何気ない日々:想い流るる日“ウサギはキツネに キツネはウサギに 恋をする”

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何気ない日々:想い流るる日“ウサギはキツネに キツネはウサギに 恋をする”

「ちょっとこな・・・ええぃ、呼び止めて止まってくれるわけないじゃない!」
そう呟きながら、私はもうこなたを追いかけて走っていた。雨音が強くなり、廊下の電気も殆ど消えていて、それは暗闇の中での追走だった。何処へあいつは走るというのだろう、何処へ行ってしまうのだろう・・・この薄らとした暗闇の中であいつを見失うという事。
それは私の声も手もきっと届かなくなってしまう、そんな気がした。
 雨音と、私達だけの駆け抜ける足音だけが廊下に響き渡る。あいつの方が足が速い上に出遅れたのだ、見失わないように走るだけで精一杯だ。階段を上ったり下りたり、私達は何処へ向かっているのだろう。
 横っ腹が痛くなってきた。急に走ったからだと思う・・・それでも私は追わずにはいられないなんだ、あいつを。ただひたすらに、きっとわけもわからずに走り続けているあいつを放っておけない・・・そうじゃないわね。今日は素直に話をするって決めた、お互い素直になろうとそうなれる様にしたいと。
 こなたが走って逃げるというの行為があいつの素直な気持ちならそれを認めよう。お互い傷ついても、時間をかければ友人に戻れると思う。
 でも、ただひたずらに何に怯えているのか、それすらわからずに走っているだけなら・・・まず話をしよう。
 そろそろ、足が重い。でも、ここで速度を落とせばこなたを見失って・・・。
 ただ、おかしい。あいつならすでに私を振り切って逃げ切れているはずだ。なのに、徐々に距離は縮まってきていて、もう少しで手が届く。だから、残っている体力を殆ど全てつぎ込んで、一瞬だけ加速。膝が悲鳴を上げたが気にして入られない。ここで捕まえられなかったら、もう追いかける事も出来そうにないから。
 そうやって私はこなたを背中から抱き上げた。これならとりあえず逃げられないだろう。もっとも、こいつが肘や頭で攻撃してこない限りだけど。
「かがみ、離せ、離してよ。お願いだから離して、私は今はまだかがみと話をしたくない」
痛い。こなたの爪が私の手に食い込んでいた。一瞬、離してしまいそうになった。あんたなら、もっと格闘的な攻撃で私を退けられるのに、どうしてそんなに子どもが嫌がるように暴れるのよ?
 そんなに私の事が嫌いなのか、気持ち悪いのか・・・。急にこなたが大人しくなってこっちを向いていた。目は大きく見開かれていて、何に驚いているのかわからなかった。
「かがみ、逃げない。約束するよ・・・だから、離して」
抱き上げていたこなたをそっと下ろして、手を離した。視界が歪んでいるのはどうしてだろう。
 こなたが無言でハンカチを渡してくれる。どうして、ハンカチなんか・・・?そこでやっと気がついた。私の顎から零れる雫に・・・そっか、泣いてるのか、卑怯ね・・・私って。
「ごめん、もっとあんたが嫌がったら離して終わりにしようって思ってたのに・・・卑怯よね、私って」
こなたから借りたハンカチで涙を強めに拭きながら呟く。それでも止まってはくれない、どうして・・・これじゃただの卑怯者じゃないか。逃げられてやっと追いついて、それで?暴れられて逃げられそうになったら今度は泣き落とし・・・なんて卑怯者なんだろう。それに今の言葉は何だ、これじゃこなたは逃げられないじゃないか。
「かがみ・・・私はさ、その・・・一時の感情でかがみの未来を壊したくないんだよ。だから!」
振り上げられた手、握られていたのは私が選んだチョーカー。
でも、こなたの首周りには大きくてチョーカーというには、ほんの少しだけゆったりと余裕のある、ハートのアクセサリーがついた・・・私が必死に彼女へと選んだ誕生日プレゼント。
「だから、私は、こんなの!こんなの・・・」
 こなたが、私のあげたプレゼントを床に叩き付けた。
―馬鹿ね・・・それで傷つくのはあんたじゃない。私じゃないのに・・・
 ―だってほら、あんただって・・・泣いてるじゃない―


 私は、かがみがくれたチョーカーを振り上げたまま、実はどうすればいいのか、わからないでいた。かがみに投げ付ければいいのだろうか、床にたたきつければいいのだろうか。
 そんなの・・・出来っこないよね?かがみが必死に選んでくれてる姿が目に浮かぶもん。何かのグッズの時だってきっとそうだったと思う。
 でも、出来っこないで終わっちゃいけないんだ!私は、私は・・・
「こんなの、いらなかったんだよ!」
私は、結局チョーカーを床に叩き付けた。金属特有の高い音が廊下中に響く。これでよかったんだ。これが最善の行動だったんだ。目を閉じて何度も何度も心の中で繰り返した。
「そっか、ごめん・・・。もっと可愛いのを選べば良かったかもしれないわね」
どうして、かがみは怒らないの?どうして、そんなに優しい声を掛けてくれるの。
 あれ、私なんで・・・泣いてるんだろう。かがみが傷つく場面なのに、私が傷つく場面じゃないのに・・・どうして・・・。
「ねぇ、目を閉じててもいいの。答えもどっちだっていいわ・・・答えなくても・・・それは少し辛いけど、でも答えなくてもいいから、私の話を聞いてくれる?」
ちゃり、そんな金属音が聞こえた。私は目を閉じたまま、手を振り下ろしたまま、立ち尽くしていた。
 ここで、嫌だって言わなくちゃ・・・なのに言葉が出なくて、嗚咽だけしかでなくて、涙を手で擦り上げて無理やり止めようとする。
 でも、止まんなくってサ。覚悟・・・決まってなかったカナ?
「私は何時からか、わからないけど・・・あんたがさ」
聞きたくないよ。お願いだよ、それ以上続けないで。
「か、かがみは絶対にそ、そんなおかしなことは言わないんだよ。私と同じ気持ちになんてならないはずなんだよ!」
嗚咽を我慢して叫んだ声が廊下中に響く。
「私とこなたが同じ想いか、同じ気持ちかなんて・・・わからないじゃない?」
“だから、ほんの少しだけでいいから・・・友人として私の話をきいてくれない、こなた?”そう震えた声で呟くかがみに対して、私は相変わらず目を閉じて立ち尽くしたまま、頷くしかなかった。逃げることも出来た、私が逃げればかがみは追わないと言ったのだから・・・でも、私はどうしてか逃げる事が出来なかったんだ。


「私もね、こなたをこんなに好きになるとは思ってなかった。ううん、もしかしたらずっと前から好きだったのかも知れない。でも、気が付いたのは最近なのよ、泉 こなたという人間が好きだって事に・・・」
拾い上げたチョーカーを軽く胸の前で握ってボロボロと涙を零しながら、私は言葉を紡ぐ。涙が零れていても、こなたは目を瞑っているから大丈夫。こんなことで傷いてはいけない、言葉をとめてはいけない。簡単に予想できた事だから、それでも泣いてしまったのは、私の心の弱さ。
「こなたは、私の事をどう想ってくれてる?親友、友人、それとも・・・まだそこは聞かないでおくわ。私はあんたが好きなの・・・気持ち悪いかな」
ただ、黙ってこなたは私の話を聞いているだけ。肯定も否定もしないから、私はどうしていいのか、だんだん分からなくなってくる。
「もう、捕まえないから、追いかけないから、気味が悪かったら走って逃げてもいいの。聞きたくなかったら走って逃げてもいいの。でも、こなたがそこにいてもいなくても私は、この気持ちをもう抑えられない、だから、少し待つわ。その間に、嫌だったら走って行って・・・」
その言葉を聞いてかどうかはわからないけど、こなたはようやく目を開けた。何を二人して、大粒の涙をぽろぽろと零しているんだろう。
「か・・・が・・・みぃ」
こなたは、またギュッと目を瞑って今度は体当たりでもするような勢いで、私に抱きついて胸に顔を埋めた。そのまま声を上げて、まるで子どものように大声で泣き出してしまった。背中を爪を立てて鷲掴みにされているから痛かったけれど、しがみついて来るこなたになんて声を掛けていいのか分からず、私は痛みを堪えてその頭を優しく撫でた。
 こなたは泣きながら、叱られた子どもの様に“ごめんなさい”を繰り返していた。何に謝っているのか、誰に謝っているのか、私にはわからなかった。だから・・・この話は申したくないけど、走って行きたくはないという風に取ってしまった。
 私も涙を零しながら、それでも溢れてくる色んな気持ちを必死に堪える。覚悟を決めたんだ、嫌がったり聞きたくないって言う意思表示があったら、気持ちを・・・想いを隠すんだって。それで理想的には何時も通りに四人で笑って過ごしたいな。こなたがこの様子じゃ無理かもしれないけど、今だけそんなあるはずのない現実を夢見てもいいよね?
「こなた・・・わかった。もう言わないから、謝るのはやめよ?あんたは悪くないから、私がきっと悪かったのよ、あんたにこういう気持ちを持っちゃった私が・・・」
「・・・違う!!―かがみは悪くない!」
静かな廊下に響いていた泣き声はいつの間にか消えて、涙で潤んだエメラルドグリーンの瞳が私を見ていた。
「ごめん、痛かったよね。でも、かがみ痛いって言ってくれないからわかんなかったよ・・・話聞く、聞くからさ・・・教室入ろ」
今度はこなたに腕を引っ張られて彼女の教室に入った。どうやらこいつの中で何かしら考えが纏まったらしいんだか、落ち着きを取り戻したんだか何か変化があったらしい。
 何時もお昼を食べに、暇があれば短い休憩時間にも顔を出すこなたのクラス。私は、名前の知らぬ誰かの席に腰を下ろし、こなたは私の前の席に座った。その席も名前の知らぬ誰かの席だった。
「さっきも言ったけど・・・かがみの話、聞くよ。ちゃんと聞く、そんで私もちゃんと話すから・・・」
「私の話は、さっきも言った通りよ。何時からか分からないけど、私は―泉 こなたという一人の人間を好きになってた。友達としてじゃなくて、その・・・そういう存在として。あんたがつかさに相談した事は知ってるけど、今日の様子だと今は気持ちが違うのかもしれない。でも、私は今も気持ちは変わらないの、こなたが女性だから好きなのか、男性だと駄目なのか・・・それはわからないわ。ただ、私はあんたが好きなんだって、今は傍にいたくて仕方が無いんだってそういう気持ちなのよ」
私は、まだこなたから借りたままのハンカチでゴシゴシと目を拭いて涙を止めて回らない頭を必死に動かして気持ちを言葉に変える。きっと私も揺らいでいるんだ、本当は・・・こなたが床に投げ付けたチョーカーをギュッと握り締めて、どうにか続きを口にする。
「だから、はっきり言う。気持ち悪がっても、軽蔑してもいいの・・・。私は、あんたが、こなたが・・・好き」
涙は止まったけど、今度は耳まで真っ赤になってしまった。
「でも、かがみは、そんな事・・・言うはずないんだよ・・・なんでさ、なんで私なんか好きになっちゃったのさ」
こなたが私の顔を見ながら目に涙を溜めたまま呟く。入ってる事は無茶苦茶だけど、なんとなくわかる。かがみは、私なんか好きにならない、こなたは私なんて好きにならない・・・そう、私達は同じ事を考え、悩み苦しんできたのだ。もっと簡単に考えられればよかったんだけど。きっとこなたは私なんかよりこっちの世界には詳しくて、簡単に考えるのは無理だったんだろう。私も人並み程度は知っている、その人並み程度でさえ茨の道なのだから。
「なんで?なんで、私なんか好きになっちゃたの・・・かがみ」
こなたの問いかけにどう答えていいのかわからなかった。正直、あんたのどこが好きって聞かれたら私は答えられない。でも、どうしようもなく胸が苦しくなるくらい・・・好き。青空のような髪も宝石のような目もオタクなところも・・・私に少し似た寂しさを出している所もからかって楽しそうにしている悪戯狐のような所も全部好き。
 だから、問いかけには微笑みを返す事しか出来なかった。だけど、それじゃこなたは納得出来ないみたいで、さらに言葉を続けていた。
「ねぇ、なんで?どうして、どう考えたら私なんか好きになっちゃうのさ。かがみ、泣き笑いの表情だけじゃわからないよ。かがみに嫌われる所があるとしても好かれる所なんて、私のどこにあるのさ!ねぇ、答えてよ・・・」
答えられない・・・言葉で、口で語れる好きとは違うからだ。いや、それも案外違うのかもしれない。私は、こなたが好きでたまらない・・・だけど “どこが” “どうして”そんな言葉を続けられても答えられない。きっとそれは、答えが多すぎるから。
「こなたは、私の事・・・どう思ってる?」
逆に聞き返してみた。こなたは私のことを結局の所、どう思っているのだろう。それがとても知りたかったから、こなたの気持ちを本人から聞きたかった。
「わ、私はかがみの事、好き。かがみが言ってたのと同じで何時から好きだったかなんて分からないけど、でも・・・大好き」


 私が言い終わると同時に、かがみに抱きしめられた。暖かくて優しくて、また涙が出そうになる。
 でもそれより前に顔が赤く染まった・・・大好きなかがみに抱きしめられる、そしてその背中に私も手を回す。顔を上げればほら、目を真っ赤に腫らした寂しがり屋ウサギがいた。
「かがみ、そのさ・・・でも、同性で好きになっちゃうのって思ってるより辛いよ。それでもいいの?」
「普通くらいにしか知らないわ。でも、二人なら茨の道でも歩いていけると思った―それに私達、結婚するわけじゃないのよ?そんなに先の事まで考えてたからだめなのよ、きっと・・・」
「先の事まで考えないと後で後悔するっていうのは、かがみがよく私に言ってたじゃん?だから、私はかがみの事、諦めよ・・・」
唇が塞がれた、想いが通じてからは初めてのキスだった。目を閉じるなんて、私らしくないなと思うけど、そうするとかがみの甘い匂いがして、それがとても安心する匂いで、でも・・・キスはしょっぱかった。
 少しして唇が離される。私は目を開けながら、唇に残った感触にとても名残惜しさを感じた。
「ねぇ、かがみ」
「なに?こなた」
今度は私から、キスをする。さっき自分からしてきた時はそんなでもなかったのに、真っ赤になって目を瞑るかがみ。やっぱり、甘い匂いがして、今度はしょっぱくなかった。甘酸っぱかったかどうかさえわからなかった。でも、暖かくてすごく安心した、ほっとして今まで悩んできた事が溶けていく気分だった。
 唇を離して、かがみに抱きつく。それは何時もとは違って私からの一方通行のしがみつき者無かった。彼女も優しく背中に手を回してくれて、頭を撫でてくれる。子ども扱いされてる様な気分にはならなかった。
 もっと早く言えば良かった、こんなに幸せな気分になれるなら。でも、きっと、あの苦しくて辛い時間も必要だったんだと思う。
 ふと、窓を見ると外は真っ暗で、雨はもうやんでいた。それから、今日は満月で、明るくて丸くて、月にウサギがすんでいたら、悪戯狐はどうするんだろうと思った。
 きっと、月に行っただろう。方法なんてわからない、けど、行ったんじゃないかと思う。寂しがり屋のウサギと同じように悪戯狐も寂しがり屋だから。
「私がウサギで、こなたはキツネだったわね。じゃぁ、ウサギはキツネに恋をして、キツネもウサギに恋をした」
かがみらしくないロマンチックな言葉。リアリストなのに、どうしてこういう時・・・そんな風に言うんだろう。
「かがみが私の魅力に気がついて惚れちゃったんだネ!いやぁ、私は罪作りな女サ」
「・・・そうかもね」
う、突っ込んでもらえないと凄い恥ずかしい。真っ赤になった顔を見られるのが悔しくて、私はかがみの胸に顔を埋める。
 でもさ、かがみ。これからが大変なんだよ?そう言いたかったけど、その言葉で今の幸せな気分を壊したくなかった。

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