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いつの間にかあなたが私の傍にいてくれることが当たり前になっていた。
あなたの前では本当の自分でいられた。
そんな私にとって大切な人。

じゃああなたにとって私は?

いつまでもあなたの傍にいたいと思う。
あなたのことをもっと知りたいと思う。
でもそれは私のわがままでしかない。
大切なあなたに迷惑をかけないよう私は自分の気持ちに蓋をする。



机の上で携帯電話が震え始めた。
静かな部屋にちょっと驚くくらいな大きな音が鳴る。
私は慌てて布団から出てそれを手にした。
かがみからの電話。

「ハローかがみ」
「おっ、今日は珍しく繋がったわね」

からかいを含んだ、でも不快じゃない声。
少し物思いにふけっていた私は脳の切り替えがままならないながらにいつもの私らしく答える。
表情の見えない電話はこういうとき便利だ。
かがみは気にすることなく話を続ける。

たいした用件はなかった。
どうでもいいような話に私らしいアレンジを加えてかがみが突っ込む。
しっかりしているようでちょっと甘いかがみのすきを私がいじる。
だらしない私に真面目なかがみが説教にも近いお小言をくれる。
そんな風に学校のときと変わらない私たちらしい会話が続いていく。
それは時間の経過も忘れてしまうほど楽しいひととき。

「たまには夜更かしせずに早く寝なさいよ」

と、いつもの言葉で会話が終わろうとしていた。
深夜アニメ、ネトゲ、漫画。
毎日のようにそれらを理由にして夜更かしする私。
でもかがみは変わらず(いやちょっと呆れてるけども)注意してくれる。
本当かがみは優しいんだなぁと思った。

「わかってるよ」と返して心の中でありがとうと呟く。
ただおやすみと切れてしまう電話。
ツーツーと無機質な音を聞きながら数秒後に真っ暗になってしまった画面を見つめる。
声でも文字でも……心に秘めているだけでは伝わらないこと。
心の中ではどんなに想っていようと伝わらずに済むということ。
ゆっくりと携帯を閉じ、また布団の中へともぐり込んだ。



あなたの前では私は自分を偽らずにいられた。
でも私の本当の気持ちは知られてはならない。
私が私でいるだけでいつかは溢れ出してしまうこと。
だから私はもう一度あなたの前で仮面を被る。



翌朝、いつものように先にいた二人に笑顔で声をかける。
かがみはちょっぴり怒っていたけれど、やっぱり二人は笑って応えてくれた。

「で、今日はなんで遅かったのよ?」
「いや~ネトゲで狩りに誘われてね、そのままズルズルと」
「はぁ。だから早く寝るよう言ったじゃない」
「楽しいときは時間を忘れるもんだね、はは」

最後は受験生だなんだって呆れられた。
まぁかがみは結構心配してくれてるんだろうね。何度このやりとりを繰り返したことか。
そのかがみらしい気遣いが嬉しくて、少しくすぐったくて私はツンデレとか言ってからかっちゃう。
我ながら素直じゃないね、全く。
でもねかがみ、私が遅れてくる最近の理由はほとんど夜更かしじゃないんだよ。
起きてからみんなと会うまでに気持ちの切り替えというか、心の準備ってやつをしてるんだ。
もちろん誰にも言わないけどね。

私はみんなに対してちょっとした約束事を決めた。
かがみにはあまり調子に乗らないように。
本気で怒られたことはないし、どんな冗談も笑って済ませてくれるかがみだけど、ちょっと自重しようかなって。
別に常にマニアックなことを話したいわけじゃないし、それ以外のことでも話してるだけで楽しいしね。
そういえばいつの日か「友達なくすぞ」って言われたっけ。
うん、私はかがみとずっと友達でいたいよ。

つかさにはなんというか見る目が変わったという感じ。
なんかいつもふわふわしてる感じだけど、そんなつかさがいてくれたから私とかがみはうまくやってこれたわけで。
それに私がどんな話をしても笑ってくれて、不快に思ってないよって。
つかさはとても優しいんだ。

みゆきさんには遠慮というか自重というか。
まぁセクハラまがいの行動はやめたし、なんでもかんでもみゆきさんっていうのもやめた。
みゆきさんは裏を見ないというか、全部笑って受け入れてくれるから。
みゆきさんもやっぱり優しいんだ。

本当にみんな人が良すぎるんだよね。
だからあまりみんなに頼らないように気をつける。
自分が人として成長するためと言ったらかっこいいかもしれないけど、単純にみんなにふさわしい友達でいたいから。
わけのわからない話ばかりして迷惑じゃないかな?
自分の好き勝手な行動にみんなを巻き込んで、それでいいのかな?

こんなことを思ったのは初めてだった。
今まで私は自分を出さなかったというか、周りに合わせないと輪に入れなかったからね。
今みたいに言いたいことを言って、好きなだけ甘えて、なんてなかった。
私は一生の友達に出会えたんだよ。
だからみんなを失いたくないってね。

まぁ私のキャラってのがあるから口には出さずに、ちょっとずつ、ちょっとずつ接し方を変えて。
ただ一つだけ誤算だったんだ。



かがみとはクラスは違えど一番気が合うんだ。
やっぱり(本人は否定してるけど)趣味が合うからかな。
多少なり抑えてるけどどんな話でも聞いてくれる。
だから必然的に一緒にいる時間が多くなってね。
それにかがみって本当に可愛いんだよね。
コロコロ表情を変えて見ていて飽きないよ。
あとほら、かがみはなんだかんだいってちゃんと付き合ってくれるからね。
ちょっと不器用で優しくて、一緒にいてとても楽しいかがみ。

それでね、私はかがみを独り占めしたくなっちゃうんだ。
怒った表情も笑顔も私だけに見せてほしい、もっと見たいって。
この先ずっとかがみの隣にいるのは私じゃなきゃ嫌だって。
この気持ちをどう言ってしまえばいいかわからないけど、このままじゃ迷惑をかけてしまうと思った。
依存することも、嫉妬することも。
そうして私はかがみとの接し方がわからなくなってしまう。

逃げ道はいくらでもあった。

「……た。こなた」
「かがみ……?」
「なにしてんの。もう着いたわよ」
「あ、うん」

考え事や言葉に詰まることも増えた。
だからその度にアニメだネトゲだと寝不足のせいにした。
それは今までの私にとって自然なことだから疑われることもない。
呆れているように見えてちらちら何度か私を見るかがみはやっぱりからかいたくなる。
でもそれ以上に嬉しさを感じてしまう私はその視線に気づかないふりをした。



私はただ二人を眺めていた。
かがみがいないとやっぱり私が話を切り出しても通じないわけで。
それにつかさとみゆきさんは見ているだけで、こう幸せになれるというか、飽きないから。
まぁ簡単に言ってしまうと萌える光景なんだけど、あんまり二人の前で萌えって言わないようにしている。
不快な言葉じゃないはずだけど意味をよくわかってない二人にそれを言うのは失礼な気がして。
ROM専なのは本望じゃないけど私がしゃべると会話が変な方向に行ってしまうので最近はずっとこうしてる。

何度か二人が私を見ることがあるけど私にはその視線の意味がわからない。
ただなんでもないよと笑顔でいると二人はきっと私にはできない優しい微笑みを返してくれる。
なんでこうもみんな笑顔が似合うんだろうね。

授業中寝ることが少なくなった。
やっぱり宿題とかでかがみを頼ってちゃいけないから。
あと無駄に頭が働いていて眠くならないというのもある。
そこでも考えるのはみんなのこと、ひいてはかがみのことで。
最近どこにも寄り道してないけど久しぶりに誘っていいかなとか。
今日の昼休みかがみはこっちに来てくれるかな?でも峰岸さんやみさきちがいるよねとか。

どうしようもなく浮かぶのはかがみの楽しそうな表情、私を呼ぶ声が聞こえる。
ああ、まるで恋する乙女だね、こりゃ。あり得ない話だけど。
私とかがみは同性だし、私にとって大切な親友だもんね。

とまぁいろいろ考えているうちに時間は進んでいく。
実際ほとんど授業を聞いてないけどノートだけはちゃんととっているのは成長と言えるだろうか。



「おっす、お昼にしましょ」
とかがみがこっちのクラスにやってきた。
もうそんな時間か、と思いながらいつものやつを取り出した。
弁当じゃないのは時間がないから。本当に。

話し相手が変わったからか盛り上がる三人。
かがみがよく言うように、しゃべるのと食べるのは一緒だと大変だから、私は食べるほうに専念していた。

あっ……全く、いつものことながらこのチョコは手強いね、と。
垂れてくるそれを舐めとるとかがみがじーっとこっちを見ていた。
な、なんデスかっ!?

「えっ!?いや、その……」
そんな驚かなくても。
というかびっくりしたのは私のほうですから。

「そうそう、今度の日曜日遊びに行こうって……ね、つかさ?」
かがみと一緒につかさに視線を移す。
えっと、なんの話って顔してますけど。

「あっ、そ、そうだったよね。ゆきちゃんも大丈夫でしょ?」
今度はみゆきさんに三人の視線が集まる。
あ、眼鏡で表情がわかんないや。

「に、日曜日ですか!?」
キッとかがみがみゆきさんを睨んだ気がした。

「は、はい。もちろん大丈夫ですよ」
「というわけで、こなたは?」
ふぅ、と一息つくみゆきさんと笑顔が怖いかがみ。
あの、目が笑っていませんよ?

「も、もちろん大丈夫だよ」
「じゃあ決定ね!どこに行くとかは考えておくから」
パァッと満面の笑みで宣言したかがみ。
なにも遊ぶ約束一つにそんな気合い入れなくてもねぇ。
と、つかさとみゆきさんを見ると安心したような表情で私を見ていた。
やっぱり二人もかがみがちょっと怖かったんだね。

そしてまた三人で会話を再開していた。
なんか楽しそうだからいいよね。
とりあえず牛乳をちびちび飲み干すことにした。



「こなた、明日の約束忘れてないわよね?」
気がつけばもう土曜日で、その夜にかがみから電話があった。
用件はまぁ明日の予定の確認。
最後にやっぱり「早く寝ること」と注意された。
ええ、わかってますよ。三人を待たせるわけにいかないじゃん。
そう心の中で呟いてベッドにもぐり込んだ。



「遅いっ!」
待ち合わせ場所に着いたころには約束から30分も経っていた。

「ごめんっ!」
「なんで遅れたのよ?」

えっと、日付が変わる前にはちゃんと寝ようとしてたんだよ?
確か電気を消すときに時計を見たら23時になったばかりだったんだよね。
それがさぁ、遠足前日の小学生みたいになぜか寝れなくてねぇ。
どうにか寝ようと羊でも数えようとして……
なんでか羊じゃなくてかがみを数えてたら余計寝れなくなって、目を覚ましたときにはもう。

とは言えない。だからただ謝った。
つかさとみゆきさんはあまり気にしてないみたいだったけどかがみは違った。
謝れば謝るほどなんだか怒ってるみたいで。
その理由もわからずまた謝るとやっぱり機嫌を悪くして。
そのままかがみはとっとと歩き出してしまった。

笑って済ますようなことじゃないと思ったから素直に謝ったんだけど。
どうしよう、かがみを本気で怒らせちゃったかもしれない。
理由もわからないし、こんなこと初めてだし。
先を行く三人に私はとぼとぼついていくことしかできなかった。




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  • みゆきさんを気圧すほど、かがみがこだわる理由が気になる。
    次も楽しみです。 -- 名無しさん (2009-05-07 07:55:32)


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