こんなに好きなのに (1)

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 こなたが泊まりに来た夜。
 それはたぶん、アニメや漫画ではよく女の子同士のお泊り会があるからやってみたいとかいう、
 いつもの下らないこなたの口車で、
 しかし別にこなたが泊まりに来ても困らない私はOKした、とかその程度の事情だったと思う。
 こなたが不意に私の机に目を止めて言った。

 「あ、かがみ、修学旅行のプリクラ、貼ってくれてるんだ」
 こなたはニヤニヤ笑っている。
 「は、貼らないのも悪いから部屋に貼ってるだけよ、悪い?」
 「いーやー? こんな見やすいところに貼ってくれて嬉しいよー。毎日眺めてね(はぁと)かがみん」
 「う、うるさいな!もう!」
 いつものようにからかってくるこなたを見ながら、私はもうすぐ終わる高校生活を意識した。
 こいつと、こんな風に過ごせるのもあと少し、なんてね。

 「あれ?」
 チクリ、とする。
 「どうしたの?かがみん」
 こなたはそう言って不思議そうに私の顔を覗きこんで、私は目を逸らす。
 今、不意に、胸がずきずき痛んだ。
 何でだろう?
 「んー、なんでもない。でも、修学旅行も終わっちゃったし、高校生活もおしまいだし、
  あんたとこうして居られる時間も、残り少ないのかも、なんてね」
 「感傷的なかがみ萌えー?」
 「別にそんなんじゃないし、萌えじゃないっての」

 いつもみたいに笑いあう私たちの時間は短い。
 楽しくて、綺麗で、眩しい少女の時間が、瞬きする間に過ぎていく。
 大学はきっと別になるだろうし、今よりこなたと、離れちゃうのかな、なんて思った。
 やがて夜の青が濃くなって、床に敷かれた布団にこなたが丸くなると、
 私たちはおやすみを言い合って眠りの世界へと落ちていく。

 夢の中で私は孤独で寂しいウサギとなって、失ってしまった時間を嘆いて泣いている。
 その夢の中では、ウサギと親しかった狐がウサギの知らない群れの中で楽しそうに笑っていて、
 狐はウサギの事は一瞥もせず忘れ去ってしまう。
 そして夢の中ではどんなに叫んでも、どんなに泣いても、その声は狐には届かない。

 「かがみ!」

 不意に目を覚ました私は、こなたの腕の中に居た。
 未だに夢の半ばに居る私は、ついに狐に声が届いたのだと思ってその胸に飛び込んだ。
 そして自分の頬を流れる熱い涙に気づく。

 「凄く苦しそうに泣き出すから、何事かと思ったよ」
 気づけば私は、強く強くこなたと抱きしめあっていて、夢のせいか私はこなたから体を離す事が出来ない。
 「かがみ?」
 見上げると、こなたの顔が驚くほど近く、窓からさす月明かりに照らされて、少女のこなたの長い睫と、
 幼い丸い頬がよく見えた。
 見詰め合うと、時間が止まったみたいに思える。
 ううん、本当に、時間が止まってしまえばいい、と思った。
 私たちはもう視線を離すことが出来ず、互いに吸い寄せられるように見つめあい、やがて言葉が消えた。
 夜の静寂の中で静かに向かいあう私たちは、互いの心臓の鼓動だけを頼りに、抱き合ったまま静かに顔を
 寄せていく。
 そうするのが全く自然に思えたから。
 そして私たちは、当然のことみたいにキスをした。
 忘れることができないくらい優しく、そっと。
 抱き合ったぬくもりが、強く強く私たちを包んでいたのを覚えている。

 「かがみ……」
 唇を離して抱き合ったまま見つめあう私たちは、魔法が解けたみたいにぎこちなくなった。
 いま、何をしちゃったの? 私……!
 冷静になって顔を真っ赤にした私は、逃げるようにこなたから体を離す。
 「お、お休み!」
 「うん、お休み、かがみ」
 結局、私はその日、上手く眠れなかった。







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コメント:
  • や、やばい・・1作目なのに、目頭が・・ -- 名無しさん (2010-01-07 00:35:34)
  • すごくきれいな展開。
    「好き」とかのおなじみの言葉がまったく入ってない!
    何事もないように終わっていく。
    ロマンチック。心がとても落ち着いた。
    いいものをありがとう。
    -- 名無しさん (2009-12-30 00:05:04)


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