ひとり、ふたり(後編)

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ひとり、ふたり(前編)



4
「落ち着いた?」
「…うん。さっきよりは」
 こなたが小康状態になるまでは、かなりの時間を費やした。どうやらこなたの気持ちの暴走も一段落したようだ。
 私はこなたを正面から見据えて、切り出した。
「じゃあ、私の話…さっきの続きなんだけど…中断しちゃったからね…聞いてくれる?」
「…できれば…聞きたくないよ…。でも、聞く」
 こなたも私を正面から見ている。まつげがふるふる震えている。ちょっと怯えた顔だけど、それでも私の話を聞いてくれた。
「私ね…こなたとずっと一緒にいたらいけないと思うの。あの…こなたが私を好きって言ってくれてからこんなこと言うのもすごくずるいんだけど…こなた、寂しかったんだよね?」
「…!」
 こなたが息をのんだ。
「…気づいて…たの…?」
「いや、確証があったわけじゃないよ?でも、んー、結構前になるんだけど、ほら、2年の7月くらいだっけ?こなたがお母さんいないって初めて言ってくれたことがあるじゃない?あのときから、ちょっと注意してこなたをみるようにしてたのよ。最初は全然分からなかった。こなた、意識して寂しさなんて見せないようにしてたでしょ。特に私には。でもね、だから逆になんとなくそうじゃないかな、とも思い始めたのよ。それでよく考えてみると、あんたが甘える、みたいなときって、私だけなのよね。それで、ひょっとしてこなた、お母さんがいなくて寂しくて、甘える相手を欲しがってるのかな、って思って…。でも、もし本当に寂しがってて、そのこと隠してるんだったら、気づかれたくはないわけでしょ?だから私、こなたが寂しがっていたんだとしても、そのことを分かってるって気づかれないように、みたいなことをするようになって…。今年の初詣のときとかね。あのとき、私のお祈りの話が出たじゃない。あのとき私何て言ったか覚えてる?」
「えーと…確か…つかさやみゆきさんと同じクラスになりたい…だったよね…」
「うん。あれ、こなたの名前出したら、こなたとも一緒にって思われるじゃない?でも、それだと万一『一緒になりたい』じゃなくて『一緒になってあげたい』っていうふうに気づかれちゃうかもって思ったのよ。だったら名前出さないで単に照れてるって思われてた方がいいかなーって…。でも、今から考えれば一人だけ名前出さない方が目立つよね。普通にこなたの名前も出してた方がよかったのかなー…なんて」
「かがみ…。気を使わせちゃったみたいだね…ごめんね…」
 こなたの目にまた涙が浮かんだ。
「ああもう、泣かない泣かない!実はほんとに少し照れてたってのもあるしね」
 ちょっと笑みをつくってあげる。
 こなたもつられてちょっとだけ笑う。
「それで、そんな寂しさ抱えてるかもしれない友だちを放っておけないでしょ?だから、私はこなたを支えてあげようって思うようになったの。こなたが私に甘えてきてるなー…ってことはわかったから、こなたがいつかそういう気持ちを乗り越えて、私がいなくても生きていけるようにってね。だから、まずはこなたのことならどんなことでも受けとめてあげよう、寂しくないようにって思って…からかわれても、意味不明なオタク用語使われても、宿題写しに押し掛けられても、全部受けとめてあげた。本当に嫌だったら、とっくに友だちなんてやめてるよ。でも、こなたの寂しさが少しでも薄まるならって思ったら、我慢できたよ。いや、我慢なんて言い方、おかしいね。こなたが嬉しそうにしてると、私も嬉しかったよ」

 こなたは泣き笑いのような表情だった。色んな感情がない混ぜになっているのだろう。
 実を言うと私もそうだ。
「だから、私はこなたが私なしでも生きていけるようにっていうふうに接してきたの。それで、今回のことで、もしかしたらこなた、もう私を必要としてないのかなって…避けられ始めて思った。避けられ始めた原因は、多分、私が何かミスって私がこなたの寂しさに気づいてるって感付かれたことだと思ったんだよね。自分が隠してる、一番奥のとこにある気持ちに触れられるって…すごく嫌なことじゃない?だから、嫌われて当然だと思った。…でも、このことで私を吹っ切ってくれるかも、とも思ったのよ。自分で言うのもなんだけど、今のところ一番あんたが頼ってるのは私でしょ?だから、私なしじゃ生きられない、なんて、そんなことになってほしくなかったの。こなたにはしっかり自分で自分に支えを持って、一人でも生きられるようになってほしかったのよ」
「…だから私にしょっちゅう宿題自分でやれとか、進路本気で考えろとか言ってくれてたんだね…」
「…まあね。それで、今日の最初の話に繋がるわけよ。こなたのデリケートな部分に触れちゃったことは謝るよ。だけど、そのことをこなたが許すかどうかにかかわらず、こなたとはお別れしたいなって…」
「待ってよ!」
 こなたが大声を出した。
 すがるような目で私を見つめている。
「待ってよ…待ってよ…。私の寂しさをかがみが知ってたことに私が気づいてたかどうかってことだってそもそも勘違いだったわけじゃない…。私は確かにお母さんいなくて寂しかったよ。家でも外でもそれに気づかれないようにしてたよ。でも、そのことにかがみか気づいてくれて、それで色々やってくれてたってことが分かって、すごく嬉しいんだよ!全然嫌だなんて思ってないよ…。それなのに…そんないきなり…お別れなんて…」
 こなたの目から、また大粒の涙が溢れ出した。
「かがみ…せっかく好きだって分かったのに…。やっと伝えられたのに…」
 再び、私は息をつく。
 そして、言おうか言うまいか最後まで悩んでいたことを、言うことにした。
 ちょっとだけ笑って口を開く。
「…とまあここまでの話は私の気持ち一つの形。あんたに一人でも生きられるようになってほしい、私がいなくても大丈夫になってほしい、それは間違いないよ。でもね…」
「…え…?」
「こなたを支えよう支えようって思ってるうちにね、私…だんだん変な気持ちになってきちゃってね、なんて言ったらいいのかな…こなたには私がいなくちゃダメっていうかね…」
「え…?それって…」
「あはは…本末転倒よね…。一人立ちさせるために支えてたのに、支えること自体が目的になってきちゃってね…。で、それからはもっとこなたに近づかなくちゃ、もっとこなたを知らなくちゃ…とか思うようになってね…。矛盾してるよね…。『私がいなくても大丈夫なように』…と…『私が支えてあげなくちゃダメ』…と…。でも…多分…だから…私もね、こなたのこと、好きなのかも…ね…」
「かがみ…」
 こなたはしばらくぼー…っとした後、私の胸に飛び込んできた。
「かがみ…かがみ…かがみ…!」
「こらこら、ちょっと落ち着いて」
 言いながら、それが意味をなさないことは分かっていた。
 だから私も、こなたを抱きしめてあげた。
 こんな小さな身体で…よく耐えてきたよね…。
 悲しかったよね…。辛かったよね…。
 こなたの髪を優しく撫でると、こなたは気持ちよさそうに目を閉じる。
 こなたはまだ、泣いていた。

5
 こなたの自制がきくようになるまでは、また時間を費やさなければならなかった。
 もうとっくに日は沈んでおり、外は夜の帳が下りていた。
「あー…続き話しても、いい?」
「うん…ごめん…嬉しくて…」
「あの、つまりね?私はこなたが好きでもあるけど、離れていてもほしいのよ。だから、まあちょっと余談になるけど、海で普通にナンパとかも期待するし、修学旅行のとき手紙もらって告白期待しちゃったりとかもするわけよ。あ、ずっと考えてたんだけど、あんた修学旅行の手紙の一件、どっかで覗いてたろ!」
「たはは…ばれたか」
「家に帰ってからの電話で、変なこと言ったわよね。『不貞寝してるかと思った』って言ったでしょ?何言ってるのかと思ったけど、私が告白期待して男子と待ち合わせて、それがただの人形譲ってくれってお願いだったってこと知ってたと考えれば辻褄が合うわ。まったく…」
「いやだって…かがみあのときつっこんでくれなくなって…寂しくて…で男子の方みてたりそわそわしてたから、これは何かあるなと。で、ご飯の前に別れてからあとつけていったらあの場面に」
「あんたなぁ!人のプライバシーをなんだと思ってんのよ!ほんとに告白だったらどうするつもりだったのよ…」
 いつものやりとりだった。
 ほんのちょっとだけ、気が緩む。
「う…どうしてたかな…泣いてたかも…いや、その男子闇討ちとかしてたかな…。あ、じゃあ、もしあれが告白で、そのとき私が飛び出していって同時に告白してたら、かがみはあの男子と私、どっちをとった?」
「え?えーと…」
 答えにつまる。
 なんと言ったものだろう。
 どっちをとっても私の本心ではない。
「うーん…」
 私からの答えが返ってこないので、こなたの顔に影が差してきた。
 私は慌てて手を振った。
「あ、いや、だからね?あんたが嫌いなわけじゃないのよ?あの男子が特別好きだったわけでもないの。でも…」
「うん…分かってる…。かがみは、私がかがみに頼りっきりになってほしくないんだよね…。言いにくいこときいてごめんね…」
 こういうとき、嘘でも「こなた」って言ってあげられないのが、私の悪いところだよね。ときどき嫌になる。
 代わりといってはなんだけど、本当のところを言うことにした。
「うーん…そうなんだけど…。両方断って、後でこっそりこなただけにOKしちゃったりとかしたかもね。そうすることが、本当は違うって分かってても。正直、どうなったかは分からない。あのときから、私こなたのこと好きだったしね。すごく悩むと思うけど、好きって気持ちが、支えてあげたいって気持ちに勝っちゃってたら、多分、こなたと、つきあってた」
「えへへ…そっか。ありがと」
 こなたの顔に笑みが戻る。
 それが、私の一番好きな顔なんだよ。
「…でもさ、あの男子、『こんなこと柊にしか言えないから』って言ってたよね?あれも十分フラグ立ててると思うんだけどねー…。何考えてたんだろうねー…」
「あーもう!終わった話はいいの!」
「かがみから話ずらしたんじゃん」
「悪かったわよ!それで!今後の話を真面目にするけど…」
「…」
 こなたの表情が一気に引き締まる。

「考えてみるとさ、こなたのその『好き』って想い…えーと、嬉しいんだけど、ちょっと違うなって気もするのよ」
「え…?どういうこと?」
「その想いはさ、元々私に甘えたいって気持ちからきてるわけだよね?でも、こなたの周りにいる人をみてみると、みゆきには『いい人すぎて頼みづらい』から甘えられないんでしょ?つかさには…まあ言わなくても分かるわね。姉として腹立つけど、あんたつかさを自分と同レベル以下と見なしてるでしょ。あの子、根は真面目なのに…。なら甘えるわけにはいかないわね。ゆたかちゃんには『姉としてのプレッシャー』がどうこう言ってたから甘えられない。あとはおじさんだけど、さっきの話だと家の中でも寂しさ見せないように振舞ってるのよね。…まあ、おじさん親だし、そのこと気づいててもよさそうだけど…。とにかく、そうすると、私くらいしか残らないのよね。つまり、私に甘えたいというより、他に甘える人がいないって言った方が正しいんじゃないかと思うわけよ」
「…そんなこと…」
「あ、別にあんたの想いを否定したいわけじゃないのよ?ただ、その想いは、『私が好き』っていう積極的なものじゃなくて、選択肢を消していった結果残った、消去法みたいなものなんじゃないかなー…って」
「…そうなのかな…。私、ずっとかがみが好きって本当に思ってたんだけど…」
「このことはよく考えなきゃいけないわよ?だって、単に甘えたい人がほしいんだったら、私じゃなくてもいいじゃない」
 こなたの表情がどんどん暗くなっていく。
 ん…でもここで妥協しちゃいけないよね。
「まあ、このことは私にも言えるんだけどね。私がなんで弁護士志望なんだかわかる?」
「え…?えーと…そりゃ…人助けしたいから?」
「まあだいたいそうね。私ね、危なっかしい人とか見てると、私が支えてあげなきゃって思っちゃうのよ。つかさもそうだしね。そんなふうに、できるだけ多くの人を支えられる人になりたいのね。…だから、支えをほしがってる人をみたら、あんたじゃなくても力になってあげたくなると思うのよ」
 こなたが雨に濡れた子犬のような声で問いかける。
「…じゃあかがみは…やっぱり私と一緒にはいられないの…?私もかがみも違う人好きになっちゃうかもしれないし、離れてた方がいいよ、って…そういうことなの…?」
「ほら、そんな顔しないで。離れてた方がいいとは思うよ?でも私だって将来どうなるかは分からないけど、今好きな人はこなただし…本当言うと離れたくない気持ちもあるわけよ」
「…難しいね」
「んー…私は、恋愛の関係と支える関係って対極にあると思うのよ。恋愛関係は、お互いがお互いを求める、相互依存の関係ね。支える関係っていうのは、いつか互いが独立して離れていく、その離れる力をつけるための関係。まあ優劣はないと思うけど、どっちが好きかっていうと支える関係の方よね。お互いがいなきゃ生きていけない人たちよりは、一人でも生きていける、強い人の方が好きだな、私は」
「…え、でもかがみその…結婚とか考えたことないの?」
「勿論あるわよ。でも、それもお互いがなきゃ生きていけない、みたいな関係よりは、強い人どうしが互いを認め合って好きになるっていう関係を考えてたのよ」
「そっか…それじゃ私はどうしよう…」
「それを決めるのも、強さの一つなのよ?私はだいたい決まったけど」
 こなたは目を閉じてしばし沈黙する。
 やがて、ゆっくりと目を開いた。

「…わかった。じゃあこうしよう。これからは自分一人で生きていけるように頑張るから。私、諦めないよ。私が一人でも生きていける、かがみなしでも大丈夫ってかがみがわかって、そのときまだ私がかがみを好きで、かがみが私を好きだったら…一緒に暮らそう?なんで私がかがみを好きなのか、よく考えてみるから、かがみも私を好きな理由、もっと考えてみて。それから、当面のところの付き合いは…あの、せめて高校卒業までは…一緒に…いてほしいな…。あとちょっとだし…。宿題とか進路とかはかがみに頼らないで真面目にやるから…。私まだ…かがみがいてくれないと…寂しいから…」
 私は緩やかに笑った。
 自然とこの表情ができた。
「うん。私の考えとだいたい同じね。いいよ、それで。でも、高校卒業までは一緒にいるけど、その先、どれだけ長い間離れてるかわからないよ?こなたが一人でも大丈夫って、私がどうやって判断するかもまだわからないんだよ?それでも私を好きだって想い続けていられる?私がこなたを好きだって想い続けていられると思う?」
 こなたがちょっとむくれる。
「うう…意地悪言わないでよぅ…。大丈夫だよ…。きっと大丈夫だから…」
 私はちょっとおかしくなって、そして、そんなこなたが…ちょっとかわいくて、少しだけ、心が揺れてしまった。だからこそ、今、言っておかないと。
「ふふ…ごめんごめん。わかったよ。応援してるからね。あ、それから、これは覚えておいてほしいんだけど、私が今日言ったことは、別にこなたの自由な恋愛を禁止するものじゃないからね。あくまでこれは私の考え。こなたが、この先、私以外の人を好きになって、その人と一緒になりたいと思うようになったら、私の言ったことはすっぱり忘れて、その人と幸せになって。こなたが私の考えに縛られることは私も望んでないから…。私のためにがんばることが窮屈に思うようになったら、いつでもそこから抜け出していいんだからね。私は、こなたが私のことをどう思うようになっても、そのことでこなたを嫌ったり恨んだりしないから、遠慮なんてする必要ないからね…」
 こなたがまた少し夕立の顔になる。
「どうしてそういうことばっかり言うの、かがみは…。私がかがみを好きじゃなくなった後の話なんて聞きたくないよ…」
「ごめん。まあつまり、私は恩を売りたくてこういうことしてるわけじゃないよって言いたかったのよ。こなたが私をどう思ってもいいよって…。私が人を支えたいっていうのも、その人自身のためっていうのも勿論あるけど、どっちかっていうと、私がそうしたいからなんだよね。私より人の気持ちをよく考えてあげられる人なんていっぱいいるでしょうし、私より人のためになることをできる人もいっぱいいるよ。私ができることなんて大したことないんだから、もし私に不満があれば、別の人のところにいってくれていいんだよ。だから、余計なお世話だと思われこそすれ、感謝なんてされるつもりない。私は、私のできることを、ただやりたいようにやってるだけなんだから。勿論、全力は尽くすけどね」
「かがみ…。でも、私は、かがみが一緒にいてくれて…本当に楽しかったよ。かがみ、そういうこと全然言ってくれないから、気づかないで過ごしてきちゃったけど…今まで一緒に過ごしてきた時間の中に…かがみの想いがいっぱいつまってたんだよね…。私…かがみがいてくれなきゃ…もっとダメになってたと思う…。人を好きになるって気持ちもわからないままだっただろうし…。この先、どうなるかわかんないかもしれないけど…今の気持ちだけは、私、絶対に忘れないよ…」
 こなたの気持ちが痛いほど伝わってくる。
 少しだけ嬉しくて、少しだけ罪悪感に胸が痛む。
「うん。そう言ってもらえるとありがたいわね…。だけど、本当に寂しくなって、どうしようもなくなったら、無理しないで言ってくれていいからね。もうちょっとの間だけだけど、私が一緒にいてこなたが落ち着くんなら、一晩中でも一緒にいてあげるから。それで元気になれたら、また次の日からがんばって。ね?」
「かがみ…ありがとう…。あは…なんか、逆になっちゃったね…」
 こなたが照れくさそうに言う。

「逆って?」
「ほら、私、ずっとかがみのこと寂しがりとかツンデレとか言ってたけど…私の方がよっぽど、自分の気持ち出すの苦手だったね…。寂しがってたのは私の方だったし…かがみのこと、こんなになるまで恥ずかしくて怖くて…好きって言えなかったし…。私、かがみが寂しがってるかなって思ったときは、茶化して紛らわしてあげようとかはしたけど…支える役目はかがみの方だったんだね」
「そうかもね…」
「すごいよね、かがみは。私なんか今日はもういっぱいいっぱいだったのに…。かがみはこんな話なのに全然照れてもないし、堂々としてるよね。今までは照れ屋で寂しがりで、こういうことなんかかなり苦手だと思ってたけど」
「そんなことないわよ?私だって恥ずかしい気持ちくらいあるわよ。けど、しっかり伝えなきゃいけないことは、ちゃんと言わなきゃダメだってことよ」
「そうだよね…。ん?あれ?」
「どうしたの?」
 こなたが急に首をひねった。
「今気づいたんだけど、かがみが私が寂しがってることに気づいたのって、私がお母さんいないって言ってからだよね?」
「ええ、そうね」
「あーそっかー…ふーん…ていうことは…」
 こなたがにまにましだした。
 何だか猛烈に嫌な予感がする。
「な…何よ」
「3年に上がるとき、私らと一緒のクラスになりたいって思ってたのは、私と一緒にいてくれるため…それはわかったよ。でもさ…2年に上がるときも私らと一緒のクラスになりたいって思ってたんだよね?たーしかそんなこと言ってたよねー…」
 あれか!あのことか!
 こいつ、こんなときにそんなこと思い出しやがって!
「そのときはまだ私が寂しがってるってわかってなかったんだよねぇ…?つまり…」
「黙れ黙れ黙れ!それ以上言うなああ!」
「あー…やっぱりかがみも寂しかったんだねー恥ずかしかったんだねー。ほらおいでー?なでなでしてあげるよー?」
 つかさのやつめ…。いくら姉妹だからって何でもかんでもつかさに言うのはやめた方がいいのかしらね…。
「いいじゃない。似たものどうし、慰めあおうよー」
「あんたと一緒にするな…」
「えーどうしてー?そんなにツンデレっ娘しなくていいのにー」
「ツンデレ言うなってのに!」
 結局私がこなたを支えようとしてたのは、自分も寂しかったからなんだろうか。こなたといつか離れてしまうのが寂しかったから、何とか理由を見つけて、こなたと一緒にいようとしただけなんだろうか。
 そんな疑問は、とっくに解決したものだと思っていたのに。
「言ったでしょ?あんたは、私が支えてあげたいのよ。その私が寂しがったりしてちゃ…あんたの支えが、なくなっちゃうじゃない…。私に頼りっきりってのも困るけど…そんな寂しがってるこなた…みたくないよ…。こなたには、寂しさを隠すためじゃなくて、寂しさを乗り越えて、本当に心から笑っていてほしいんだよ…」
「かがみ…」
 こなたがちょっと真面目な顔になる。

「あのさ…そいじゃきくけど、かがみ自身の支えって…何?」
「…え?」
 私の支え。
 そんなことはわかりきっている。
「何言ってんの。私が支えた人が、私なしでも生きていけるようになったら、それが何よりよ。今はこなた。あんたがそれだけどね」
「そう…。ならいいんだけど…。私よりかがみの方が無理してたりするんじゃないかなって…。さっきもさ…私の想いが強すぎてどうにもならなくなったとき、かがみ、私には離れていてほしいって思ってたのに、私を落ち着かせるために、躊躇なくキスしてくれたり、その…身体、差し出したりしてくれたよね?私には辛くなったらそんなふうにかがみがいてくれるけど…かがみには…」
「バカにすんじゃないわよ。そんなに私は弱くないつもりよ」
 そうだよ。
 こなたが私のもとから去っていく。そう考えたとき、私はどう感じる?こなたが寂しい気持ちを抱えたままどこかへ行ってしまったら、私はそれをずっと引きずるだろう。私に何かしてあげられたことはあったんじゃないか、こなたが寂しさを乗り越える手助けをできたんじゃないか、とずっと考えてしまうだろう。
 でも、こなたが私を必要としなくなってからお別れしたらどうだろう。きっと、悔いはない。こなたがちゃんと自分で自分を支えられるようになった姿を見たら、私はもうそれだけで嬉しい。私がこなたをしっかり支えてあげられた、こなたはもう一人で大丈夫だ、そう実感できたときが、何よりの私の支えになるだろう。
 それは確かに私にだって寂しく思うときはある。一人きりでいると、皆と一緒にいたい、なんでもない話題で盛り上がったり、冗談言いあったりしたいと思うときはある。でも、誰かを支えるっていうのは、一人きりでやることじゃない。その相手と一緒の時間を過ごすってことだ。その結果、私の力でその人が何かを克服できたり、悩みを解決できたりするなら、私が一緒にいられた意味があったということになる。そこには、私が寂しさを感じる余地なんてない。支えてる相手に入れ込んじゃったりするあたり、まだまだ私も修行が足りないとは思うけど。ん…だけど、こなたなら…いいのかな…。それは…これから考えることにしよう。
「だから、とにかくあんたがしっかりしてくれるのが一番なんだから。今は余計なことは考えないで、そこだけに集中しなさいよ」
「うん…。わかった。かがみがそれでいいんだったら、私、がんばってみるよ」
 それでいいんだよ。
 それでいいんだよ。
 そうしてくれないと、本当に、困るんだから。
「かがみ…その…これからも、よろしくね?」
 こなたが右手を差し出してくる。
 その手をそっと握り返す。
「こちらこそ、よろしく。期待してるんだからね?」
「うん!」
 こなたは満面の笑みで、頷いてくれた。

6
「おはようございます、泉さん」
「みゆきさん、おはよー」
「あ、かがみさんとつかささんもご一緒でしたか。おはようございます」
「おはよう、みゆき」
「おはよ、ゆきちゃん」
 月曜日。朝、私たちは久しぶりに四人で机を囲んだ。
 もう来ないと思っていた風景。
 あの日、私の手で終わらせる筈だった風景。
 それを目にして、これでよかったのかな、とちょっと思う。
 けど、それはこなたのため、自分のため、と言いながらどこかに思い描いていた虚像だっただけのかもしれない。
 本当は私はどう思っているんだろう。
 それは、簡単なことだ。
 今、心いっぱいに満ちている、この思いが答えだ。


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コメント:
  • くどい。 -- 名無しさん (2010-10-07 15:13:24)
  • やっぱ普通に考えると百合って難しいよなぁ…ありがとうございました -- 名無しさん (2009-04-14 22:23:15)


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