掛け値なしの

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――遅れてごめん。
遅刻したことはどうでもよかった。
――本当に、ごめん。
違う。謝罪の言葉なんて聞きたくない。
そんな誠実さなんて必要ないのに。



最近こなたの様子がおかしい。
話通じないのをお構い無しにノリノリでしゃべることはほとんどなくなった。
勉強面で頼られることも少なくなった。
帰りに寄り道に誘われることなんてもう一ヶ月近くないことだ。

これらは客観的に見ると良い変化だ。
趣味の話なんてされてもわからないことだらけで、ただ突っ込みに忙しいだけだった。
宿題をまる写ししなくなったのも、ちゃんと受験生の自覚を持って勉強するようになったんだろう。
ちょっと気後れするアニメ専門店やそういう人たちが集まるところに振り回されなくなった。
そう考えるとずっとこのままでいてくれるほうが私にも、こなたにとっても良いことかもしれない。

けど、私はこなたのそういうところを嫌ってたわけではない。
別に理解できない話をされようが、語っている本人が楽しいならそれでいいと思っている。
勉強面だって昔から世話好きの私にはたいして負荷のかかることじゃない。
寄り道だってまっすぐ家に帰るよりは楽しいし、私自身もそういうことに興味がないわけではなかった。
だからそんなこと気にする必要なんてなかったのに。



こなたの変化にすぐ気付けたのは私がこなたをよく見ているからだ。
だからこれはこなたが私と距離を置こうとしているものだと考えてしまった。
たとえ私が望んでいないことでも、これがこなたなりの答えなのだと。
こなたは私の気持ちに気付いてしまったんだと。

けど、その考えが間違いだということはすぐにわかった。
そしてこなたの変化に気付いたのは私だけではなかったから。
つまり、こなたはつかさやみゆきに対しても同様に態度を変えてきたのだから。

こなたはどこか気後れしているらしい。
遊びに誘えば付き合ってくれるし、毎朝一緒に登校してお昼も一緒に食べている。
決して嫌がっている様子はなくて、今まで通り私たちは笑いあった。
でも、笑わせてくれるのはいつも話題の中心にいたこなたではなくて。
ほとんどこなた以外の三人でしゃべっているのをこなたが楽しそうに見ているだけで。
全て受け身になって、自分の好きなように趣味の話を、遊びをするのを極力避けていた。

理由は聞けなかった。いや、聞かなかった。
ちゃんと自分から説明してくれるだろうと。こなたは私たちを信頼しているはずだと。
だからすぐいつものこなたに戻ってくれると思っていたのに。
こなたは一線を引いたまま動こうとしなかった。

こなたの変化に勘づいていながら何も言えずに数日経ったあの日、私は一つ行動してみようと思った。
といってもあのとき私がこなたを見ていた理由はちょっと不純なもので、ただその言い訳として思いついたのが遊びに行くことだった。
こなたがもし自分の趣味に私たちを付き合わせるのが悪いと思っているのなら、私たちから行ってあげよう、と。
なのでみゆきには悪いけど強制参加ということで。
とりあえず専門店があり結構ショッピングにも向いている大宮に行くということにした。

当日、こなたは見事に遅刻した。
まぁそこはいつものことと思って理由を聞いてみる。
10分遅れようが30分遅れようが同じなのよ。

しかしこなたは「ごめん」の一言しか言わなくて。
いつものように寝るのが遅かったとか、来る前にゲームしてたとか、なんでもいいから言ってくれれば軽く突っ込んで終わりだったのに。
今までになくしおらしいこなたに腹を立ててしまった。

「こなたの行きたいとこへ行こう」という台詞は言うタイミングを失い、怒りに任せて歩き続ける。
つかさやみゆきもちょっと困った様子で話しかけてきたし、何よりうつむきがちについてくるこなたに胸を締め付けらる思いがした。

「かがみさん、どこへ行くんです?」
知らないわよ。
「お姉ちゃん、こなちゃん見失っちゃうよ」
えっ、うそ!?

立ち止まり振り向くと結構こなたと距離が離れていることに気付いた。
珍しくスカートを履いて、リボンで長い髪をまとめたこなたがしょんぼりして歩いているのはいろいろと危険よね。

「ほらこなた。そんなに気にしなくていいから、行こ」
だいたいこんなときにつまらない意地を張るのが間違っていたわ。
「え、でも、かなり遅れたじゃん」
ああ、もう。つかさもみゆきも気にしてないし、過ぎた時間のことをあれこれ言ってもしょうがないでしょ。
今までだって遅刻は何度もしてたじゃない。
えっと、私もなんとも思ってないし、さっきは、その、たまたまというか。
「あ、うん。ちょっとお腹空いてたのよ」
「本当に?」
「もうそれくらいの時間でしょ……って、ああ、遅刻してきたのは関係ないからね」
もともと最初にお昼にするつもりで、こなたが食べたいものにする、という予定だったはずだ。
とりあえずどこか昼食をとれるお店は……某大手ハンバーガーチェーン店だけどいっか。
つかさとみゆきも気にしないわよね?うん。
二人に目配せし私はこなたの手を掴んで店内へと進んだ。

「どこ行こっか?」
ハンバーグを二枚挟んだやつをひとかじりしたあとみんなに尋ねた。
つかさはジュースをみゆきはポテトに手を伸ばしながらこなたを見る。
みんなの視線に気付いたからか、こなたは頬張っていたハンバーガーから顔をあげた。
「えっと、決めてなかったの?」
それは至極当たり前の質問だ。
遊びに誘ったのが私で、ここ大宮に決めたのも私だった。
「時間はあるし、みんなが行きたいところに行こうと思ってね」
みんなと言いつつこなただけを見る。
「こなちゃんはどこがいい?」
「私はどこでも構いませんので……」
泉さんが決めてくださいと言うようにみゆきもこなたを見つめた。
私は最初から行きたいとこなんてなくて、ただこなたに以前のように引っ張ってほしかっただけだ。
「わ、私は別に……」
遠慮しなくていいのよこなた。
この街にはアニ○イトもゲーマー○もあるじゃない。
「い、いいからみんなで決めてよっ」
少し声を荒げていた。
どうして?今まで強引なくらいに私を寄り道に誘っていたのに。

言葉に詰まる。
つかさとみゆきは少しこなたの態度に困惑しているようだった。
私は持っていたハンバーガーを置いてこなたを見据えた。
「私たちはコミケだって、アニメのライブだって一緒に行ったじゃない。一度だって嫌だと言ったことがあるかしら?」
自分の声がいつもより落ち着いたものだと気付く。
でもそれがどうしてなのか、悲しさからきているのかわからなかった。
ただ私の知っているこなたならあんな風に言わないだろう。

じっと見つめあっていたが先に視線を外したのはこなた。
「どうして?前みたいに放課後に寄り道に誘ってくれればいいじゃない。休みの日にアキバ行こって言ったっていいじゃない」
「べ、別にそれは」
「つまらないなんて言ってない。嫌々ついていくはずなんてないでしょ?」
こなたが嬉しそうに笑ってくれるならそれでいいのよ。
理解できないことがあっても話をしている本人が楽しいならそれを止めさせることなんてしないわよ。
つかさとみゆきも同じだ。
それくらい二年近い付き合いの中でわかりきったことでしょ、こなた。

「じ、じゃあ、私服買いたいんだけど」
えっ……?
しばしの沈黙のあと、こなたは私たちを見て照れながらそう言った。

こなたは可愛い。
いつもの中年のおじさんみたいな発言とか、そのずぼらな性格のせいで女の子として見ることが少なかった。
だからそのことはあまり意識してなくて、こなた自身自分に気を遣うことなんてないと思っていた。
でも確かに今、こなたの服選びに夢中になっている人間が約二名。そしてプチファッションショーが行われている。

もしかしたら今日の服装が伏線だったのかもしれない。
おそらく制服以外では初めて見たのではないかというこなたのスカート姿。
それに綺麗に束ねられた長髪に可愛らしいトートバッグ。
それは年頃の女の子らしい、こなたなりのおしゃれした姿だったと思う。
それは言い方は悪いかもしれないけど、こなたは普通の女子高生でいようとしているのでは。
つまり、私たちに合わせようとしているということではないのだろうか。

全く……
こいつの変化は客観的に見て良いことだ。
だけど変わりゆく中で変わらなくて良いこともあると思う。
ただしおしゃれに関しては大賛成だけど。

こなたは可愛い。
さっきも言ったがそれは私の心境の変化からきているというのもある。
だからこのイベントにテンションが上がらないわけがない。
こなたは私たちに服を選んでほしいと言った。
それは単に自分に関して興味のないこなたらしさからきていたのかもしれない。
でもやはりコスプレ喫茶で働くだけはあるこなたはどんな服も見事に着こなして、着せ替え人形的につかさとみゆきもヒートアップしていった。
そしてこなた自身も褒められることに機嫌を良くして実にノリノリだった。

ゴスろり、甘ろり、クラろり、コテろり、カジュろりなど(単純にこなた=ロリィタとした)。様々な服装を試した。
他にはツンデレこなた、才女こなた、大人の魅力たっぷりこなた、虫取り少年こなたといった装飾品を使った、もはやコスプレ、をしていた。
もちろん私もそれを止めるはずがなかった。
ふとボーイッシュこなたを見て思ったのは、こなたのあほ毛を隠す意味でも帽子はいいワンポイントなのか、それともあほ毛自体が魅力の一つとしてオープンにすべきか迷うところだということだ。
こなたならどっちでも可愛いからいいけど。

結局のところ服選びに二時間強かけ予算的に厳しかったため一着だけ購入に至った。
当初の目的から若干離れていた気がするが、とても有意義な時間を過ごせたのでよしとしよう。
買い物を終えるとまるで電池が切れたかのように静まりかえる私たち。
近くに見えた公園で一休みしようと歩みを進めることにした。

「ねぇ、最近どうしたのよ?」
つい口にしてしまった。
人気のない公園のベンチに腰を下ろして、つかさとみゆきは飲み物を買ってくる、とその場を外して。
二人っきりになっていい話題も見つからず、こなたもずっと無言で。
その様子がどうしても聞かなければいけないと思っていたその一言を口にさせた。

「どうって、何が?」
返ってきたのは飄々とした声で、このままずっと話さないつもりか、と怒りが込み上げてくる。
「とぼけないでよ」
気が付くとこなたを見下ろすように立っていた。
でも今は威圧的な態度なんて意味がない。
ゆっくりしゃがんでこなたの頬を両手で包んだ。
冷たい。周りの暖かい空気にそぐわない冷えた頬。
碧色した綺麗な瞳が潤んで見える。

「もったいないって思ってさ」
ゆっくりと上空を見上げながらこなたは呟いた。
頬を包んでいた手は力なく滑り落ちる。
グッと膝を掴んでこなたの言葉を反芻した。

もったいない?
こなたが私たちに対してそう思っているらしい。
この場で言っているのは、友情、だろうか。
だとすれば……
「どう、して……?」
泣きそうだったのは私のほうかもしれない。
いや、震えていた理由はもしかしすると本気の怒りからかもしれない。
どちらともわからない震える声で続きを促した。

「かがみもつかさもみゆきさんも。みんな優しくて、良いところがいっぱいあって。でも私にはなんにもなくて。だから――」
途中からこなたの言葉が聞こえなくなった。
バシッと乾いた音が響いたのと、じんわりと感じた左手の痛みに意識が戻ってくる。
私の前のこなたは、頬を赤く染めていた。

そう、私は今こなたを叩いたんだ。
「バカッ……!」
ぐるぐると思考がまとまらないまま、私はそう言った。
「かがみ……」
こなたは怒ることなく、けどズキズキと痛みは響いている。
怒りをぶつけるよりも、謝ることよりも、こなたに伝えなきゃいけないことがあった。

どうして?
私とこなたは、つかさとみゆきは、私たちは友達じゃないの?
友達同士に優劣なんてないじゃないのよ。
私たちの中で比べたり、気にしたりする必要なんてないでしょ。

どうして一人で悩んでたの?
なんで私たちに何も言ってくれなかったの?
困ったことがあったらお互い様でしょ。
私たちに迷惑だなんて思った?迷惑なわけないじゃない。

あんたに良いところがないって誰が言った?
あんたにしかない良さがあるの。
私たちだってあんたをすごいと思っているんだから。
私たちにとってあんたは大切な友達で、あんたにとって私たちは大切な友達だと信じてるから。

泣きながら、しどろもどろになりながらも、思ったことをぶつけた。
みっともないかもしれない、でもどうしてもこなたに聞いてほしくて。
絶対に今言わないといけないと思って伝えた。
こなたはただひたすら「ごめん」と謝っていたけど、きっと私の言ったことが伝わったと思う。
謝っているのは自分の間違いに気付いて、友達である私たちに対してのものだから。

ややあってつかさとみゆきが戻ってきて、慌てて泣きついていたこなたから身を離した。
でも涙のあとは誤魔化せなくて、何事かと問いかけてきた二人に、こなたは一言「ごめん」と。
「私が間違ってた。やっぱりちょっとだけ甘えてもいいかな?」
照れくさそうにそう続けた。
「ばぁか、真面目なあんたなんて気持ち悪いのよ」
小突いてやる。
泣いてしまった恥ずかしさを紛らわそうと。
「ふふ、目の赤いウサギは寂しがり屋さんだもんね~」
と、楽しそうな声が返ってきた。



あの日からこなたはどこか寂しげな笑みじゃなく、楽しさがにじみ出た、以前の笑顔をするようになった。
やはり何度か勉強面ですがってくることもあったけど、自力で頑張る姿勢はしっかりと身に付いていた。

そして今日は、
「かっがみー、帰ろー」
久しぶりに寄り道したいとこなたが言ってきた。
行くところはどうせアニ○イトかゲーマー○。
でもそんなことはどうでもいい。
私には電車賃とか、ちょっと無駄に思える時間とかを忘れてしまうような。
そんなとびっきりの笑顔があるんだから。




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