一緒だ。
 あんまり目立たない程度に手を上げて応えた。
「まぁなんだ、日下部はいつでも頭の中は晴れてるんじゃなかったのか」
「なんだよ柊。私だって雨とか嫌いなんだぜ」
「雨が降ると外で思いっきり走れないからつまらないんだって」
 何も考えずにただひたすら走りまわっていたのはいつの話だろうか。
 陸上部か。部活は三年間してこなかったけど、ちょっと羨ましいかな。
「日下部って授業に体育はある日は絶対機嫌良いよな」
「そりゃ頭ばっかり働かしてるより、体動かすほうが楽しいじゃん」
「否定はしないけど。受験生なんだし、少しくらい勉学のほうにも力入れようとか思わない?」
「思わない。つぅか、まだそんなこと考えたくないな」
 呆れて峰岸のほうを見たが笑顔だけ返ってきた。
 別に悪いなんて思ってないけど、個人の問題だし。ん? 私そんなに口うるさいかな。
 一年後のことを考えると勉強しなきゃって焦燥感に包まれる。
 目が合った日下部が特徴の八重歯を見せて笑って。なんというか、憧れに似た感情がぷかぷか浮いていた。


「おっはよう、かがみ」
 二時間目の後の休み時間。大きな声とともにちっこいこなたがやってきた。
「おはよう。って挨拶一つ、あんな大声出すな、近所迷惑。てかあんた今日仮病じゃなかったんだ?」
「会って早々連チャンできつい言葉が飛んでくるなんて。さすがはかがみだね」
「なにがだ」
 さも当然のようにこちらのクラスに入り込んでくる。ま、私が言えた義理じゃないが。
 雨の日が続くのに合わせて毎朝いくらでもはね返ってたこなたの髪は、今日はずいぶん綺麗に整っていた。
 でも絶対に立っている一房の毛がぴょこんと飛び出てて、ちょっと笑いが込み上げてくる。
「ん? かがみ、どうかした?」
「なんでもない」
 ぱっちり開くと意外と大きな瞳が覗きこんでくる。
 こういう表情だけ見ていれば、こいつも結構かわいらしいんだけど。
「で、今度はどんな用件よ」
「あー、話が早いねかがみ様」
「様をつけるなっていつも言ってるだろ。宿題なら見せないからな」
 この二年間でこなたのだらしないところはもはや根底にあるくらい見せつけられてきたし。
 しかしこの程度じゃこいつは怯まないのもわかりきっている。
「いやぁ、宿題は卒業まで面倒みてもらうケド。あのさ、英語の教科書貸して。忘れちゃったんだよね」
「あんた置き勉してるんじゃなかったっけ?」
「うーん、そこはちょっとした事情があってさ」
 今日はこっちでも英語の授業が予定されていた。ちょっと待ってと机の中から探し出す。
「はい。こっち五限目にあるから、昼までには返してよね」
「ほいほい。んじゃ借りてくね。ありがと、かがみ」
 スキップを踏むこなたの動きに合わせて、長い髪がさらさらと揺らいでいた。
 なんであんなに上機嫌なんだろう。それに教科書を忘れるなんて、一度持ち帰ったってことだろうし。
 そんなことを考えているとあっという間に休み時間は終わりを告げた。

 昼休みはつかさ、みゆき、こなたの三人と一緒に弁当を食べる。学校で一番好きな時間。
 名前も知らないB組の人の席、ほとんど毎日利用させてもらってる。
 男子だろうか女子だろうか。いつも食堂を使うから、気にしてないのかな。
 ふと浮かんだ疑問は数分もしないうちに消えていた。
「今日はひっさびさに晴れてるからさぁ、体育マラソンだったんだよねぇ」
「えっと、四時間目だっけ?」
「うん。もうへとへとだよぅ」
 ぺたーっと机に頬をつけるつかさ。同じようなことをこなたもしていた。
「気持ちはわかるけど、みっともないからやめなさいよ」
 むにぃと広がったほっぺた。垂れてるっていうか溶けてるっていうか。
 柔らかそう、なんて思って伸ばしかけた手を慌てて止めた。
 こなたが両のこぶしで顎を支えるようにしてしゃべりだす。
「あーもう、いいからとりあえずお昼にするわよ」
 私の言葉に続けてみゆきがいただきますと合掌。なぜだか一瞬時が止まったようだ。
 遅れて私たち三人も食べ始める。
 つかさと私は一緒の弁当。こなたはやっぱりチョココロネかな、と思ったら。
「かがみ、忘れないうちに返しとくね」
「あ、そうだった。私、教科書貸してたんだった」
 箸を掴みかけた左手がそれを受け取る。
「ありがと、おかげで助かったよ。一応言っとくけど落書きとかしてないからね」
 当然だ。人様の私物にそんなことしたらどうなると思っている。
 ぱらぱらと確かめるふりだけして、弁当のほうに意識を戻す。
 こなたはいつの間にやら取り出したコロネを細いほうからかじりついていた。

 どう受け取ればいいのやら。今日こなたに貸した英語の教科書を広げて呟いた。
 学校も終わって自室の机に向かっている私。けど決して授業の予習復習でもなんでもない。
 ポケットに入っていた携帯電話を取り出した。ぱぱっとアドレス帳からあいつの番号を呼び出す。
 ワンコール、ツーコール……出なさいよ。携帯しないと意味ないでしょうが。
「もしもし」
 少し間延びした、毎日聞いている声が伝わってきた。
「もしもしこなた? あのさ、今日貸した教科書のことなんだけど」
「あー、あれねぇ、やっぱ慣れないことはするもんじゃないよね」
「そうじゃなくて……って、慣れないって、何したんだよ」
「何って、そりゃ勉強に決まってるじゃん」
「へっ?」
 しばらく、間があって。
「傷つくなぁ、その反応」
「……んなの当り前でしょ。あんたが勉強とか、課題もろくにしてこないくせに」
「それはあれだよ。やらされてるって思うとやりたくなくなるじゃん」
「強制じゃなくて義務。学生の本分でしょうが」
 電話だってなんだって、すぐにいつものやり取りができる。
 話の内容なんかどうでもよくって、こうしているだけで楽しい。
「と、それより何なのよ、あれは」
「アレって?」
「映画のチケット、教科書に挟んであったのよ。当然これは、あんたよね?」
 ただいま絶賛上映中のとある映画の名前が書かれた紙切れ。持ち主にもよるけど一枚千円はする。
 しかもこの映画はこなたの趣味とは全く関係ないような、どちらかと言えば私やつかさが見たいって言いそうなやつ。
「どういう風の吹きまわしよ」
 ベッドがぎしっと音を立てた。左手に持ったチケットをなんとなく振ってみる。
 薄っぺらい、からって捨てる訳には、いかないわよね。
「ちょっと前に全国模試あったじゃん。あれ、私散々な結果だったんだよね」
「二年間遊んでた報い、って言わなかったかしら?」
「覚えてるよ。だからちょっとだけだけど、頑張ってるんじゃんか」
 ぷぅっと頬を膨らませるこなたの様子が目に浮かんだ。
「それは偉いじゃない。とは言え遅すぎる気もするけど」
「一言多いよ。そんなに勉強が好きなかがみにはソレ、いらないみたいだね」
「えー、私はもらうわよ。だって教科書も私のものだし」
「はいはい、わかりましたよ。確かに私はかがみにチケットあげたのさ」
 電話越しじゃなかったら、頭を撫でてやりたかった。
「三年になってから勉強勉強って忙しいじゃん。その息抜き」
「悪くないわね」
「悪くない、じゃないよ、ったく。今度の日曜日、いつものとこに午前九時。いい? 遅刻したら罰金だからね」
「あ、こなっ」
 ガチャ切りされてしまった。
 あんたが一番遅刻しそうだ、とか。毎度のことながら突っ走り過ぎよ、とか。全部言いそびれた。
 ありがとうの一言も、ちゃんと伝えられなかった。
 仕方なく、待ち受け画面で笑ってるこなたには、ありがとうって呟いて。
 「かがみー、ご飯できたわよー」とお母さんが呼んでいた。





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  • いつみても貴方の作品は良いものだ GJ -- 名無しさん (2010-06-03 00:49:09)

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