拝啓 柊かがみさま

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管理人注:作者さんからの前書きはこちらです

1
「拝啓 柊かがみさま
 突然のお手紙で驚かれるかもしれません。不躾なことを先にお詫び致します。しかし、私は陵桜学園で過ごすこの最後の日を迎えるにあたって、かがみさんにどうしてもお伝えしておきたいことがあるのです。このことを決心をするまでには約二年もかかりました。それも、直接ではなく、このようなお手紙という形になってしまいました。さぞ意気地のない人だと思われるかもしれません。実際その通りです。私は臆病者です。ですが、これは私の、ない勇気を振り絞っての、最初で最後のお手紙です。少々冗長かもしれませんが、最後までお読みいただけると嬉しいです。
 最初にお伝え致します。私は、かがみさんが好きです。クラス中の、学年中の、学校中の、いや世界中の誰よりもかがみさんを好きでいる自信があります。このお手紙には、その想いを全て詰め込んだつもりです。
 私は、かがみさんを一目見たその瞬間から、現世にいながら至高天が垣間見えた気が致しました。稲妻にでも打たれたという表現が適当かもしれません。運命の出会い、などと形容すれば陳腐になってしまいますが、私にとってのかがみさんは、まさにそれだったのです。
 かがみさんと私が同じクラスになったのは3年になってからでしたね。同じクラスになれたとわかったその日ほど、運命の神に感謝した日はありません。その日から、私の学校生活は大きく変わりました。明日またかがみさんに会える。かがみさんと一緒のクラスにいられるのだと考えるだけで夜も眠れませんでした。
 椅子にかけて授業を真面目に聞いていらっしゃるかがみさん。お友だちの方と楽しそうにお喋りしているかがみさん。いや、何もせずにただそこにいるかがみさんでも構いません。とにかく、私はかがみさんの一挙手一投足に心奪われておりました。最初はただ一緒の空間にいられるだけで、心が満たされました。しかし、徐々に近づきたいと思う気持ちが押さえきれなくなっていったのです。3年生になってから、私がどれだけかがみさんとお話したかったか、どれだけあのお友だちの方たちが羨ましかったか、ここでは語りつくせないほどです。
 それに、あの桜藤際でのチアダンス。これがこの世の光景かと疑いたくなりました。自分の認識している世界が信じられなくなりました。それほどにまで、あまりに美しいお姿でした。私は感動すら覚え、あの日のその後の自分の行動が思い出せないほどです。

 一回だけ、たった一回だけですが、私はかがみさんとお話する機会がありました。覚えていらっしゃいますでしょうか。私は銃を突きつけられて忘れろと言われても絶対に忘れることができません。3年の、修学旅行のときです。
 私は2日目の夜、かがみさんをホテルの前にお呼び致しました。正直に申しますと、そのときに、この気持ちをお伝えするつもりでした。ですが、もし断られてしまったら、私はこれから先、何を支えにして生きていけばよいかわからなくなってしまいます。もし断られたら…もし断られたら…そのことばかりが頭を巡り、ついにかがみさんへの想いを口にすることはできませんでした。それで、あの場では取り繕うように『人形を下さい』と言うに留まってしまったのです。
 さぞかしご迷惑であったかと思います。本当であれば、私のような及び腰の人間がかがみさんとお話するなどということ自体がおこがましいです。身の程知らずです。とてもかがみさんに釣り合う人間であるとは、自分でも思えません。申し訳ありませんでした。
 しかし、機会は逃してしまったものの、私のかがみさんへの想いは消し去ってしまうことができませんでした。あのとき頂いた人形は、今でもケースに入れて、大事に机の上に飾ってあります。この人形を見るたびに、かがみさんの笑顔が思い出されて、胸がいっぱいになります。かがみさんが私に語りかけて下さっている、そんな錯覚さえ起こさせるほどです。
 あのとき、私はかがみさんと直接お話できるという至福を得ていました。事実、修学旅行が終わってからしばらくの間も、いえ、今現在もですが、私はかがみさんとのあのときの情景を思い返すことで、これまでの人生の中で最高の幸せに浸ることができます。
 ですが、それは本当に最高の幸福ではありません。最高の幸福とは、かがみさんが私に振り向いて下さることです。
 高校生活中は、私はかがみさんに何もして差し上げることができませんでした。私はかがみさんを好きでいられるという、この気持ちを存分に頂いたにもかかわらずです。こんな失礼な話もないかもしれません。唐突なことで大変失礼かとも思います。しかし、私はかがみさんの横に立てる人間として、精一杯努力してきたつもりです。大学も、超一流とは言えませんが、難関校と言われるところに入ることができました。もしかがみさんが私に振り向いて下さるなら、必ず幸せな将来を切り開いていくことをお約束致します。
 このお手紙を読んで、かがみさんから私に何らかのご返答を頂けるようであれば、本日の卒業式が終わった後、午後1時に校舎裏の花壇の前にいらしてください。お待ちしております。もしお返事がノーであったとしても、私はこれまでかがみさんに頂いたこの気持ち、それだけでこれからの人生を乗り切っていけると思います。もう浮き足立った自分とは決別します。かがみさんにはかがみさんの人生があります。私と一緒にならないこと、それがかがみさんの幸せでもあると判断すれば、私はこれまでのことだけで、かがみさんを見送っていくことができると思います。
 かがみさん。直接私と何かあったわけではありませんが、それでも、これだけは言わせて下さい。本当にありがとうございました。かがみさんのおかげで、高校生活がとても彩り豊かなものになりました。もっと早くに何か手を打って、かがみさんとこの幸せだった日々を共有できていたなら、と思うと残念でなりません。ですが、かがみさんが私を認めて下さるのであれば、まだ手遅れではありません。これからは、私が感じていた以上の、誰よりも幸福な生活を二人で送っていけると確信しております。
 今後のかがみさんの人生にも関わる重要なことです。よくお考えの上、ご返答をお待ちしております。
 では、長々と失礼致しました。午後一時、お待ちしております。
 敬具」

2
 …「敬具」っと…。
 私はそこまで書いてペンを投げ出し、大きく伸びをした。
 キーボードに慣れきっているせいで疲れる疲れる。おまけに私は悪筆なので、できる限り丁寧に書かねばならない。ほんとに神経を使うね、こういう作業は…。何枚書き直しただろう。ゴミ箱にはくしゃくしゃになった便箋が既に二桁はたまっている。これを始めてから2時間以上が経過していた。
 まあでも、一応こんな感じかな?
 誤字脱字がないかどうか最終チェックを入れる。
 大丈夫のようだ。よし。これでいこう。
 二枚の便箋を、用意してきた白い封筒に入れて封をする。あとはこれを明日の朝、かがみたちが来る前にかがみの机の中に仕掛けるだけだ。かがみ、これを読んだときどんな顔をするかな?今からちょっと楽しみだ。
 思いっきりストレートに愛情表現を押し出したつもりだ。ラブレターなんて書くのは初めてだったから、どんなふうにすればいいのかかなり手探り状態だったけど、ネットに上がってるのを参考にしたりして、なんとか形にはできたと思う。自分で書いといてなんだけど、これならかがみも引っかかってくれそうな気がする。ネタに使わせてもらったあの男子には悪いけど、えーとあれだよ、どうせもう卒業なんだし、いいよね?私が知ってる、かがみと関わりのありそうなC組の男子ってこの人しかいないし。

 今私が何をしてるかというと、かがみへの偽ラブレターを書き終わったところだ。差出人の名前は私ではない。「とある男子より」にしておいた。フルネームを知らないので仕方ない。みさきちにでも聞いておけばよかったな…。
 なんで卒業式を明日に控えた今日になってそんなことをしているかというと、それは勿論かがみに最後のイタズラをするため…。
 でもあるんだけど、けど、もう一つ、伝えておきたいことがあったから。

 かがみはあの日、私がかがみに想いを伝えた日から、いやその前からずっとなんだけど、私を支え続けてくれた。私が寂しくないように、一人でも生きていけるようにって、それでこんな私の側に居続けてくれた。そして、かがみはこうも言った。私がかがみを必要としなくなるくらいにまで成長してくれるのが何よりだと。
 この偽ラブレターはかがみへのお礼と、私の今の気持ち。かがみがしてきてくれたことへの私なりの答。

 そういうこと。

3
 次の日。実行日当日。
 いつもより一本早い電車で学校へ向かう。
 首尾よく3-Cに潜入した私は、周りに見知った顔がないことを確かめてから、かがみの机に例の物を仕掛ける。かがみ…読んでくれるかな?これだけ手間暇かけたんだから、読んでくれないとかなりへこむんだけど…。
 しばらくして、かがみたちがやってきた。
 私は何食わぬ顔で朝の挨拶をする。

 そして卒業式。
 つかさやみゆきさんは、やっぱり泣いてたね…。こう…感極まるとこもあるんだろうとは思うよ?でも…。
「いやー、不思議なカンジはするけど、思ってたより特別感動することもないねぇ。卒業式って」
 思った通りを口にしてみる。私、卒業式の記憶って妙に薄いんだよねー…。
「まあそんなもんでしょ。その辺りは人によると思うけど。私はそれなりにジンときたし」
 みゆきさんはつかさの涙をぬぐってあげてるところなので、かがみが答えてくれた。かがみの方は割りといつも通りだ。…ということは…もしや…。
「だってほら、漫画とかだと卒業式って『感動のクライマックス!』ってカンジじゃん?何かあるかもって期待しちゃうんだよね――。何かこの調子だと、また数年後にはよく覚えてなそうな気が…ネ?」
 こういう言い方ならどうだ?
「突っ込みたいところだけど――言われてみると私も小中の式自体はあまり覚えてないような――。あれ?その後皆で遊んだのは覚えてるけど」
 …かがみ、変化ナシ。おいおい…ちょっと待ってよ…。
「そんなこんなで何か拍子抜けなカンジでねぇ」
「だからそんなもんだって」
 いつも通りに返してくるかがみ。
 つかさも涙を拭きつつあははと笑う。
 まだだ…まだ終わらんよ!
「こう『卒業式の日に告白――!!』みたいなイベントはないもんかね」
「あんたはそういうのに毒されすぎだ…。そーゆートコだけは夢見がちだな」
 もう…気づけかがみんめ!
「…ところで皆様、今日この後のご予定は?」
「急になによ。今日はこのまま家族で外食ね~」
「うちもそうですねぇ」
「…そっかー」
 …確定。かがみ、机の中見てない。
 しかも、このままいくと見ないで帰る可能性大。
 …うー…。
 …私のあのがんばりは何だったの?あれだけ頭フル回転させて何枚も何枚も書き直して…。大好きなかがみのために…やったのに…。
 もうこうなったらしょうがない。リスクは覚悟の上だ。
「かがみさー、実はラブレターとかもらったりしてんじゃないの?」
「はぁ?何言ってんのよ?」
 かがみが怪訝な表情をつくる。
「だってさー、卒業式だよ?もうお別れなんだよ?かがみくらいツンデレでツインテっ娘でツッコミキャラで成績優秀で照れ屋で寂しがりでお人よしでかわいくて…絶対かがみのこと好きだったって人、一人くらいはいるって」
「…本気で言ってんのか?」
 部分的に本気だ。
 でもそれは悟られないようにする。
「勿論!だからさー、例えばー、下駄箱とか…机の中、とかにこっそり置いてあったりしたんでしょー?」
「…ないものはないわよ。それに、…そんなのあってもあんまり嬉しくないし」
「またまたー!照れちゃってー!ほんとはもらっちゃってるんでしょー?で、今はもう何て返事しようか頭の中ぐるぐるなんでしょー」
「何よ…食い下がるわね…」
 …これだけ言えば伝わったかな?
 いや、念のためもう一押し。
「もらってないのー?だったらさ、帰る前にさ、もう一回色んなトコ見て回った方がいいかもよー?だって、その人の一世一代の大勝負なんだよ?断られたならまだしも、無視されました、じゃあんまりだと思わない?」
「…それはそうかもだけど…」
 かがみがだんだん心配顔になってきた。
 …そろそろか。あんまりやりすぎると、余計な手間かけさせちゃうしね。
「ま、そんなわけだから。よし、教室戻ろっか。つかさ、みゆきさん」
「あ、そうだね」
「もう最後のホームルームが始まりますね。では、参りましょうか。かがみさんも」
「え…ええ、そうね」
 かがみがちらっと私に視線を走らせる。
 私も少しだけ見つめ返す。ちょっと笑みをつくって、すぐにまた前を向いて歩き出す。
 かがみがそれをどう受け取ったのかはわからないけど、かがみもすぐに目線を外した。
 かがみ…ちゃんと見つけてね?読んでね?お願いだよ…。

4
 さて、何事もなく家に帰ってきてしまったわけだが…。
 かがみ、見つけてくれたよね?見つけた筈だよね?私が「一緒に帰ろ」って言ったら、「ちょっと用事ができたから」って言ってた。「ある」じゃなくて「できた」って言った。多分、手紙を読んだんだよね…?そうじゃなかったら…うう…やっぱへこむなー…。私も学校に残って確かめるべきだったかなー…?でも、伝えることはちゃんと伝えておきたいし…だったら、あの手紙だけで十分だよね…?
 制服のまま自分の部屋のベッドに転がりながら、ぼんやりと時計を見る。
 あ…もうすぐ一時だ…。かがみ、今頃校舎裏にいるのかな…。どんな顔してるんだろ…。あの男子のこと、ずっと待ってたりして…。ふふ、かがみだもん、日が沈むくらいまでは待ってそうだよね…。
 そのシーンを直に見られないのが、ちょっと残念…。

 不意に、携帯が鳴った。
 ちょっと気だるい身体を起こして机の上の携帯をとる。
 メールが来たようだ。今頃誰かな…と思ってみてみると、かがみからだ。
 一瞬息がつまる。かがみ?
 本文を読むと、たった一行、こう書いてある。
『今すぐ校舎裏に来て』
 …えと、これは…どう解釈すればいいんだろう?色々考えられるけど…。
 まあいいや。他ならぬかがみが呼んでるんだもん。行かなきゃ。

 お父さんに「もっかい学校行ってくる」って言ったら妙な顔をされた。そりゃそうか。「忘れ物か?それとも先生からなんか呼び出しでもあったのか?…待てよ…もしかして…いや、こなたに限ってそんなことは…でも、こなたすごくかわいいし…今日は卒業式…そして皆が帰った後に一人で呼び出し…まさか…万が一ということもある…こなた!待ってくれ!父さんも一緒に行く!何かあってからじゃかなたに申し訳が立たない!」などと言い出したのではぐらかすのに苦労した。まあ、最終的には勝手に一人で妄想にはまりこんでしまい、「こなたああああ!父さんは!父さんはあああ!見捨てないでええええ!」とか頭を抱えて泣きながら叫び、部屋中ぐるぐる回りだしたので、ゆーちゃんがとりなしているその隙に逃げ出したような感じになったけど…。
 後でちゃんと説明しとこう…。このままだと「何かあった」が既成事実化されかねない。

 こんなに早くもう一度陵桜学園の門をくぐることになるとは思わなかった。かがみ…どれくらいわかってくれたのかな?ちょっとでも伝わってれば嬉しいんだけど…。
 校舎裏へと足を運ぶ。まだ日は高い。ようやく春めいてきて、制服越しに感じられるお日様の光がちょっとぽかぽかして気持ちいい。さてかがみは…と。
 校舎裏。滅多にこないけど、ここで怪しげな取引が行われているとかいないとかいう噂はよくきく。それだけ人目につかないってことなんだけど…。
 校舎の影とひだまり、そのちょうど境目辺りに、人が一人、ぽつんと立っているのが見えた。見慣れた制服、見慣れた髪型、見慣れた後姿…かがみだ。間違いなかった。
「はろーかがみー。来たよー」
 肩を叩きながら、できるだけいつもの声を出す。かがみがどんな反応をしてくれるのか…ちょっぴり不安。これで全然見当違いのこととか言われちゃったら…ねぇ?私たちの今まで過ごしてきた時間は何だったの?ってことになる。でも、だから逆に少し楽しみでもある。
 かがみ…。どうしたの?何考えてるの?
「こなた…」
 かがみが振り向いた。いつもの顔…?じゃないね?あれ?なんか違う…。
「…あのさ…」
 何かを言いかけるが、その後が続かない。
「…えっと…」
「ん?どしたの?かがみ…」
 しばらく、沈黙が続いた。

「ごめんっ…!」
 それを破ったのはかがみだった。
 それと同時に私をぎゅっと抱きしめてきた。
 いきなりのことでちょっとびっくりする。
「か、かがみ?」
「ごめん…ごめんね…」
 かがみは謝り続ける。私の方は正面から抱かれているので表情は見えない。
 ただ、ほっぺたに暖かい雫が落ちたのがわかった。
 かがみ…泣いてる?
「かがみ?どうしたの?」
 かがみの背中を撫でながらゆっくり問いかける。
「あの…手紙くれたの…こなただよね…?」
 かがみが途切れ途切れに言葉をつむぐ。
 ばれてるなら隠してもしょうがない。正直に言おう。
「うん。昨日がんばって書いたんだよー…」
 かがみ、わかっててくれた…。…嬉しいな…。
「じゃあさ…こなたの今の気持ち…私の考えてる通りで…いいんだよね?」
 …全部わかってくれてる?
 ほんとに?
「多分そうだと思うよ…」
「そっか…。でも、ちゃんと言わせて。あんな手紙くれたのは…今のこなたの気持ちは…」

 そう、今の私の気持ち。あの手紙いっぱいにこめた私の気持ち。
 かがみは、あの日からも私が一緒にいたいと言うといてくれた。本当にあの日言ったように、一晩中話し通したこともあった。手をつないで同じお布団で寝てくれたこともあった。私なんかのために。
 そのおかげで、私の寂しいって思いは、陵桜学園に入った頃に比べれば殆どなくなったと言えるくらいにまで薄まっていった。かがみがいてくれた。かがみがずっといてくれたから。だから、これから先、何があっても、私の中にかがみがいてくれるなら、一人でも生きていける思う。もし私が心細くなったとしても、『ほら、そんな顔してないで。私が一緒にいるから』ってかがみが言ってくれる。笑いかけてくれる。私にはその声が聞こえるよ。

 もう大丈夫だよ。
 かがみがいなくても、私、大丈夫だよ。
 今まで一緒にいてくれてありがとう。
 かがみからもらったこの気持ち…支え、強さ。ちょっとでも伝えたいな。
 またいつか会える日まで、お互い、がんばろうね。

「…てことだよね?」
 かがみ…すごい…。ここまでわかってくれてたなんて…。
「さすがだね…。大当たりだよ」
「なら…やっぱり…ごめん…」
 かがみがそう言って、もっと強く抱いてきた。
「ち、ちょっと、かがみ?…いつもより…強いんだけど…」
 でもこれはこれで…こうされるのも悪くないね…。
 いいにおいと優しい温もりに包まれる。
 かがみ…。
 かがみは返事をしない。
 ただ、泣いている。
「…何がごめんなの?」
 たっぷり間を空けて、かがみが口を開いた。
「…今してること、全部…。私がこんなんじゃ…いけないよね…。こなたはちゃんと…気持ちの整理つけてきたのに…私は…こなたが…」
 …そっか。そういうことか。
「かがみ。さよならなんて思わないで。あの日言ったよね。私、ずっとかがみのこと好きでいられるから。かがみがいなくても、ずっとかがみが好きでいられるから。だから、大丈夫だよ」
「うん…ありがと…」
 かがみが腕を解く。
 そして、私を正面から見る。
 まだ目は赤かったけど、でも、しっかりした視線だった。
「あのね、本当は呼ぶはずじゃなかったの。この手紙がこなたからだってわかって、こなたがどんなつもりでこれ書いたのかなって考えてからは…私と会ったりしたら、その気持ちに水を差すことになっちゃうし…。でも、どうしても、伝えておきたかった…。まだ私…自分がどうしたいのかわかんないけど…それでも」
 ちょっと息を吸った。
 それから、泣きながらだったけど、笑ってくれた。本当に、心から。
「こなた…卒業、おめでとう…。よくがんばったよね…。私…とっても嬉しいよ…」
「ありがと…。なんか、正面から言われると、照れちゃうね…」
 照れ隠しにちょっと微笑む。
「私は…ほんとは、あの日に皆と…こなたとお別れするつもりだった。けど、こなたが正直に思いをぶつけてきてくれて…それで、もうちょっとの間だけど、また一緒に過ごすことができた…。なくなったはずの時間…過ごせないはずの時間…それがまたできて、それで、こなたもしっかりしてくれて…もう私からこれ以上望むことなんて何もないよ。これまでのことで、十分幸せ。まだあるとしたら…これから先、いつかまた、こなたと同じ時間を、過ごせるようになること…かな。だから、そのときまで…こなた…」
「かがみ…」
 今度は私の方から抱きしめてあげる。かがみも私に腕を回してくれる。
 ちょっとの間そうした後、私たちは最後に、一回だけ軽いキスをした。
 唇がほんの少し触れるだけ。
 でもそれでも。私たち、ちゃんとわかってるよね…?
 私はかがみのこと、よくわかってる。
 かがみも私のこと、全部わかってる。
 だったら。これが、一番なんだよ。

 ただただ、嬉しかった。
 こんなにも想いが通じあってるって思えることなんてないだろう。
 かがみは私の一番。
 私はかがみの一番。
 けど、くっつくんじゃなくて。
 離れるのでもなくて。
 そんな距離を、つくっていきたいな…。

5
 帰りの電車の中で、かがみと最後のお話をした。

「そういえば聞いてなかったけど、あんたさ、何学部に入ったのよ?さすがに『団長』とか『何とか神拳伝承者』とかいうのじゃないだろうな」
「ん、そりゃまあね。教育学部だけど」
「教育?先生になるつもりなの?」
「いやー…それはちょっと…人間関係とかめんどくさそうだし…。それに私、お父さんみたく、ロリコンてわけじゃないし」
「先生の全てがロリコンだと思うなよ…。じゃ、なんで教育なのよ?」
「いやね、色々調べてたら、教育学部には新課程ってのがあって、ここに入ると先生にはならないけど教育の勉強ができる、みたいなのらしくて。私もさ…人を支えるってことがどういうことなのか、もうちょっと知りたくなって…。そういうとこから考えていくことが、私がかがみを好きな理由に向き合うことに繋がるんじゃないかと思って」
「…そっか…」
「うん。さすがに法学部とかは手が届かなかったんで、これにすることに決めた。でも、なんだかんだいっても陵桜はさすが進学校だよね。勉強真面目に始めたのはあんな遅い時期だったのに、私みたいなのでもそこそこの大学には入れたし。教育学部なのに先生にならないわけだから、就職は大変そうだけど。ちゃんと勉強してみてからじゃないとなんとも言えないけど、まあ、いざとなったら先生にもなれるみたいだし、なんとかなるでしょ」
「…あんたは…そんなゆるい感覚で大丈夫なの?」
「当たり前だよ!かがみには色々お世話になったからね。今度は私に頼ってもらえるくらいにまで、がんばるよ」
「…わかった。それならもう、ほんとに心配いらないみたいね」
「はっはっは。かがみんも人のことばっか言ってないで、がんばんなねー」
「わかってるわよ!それと最後までかがみんか!」

 降りる駅が近づいてくる。
 けど、私たちの間には、笑顔だけが、花開いていた。

 そして、最後の瞬間。
 私は笑って大きく手を振る。
 かがみも笑って返してくれる。

「かがみー!じゃ、またねー!」
「うん!またね!」

 電車が視界から消えていく。
 私は完全に見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。

 大好きなかがみ…またね。
 今まで一緒にいてくれてありがとう。
 またいつか会える日まで、お互い、がんばろうね。



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コメント:
  • もうだめ・・・モニターが見えん!!
    -- kk (2010-03-13 22:57:26)
  • 泣いた; -- 名無しさん (2010-03-13 14:38:45)


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