日替わりミニストーリー 『出発の日』

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ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
バンッ

前者は私の耳元で喧しく喚き散らす目覚まし時計の音。
後者は私が目覚ましのスイッチを叩いた音。
「ん……んんっ」
もそもそと布団から手を出して目覚まし時計を見ると、7時を少し過ぎたところだった。
二度寝する気満々のつかさと違って、即布団から出て身支度を始めるのが私の普段なのだが、
「ん~~」
昨夜は遅くまでレポートを書いていたせいで、今朝の睡魔は随分と強力だった。
おまけにこの季節はまだまだ朝夕と寒い日が多く、お布団の温もりは強烈に私を誘惑し、抜け出すのは困難を極めた。
私は枕元に置いておいた大学の時間割を手にとり、今日の講義は昼からという現実を確認する。
―ま、たまにはいいわよね。
私は布団を被り直し、再びぬくぬくのお布団に包まって夢の世界へと旅立とうとした。
ところが、
「起きろー!」
がばっ
「ひゃうっ!!!」
無情にもお布団は剥ぎ取られ、たちまち私はお布団天国から極寒の寒空へと放り出された。
「極寒って…大げさだよかがみん」
「地の文にツッコミを入れるな!だいたいなんであんたがここにいるのよ!」
「スペアキーを郵便ポストに入れておくのは考え物だよかがみん。防犯上よくないよ。一人暮らしの基本だよ」
「うるさい!それより布団、早く返しなさいよ」
せっかくの貴重な朝の時間を二度寝で過ごすと決めたのだ。
こんな防犯協会の回し者にかまっている暇などない。
「だめ。今すぐ起きて顔洗ってきて」
「はぁ?!勝手なこと言ってないで返しなさい!」
私は布団をひったくるように奪い返し、こなたに背をむけるようにして被り直す。
「ちょwwかがみぃ~」
―ふん、無視だ無視。
―だいたいなんでこんな朝早くにこなたが家にいるのよ。
「かがみ~起きてよぉ~」
こなたが私の身体をゆさゆさとゆするが、私は沈黙を返す。
布団の中は少し冷えてはいたが、まだ先ほどの温もりが残っていてすぐにあのぬくぬくの空間を再現できそうだった。
「ねぇ~かがみってばぁ~」
ゆさゆさ  ゆさゆさ
どれだけ揺らされても一向に気にしない。
再度布団を取られないようにしっかりと握り締め、放さないようにする。
これで防御は完璧だ。
「う~」
とうとうこなたは私を揺さぶるのを止め、悔しそうにため息をついた。
「むぅ~眠りについたお姫様を起こすには……コレしかないよね」
なんだ?またなにかたくらんでるのか?
私が身構えた、そのとき、
「ちゅっ」
ほっぺに柔らかくて温かい“何か”が触れた。
「っ????!!!!??!!!」
その瞬間、私は弾かれたように飛び起きた。
「わーい、かがみん起きたー」
「なっ!ななななな!!??」
「おはよー」
「なにしとんじゃー!!」
「王子様からのキ・ス☆」
「キッ!キキキキキキスって!」
「眠り姫を起こすのにキスってのはデフォだよね」
「だよねじゃねぇ!大体だれが王子様だ!」
「かがみぃ、声大きすぎるよ、隣の部屋に迷惑じゃない?」
「誰がそうさせていると思っているんだ……まったく、すっかり目が覚めちゃったじゃない」
私は盛大にため息をつきながらお布団天国に別れを告げた。
「おはよう、かがみん」
「おはよう。ところで、その格好はどうしたのよ」
よく見ると、こなたはエプロンを身につけ、片手にお玉を握っていた。
さらに台所からはなにやらいい匂いが漂ってくる。
「むふふ~裸エプロンのほうが良かったかな?」
「なワケあるか!」
「とりあえず顔洗っておいでよ。その間に準備しておくからさ」
なにか釈然としなかったが、とりあえず言われるがままに洗面所へ向かい、顔を洗って歯を磨いた。
戻ってくるとテーブルの上には美味しそうな朝食が湯気をたてて並んでいた。
「ちょっと、これ全部アンタが作ったの?!」
「そだよ~遠慮せず召し上がりたまへ~」
ほっかほかの白いご飯、焼きたての鯵、季節の野菜の浅漬け、きんぴらごぼうにほうれん草のごまよごし、極めつけは豆腐とわかめの味噌汁。
くうぅぅ~
と、空気を読まない私のお腹が目の前の光景に感動の鳴き声をあげた。
「っ!」
ぼっと顔が赤くなるのを感じ、こなたを見るといつもの猫ような口でニマニマといやらしい笑みを浮かべていた。
「くっくっくっ、遠慮はいらないよ、思う存分召し上がってくださいな♪」
私の中でプライドと食欲が対峙するが、テーブルにならんだごちそうの前にあっさりと食欲の勝利に終わった。
悔しいがこのような完璧な朝食の前ではプライドなど吹けば飛ぶような軽いものなのだ。

「……いただきます」
こう見えて案外私は料理にはうるさい。
お母さんはとても料理が上手だったし、専門学校に進学したつかさに至っては調理師の卵だ。
この私の肥えた舌を満足させることがこなたに可能かしら?
ずずぅ~と味噌汁をすする。
「…………」
濃厚に香るかつおダシの風味と味噌の味が見事に調和していた。
ご飯は一粒一粒が立っていて、とてもいい香りを放っている。よほど上手く研がなければこうはいかない。水加減もバッチリだ。
きんぴらも和え物も素材を生かした薄味で、ご飯との相性も素晴らしい。
ご飯といえば浅漬けだ。
これほどご飯と合う食べ物もそうはあるまい。
気付いたらお椀のご飯がなくなっていて、こなたがしゃもじをもってスタンバイしていた。
極めつけは鯵だ。
パリッと焼けた皮の下にはふっくらと脂ののった身が!どれほど焼き加減を見切ればこれほどの絶品ができるのだろうか。
夢中になって朝食を平らげる様子を、こなたはずっと笑顔で見守っていた。
「かがみ、そんなに急がなくてもご飯は逃げないよ~」
「んぐっ!」
「あ~あ~ほら、今お茶淹れてあげるから」
差し出されたお茶で喉に詰まりかけたご飯を流し込む。
「ぷはっ!」
「まぁ美味しいと感じてくれるのは嬉しいけどさ」
「ええ美味しいわよ。こんな朝食なら毎日でも食べたいくらいよ」
「それはなにより」
「ところでこなた、なんで急に朝ごはんなんて作りにきたのよ」
「いやね、この春からかがみん一人暮らしじゃん。ちゃんと食べてるのか心配になってさ」
私は一瞬言葉に詰まった。
あまり家事が得意ではない私は、早くも自炊の大変さに音を上げ、インスタントラーメンやレトルトカレーに逃げるようになっていた。
「かがみ、今日は出発の日だよ。
 新生活のスタートの時期に合わせ、忙しく乱れがちな生活もリズムを整えるために、朝食を摂ることを提案する味の素株式会社が制定した
 記念日だよ。
 日付は新年度のスタートの時期であり、4と8で「出発(しゅっぱつ)」と読む語呂合わせからきてるんだって」
「へぇ~それで来てくれたってわけか。なんとも押しかけ女房的な発想だな」
嬉しいけどさ。という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
「女房とはねぇ~かがみは俺の嫁、じゃなくて私がかがみの嫁?」
「嫁とか言うな!」
「ぷくくっ、私をお嫁さんにしたら毎日ご飯作ってあげるよ」
「こ、このご飯を毎日……」
「(私よりごはんのほうが魅力的なのかねかがみんや)」
「でも、ま」
「?」
「心配してくれてありがとね」
「あ、今デレた?デレた?いいとも!毎日でも通いつめてあげるよ!まずはかがみんの胃袋を鷲づかみにしてみせよう。
 これがツンデレかがみんを嫁にする第一歩……」

ない胸を張って力説するこなたを他所に、この朝ごはんが私達二人の関係の新しい出発になればいいな、と思うのだった。
「かがみんに『君の作った味噌汁を毎日飲みたい。』と言わせてみせる!」
「言わん!」



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  • かがみの方が飲みだい -- かがみんラブ (2012-09-18 22:49:35)
  • 餌付けと書くと聞こえは悪いが…上手く行ってるw -- 名無しさん (2010-04-12 00:15:18)
  • ↓激しく同意 -- 名無しさん (2010-04-11 15:17:10)
  • 俺なら簡単に言うぞ!! -- kk (2010-04-10 22:09:10)




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