こんなに好きなのに (3)

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 私達二人の関係は、どんな形をしているのだろう。

 それは恋人でも友達でもない不定形で、あの夜のキスだけ、ピースが上手く嵌らない。
 女の子同士で、私はこなたと親しくなりすぎて、私はどうしていいのか分からないままだ。
 放課後の四人での帰り道。
 最近では帰る度に一日一日、卒業が近づくのを感じて、不安な気持ちが抑えられない。
「もうすぐ、クリスマスだね」
 とつかさが笑う。
 飾り付けられた街の電飾がピカピカ光って、世界は冬の装いに満ち始める。
 冬休みだってもうすぐだ。でもそれが嬉しいよりは、近づく別れが私を寂しくさせる。
 隣を歩くこなたの表情からは、私に対する本当の気持ちが、どんな形をしているのかは読み取れない。
「恋人が街で増える季節だよねー、私はまあ、ネトゲで過ごすんじゃないかと思うけどー」
「不健康だな、相変わらず」
 恋人、という単語に、私はどきりとする。
「ん、どしたの?かがみ?」
 私とこなたの二人だけのクリスマス、なんて、有り得ないとわかっているけど、想像するのをやめられない。
「あ、クリスマスパーティーしようよ」
 と、つかさが笑った。
「おい、うち、神社だぞ」
 まあ、神社だからクリスマスパーティーしないかって言ったら、社によってマチマチな気はするけど。
「だから、お呼ばれしちゃうんだよ、お姉ちゃん」
「ふむ……うちは神社的にクリスマスはスルーだから、よそのクリスマスパーティーに遊びにいっても、問題はないな」
 家族でクリスマスパーティーをする家なら、その日は家に居なければならないだろう。
 しかし柊家はそうではなかった。
 それに私は、クリスマスをこなたと過ごしたいという気持ちを、上手く抑えられなかった。
 別れが近いから、尚更。
「おやおや二人とも、そんな日にパーティーに行くとは、フリー確定ですなー」
「そういうお前はどうなんだよ」
「私はネトゲで嫁がいるからねえ」
「それはフリーと変わらねえ!」
 いつものやりとり、でも、でも私は、こなたの本心を知りたかった。
 いつものやりとり、では物足りないよ。
 あの夜が、忘れられないから。
「ねえ、こなたも一緒に、クリスマスパーティーとか、行かない?」
「お、やる気だねー、寂しいもの同士ってやつー? でもクリスマスパーティーは、うちもやるんじゃないかなあ。
 あ、それにつかさとかがみが参加するの? それならお父さんに聞いてみるよ? 多分、いいって言うと思うけど」
 願ってもないことだった。
「じゃあ、お邪魔させて貰おうかな……」
 でも、何だかもどかしい。
 私が男子だったら、こなたに二人きりのクリスマスの話とか、出来るのに。
 こなたの家族と、つかさと、パーティーだって充分楽しい、でも、でも私は、卒業前に、何か形が欲しいんだ、と気付く。
「あの、あのさ、こなた……」
「何?」
 気持ちばかり焦って、何を言っていいのか分からない。
「もうすぐ卒業だけど、最後のクリスマスじゃない?」
「そうだね?」
「心残りとか、ないわけ?」
「どういう意味?」
 こなたが不意に、無表情に私の眼を覗き込んだ。
 その目を見ていると、あの夜が嘘だったみたいに思えてくる。余りにも、感情が表れないから。
 でも私は、あの夜が現実だったと知っている。
 だから私は、言う。

「こなたは、キス……するような相手と、クリスマスを過ごしたいとか、思わない訳?」

 他の人には、恋人欲しくないの? みたいな意味にしか聞こえないだろう。
 でも私とこなたには、その意味は充分に分かっていた筈だった。
 現にこなたは一瞬、その目に動揺を映したのだから。
「な、何言い出すんだよ、かがみ。私の嫁はネトゲにいるよ」
「そういう話じゃないわよ」
 私の真剣な目に、こなたは無表情を取り戻す。
「やけに、今日のかがみは絡むね」
「絡んでないわよ」
「絡んでるよ」
「絡んでない」
「絡んでる」
 不安ばかりが膨らんで、一瞬、頭に血が上る。
「絡んでないわよっ!」
 思わず、声を荒げていた。
 驚いたつかさとみゆきが固まり、こなたはへへへ、と愛想笑いをし、それが一層、私を逆上させる。
「かがみ、今日は機嫌悪いみたいだね」
 その、私は冷静ですよ、とでも言わんばかりの物言いが、私から冷静さを更に奪う。
「機嫌なんか悪くないわ、ぜんっぜんクールよ。私が怒ってるように見えるなら、目医者にでも行けば?」
「かがみ、深呼吸して」
「何その言い方、私が冷静さを失ってるとでもいいたいわけ? こなたさんはそりゃあクールですから、馬鹿みたいに怒ってる
 私がさぞ滑稽なんでしょうね、でも」
「そんな事いってないよ」
「言ってるわよ!」
 私が怒鳴り声をあげ、場の空気は最悪になった。

 ああ、どうしてこうなっちゃうんだろう?

 本当は、こんな事が言いたかったんじゃないのに。

 もう一度出会った頃に戻れたなら、と私は思う。
 そうしたら、もっと上手に、素直に気持ちを伝えられるのに。
 今の私達は近くなり過ぎて、心はいつも裏腹の言葉になっていく。
「ごめん、かがみ、私の言い方が悪かったね。ごめん」
 それでもこなたは精一杯、私に優しくしようとして、私は切なくなるのが止められない。

 優しくしないで。

 優しくされると、切なくなるから。
「かがみ?」
 ねえ、こなた、どうしてそんな風に親切にしてくれるなら、本当の事を教えてくれないの?
 私はただ、たった一つの言葉を聴きたいだけなのに。
「かがみ……泣いてるの?」
 私は指摘されて、初めてそれに気付いた。
「別に、目にゴミが入っただけよ」
 こなたは、私の涙を拭こうとした手を止める。
 つかさとみゆきの視線に気付いて。
 それが悲しくて、私は自分のわがままさが嫌になる。
 冷たくされると、泣きたくなる。
「今日は風が強くて、ゴミが多いわね!」
 ねえ、どうしたらいいのかな?
 私達は親友で、女の子同士で、この先は無いの?
 あの夜夢見た関係を、忘れなくちゃいけないの? 
 この心はざわめくみたいで、私はどんどん不安定になっていく。 
 私のこなたへの想いは、もう親友の形をしていない。
 でも恋人の形もしていない。

 気まずい雰囲気のまま、私達は帰途につく。
 明日、どんな顔でこなたに会えばいいのか、分からないまま。






 どんどん、情緒が不安定になる。
 あれから数日。
 ぼーっとしたり、泣きそうになったり、峰岸や日下部には、卒業前だからかも、なんて言って誤魔化しているけど、私は今の自分に耐えられない。
 いっそ、こなたの事なんか、忘れてしまえればいいのに。
 私は、休み時間にこなたの教室に行かなくなった。
 あの帰り道が気まずくて、顔を合わせづらいのもある。
 でもそれ以上に、私は私の感情を持て余していた。
 どうしていいのか分からない。
 それでも卒業へのカウントダウンは止まらない。
 夜、ベッドで泣いている日が増えた。
 孤独だったウサギは、狐に出会って幸福を知る、でも別れの時が来て、一人になったウサギは、前よりもずっと孤独になるのだ。
 そんな、夢を見た。
 私は誰よりもこなたを求めているけど、同時にこなたを恐れてもいた。
「柊ちゃん……」
 峰岸も、日下部も、そんな私に不安そうで……。
 教室の扉が開く。
「かがみ……」
 入ってきたのはこなただった。
 私の席に近づいてきて、思わず私は逃げたくなる。
 自分の心を、抑えられないから。
「こなた……」
「最近、こっちの教室に来ないから、会いに来ちゃった」
「た、たまたまよ。何の用?」
「もうすぐ、クリスマスだからさ。かがみ、パーティーに来るのかと思って」
「い、行くわよ、もちろん……」
 こなたと私の間に、無言が訪れる。
 気まずい、沈黙。
 やがて、こなたは言った。
「じゃあ、パーティー、待ってるから」
 そう言ってこなたが背を向ける。
「あ……」
 思わず、こなたの袖を私は掴む。
「なに、かがみ?」
 冷たいくらい、こなたは普通の表情で。
「何でも……無い」
 私は手を離す。
 背をむけられると、不安になる。
 行かないでよ、こなた。
 私は身勝手で、情緒不安定で、どうしようもない女の子だった。
 自分はこんな人間だっただろうか、と思うくらい、弱くて、情けなくて。
 こなたは、そんな私を不安そうに見た。
「ほんとに、何でも無い?」
 私の眼を覗き込む、こなたの眼。
 なんでもなくなんか、無い。
 こなたが好き。
 誰よりも好き。
 でも私は教室の視線が気になって、首を振った。
「ほんと、何でもないから」
 寂しそうな目をしたこなたが教室を出て行って、私は……。

 誰より、好きなのに。
 私達は女の子同士だから、上手くいかない。

 パーティーの日、私は馬鹿みたいに着飾って、散々服装を悩んでから泉家に向かう。
 一緒のつかさは、最近の不安定な私を心配そうに見ている。
 色々話しかけてくれたのに上の空で、ごめんね、つかさ。
 こなたの家のインターフォンを鳴らす。
 「いらっしゃい、かがみちゃん、つかさちゃん」
 こなたのお父さんは、快く私達を迎えてくれた。
 「あ、かがみ先輩、つかさ先輩」
 ゆたかちゃんが、私達を見て、とてとてと近づいてくる。
 何故かつかさがにやにやした。
 「つかさ先輩……つかさ先輩かあ……」
 「あ、あの?」
 「あ、いや別に、先輩って呼ばれて嬉しかった訳じゃないよ!?」
 なんだか、天然同士微妙な会話をしている。若干、この二人、似ているかも。でも悲しいかな、ゆたかちゃんの方がしっかりしているかも知れない。
 そして居間に通された私は、私の心を乱すその人と対面した。
 「かがみっ!」
 こなたは嬉しそうに私に近づくと、私の手を柔らかく握った。
 まるで今までわだかまりがあった事や、帰り道に喧嘩したことなんて、無かったみたいに。
「こなた……」
 わざとだ。
 今日はパーティーだから、気まずかった事は無かった事にして、私と仲良くしたいってこなたも想ってくれている。
 急激に、胸が熱くなる。
 私も、こなたと仲良くしたい。
 このままじゃ嫌なの。友達でもいいから、一緒に居たいの。
 すれ違っていた時間を、私は取り戻したい……!
 そう思って、私は強く強くこなたの手を握り返す。
「来てっ! こっちこっち!」
 私はこなたに手を引かれてパーティー会場に向かい、足取りが軽くなり、胸が熱くなり、私は、やっぱり、こなたが好きなんだ、と想った。
 ぎゅっと目を瞑って、握られた手の暖かさを感じて、ずっとこの手を繋いでいたい、と願う。
 こなた、私、こなたのこと好きなんだよ?
 心の中だけなら、こんなに素直に言える。
「これ、かがみへのプレゼント!」
 そう言ってこなたが無邪気に笑う。
 差し出してきたのは、赤いミニスカサンタルックだった。
「もう、馬鹿じゃないの」
 そういって、私は出来るだけの笑顔でこなたの頭を軽く叩いたのだった。
 友達の距離、それでも、幸せな時間はあるんだ。
 私達は手を繋いでここにいる、それだけで、充分なのかも知れない。
 でも。
「あのね、こなた」
 私は勇気を出して言った。
「今日、泊まっていっていい?」
 こなたは笑顔で「もちろん」と答えた。


 私が泊まった夜。
 こなたの部屋に私の写真は見当たらない。少しでも、何か、形が欲しいのに。
「もう、そんなに家捜ししないでよ、かがみ」
「べ、別に、家捜ししてる訳じゃないわよ」
 夜は静かに私達を包み、時間を止める事は誰にも出来ない。
 後戻り出来ない学生時代が、終わろうとしている。
 私の恋、報われない想いが身を焼くようで、私は敷かれた布団の中で丸くなる。
 どうしてもあの夜を思い出し、私は、期待、してしまう……。
「こなた、起きてる……?」
「うん、起きてる……」
 沈黙が夜の部屋に訪れて、私達二人は気まずいような、くすぐったいような、不安なような気持ちで横になっている。
「こなた、前にさ、こんな風にこなたが私の部屋に泊まった時に……」
「あ、あのさ、かがみ」
 こなたが焦ったように私の言葉を遮った。
「もうすぐ私達、卒業じゃん」
「そうね……」
 寂しい、気持ち。
「あのね、かがみに会えて、良かったよ、私」
 こなたは、茶化さずにきっぱりと言った。
 暖かい、気持ち。
「かがみは、最高の親友だよ!」
 私は喜んでいいのか、悲しんでいいのか、でも私は、こなたがこんな恥ずかしい台詞を言うのを初めて聞いて、嬉しく想うのも止められなくて……。
「ねえ、こなた、そっちの布団に行っていい?」
「え!? な、何故!?」
「さ、寒くて……」
 沈黙。
 嘘だった。
 寒い訳がない。
 でもこなたは結局、突っ込まずに言った。
「うん……いいよ」
 と。
 だから私は、こなたのベッドの中に入る。
 こなたの匂いと、温もりがした。
「こなた、やっぱりあんた、小さいわね」
「なにをー、いきなり人のコンプレックスをー!」
「別に、可愛いじゃない?」
「こう見えて、色々不便なんだよー」
「でも、こうしやすいわ」
 私は、こなたの肩から腕を回した。後ろから抱きしめるみたいに。
「かがみ……」
「私も、こなたに会えて良かった」
 目を閉じる。
 卒業まで、親友のままなのかも。
 今は、それが精一杯。
 女の子同士で、それ以上踏み込んだら、きっとお互い傷つくから。
 だから、今はこのままで。
 夢の中でウサギは、狐と再び出会う、そして今度は、その手を離さないのだ。
 ずっとずっと、友達のままで……。

 こうして私は久しぶりにいかなる悲しみとも手を切り、満ち足りた気持ちで眠りについたのだった。






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コメント:
  • 終わらすなや…。
    -- 名無しさん (2012-12-30 18:00:35)
  • この後どうなるの? -- かがみんラブ (2012-09-14 23:21:34)
  • 終わりなの?


    ………切ないなぁ。 -- 名無しさん (2010-06-25 19:12:59)
  • な、涙が・・うぅぅ -- 名無しさん (2010-01-07 00:44:14)
  • うぅ…結ばれて欲しかった… -- 名無しさん (2010-01-01 12:35:38)
  • ハッピーエンドとはいかないか…
    でもGJ!! -- 名無しさん (2009-12-31 17:08:33)
  • せつねぇ・・・。
    やっぱり2人には幸せになって欲しい、と思いつつGJを贈らせていただきます。 -- kk (2009-12-30 23:45:01)



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