うつるもの5

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はぁ、はぁ……。
やっとついた……!
やっと……こなたに会える……。
2年生の冬に泊まりに行って以来、何度も遊びに行ったこなたの家。
そこが、私の目指すところ。
電車の数分の待ち時間を取り戻すかのように、最短距離を走り続けた。
そして今やっと、その前にいる。
私は、逸る気持ちを抑えて、呼び鈴を押した。
ぴんぽーん、と鳴るのが聞こえて、扉が開くまでの数十秒。
私の心臓が走ってきたからだけとは考えられないほど、速く脈打つ。
そして、待ちに待った、瞬間――――。
「こな………」
えっ……ッ。
私は呆然とした。
「やぁ、こんにちは。やっぱりかがみちゃんだったか」
「こ……こんにちは……」
出てきたのは、こなたではなく、こなたのお父さん。
そ、そんな―――。
って、呆然としてる場合じゃないんだった!
我に返った私はおじさんの言葉が気になり、聞き返す。
「やっぱり……と言いますと?」
「こなたに用があるんだよね?」
おじさんは、私の質問に答えなかった。
私は何か意図があるんだろう、と思い、新たな問いかけを肯定した。
「はい、そうです」
「そうか……やっぱりな」
また、『やっぱり』と言うおじさん。
ゆっくりと話すおじさんに、多少苛立ちを覚える。
もしかして、私をこなたに会わせたくない……?
にわかにそんな考えが浮かんだ。

おじさんの判断?
それとも……こなたが頼んだの………?
もしそうなら、私はどうすれば―――

――ううん、もう気にしないって決めた。
自分勝手だってことはわかってる。
突然気持ちを告げられて、こなたが迷惑に思うのもわかってる。
でも、今……今しか、チャンスはもうない。

もう、スタートの引き金は引かれてる。
もう、私はゴールを目指して駆け出してる。
もう、私は止まるわけにも引き返すわけにもいかない!!
たとえ、どんな厚く高い壁があっても、それを乗り越えなきゃいけない!!
今の私は、そこまできてるのよ!!


だからもしおじさんが、私とこなたの間を隔てるように立ち塞がるなら……私は、越えてみせる!!
そんな私の決意を知らないでか、相変わらずのんびりと話すおじさん。
「いや、すまないね、実は―――」
しかし、その次の言葉で、私は思わず拍子抜けしてしまった。
「家にいないんだ」
「えっ!?」
おじさんも困ったように笑う。
「いやね、今日、突然学校行きたくない、と言い出して、俺もびっくりしたよ」
『学校に行きたくない』――――――か……。
こなたも私と同じ気持ちだったんだ……。

「それでも、休んで良いって言ってやった。理由も気になったが、あえて聞かなかったよ」
「えっ!?どうしてですか!?」
この人、そんなに娘に甘いのか!?
ただのサボりかもしれないのに……!!
「実はもう何日も前から、こなたの様子がおかしかった。
会話が前より、ずっと少ないんだ」
おじさんは、そのときのことを思い出すように目を閉じた。
「話す雰囲気も前より明るくない。俺は不思議に思った。それで、こなたの話を隈無く聞いてると、その理由がわかったんだ」
そこで、再びおじさんは目を開けた。
「会話の中に、ある単語がなかったんだ。いつもこなたが楽しそうに話すそれが、会話の中で、欠落していた。それが――」
そこで、少し間を開ける。
多分、数秒間だろう。
でも私には、とても長く感じられた。
「『かがみ』」
おじさんがゆっくりと、けどしっかりと言った。
その目は、私をしっかりととらえていた。
私は何も言えなかった。
出来ることも、ただ、おじさんが次の言葉を待つだけだった。
「最初、ケンカでもしたのだと思ってたよ。子供のケンカに親が出ていくようなバカげた事はするつもりはない。
いつか仲直りするのを、待ってようと思っていた。けれど、どうやらそう言うわけでもなさそうだった」
おじさんはそこで雰囲気をがらりと変えて、明るく話し始めた。
「ある日、あいつはこんなことをきいてきたんだ。
『ねぇ、お父さん、お母さんによくわからないうちに避けられたりしたこと、ある?』とね」
………ッ!!!
「かがみちゃんとこなたの間で何があったかは知らない。でもそれと関係ないところでは、わかったことがあった。あえて友達と言わずに、かなたを……妻の名前を挙げたことでね」
それって…………もしかして………。
「最初、どう答えようか迷った。けれど、『なかった』と答えたよ」
おじさんが、答えなかった理由。
それは―――。

「かがみちゃん」
おじさんの目が、また真っ直ぐ私をとらえた。
「はい」
今度はしっかりと答えられた。
「君が今ここにいる、という意味を俺は理解しているつもりだ。けれど、違うかもしれない。そうだったら申し訳ない。……で、それをふまえて、一つ良いかい?」
「はい」
「綺麗事を言おうなんて思わなくていい。格好良くまとめようなんて考えなくていい。こなたのことをどう思ってくれてるのか、君の正直な気持ちを聞かせてくれないかい?」
前にあった時のような、ふざけた感じは微塵もない。
ただそこには、一人の親としての姿があった。

何を言おう……?
そう思う前に、私の口から言葉が出ていた。
「最初は友達だと思ってました。でも、いつも一緒にいるうちに、
いつしか、気持ちは変わってて……それがいつなのか聞かれたら、
わからないかも知れません……。最初は、保護者的な気持ちだと思ってました。
双子の妹に対しての気持ちと、同じだと思ってたんです。
でも、違ったんです!そうじゃなかったんです!!」
言葉が堰をきったように流れ出す。
「私、言えます!私はこなたが好きです!!愛してるんです!!」
私の頭の中で氾濫している言葉達が、口を媒体として次から次へと溢れ出してきた。
「最初はこなたに迷惑かかるし、今のこなた達との関係が壊れるのが嫌だったので、
気持ちを封印するつもりでした……。
でも、それは出来ませんでした!
そのせいで、みんなに迷惑かけました!嫌な思いさせていました!!
こなたに悲しい思いさせていました!!そのことに、友達に言われて気付けたんです!!」
全てが私の本音。そんな、言わば私自身をうつす言葉達が続く。

「こなたをたくさん傷つけました。友達はそんなことないっていってくれたけど、
そんな私がこなたに会う資格なんて、実はないかもしれない。
けど、私はこなたに会いたいんです!会わなくちゃいけないんです!!
私の気持ちを、ちゃんと伝えなきゃいけないんです!!」
涙が頬を伝う。でも、拭ってる暇はない。
「ワガママだって思います。自分勝手だって思います。でも、今しか出来ないんです!
今を逃したら、もうチャンスは二度と来ないんです!
だから、私は何としてでも、そのチャンスを掴み取りたい……!
そして、こなたに……思い人に、私の気持ちを伝えなきゃいけないんです!!」
支離滅裂だったかもしれない。
意味不明だったかもしれない。
でも、これが私の本心だった。
「……そうか……。とても気持ちが伝わってきたよ」
「あ……ありがとう……ございます!それと、すいません、偉そうに言ってしまって……」
全てを言い切ったからか、少し心に余裕が出来た。
「いやいや、むしろ余計に伝わるものがあったよ。……でだ、かがみちゃん、一つ良いか」
「はい」
「俺が言うのもなんなんだが、世間の目から耐えられるかい……?
人の目は君が思っているよりも、多分ずっと冷たい。それに、社会の枠から外れているものを淘汰しようとする。
『1+1=2』じゃないと、いけないんだよ。
……かがみちゃん、君はその対象になろうとしているんだ。その覚悟はあるのかい?」
凄く抽象的だけど、かなり的を射た比喩ね……。
流石は作家さんだけはあるわ……。
「正直のところ、まだわからないです」
「……こなたのことは、どうするんだい?」
おじさんの口調はかわらない。
そのはずなのに、今までより強く私に圧し掛かってきた。
そう思える程、その言葉には重圧があった。

でも、私の後ろには道はないの。
もう、私は前にしか進めない!
だから、その重圧に屈するわけにはいかないわ!
「ほんの数十分前に友達に言われて、やっと気付けた……。そんな私が言っても説得力なんてないかもしれません」
ですが、と繋げる。
「こなたと一緒なら、どんな逆境も乗り越えられる、そんな気がするんです。
……確かにこなたにちょっと辛い思いをさせてしまうかもしれません」
再び、ですが、と繋げた。
「最後には、二人で笑い合って、幸せを感じられる。そうなることを誓います」
『最後』がいつになるかわからない。
でも、私とこなたなら、きっと一緒に歩んでいける。
「そうか……」
おじさんは、難しい顔で手を顎に当てて少し考えてから、再び口を開いた。
「かがみちゃんなら『1+1』の答えを、何にするんだい……?」

『1+1』


小学校の算数で最初に習う問題。
簡単で誰も迷わないそんな問題。


それが、私がこなたと一緒に歩むための最初の試練。



その解として、私は1つの結論を導きだした。
「私の答えは『11』です。外道と言われようと、変えるつもりはありません」
おじさんは驚いたような、けれど査定をするような顔で私を見る。
「何で『11』なんだい?」
「1はそれぞれ、私とこなた。私達は、一緒に並んでお互いを助け合って生きていける。
そんな思いを込めた、答えです」
一度頷くおじさん。少ししてから、その口がまた開かれた。
「その答えを試験で不正解にされたらどうするんだい?」
新たな問いかけ。それは大問の(2)。(1)の答えを基にして、その答えを導き出すもの。
つまり(1)があっていたら、(2)も正解する可能性がある。
けど(1)が間違っていたら、(2)も正解する可能性はない。
―――そして、その先も何も得られないで終わる。
でも、私はもう臆病にならない。
その先にこなたがいるから。
それに、不安になるような答えを(1)にしたわけじゃないのよ!
「私はちゃんと自分で導き出した答えを解答用紙に書きました。
ですから、試験に落ちても後悔しません。それが自分にとって正しい答えですから」
これが、私の導いた(2)の解―――いや、大問の答え。
おじさんの目にどう映ったか分からない。
でも、この言葉にうつるものは、オブラートに包まれていないそのままの私。
だから後悔はない。
私はまっすぐおじさんの目を見て、その返答を待った。
おじさんの顔は相変わらず、難しそうなまま。
そして、そのまま口を開く――――その瞬間に一転、笑顔になった。
「はははッ!これはやられた!俺の負けだよ!」
やった――――ッ!!
私も思わず、笑顔になった。
「かがみちゃん、君のこなたへの思いの強さ、とてもよくわかった。
この先こなたのことをここまで思ってくれる奴は、男でも女でもいないだろう。何せ、俺以上だからな!」
私が、今、世界で一番こなたのことを思っている。
私が自信を持って導き出した答えの採点。
その結果、娘をあれだけ溺愛していたおじさんに認めてもらえた……。
「あ、ありがとうございます!」
自然とその言葉がでていた。

その言葉に、おじさんは複雑そうな顔色になって、言う。
「ごめんな、実は俺もかがみちゃんを試すようなことをする資格なんてなかったんだ」
「え……?」
ど、どうゆうこと……?
なんでこなたの親であるおじさんが、その資格がないなんて言うの……?
その私の疑問の答えを、おじさんは言い続けた。
「本当は俺も、こなたに妻とのことを聞かれた時、戸惑ったんだ。
まさかリアルで、しかも自分の娘が女の子を好きになるなんて、夢にも思わなかったからね」
そっか……。やっぱりそうよね……。
「で、この年にもなって、妻の仏壇の前で聞いてしまったんだ。
『こなたが女の子を好きになったみたいなんだ……。
父親として娘のずっと先の未来の事まで考えたら、やっぱりつきあわせない方が良いだろうか?』とね。
そしたら、凄いことが起こったんだよ」
「凄いこと?」
待っていればいいだけなのに、つい私は聞き返してしまった。
「いつも穏やかに燃えてる蝋燭の火が、突然激しく燃え出したんだ。それだけじゃない。妻の写真が前触れなしに倒れたんだよ。あの時は本当にビックリしたなぁ」
「……」
明らかに普通の現象じゃない。
そのはずなのに、なぜかおじさんは別にそんなの気にしないで話す。
その理由が、なんとなく私にもわかった気がした。
「でも、すぐわかったよ。妻が怒っている、とね。かなたが、俺の出した答えの間違いを正してくれようとしている、ってね……」
「おじさん………」
やっぱりそうだったんだ……。
こなたのお母さんも、私達のこと、見ていてくれてたんだ……。
「こなたの母親は、知っての通りこなたが子供の頃に逝っちまった。
でも、こなたのために何かしてやりたかったんだろうな……。
でも、あいつは誰が相手でも認めるって奴じゃない。
かがみちゃんのことをちゃんと見極めて、それで認めている。
俺がそれは保障する。何せ、俺の妻だからな!!」
再び、ははは!、と笑うおじさん。
「あはは……」
私はちょっと苦笑い。
でも、さっきのおじさんは、本当に普通の親以上に子供の事を考えていた。こなたのお母さんにも、それがちゃんと分かっていたのかな……?
「それとかがみちゃん、俺のことをお義父さんって呼んでくれていいからな!」
「あ、あはは……よ、よろしくお願いします」
やっぱり、こなたのお父さんね……。
「それじゃ、私、いきます!」
ちょっと長居しすぎちゃったかもしれない。
早く、こなたに会いたい。
気持ちを伝えたい
抱きしめたい。
「こなたを……頼んだよ」
「はい!」
私はおじさんの思いを背負い、走り出した。
こなた待っててね……!!



「かなた……こなたは良い友達と……思い人を持ったみたいだな―――。
お前はやっぱり、鋭かったみたいだな。お前が妻で本当によかったよ。
かがみちゃんとこなたに、お前も何か言ってあげられれば良かったんだけどな……。
それだけが悔やまれるよ……」

こなたがいくところってどこだろう……?
ゲマズ?アニメイト?ゲーセン?
とりあえずどこでもいい!!いけば、きっとどこかにこなたがいるわ!!

――あれッ……!
突然、眩暈に襲われて、私は立ち止まってしまう。
寝てないのに走りすぎた……?
慣れないことしちゃってるから……?
こなたみたいに運動神経が良ければな……。
そう思ってる最中も、どんどん酷くなってくる眩暈。
本格的に……やばい……わね……。


――あれ……?


突然やってきた眩暈は、そのまま突然消えていった。
そんな一瞬の間。私は誰かに話しかけられた気がした。

誰かいた……?
周りを見渡すも、誰もいない。
気のせいだったのかな……。
そう思って再び走り出そうとしたとき。
『かがみさん』
優しい声が、私の名前を呼んだ。
「だ、誰……ですか……?」
私は、誰もいない空間に問いかけた。
『いきなり話しかけてごめんなさい、私、こなたの母です』
「えっ!?」
こなたのお母さん……!?そんなことありえるの……?
『驚かせてしまいました?』
「い、いえ……はい」
『ふふ、そうでしょうね』
わ、私、今本当に……こなたのお母さんと話してるの……?
巫女やってるから、特殊な能力が……?
って、なにこなたみたいな発想してるのよ、私!
『そう君が言ってくれたみたいですが、私はあなた達の仲をちゃんとわかっていました』
「あ、ありがとうございます!」
『さっきのそう君とのやり取りもみさせていただきました。
やっぱり、あなたなら、あの子を不安なく託せます』
「そ、そんな……て、照れます……」
『ふふ、そう君達が喜びそうな反応ですね』
「あはは……何と答えればいいのやら……」

『かがみさん』
「はい」
『きっと、あの子は今一番望んでることをするための場所にいます』
「……こなたが今、一番望んでることをするための場所……」
『そこは、あなたがきっと思っているところですよ』
「……そうですかね……?」
『ええ。自信を持ってください』
「……はい、ありがとうございます」
『私は、あの子に母親らしいことを何もしてあげられませんでした……』
「…………」
『ですから、こんなことを言う資格はないかもしれません』
「そんなことないです!!あなたはちゃんとその資格を持ってます!!」
『……ありがとう……』
「感謝したいのは私のほうですよ」
『……あの子を……お願いします』
「……はい!」


こなたの今一番望んでいること。
絶対の自信があるわけじゃない。
けどそれは私も望んでいること。
だからこなたのことを信じたい。


―――こなたはきっと、そこにいる!!


冬の空色は、いつの間にか暗くなっていた。
冬の黄昏は、いつの間にか寒くなっていた。

でも、苦にならない。
その先に、私の望む未来があるから。

私は走り出した。
私達の未来を掴むために。




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