贈り物

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放課後、いつものようにこなた帰るため隣のクラスに行こうとしたら、教室の入り口にひょっこり顔を出すこなたの姿があった。

「それじゃこなた、帰ろ」
「あ、みさきちに峰岸さん。ちょっといいかな?」

私の台詞は途中でこなたの言葉によって遮られた。私の前をスタスタ歩いて二人に話しかけるこなた。
まぁいい。ちょっと話をするだけだろう、あんまり三人が話してるの見たことないし。
と、教室を出ようとしていた足を止めこなたたちを見守る。案の定すぐ日下部と峰岸は帰り支度を始めた。

「というわけでかがみ、今日はごめんね」
「何がというわけよ?」
「私は二人と帰るから。ほんじゃまた明日~」

そう言ってこなたは私の横を通り抜けていった。
日下部はからかうような笑みを、峰岸は苦笑いをしてこなたに続く。
何か言おうとしたけど、なんだか楽しみにしていたおやつのお預けを食らったみたいにショックを受けていた。

「そっか……」

誰にでもなく呟いた。なに黄昏てんだか。
じゃあ私も帰ろう、と改めて隣のクラスに向かう。
相変わらず春の陽気が漂わせ二人が話し合っていた。

「二人とも、帰ろう」

とりあえず会話につっこむのも面倒だったので、いったん話を終わらせる。

「あれ?こなちゃんは?」
「泉さんいいんですか?」

なにそれ。いつも私はこなたと一緒みたいじゃない。
こなたは先に帰った、とだけ返して教室をあとにする。
「珍しい」と驚き共感しあう後ろの二人は無視して歩き続けた。



「もしもし、こなた?」

お風呂上がり、いつものように泉家に電話をかける。先に一応携帯にかけてみるものの、こっちに出るのは三日に一度といったところ。

「今大丈夫?」

すぐに出たこなたに問う。
電話中にゆたかちゃんが電話したいからと言って途中で切られることもしばしばあった。私たちの長電話が悪いんだろうけど。
大丈夫、と返ってきたのでいつものように他愛ない話をして笑い合う。
時にわけのわからない方向に飛ばすこなたにつっこみをいれたり、普通の会話をしてるはずなのにツンデレってからかわれたり。
勉強しろよ、私をあてにするなと注意するも、やっぱりあのすがるような目で見られたら断りきれないんだろうな、なんて。

電話越しのこなたの表情が脳裏に浮かぶ。
好きなことを話すときのキラキラした瞳とか。私の指摘にぷーっと可愛らしく頬を膨らませたりとか。
あの猫みたいな口に手をあてながらニヤニヤとからかう表情とか。

「かがみ、今日はごめんね」

ふと変わった口調にさっきまでコロコロ表情を変えていたこなたが消えた。

「二人に用があったからさ。二人だけに」
「そう」

こんな風に真剣に言われたら何も言えない。
というか、たまたま一緒に帰れなかったくらいどうでも……

「かがみん残念そうな顔してたよ。やっぱりウサちゃんだもんね~」
「なっ、そんなわけっ」
「ないの?」

くそう、きっといたずらっ子みたいな笑顔をしてるだろうこいつがムカつく。いつも的を射てるからムカつく。
どうしてもそこで「ない」と言い切れなくて、言ったとしても声が大きくなってしまいそうで。
何も言えないことは結局肯定ってことになるんだけど、明らかに嘘だとわかる否定はできず黙していると、

「私はいつもかがみと一緒にいたいって思うよ。今日は仕方なくだけど、少し残念だった」

やっぱりこいつは全てお見通しなんだ。
嬉しかったのに恥ずかしくて何も言えなかった。自分の気持ちが言葉にできない。

「あ、あんただって寂しがり屋なんじゃない」
「ふふっ、そうかもね」

こなたは誤魔化しの言葉を気にすることなく笑っていた。
ダメだ、こいつには一生敵わないのかもしれない。
そういえば、と追求することなく次の話題に移るこなた。
これ以上からかうつもりはない、そういう合図だと思ったんだけど……

「みさきちって単純というか、話がしやすいし楽しいね~」

「峰岸さんってつかさと同じくらいお菓子作りが得意なんだってね。今度教わろっかな~」

ただ楽しいから話をしているだけなのか、私に対して何か思うところがあるのか、嬉々として二人のことを語るこなた。
別に気になんかならない。あの二人は結構いいやつらなんだから。
五年間クラスが一緒らしいけどこなたたちのほうが仲が良いとか、最近になってお互い知り合ったばかりだとか関係ない。
こなたが誰と仲良くしようが私には関係ないこと……

「かがみってば聞いてる~?」
「ちゃんと聞いてるわよ。それで日下部たちと明日もまた一緒に帰るから、と?」
「いやいや、誰もそんなこと言ってませんよ、かがみさん」

受話器から届いた声は呆れているようで、どこか楽しげだった。

「私は、かがみと一緒に帰るのが、一番、だからね。んじゃおやすみ~」
「なっ!?ちょ、待っ」

ツーツーと無機質な音が響いた。
相変わらず自分勝手なんだから。私の気持ちなんてお構い無しで。
あんたの一言がどれだけ嬉しいか、わかってないでしょ。
すっかり遅くなった時間を見て、結局伝えてなかった「おやすみ」と呟いて布団に潜りこんだ。



翌日の放課後、また先に終わったらしくこなたが教室の入り口に立っていた。

「かっがみ~ん、帰ろう~」

大きめな声で私を呼ぶ小さな少女。全く恥ずかしい。

「またな、柊」
「またね、柊ちゃん」

さっきの声を聞いて二人は先に教室を出ていった。
なんかこなたの横を通るとき頭を撫でていたように見えたのは気のせいだろうか。
若干頬の染まったこなたに声をかける。

「かがみ、今日家に来ない?」

帰ろうと言おうとして開いた口が中途半端に止まる。
バカらしく口を開けているだろう私に気づかぬまま、心なしかあほ毛も萎れてこなたは俯いた。

「やっぱり先に予定があるよね。また今度で」
「ないわよ」

やっと頭が動き始めた私は早口でそう告げる。
いつの間にやらこなたのほうへ伸びていた左手を慌て引っ込めた。

「じ、じゃあ」
「あんたがどうしてもって言うなら」
「う、うん。今日来てほしいから」

なんだか焦っているこなたは可愛いなぁ、と思いつつ了承する。
本音は行きたい、だけどね。いつも自分から言うことはできないのは、我ながら難儀なものだ。



「なぜかあの二人は頭を撫でてくるんだよねぇ」

しばらく歩いているうちにいつもの調子を取り戻したそんなことを呟いた。
昨日だって、と続けてむっと唸っているこなたを見ているとなんとなく二人の気持ちもわかってくる。

「というか、かがみもだよね」

こなたの呆れた声が耳に届く。いつの間にか私の左手はこなたの頭に乗せられていた。
気にしない気にしない、と頭を撫でる。
なんだかんだで撫でているうちに目を細めて気持ちよさそうにするこなた。
まるで猫のようだ。ふらふらしてすぐどこかへ行ってしまう野良猫みたいな私の飼い猫。警戒心が強くなかなか甘えてくれない。
もっとも本当に猫のようにすりよって甘えられたら理性が持たないんだけど。

「かがみ、どうかした?」

手が止まったことが不服だったのか、そう尋ねてきた。
なんでもない、と頭から手を離し、斜め30度くらいに手を差し出す。
何も言わず重ねられた小さな手をぎゅっと握りしめる。
自由に外を歩き回る猫に唯一で頼りない飼い主の証の首輪。



「今日はおじさんはいないの?」
「出かけてて帰ってくるのは遅いって。ゆーちゃんも今日はみなみちゃんたちと遊ぶって言ってた」

ということは二人っきり、よね。
何ら気にする素振りも見せずさっさと自分の部屋へ向かうこなた。
でも、確か今日がいいって言ってたのよね。つまりそういう意味だと都合良く解釈しちゃうわよ、こなた。

「で、今日は何なの?」

はやる気持ちを抑えきれず、招き入れられた二人っきりの部屋の中で問う。
思わず頬が緩みそうなので、つい強い口調になってしまう。

「ホントはもっと焦らしたかったんだけどなぁ」
「何よ?」
「慌てない慌てない」

私の気持ちがそれに傾いているのが嬉しいのか、全然残念そうに見えない表情で私を制す。
促されて腰を下ろす私。こなたは机の上に置かれた、丁寧にラッピングされた細長い箱を手にとった。

「昨日みさきちと峰岸さんに用があったっていうのはこれ。私一人だとわかんなくて。つかさやみゆきさんだとすぐバレそうだし、二人ならかがみのことよく知ってるかなって思ったから」

何かぶつぶつ言いながらこなたはそれを私の右手を掴んで乗せた。
片手でしっかりと握れるそれは、とても軽かった。

「どうしたの、これ……?」
「まぁまぁ開けてごらんよ」

頷いて赤いリボンをほどく。綺麗なラッピングはもったいないけど少し雑に破ってしまった。

「……ネックレス?」
「うん。何か形のあるプレゼントができないかなって」
「もらって、いいの?」

今日は別に私の誕生日でも、何か恋人同士の特別な日でもなかったはずだ。
それなのに、こんな高そうなプレゼント……

「いつもかがみにお世話になってばかりだしさ。特別な日じゃないけど、だからこそ日頃の感謝を込めてってことで」

そう言ったこなたは、恥ずかしかったのか頬を染めて、でも真っ直ぐに私を見つめていた。
その表情は今まで見たことのない、いや、一度だけ見たあのときと同じくらいかっこよくて。
そのあとに見せた照れ笑いの表情も今まで一番可愛かった。



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