レイディアント・シルバーガン 3

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磨き上げられた清潔な病院の廊下からは、硬い、非人間的な感触がした。

どこでも清潔で、明るく、消毒の匂いがする廊下、人工的な空間。
冷たい音をたててを歩きながら、私は病気がちだったという母のことを、一瞬だけ想起した。
死んで行ったもの、死に行くものはいつだって美しい。
倒れた篝さんは無事なのか。
私は、人間が、私の母のようにあっさり死ぬことを知っている。昨日まで元気だったのに、急に……。
だが生きている私達ときたら、命を助ける消毒の匂いすら、嫌なものだと思ってしまう、やれやれ、だぜ。
篝さんが倒れて病院に運ばれた、という情報だけで、どんな病気なのか、何があったのか、私は知らない
たどり着いた治療室の前には困り顔の初老の人が居て、篝さんの母親かと思いきや、その人はアパートの管理人だった。
「あなたは?」
「浅見篝の親友です」
「ごめんなさいね、浅見さんの手帳に書いてあった電話番号、貴方しかなかったから……」
そういえば、私は学校での篝さんを知らない。
「いきなりアパートで倒れてねえ、一緒に救急車に乗ったけれど、家族と連絡が取れないのよ。貴方、浅見さんのお友達よね? ご家族の連絡先は分かる?」
 私は首を振り答えるしかなかった。
「残念ながら……」
 篝さんのことを、私は余り知らない。
「困ったわね」
私達の間にきまずい沈黙が下りた。私は年の離れたアパート管理人と話すべき話題を持ち合わせていない。なんせおたくだから、一般的コミュニケーション能力など皆無なのだ。
「根を詰めて何かやってたけど、倒れちゃうなんてねえ……ご家族の連絡先も分からないし、若いのにこんな風で……あの子と、仲良くしてあげてね」
管理人さんは、まったくの他人である篝さんを哀れんでいるようだった。
礼儀正しい優しさ、私は管理人さんに好感を抱いた。
そこからは沈黙も気まずくはなくなり、やがて病室の扉が開き、出てきた篝さんは私を見て、ニッ、と笑った。
「来てたのか、いずみん」
「篝さん、心配しましたよ」
「大丈夫なんですか?」
篝さんが真剣な顔をした。
「聞いて驚くなよ、私の病気は──」



 「過労だ」



篝さんが噴出すように笑う。
「いやー、びっくりしたの何の、サラリーマンでもないのに、まさかこの年で過労で倒れるとは思わなかったよ。こなかがのために倒れたとあったら、本望ではあるけどな!」
私がそんな事を言う篝さんに何も言えずに呆然としていると、いきなり管理人さんが立ち上がり、篝さんを怒鳴りつけたつけた。
「こんなお友達にまで心配させて、そんな事しか言えないの! 少しは、反省なさいな!」
管理人さんの声は静かな病院によく通り、清潔な床に反響した。篝さんはまったくの他人にいきなり叱られて、やや面食らったようだった。
 でもすぐに真面目な顔になって、頭を下げてから篝さんは言った。
「心配かけてすいませんでした。泉も……。でも私は、これしかない、と思うことを今やってるから、やめないし、後悔しない。だから、倒れないようにだけは気をつけます、今後」
「だけって……」
「ほんと、悪いと思うけど、私にはこれしかないから」
 篝さんにふざけた様子はない。
 下げた頭をあげて見れば、そこにあるのはどこまでも真っ直ぐな眼だ。
 管理人さんは、もうそれ以上は何も言わず、無事も確認できたので、仕事もあるので帰ると言った。
 私たちに止める理由はない。
 そして帰る前に、管理人さんは私に尋ねた。
「あの子、何にそんなに打ち込んでるの?」
 私は、ssです、などとはとても言えなかった。







   『レイディアント・シルバーガン』





病院の外に出ると、夜の風が私達を歓迎する。心底から冷える冬の夜の風だ。そんなに歓迎するなよ、人気者って辛い、具体的には軽装で来たのが悔やまれる。
「上着貸してやるよ」
「え、でも」
「私がぶっ倒れたせいで急いで来たんだろ、ほら」
強引に着せられた上着からは、篝さんの匂いがした。
夜風にポニーテールをなびかせた篝さんは、だいぶ痩せたその横顔で、どこか遠くを見ているようだった。
私は、篝さんを止めないと、と思う。
「篝さん、ゲームは作り終わったのに、倒れるほど何してたの?」
うーん、と困ったように唸りながら、篝さんは空き缶を拾って駐車場脇のゴミ箱へ投げた、見事なホールインワン。
「私、思ったんだけどさ、みんな、そんなに時間割けないと思うんだ。ゲーム作るのって、やっぱ時間がかかるから。だからもうちょっと手軽で、流行って、なんかいいものないかなーって、思ってね」
「見つけたの?」
私の声はきっと、私たちに吹き付ける風よりも低い温度だっただろう。
だって、この人は……まだ気づかないのか?
嬉しそうに語る篝さんの声色は、私の気を滅入らせた。
「動画が流行ってるじゃん。ニヨニヨ動画。今、とりあえず有名ジャンルの動画作っててさ、そこで得た技術をこなかがに還元すれば、またこなかが動画が増えると思うんだよね。結局、立ち絵素材が豊富だから、ニヨニヨの動画も流行ってると思うんだけど、ほら、板に投下されてる、今日の小なみ、とかあるじゃん、あれを動画にしてアップするとかさ。なんとかこなかがを盛り上げて」「篝さん」
私は、体を壊すほどの篝さんの愚かさが、まったくの無意味だと篝さんに告げなければいけない、と思った。
いい加減、眼を覚ますべきなんだ。我々は。
「もう、こなかがは終わりなんだよ、動画なんか作ったって、誰も見ないし、誰もついてこない。篝さんは幻影を追いかけてるだけで、現実がぜんぜん見えてないよ。もう十分、こなかがはその役目を終えたのに」
こなかがは、その役割を終えた。
それが真実じゃないのか?
篝さんはそんな私の言葉を聞きながら、夜の病院の駐車場のさらに向こう、車道を流れる車のランプを見ていた。光の河、遠い場所を見る表情のままで、篝さんは私に言った。
「終わりってのは……誰が決めるんだ?」
熱のある、声だった。
「そんなの、もう、誰がどうみても終わってるじゃん、理屈じゃなく」
「終わってない。全然、終わってないよ」
篝さんが私の方を振り返ると、その眼には狂気に近い光が宿っている。
「私が終わらせない、私はまだ、すべてをやり尽くしてない、手はまだある。私たちには、やり残したことがある」
「動画なんか作ったって、誰か参加すると思ってるの!? ゲームだって誰も参加しなかった、動画だって同じだよ、無駄だよ、『流れは止められない』!!」
「動画や、ゲームや、楽しいことをしてれば人は集まってくる。動けば、走れば、人はついてくる」
「冷静に周りを見てよ、篝さん」
私は、狂気に満ちた篝さんの目を見返した。


「走ってるのはもう、篝さんだけだよ」


私の言葉が夜の風に流されて消えるまで、篝さんは黙っていた。
やがて篝さんは、シルバーガンの台詞だけを呟く。


「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」


いきなり、篝さんは私に背を向けた。
「篝さん!」
「私には、まだ道が見えてる。動画ジャンルはまだ流行ってる、そこにはまだ、熱を持った奴等がいるんだと、信じたい」
篝さんは夜の暗がりに消えた。








──私的代弁者:「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ」







 ………






 数日が過ぎ、かがみの部屋。
 私が篝さんとのことをかがみに話すと、かがみは少し首を傾げて私に言った。
「それはもう、止まるまで放っておくしかないんじゃないか?」
 かがみの言うように、話して止まるような雰囲気ではなかった。
「う、暴走してるような感じだし、たしかに」
 うーん、とかがみは迷ったように呟く。
「でもまあ、ss書く人も減ったわよねえ」
 こなかが人口自体が激減している。
 いや、でも同人誌を書く人や、ファン自体はまだまだ居る気がするし、そこまで残った人なら、そう簡単にはこなかがを捨てない筈だ。
 それなのに、そういう人はBBSには寄り付かない、しかし、何故?
「そりゃあ、サイトなりなんなりで書けば安全だけど、BBSって変なことになったりするじゃない。面倒な事態が持ち上がったりさ。それに、ここまで人が減ったら、BBSでやってもサイトでやっても客の数変わらなくない?」
「うーむ、確かに。まさに終焉だよ……なのに篝さんは、どうしてそれが分からないんだろう?」
 人の話なんか聞きやしない。
「でもさ、こなた、篝さんは何かいろいろやってるけど、私たちって何もしてないじゃない? そういう人間が止めたって、説得力がないんじゃないかな。ただ外野から、古いジャンルにしがみついて、って馬鹿にしてるのと、一緒にならない?」
「う、かがみ厳しいね」
「法学部志望だから、公平じゃないといけないからね」
確かにそうだ、私は口だけで篝さんを否定する人になっていた、よくある漫画で出てくる悪役と一緒。
いまどきそんな事してるなんてありえなーい、とかいうやつ。
 そうなっているという自覚がしかも、かがみに指摘されるまでなかった。暴走している篝さんを止める、という大義名分のせいで。
「なに本気で凹んでるの?」
「反省してるのだよ、かがみん」
かがみはアホ毛が萎れた私にどこまでもクールに言う。
「そういうの、似合わないわよ」
「反省が似合わないって、考えなしの馬鹿じゃん、それじゃあ」
「あら、違うの?」
「ほんと厳しいね、かがみん」
「優しくしてほしい訳?」
「いや、猫撫で声のかがみんとか若干気持ち悪い、金魚相手の時のかがみんとか」
「殺す」
ぎゃーぎゃーとかがみと話しながら、私はふと、こなかが全盛時代のss書きの人々はどうしているのだろう、と思った。
「メッセのアドレスは登録しっぱなしなんだし、話してみればいいんじゃない? 最近は話してないけども」
「うん、なんでこなかがを書かなくなったのか、とか聞いてみる」
私は、サインインしていた、かつてのこなかがss書きの一人、シゴ子さんに話を聞いてみることにした。避難所の番号が、H5-455だからこういう名前、だそうな。



「こなかがssを、書かなくなった理由?」


455さんは、聞けば簡単に教えてくれた。
「感想が、少なくなっていったから……かな」
シンプルな理由。
「こんな事を言ったらね、いろんな人に怒られたんだ。見る専にも、ss書きにも」
感想乞食、感想は強制するものではない、私はGJだけでも十分、欲張りすぎ、etc……。
「たぶん、私が弱いから悪いんだとは思うんだ……でもね、自分の書いたものに自信がある訳じゃないし、『感想がかえってこないと、人格自体を否定されている』ような気になっちゃうの。もちろん、そんな風に思っちゃだめってわかってる。でも無理なの、ほかの人はたくさん感想貰ってたり、『熱』のある感想を貰ってるのに、自分のssだけ、GJが二回だけだったりとかするとね、心が折れちゃうの、ポキン、って」
「それは、他人と比べちゃうってこと?」
「だってそりゃ、比べちゃうよ、どうしても……。自分のssの感想はあんなだけど、他の人の感想はあんなだったとか、すごく、凄く気になるよ。ss書くのってとっても時間がかかるもの、凄くがんばって書いて、GJ一つで流されたら、すごく、すごく悲しい。だからまるで『悲しむためにss書いてる』みたいになっていって……書けなくなっちゃった」
素直な言葉、それだけに、私にとって455さんの言葉は重かった。
「篝さんは、感想なんて気にしないって言ってたけど……」
「そりゃあ、篝さんぐらい書けたら平気なのかもね。それにあのひとは、根拠があろうがなかろうが、自分に絶対の自信のある人だから……でも私はそうじゃない、『感想がほしいの』そう思うこと、言うことは、本当に悪いことなの?」
そして、今のこなかがBBSでは感想は貰えないという訳だ。
私は、やはり455さんの物言いには違和感を覚えたけど、その違和感の正体は分からなかった。




他のss書きにも話を聞いてみる。
H4ー53、へいしさん、と呼ばれているss書きに話を聞いてみた。



「こんだけ年月たったら、書きたいことだって書きつくすだろ、そりゃ」


へいしさんの物言いも、シンプルだった。
「俺がこなかがで書きたいものは全部書いた。だから書かなくなった。そりゃ、アイディアが浮かぶこともあるが、結局、BBSのルールじゃ『無茶』が出来ない」
「無茶?」
「こなみがスタンド能力に目覚めたり、巨大ロボットに乗ったりするようなssはノーサンキューだし、昔書いたちょっと黒い感じのssも、bbs的にはあんまりよくなかったりするだろ。それが悪い訳じゃないが、そういう窮屈な場所でいつまでも書かなきゃいけない理由はない。かがりが大学の法学部で水野蓉子と出会う、とかいうssが脳裏をよぎったりもするが、BBSとしては微妙だろ。だからこなかがBBSは、滅ぶべくして滅ぶというか、単純に役目を終えただけだ。俺はむしろ、そっとしておけよ、と篝に言いたいね」
「へいしさんの中では、こなかがBBSは終わってるってこと?」
「そうだ。『こなかがは書き尽くされた』もう研究され尽くしている。それでも続けるならオリジナル要素や、自由度を望むしかないが、BBSはそういう場所じゃない。こなみとかがりがいちゃいちゃしてて萌えるssが見たいなら、保管庫の中を探せばいい、『新しく書かれたものは、どこかでもう書かれたもの』だろ?」
本当に、そうかな?
過去と内容が被るからって、本当に意味がないのかな?
でもへいしさんは、自分が正しいと信じて疑わないようだった。


私はメッセからサインアウトする。
「うーん、かがみん、時代はこなかがに厳しいねえ」
「厳しいっていうか、自然な流れって気がするけど……」
「感想がないと、悲しいし、辛い、かあ……」
「まあでも、普通の話よね」
私はかがみが好きだけど、それは何かの見返りのためなんだろうか。
確かに、かがみが私に冷たかったら、私は凄く凄く悲しい。
自分の存在を否定されているみたいに感じる。
でも、でも……。
それでも私は、かがみを嫌いにはなれないよ。
「こなた?」
ポッキーをくわえたまま首を傾げるかがみは可愛い。
何度だって言いたくなる、かがみは可愛い。
……可愛い。
「感想だけが全てじゃない、そう思いたいけど……」
「まあでも、書くも書かないも自由だし、別にいいんじゃない? 感想が貰えないから書かないって、分かりやすくていいじゃない」
「うん……」
書くべきことは終わった。
そんな風に割り切れるものなのかな。
かがみから得られるものは終わった、とか思える時は、私には永遠に来ない気がする。
私はずっと、かがみが好きだから。
篝さんと同じく、私は愚かだ。
だけど篝さんと違うのは、同性同士の恋愛にかがみを巻き込まないように配慮できることだ。
好きだけでは、生きていけない。
それにもし、この想いを告げてかがみに拒絶されたら、私は耐えられない。
「こなた……」
不意に、どこか呆然とした様子でかがみが呟いた。
「どうしたの?」
「篝さんが、2chに晒されてる」
篝さんは、どこまでも愚者であることをやめない。
私は……。




 ………





──無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ!この金を生む業界は我々の為にあるのだ」
──道理を理解する者:「あんた、正気なのか?自分のやっていることがわかってるのか?」






篝さんがニヨニヨ動画で晒されるようになった経緯は、理解不能な複雑怪奇なものだった。
とにかく、あらゆるところに悪意が溢れていた。

そして篝さんは、動画を作るのをやめた。

完全に、動画製作者を取り囲む政治的事情のせいらしかった。





「一度さ、ジミーさんもへいしさんもシゴ子さんもさ、全員で篝さんに会ったら? 篝さんが心配だし」
かがみはそう言う。
私達はかがみの提案に従い、篝さんを囲むオフ会、みたいな感じで集まることにした。
連絡をすれば篝さんは何事もなかったように、「お、私がこなかが動画を作るの、手伝ってくれるの?」とだけ答えて、私は……嫌な予感がした。





  ………





都内某所で集まった私達の間には、どこか微妙な空気が漂っていた。
こなかがはもう私達には関係がなく、そうなると──私達はどこまでも他人だから。
ただ、篝さんだけがその空気を読まなかった。
「みんな元気そうじゃん」
とパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、篝さんは言った。

「篝さんこそ、元気なの? だいぶ、晒されたみたいだけど」
「あー、あれね」
篝さんは、苦笑してみせた。
「なんつーかさ……時代に取り残されたのかな」
恥ずかしそうに頭を掻いた篝さんの目は、未だに濁らない。
「人気ジャンルだっつーから、魂を持つ人がいるんだろーな、って思ってたんよ。でもたぶん、魂なんて言ってんの、私だけだったんだな、って。みんなさ、麻雀やネトゲしてて、創作者の集まりでも創作の話しねーし、なんだろうな……」
巨大なジャンルに触れた筈の篝さんは、何故か疲れた顔をしていた。
「再生数が多いとさ、神みたいにあがめられるんだよ。私が作品の話をしたらさ、王様みたいにふんぞりかえってる奴が言うのさ、お前のしてほしい評価を言ってみろって。プロの作品としての評価か、同人としての評価か、個人の趣味としての評価か、って。もう質問の意図も態度もわかんねーけど、なんか傲慢な態度だったよ。だから私は事実として同人だから、同人としての評価を聞いたんだ」
「どうなりました?」
「句読点を多くしろ、ってさ。死ぬほど、どうでもいい批評だったよ。句読点で面白さの本質も魂も変わりゃしねえ、でもそのことより、そういう句読点みたいなどうでもいい評価をさ、周りの取り巻きみたいな奴らが『さすが、ためになる批評だねえ』って褒めそやすんだよ。タイトルのつけ方とか、紹介文の書き方とかさ、中身の話をしやがらねえ。ひたすら、外形の話、再生数を増やすための話しかしなかった……」
篝さんが、珍しくため息をついた。
「なんつーかな…………面白さって眼にみえねえから、眼に見える再生数の話しか信じないし、出来ない、そんな時代になっちまってたんだな……」
石のような物体は言った。見えないものが見え、聞こえないものが聞こえるのか、と。
篝さんは、疲れ切った声で言う。
「『人間は、物語の表面しか楽しめない』、熱い三流なら上等だ、って有名な麻雀漫画が言うだろ? でも実際、熱い人間に会ったら、その意味を忘れちまう。腹が立つのはさ、斑鳩の二次創作してるやつが、再生数多い奴に良いように言われてるんだよ。句読点男が、本当に作品を良くしたいなら、俺が指導してやる、とか、俺は元プロ的なことをやっていた、とか吹きまくってさ、みんなそれにひれ伏しちまう。句読点如きの話しか出来ない奴にだ。そうじゃない、斑鳩ってのはそうじゃねえだろ!? 何百万本売れようが、RPGなんて見向きもしない連中が作った、最高の魂を持ったSTGだろ!? 数じゃねえ、売れ行きじゃねえ、たとえプロに、神様のようにあがめられるプロに……大江だろうが富樫だろうが京極だろうが賀東だろうが、だ! 誰に文句を言われても曲げねえ、曲がらねえ! そんな意地と意志と魂だけが価値を持つんだ、それが信じられない人間に、斑鳩を語る資格はねえ!」
「ずいぶん、好き勝手吼えるじゃないか」

と、冷ややかな声を浴びせたのは、へいしさんだった。
「要はあれだろ? 動画の世界でちやほやされなかったから拗ねてるだけなんだろ? それで切れて、動画つくりもやめて愚痴か? 底が割れたな浅見篝」
「てめえみてえな下種と一緒にすんなよ」
かがりさんはパーカーのポケットに手を突っ込んだままへいしさんをにらみつけ、へいしさんは眼鏡の奥の目を、篝さんを侮蔑するように冷ややかに細めた。
侮蔑を恐れない、汚辱を恐れない、孤立を恐れない、だから、篝さんはへいしさんの侮蔑に全く怯まずに言った。
「私は、人を増やそうって数に頼る発想や、BBSを盛り上げようとか、そういう考えが誤っていたと知っただけだ。仮にもう一度、こなかがが人気ジャンルになったからって、何なんだ? その結果が生み出すものに、本当に価値があるのか? それをもう一度考える必要があるのを知った」
「はっ、言い訳乙。お前はさ、自分の慣れ親しんだこなかがBBSが盛り上がって、ちやほやされたいだけなんだろ? 誰もお前のssなんて待ってねーし、読まねーよ、誰も、お前なんて求めてない。『こなかがなんて、もう誰も求めてない』んだよ!!いい加減分かれ!」


──正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」

人々は去った。
誰も、もうこなかがを待っていない。
管理人が去り、職人も去った。
全ては消え、ただこなかがBBSという荒野だけが残った。
その荒野の真ん中で──


  ──篝さんは笑った。


















    「関係ねーよ」
















理屈で負けて怯むなら、魂は要らない。篝さんだけが私たちの中で唯一、魂を持っていたのだ。
「こなかがはもう、時代じゃねーんだ、ってか。そうかもな。だがSTGが時代じゃなくなっても、それでもシルバーガンはそこにある。誰が求めてるとか、時代がどうとか、関係ねー、関係ねーよ。私は私のために、私の信じるもののためにssを書く。時代が読める賢いお前らにはわかんねーだろうが──私には、意地がある」
シルバーガンで、私達は石のような物体を倒せなかった。
そしてシルバーガンの結論は、かつて感動したゲームらしいゲームのクローンを再生産していくこと、だった。
井内ひろしは言っている。

これは始めから決まっていたこと…
そう、幾度となく繰り返されていること…
時代にとり残された私にできることは…
再びゲームを再生させること…
そう幾度となく繰り返されていること…
私はゲームがゲームらしかった頃のクローンを作る…
ゲームがゲームらしく生き残るために…
長い時間をかけて、再び創造空間は発展していくだろう…
そして我々が同じあやまち(切り捨て文化の道)を繰り返さないように、祈りたい…
同じ志を持っている数少ない経営者、販売者、開発者、ゲームプレイヤー達に祝福を…

「シルバーガンの結論じゃ、石のような物体は倒せなかった。斑鳩で石のような物体を倒せたのは、死と引き換えだ。一度、ゲームは死ななきゃならない。こなかがBBSも同じだ……。新しく、仕切りなおさなきゃいけない、だから」
篝さんは言った。


 「私が、こなかがBBSを終わらせる」


へいしさんが鼻で笑った。

「何言ってんだお前、薬でもやってんのか? さっきから一人で盛り上がって、痛いんだよ!! いい加減現実を見ろメンヘラが!!」
「なんだそりゃ、やっすい言葉だな」
篝さんに、へいしさんの言葉は響かない。
『熱』のない言葉では、篝さんには届かないのだ。
「私達が自由を見れるかどうか、もうすぐ分かる。4月25日、私は私にとって終わりのssを書く。こなかがBBSを終わらせるためのssだ」
「うぬぼれんな、お前が百万本ssかいたって、何一つ終わりはしない」
「タイトルは決まってる、この状況ならこれしかないだろ? このタイトルしかない。全てを終わらせるss、そのタイトルだ」
いいから聞け、と、篝さんは言った。







 「レイディアント・シルバーガン」






そうだ、篝さんならそうする、そのタイトルをつける。限りなく特別なSTG、しかし。
「私は、帰る」
「はあ?集まったばかりだぞ!」
「あんたら、私と話すことなんかあるのか? 私にはもう、私の意地と魂しか関係がない。だから、あんたらと話す意味はない」
「篝さん!」
それは、間違っている。一人になっては駄目なんだ。どんな時でも。
「いずみん、私を止めたきゃ、魂を示せよ、それしか、道はない」
「篝さん!待って!」
篝さんは、一度も振り返らない、立ち止まらない。
あとにはただ、取り残された者達だけがいた。
「ほんと、痛い奴は困る。自己陶酔のナルシス」「ねえ」
へいしさんを遮るように、それまで黙っていたかがみが口を開いた。




 「みんな、このままでいいの?」



「はあ?別に浅見が何書こうが知ったことじゃねえよ。それより、これからカラオケに」「本当に?」
かがみは、もう一度、『みんな』に問う。




 「『みんな、本当に、こなかがBBSがこのままで、いいの?』」




かがみの問いに、一瞬、全員が沈黙した。
全員、かつてこなかがを、こなかがbbsを、愛した人だったからだ。
「篝さんは、4月25日に、最後のssを投下するって言ってるけど、その日に、何かできることがあるんじゃないかなって」
「柊」
と、へいしさんがかがみの言葉を遮った。
「お前らは、見る専だから気軽に言うんだ。『俺たちはもう、他の楽しいことを見つけてる』。こなかがに割く時間はない」
455さんが目を逸らす。
「篝さんと被って、感想が貰えないと、悲しいから……」
ジミーさんは天を仰いだ。
「もう何も思いつかない、こなかがは書けんよ」
「そう……なら、仕方ないね」
所詮、ネットの片隅の出来事。
こんな下らないことで大騒ぎして、私たちは愚かだ。
たとえば、高校時代の青臭い勘違い。
仲のよい同性の女の子を好きになったこと。
時が過ぎれば、綺麗な思い出に変わる。


 本当に?



「こなた?」
「ちょっと、頭を冷やしてくる」
私は休日の街中を歩き出す。
篝さんは、4月25日に終わりのssを投下するという。
私たちにできることは……。
終わらないと示すためにssを投下する?
だが、誰もそんなことはしない。もう、こなかがは終わっている。
私は最後の決断をするために、ゲームセンターに向かった。


 レイディアントシルバーガンをするために……。



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  • 私は2010年になってかららきすたを知り、今日初めてココに来ました。

    どのSSも愛情に溢れていて、おかげで、かがみとこなたを原作以上に好きになりました。


    本当に良いものを読ませて貰いました。感謝です。 -- 名無しさん (2010-03-27 13:28:45)
  • この作品に書かれていることは限りなく現実に近いのですよね・・・
    かつては共に楽しんだやつらもここにはいない・・・
    作者様はこの状況に区切りをつけるおつもりなのですね・・・
    4月25日・・・
    頑張って下さい。
    -- 白夜 (2010-03-25 01:23:07)
  • オリキャラだけども個人的には篝さんかなり好きかも
    ていうか続きがめっちゃ気になる -- 名無しさん (2010-03-23 23:05:44)



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